一ピクセルの恋   作:狼々

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どうも、狼々です!

二ヶ月経ちましたね(白目)
この流れどこかで見たな。前話か。

ただいま、テスト勉強とかいう問題じゃなくなってきてまして。
もうすぐ受験勉強なので、次を書けるのかどうかも不明なのです()

……え? 私、高3じゃなくて、高2ですがなにか?
夏から受験勉強とかマジかよ。まあそんくらいなのかな。

では、本編どうぞ!


月夜までは

「はい、お待たせ。モーターも洗濯機全体も、もう寿命みたいだったよ」

「あ~、やはりそうでしたか」

 

 今度は単身で、奥の部屋から現れる。

 作業開始から灯りが点いたため、ずっと暗いままではなかった。

 

 自分達がいる辺りを見回したが、どこを見ても部品が転がっている。

 棚に種類ごとで整理はされているものの、分解途中と思われる状態のままで放置されているものも。

 雑なのか、それとも几帳面なのか。はたまた、分解の最中に客が来ているのか。

 

「どうする? 今なら新しいのがあるけど、買っていくかい?」

「そうしますかね。無いと困りますし、早い内に準備することにしますよ」

「はい、そこでだねぇ~。最近開発したちょっと近代的な機能を付けると――」

 

 と、急に商売人の顔付きとなって機能紹介を始めた。

 自慢げに語りだす姿といったら、まるで本物のそれだ。

 

 射命丸の興味も、中々に惹きつけているご様子。

 本当に便利な要素から、少しユニークな要素までもが揃い、その全てが簡潔な説明を伴っていた。

 スムーズに段階を踏んだ説明を聞くに、慣れているとしか思えない。

 

「――って感じなんだけど、どうする?」

「そうですねぇ……音が静かなのと、節水効果が大きいのを付けてください」

「了解っ! 五分もしない内にできあがるから、もう少し待っていて」

 

 河童は勢い良く返して、小さな歩幅で多くの歩行音を立てながら、再び奥の部屋へ。

 やはり彼女自身がエンジニアなのだろうが、どうにもそうとは思えない。

 暗示的に唱えればどうにでもなるが、あの見た目と行動ともなると、そうとはいかない。

 

 小さく細い背の丈、子供っぽさが表れる言動。

 外側と内側の両方ともが、どこかひしひしと幼さを感じさせるのだ。

 とてもではないが、洗濯機にカスタム機能を提供するような、高レベル技術者とは思えないだろう。

 

「ん~、そうですなぁ……」

「何が『そうですなぁ』なんだよ?」

「いえ、このまま貴方には、人里で買い物をしてもらおうかと思いまして。ある程度時間が経ったら迎えに行きますから」

「良いも悪いも、洗濯機どうするんだよ」

「あれくらい私一人でも運べますよ。妖怪を舐めてもらっては困ります」

「俺が来た意味とは」

 

 あれだけ重たい思いをしたのに、要らなかったと。

 この両腕に残る鈍痛は、徒労の末の産物であると。

 つまりは、この眼前の鴉天狗は、そう言いたいのだろうか。

 あたかも当然だ、というような表情で、俺の積立を一気に塵とするのだろうか。

 

(ひとえ)に風の前の塵に同じ」とは、よく言ったものだ。

 一種の風神の前では、俺など塵同然というのだから。

 盛者必衰の比喩などではなく、そのままの意味でしたとさ。

 

「人間という生き物は、どうしても楽な道を進みたいのですよ」

「いや、じゃあ俺を楽させろよ、妖怪様」

 

 鴉天狗は、何を間違えても人間ではない。

 妖怪という自己紹介で、言質は取ってあるのだ。

 

 射命丸の理論だと、本来は俺が楽できるはず。

 どうして、妖怪が休んでいるのだろうか。

 平々凡々な人間よりも、確実かつ効率的な運びができるだろうに。

 

「ダメです。いい子にしていないと、輪廻転生の輪から外れてしまいますよ?」

「俺は子供かよ。お化けが出るとでも言いたいのか? 子供じゃないぞ」

 

 言うことを聞かない子供への常套句だ。

 お化けが出るだとか、呪いがかかるだとか、金縛りにあうだとかその他諸々。

 

 大人達が何をしたいのかは、単純明快。

 未知の物に対する恐怖を持たせ、深淵の底へと引きずり込まれないようにさせたいだけ。

 輪廻転生など、それに値しない。

 

 信教的に大いなる意味があるとしても、俺はそれを認知できそうにもない。

 残念ながら、俺には崇高な神様がいるとは思えない。

 ……いや、案外、幻想郷には本当にいるのかもしれないな、神は。

 

「いえいえ、私から見たら、そこらの人間なんて全員若造ですよ」

「……ババアかよ」

「何か言いましたか?」

「いいや全く何もこれっぽっちも」

 

 肩に手を添えられながら、心底な笑顔で言われた。

 何故だろうか、笑っているのにもかかわらず、底知れない恐怖を感じてしまう。

 つい二日前にも、同じような笑った顔を向けられただろうか。

 

 射命丸は、普段が温厚な分、怒らせると怖いのかもしれない。

 温厚、というと語弊があるだろう。ただ怒りにくいだけ。

 そう言ってしまった日には、あの鴉天狗が大人しいと形容されてしまう。

 

 柔らかいふざけた笑みで、何もかもを躱されるのだ。

 適当な返事で、肝心の話題をズラされる。

 独特な調子の掴みづらい感覚は、不快感や違和感を覚える人も少なくないように思えた。

 霊夢や紫はその反応が薄いが、初対面だと絶対と言っていい程、胸にせり上がる何かを感じる。

 

「では、お使いにいってらっしゃい――と、言いたかったですが、今度にしましょうか」

「は~い、完成したよっと」

 

 彼女がそう告げてすぐに、河城が戻ってきた。

 五分もしない、とは受けていたものの、いくらなんでも速すぎる。

 面白くない技術者ではない、と。

 

「見た目に大きな変化もなし、と。すげぇな」

「まぁね。伊達にエンジニア名乗ってないさ。お代は、今度胡瓜を五本くらい持ってきてもらえばそれでいいよ」

 

 本当に胡瓜を通貨にしやがった。

 河童の間では、胡瓜が金銭的価値を持って流通しているのだろうか。

 どの世界でも、「当然」の基準はズレるものだと思った方がいいらしい。

 

 それもそうだ。文化も、法律も、罪科や習慣さえも、蚊帳の外なのだから。

 外の世界と幻想郷は、本来何もかもが「隔離」されているのだ。

 

「了解しました。明日にでも持ってきます。ほら、運びますよ」

「何で俺が。先に帰るぞ」

「えぇ~!? 私だけで持つのは嫌ですよぉ」

「そっちの方がお前も俺も楽だろうが! あぁ、そうそう。河童、一つ聞きたいことが」

「にとりでいいさ、盟友」

 

 何だろうか、常識もズレるとはいえ、これだけは慣れない。

 女性を下の名で呼んだことは、今まで数回あったかなかったかくらいだ。

 出会って半日もしないで、下の名前を要求されるのは、どうしても驚きを挟んでしまう。

 

「……にとり。外のドア、光学迷彩で合っているか?」

「うん。岩に擬態させているんだよ。じゃあ最後に、一つ面白いものを見せてあげるよ」

 

 自慢げに、不敵とも思える笑顔。

 その笑顔が徐々に薄れ、やがて完全に空気に紛れ、消えた。

 凝視していたわけではないが、河童を視界の中央に入れていた俺は、遅れて焦る。

 

「あぁ……?」

「後ろだよ、後ろ」

 

 再びにとりの声がして、言われるがままに振り返る。

 そこには見事に、さっき消えたにとりの姿が。

 まるで瞬間移動、と形容せざるを得ない。

 

「この服も光学迷彩なの。カメレオンみたいだよね」

「あ~、なるほど」

 

 つまりは、にとりの通り、カメレオン。

 光学技術が用いられた、人工カメレオンスーツ的なポジション。

 

 俺、少しだが見たことあるぞ。

 潜入任務でダンボールを被りながら、ねぇ?

 

「あぁ~、あぁ、なるほど、そうだな」

「どうかしましたか?」

「いいや、何も? よし、帰るか。またな、にとり」

「は~い、じゃあね」

 

 今度こそ、河童へと背を向け、洗濯機を持ち上げる。

 結局持つことになるのだが、逆らったら後が怖い怖い。

 

 酷いことをされるとわかる恐怖より、何をされるかわからない恐怖の方が上だ。

 さすがに暴力的なことはないと信じたいが、精神的なものだと、それはそれでキツい。

 

 さて、先程の「どうしたのか」という彼女の質問。

 ……まぁ、嘘に決まっているんだよな。

 話さない方が、いざという時に役に立ちそうだ。

 

 

 

 洗濯機を運び終えて、家で迎える昼食の時間。

 陽が傾くほどでは全くないが、ランチにしては遅い時間だ。

 恐らく、午後二時前後、という具合だろうか。

 

「さて、何か昼食のメニューに希望はありますか?」

「今めちゃくちゃ鳥料理が食べたい。食べないと死ぬ」

「じゃあ死んでください」

 

 輝くようなスマイルが、実にわざとらしい。

 わざとらしいという観点では、俺の発言の方がよっぽどなのだが。

 

 ここで鳥料理をチョイスする辺り、俺の性悪さが云々。

 しかしながら、わりと鳥料理は好きだったりする。

 それこそ焼き鳥だとか、手羽先の唐揚げだったりとか。

 ちなみにだが、焼き鳥は塩派だったりもする。

 

「死なない方が都合が良さそうに言っていた射命丸さん、ついさっき真反対のことを言った感想をどうぞ」

「やはり、人の気持ちというものは移り変わるからこそ、美しいのですね」

「変わるのが早すぎて目を疑うんだが」

 

 確かに、人情や感性というものは常に、時が進むにつれて変化を伴う。

 とはいえ、ころころと感情を裏返し続けられれば、美も何もない。

 

「『早い』とか『速い』という点には、慣れた方がいいですよ。なんたって、これからは幻想郷最速を相手に生活するのですから」

「手のひら返しも清々しいくらいに速すぎる射命丸さんは、流石言うことが違う」

 

 本当に「流石」としか言いようがない。

 最早電動ドリル並に速い。見間違えるところだったぞ。

 ドライバー使用での手動なんて目じゃないな。

 

「はいはい、わかりましたから。宿を提供しているのは私なんですから、基本言うことは聞いてもらいますからね」

「まぁ、最低限は守るつもりだ」

 

 いくら俺とはいえど、そこまで失礼なわけではない。

 鳥料理食わせようとした奴が何を言うんだと思うだろうが、少し待ってほしい。

 

 別にそこに悪意があることは否定しない。

 しかしながら、俺が鳥料理をこよなくと言う程でもないが、好きなであることもまた事実。

 食べたい物を食べたいと言って、何が悪いというのだろうか。

 

 それにさっきは、射命丸は希望するメニューを聞いていたのだ。

 すなわち、食べたい物を言え、ということ。

 悪いどころか、むしろ当然の行いだと言えよう。

 

「なら、昼食のメニューくらい気を遣ってください。希望するのは一向に構いませんが、私が食べられません」

「この際何でもいい。人間が食べられる物なら」

 

 人でも食せるものでないと、問題外だ。

 好き嫌い以前を通り越して、人間から見たら食べ物ですらない。

 嫌悪感ならまだ比較的いいだろうが、食べた後に及ぶ作用が怖い。

 

「では……そうですね。麺類を適当に食べましょうか」

「はいよ」

「作るのも時間がかかりますし、外に食べに行きましょう」

「つまり面倒だと」

「その通りです。では、これ以上遅くならない内に行きましょうか」

 

 着ていた外出用の服装のまま、人里へ。

 鴉天狗のパラグライダーに揺られながら、亜音速の渦に巻かれる。

 それほど遠くはない人里へと着いたのは、僅か出発から数秒後のことだった。

 

 

 

 ――そして、楚々とした()()()とすれ違ったのも、数秒後のことだった。

 

「……あぁ? おい、ちょっと――」

 

 和を基調とする幻想郷に、そう何人もメイドはいないだろう。

 そんな思考を巡らせると、反射的に声を上げて振り返り、呼び止めようとした。

 

 が、そこには目立った人物が一人もいない。

 白黒のエプロンを着ているような、メイドという種の人物も、例に漏れず。

 

「どうかしましたか?」

「……いや、何でもない。さっさと食べに行くぞ」

 

 角ばった違和感を胸から無理矢理に胸から取り除き、歩き始める。

 ただ、形容し難い背筋をなぞるような感覚は、頭の中で焦げ跡を大きく残した。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「これはまた……お嬢様もまぁ、目の付け所がよろしいことで」

 

 私は懐中時計を取り出して、時刻を確認した。

 

 まだ、月夜は遠い。

 後何日経てば、訪れるのだろうか。




ありがとうございました!

ちなみにこれ、書いたのは10月です()
ほぼ一年前ですね(*´ω`*)

いや、なんでこんなことするかって、前書きにも書いた受験勉強なのよ。
この作品だけに限って言えば、書き溜めは現在4か5話分くらいあるのね。
それを、長い受験勉強の期間でちょっとずつ消化していこうかなってね。

だから、書き溜めあっても中々出せんのよ(´・ω・`)
ご理解のほどを、よろしくお願いします。

ではでは!

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