転生したのでせっかくだから対戦車道をやってみようと思う 作:倒錯した愛
〜英国騎士は無限軌道と共に〜
打ち付ける波の音を聴きながら、私は海の近くの公園のベンチに座っていた。
しばらくして、どこかの学校の女生徒がやって来て、同級生ということもあり、話しているうちにいつの間にか会話に没頭していた。
「センシャ、ミチ?」
「せんしゃどう、戦車道、こう書いて……センシャドウ、って言うんだよ」
枝木で地面に書かれた達筆な漢字とひらがなとカタカナを見る。
せんしゃどう、せんシャドウ、センシャドー…………うむむ。
「センシャドウ…………ふーむ、聞いたことがないな」
どう聞いても………前世の記憶になかった。
「えっ?全国大会とかやってて、結構メジャーだと思ったんだけど………」
西住、西住みほは物知りで助かる、転校したての私にいろいろと教えてくれる、良い人だ。
人口が増えすぎた、とか様々な理由で人が陸地を離れて海の上で暮らす世界。
人々は学園『艦』と呼ばれる巨大な船で、その一生を謳歌する。
学園艦には、生活に必要なものが揃っており、『無い』モノは『無い』、と言える充実ぶりだ。
コンビニに始まる商業施設の大半、スーパー銭湯、教育施設、役場、必要な設備はしっかりと設置されていて不自由はない。
それでも目当てのモノや店が無い場合は、通販で頼むか定期的に陸地に接岸するときに下船して買い物をすればいい。
と、西住は教えてくれた。
「うーん、イギリスではあんまり盛んじゃないのかな?」
「私はインドア派だから、きっとそういうスポーツについて耳にする機会が無かっただけかもしれない」
「インドア派なんだ、趣味は何かな?」
「日本のアニメの鑑賞や、ボードゲームをしている」
「へぇ、どういうアニメ?」
「ボコられグマっていう………」
「ボコ見てるの!?」ガタッ
いきなり立ち上がったかと思うと、身を乗り出して来た、だいぶ興奮している、そんなにボコが好きなのか?
「あぁ、最初は何の気なしに見ていたんだが、なんだろうな、こう、『never give up』の精神を強く感じたんだ」
「うん!うん!ボコは何度ボコボコにされても、挫けずにボコボコにされ続けるんだよね!」
酷いセリフだ………実は西住はかなり恐ろしい人物なのでは?
と、西住がボコについて熱く語り始めたところで学園艦出港30分前の汽笛が聞こえて来た。
『黒森峰の生徒は、ただちに……』
「あっ!もうすぐ出ちゃう……」
「残念だ、もう少し聞きたかったんだが…………」
「うぅ、せっかくボコ好きの人と会えたのに………」
ガクッと肩を落とす西住、どうやら西住の周りにはボコ好きはいないようだ。
「連絡先交換しておこうか?」
「え?い、いいんですか?さっき会ったばかりなのに」
「何を今更…………もう友達だろう?」
「友達……」
何やら嬉しそうな様子の西住、黒森峰とやらには友達がいなかったのか?
あれ?涙が…………。
「いや、ボコ仲間というのも捨てがたいな」
「ボコ仲間!………じゃあ私たちはボコ友達ですね!」
「ボコ友達………語呂がいいな、よし、今日からボコ好きの友達として、よろしく頼む西住」
立ち上がって右手を差し出す。
「はい!えっと、クァーラィ………」
「ジョージ・カーライルだ、カーライルでもジョージでもいい」
「よろしくお願いしますね、ジョージさん!」
「よろしく、西住」
差し出した右手を握り返され、そのまま上下に軽く振って、解く。
「帰ったらメールしますね………わわっ」
学園艦に向けて走り出した西住は、石につまずいて転びそうになっていた。
「気をつけて帰るんだぞ?」
「あはは………はい、わかりました、それではまた」
そう行って今度こそ走り出して行った、公園を出て少ししたら西住の姿は見えなくなった。
「さて、私もそろそろ行くか」
イギリスから交流目的での日本留学、前世では第二の故郷であった土地だ。
まあ、今世では土を踏むことは少なそうだ、何せ私のこれから通う高校は、西住同様に船の上、学園艦なのだから。
「大洗学園の学園艦の寄港時間は………………むっ、1週間後?だが定期便の小型船舶での接近なら…………それも無理?どこの海域に出てるんだ?」
1週間かかるほどの遠洋航海をしているのか?留学生が来てるというのに、スケジュールの調整くらいしといてほしいものだ。
「まあ、1週間くらいなら、近くの宿に事情を話せば無料………とまではいかないでも、格安で滞在はできるはず」
手持ちは、まあそこそこある、きっと大丈夫なはずだ。
日本での友人第一号も無事できた、戦車道とかいうスポーツについても知れた、なかなか楽しくなりそうだ。
大洗学園のOBだという民宿の宿主に事情を説明すると、それなら、ということで部屋を貸してくれた。
もちろん、無理を言っている立場なので食事などは払わせてもらうことにした、学生だから……と渋い反応だったが、対価しっかり払わなければいけない。
とは言ったが、本来の半値ほどの格安で食事を提供されてしまった、にこやかな宿主の顔が脳裏に浮かんでいる。
そんな、とても気前のOBが営む民宿に泊まって、すぐに1週間経った。
感謝を述べて別れ、接岸した大洗学園の学園艦に乗船する。
「イギリスから留学に来たジョージ・カーライルです、大洗学園の教師の方が迎えに来ているはずですが………」
乗船してすぐの受付にそう言うと、応接室にいるとのことで通された。
「初めましてジョージ・カーライルさん」
「初めまして、あなたが大洗学園の教師の方ですか?」
「はい、そうです」
来ていたのは女性教師だった、
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします……さっそく説明にうつります
ね…………カーライルさんは当校についてご存知でしたでしょうか?」
「いいえ…………日本は初めてでして」
「では当校について説明しますね、当校は2年前まで女子校でした、しかし入学希望者が減って来ている現状では学園艦の経営や存在意義に関わりますので、急遽共学校としての整備を整え、男子生徒受け入れを行なっているのですが………やはり、女子校として長かったというのもあって、男子生徒は全体の20%もいない状況です」
思った以上に過ごしにくい環境のようだ、なんてこった。
「そこで、外国からの留学生等を積極的に受け入れる運動を始め、共学校としての新しい大洗学園を広めている、という感じですね」
「その運動で来た留学生第一号が、私だと?」
「はい、来てくださってありがとうございます、当校はあなたのいた学校と比べると貧乏………備品が古いものが多いので不便を感じさせるかも知れません、そういう時は、『これがあったほうがいい』、などの意見を生徒会に提出していただければ、改善に努めてくれるはずです」
「わかりました、これからよろしくお願いします」
設備以外で無くて困るものは大体買えるから良い、設備で困ったら生徒会に行けばいいか、さすがにトイレがないことはないはず…………だよな?
「生活に関しては、学生用の男子寮を使ってください、女子寮には入らないように注意して下さい」
「えぇ、気をつけます」
男子寮の鍵を受け取る、楽しくなりそうだ。
ジョージ『無事に学園艦に入れた』
西住『よかったです、友達はできましたか?』
ジョージ『すまない、まだ学校は見てないんだ』
西住『そうなんですか。じゃあ、選択科目はどうするんですか?』
ジョージ『いろいろあるが、パンフレットに小さく載ってた【対戦車道】をやってみようと思う』
西住『対戦車道ですか!?大変だと思いますよ?』
ジョージ『人もいないみたいだし、そうなんだろう。とりあえずやってみて、ダメなら他のにする』
西住『それがいいかも知れませんね。そうだ、来週の土曜日に戦車道の全国大会の決勝戦があるんですけど、見に来られますか?』
ジョージ『大丈夫そうだ、でも入って大丈夫なのか?』
西住『あっ、そうでした。入場券を送りますね、明後日には届きます』
ジョージ『ありがとう、絶対に見に行く』
西住『無理はしないで下さいね(汗)』
ジョージ『大事な友達の試合なんだ、多少の無理があったとしても見に行こうとしたさ。今回は本当に何も予定はない無い』
西住『ありがとうございます!』
ジョージ『しっかり応援させてもらうよ』
西住『応援に応えられるように、最高の試合をお見せしますね!』
ジョージ「ボコ好きメル友になった」
みほ「ボコはの良さが分かる友達なんて初めてです!」
意外と仲よさそう