転生したのでせっかくだから対戦車道をやってみようと思う   作:倒錯した愛

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試合、終了!

「…………………妙だな」

 

あれからもう1時間と30分は経っている、なのにチャーチルのダージリンやマチルダからの連絡はいつも通りのもの。

 

速度が一定なら、すでに攻撃をしていなければおかしい、どうなっている?正面からKV重戦車をぶつければ勝機はあるはずなのに。

 

一度引いた?吹雪が止むのを待って突撃する気なのか?だがさっきの煙吹いてるKV重戦車は通って行った……………。

 

まさか!

 

「こちら戦車猟兵!村の左右の防備を固めろ!」

 

『こちらチャーチル、どうしたのですか?』

 

「1両だけ見えたKV重戦車はブラフだ!わざと発見されやすい煙を吹いているKV重戦車をおとりに、村の左右から突っ込んでくるつもりだ!」

 

『…………そういうわけですのね、2号車と3号車は引き続き前方の警戒を、4号車から6号車は東を、7号車から9号車は南を、10号車は1号車の後方を警戒しなさい』

 

「プラウダの編成にはKV-1sがある、速度の出るKV-1sとT-34を先鋒、時間差でKV-1が仕掛けてくるものと予想される、おそらく一番目立つであろう正面からKV-1、それ以外の方向からKV-1sとT-34の可能性が高い」

 

『聞いての通りですわよみなさん、各車それぞれの方向を厳重に警戒、少しでも怪しいものが見えたら広域無線をしなさい……………聞いての通りですわ戦車猟兵さん、万が一がありますので、報告があった方向へ偵察をお願いしますわ』

 

「了解、この吹雪ではまともに遠くは見えない、あたりをつけてブラインドショット(盲撃ち)が飛んでくるかもしれない、顔を出してみるときは十分に注意して欲しい」

 

いくら安全とはいえさすがにな…………間違っても雪原に飛び散ったザクロなんざ見たくない。

 

『あなたも十分に注意してくださいまし、生身なのですから』

 

「わかっている、こちらは引き続き動向を探る、吹雪が晴れそうならアエロサンで走りつつ偵察を行うことにする」

 

『わかりましたわ、アウト』

 

「アウト」

 

この吹雪では、止むのに時間がかかりそうだ。

 

仮に止んでも相当な時間が経っているため、吹雪に紛れて見つからないように既に布陣が済んでいた場合、晴れた瞬間に攻め込まれてはどれだけ早く無線が来ても2、3両はやられる。

 

アカの中戦車がその真価を発揮するのは至近距離での戦闘、正面の45mm60度の傾斜で約80mm前後、この数値では当然ながらマチルダの40mmでは貫通は厳しく、また砲弾の軽さ故に滑りやすい。

 

同じく軽い砲弾である50mm砲でもってしてもT-34撃破に苦労したⅢ号戦車同様、たやすく撃破されてしまうだろう。

 

何せ、向こうは76mmの大口径砲と実質80mmの擬似装甲、さらに機動力までもあるのだ。

 

よく言えば車体側面垂直部、もしくは砲塔の防楯を避けた部位を撃てれば勝機はある、という程度。

 

悪く言ってしまえば、当てられなければ勝機はない。

 

そのための俺なんだろう、マチルダもチャーチルも、プラウダの戦車相手では分が悪すぎる、ある程度のハンデをして組み込んだんだろう。

 

会長はやはりやり手だな…………おっ、吹雪がおさまってきたか。

 

これでなんとか一息…………エンジン音!?後ろ!T-34駆逐1両!!

 

…………まだバレてない、だが無線機を使おうとすればバレる距離。

 

俺とT-34駆逐の距離、およそ30m!!

 

ガスマスクをつけていたのが仇になったか!音が聞こえづらいのはやはり致命的だ!

 

だがいい、そこは今は良い。

 

なぜか知らんが、30m先でエンジンを止めて偵察を始めた、1人が降りて双眼鏡片手に北西の村が見える雪の小山に向かっている。

 

………………舐めやがって。

 

「…………やーってやーるー、やーってやーるー、やーってやるぜ、アカの戦車(搭乗員含む)をボーコボッコにー…………」

 

周囲に他戦車なし、単独偵察か、とことん舐めてやがるな…………よし。

 

「教育してやる」

 

跳び上がりラハティを両手にT-34駆逐めがけ走る。

 

10mを切ったところで勢いそのままに車体後部めがけて倒れこむように伏射の姿勢へ移行、ラハティで後部転輪を狙い撃ち足を止める!

 

装填よし、発射!

 

カチッ

 

バッシューーンッ!!!

 

強烈な乾いた破裂音が鼓膜をつんざくのを感じる、巻き上がった粉雪の向こう側がガラス越しに見える。

 

ちっ、転輪破壊は無理だったか、だがそこにかかる履帯を破壊できた!

 

「ちょっ!?何してんの!?」

 

音に気づいたT-34駆逐は砲塔を回してくる、残念だが俺はお前の側面真下だぜ。

 

同じく音に気づいた偵察員が引き返してくる、しかも手ぶらかあいつ、そいつは悪手だ。

 

「西住直伝(聞いただけ)!」

 

立ち上がりホルスターから引き抜くはコルトM1911、装弾数7発の傑作オートだ。

 

「ひっ!?いやぁ!」

 

「ちぃっ!」

 

左片手の膝打ちでは狙いが………くっ!

 

拳銃にビビって動きが止まった偵察員にダブルタップを2回、当たりにくいと思い4発撃つ。

 

ちなみに、人に向けて撃つと弾丸は発射されないが、弾頭がついたままブローバックによる排莢と装填を行う、命中判定はレーザー装置がやってくれる。

 

どういう技術だほんと………。

 

「あっ………死んじゃった、はぁ」

 

45を4発中3発くらった偵察員(3発目の発射のリズムをミスって4発目は当たらなかった)は死亡判定でリタイア、雪の上にへたり込んだ。

 

すぐにM1911のマガジンを交換し履帯が破壊されて動けないT-34駆逐の砲塔に飛び乗ってラハティを天板に押し付ける。

 

搭乗員の配置は事前に西住から聞いている、だいたいの位置にラハティの20mmをぶち込めば、人間であれば即死だろう。

 

小刻みに車体が揺れる、ちっ、クラッチをめちゃくちゃに動かしてやがるな。

 

じゃあまずは、操縦者からだ。

 

「3発ありゃ十分だな」

 

砲塔天板からだと操縦者は………だいたいここ、いやもうちょっとこっちか?

 

そして、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T-34-57内部

 

 

パンッ!パパンッ!パンッ!

 

ピーーッ

 

「外に出た装填手の子がやられた………」

 

「まだ動かないの!?」

 

「ダメです!履帯が切られています!おそらく転輪にもヒビが……反応が鈍いです!」ガチャガチャ

 

ガタンッ!ゴンッ!

 

「………今のって、まさか飛び乗られた!?」

 

「振り落として!早く!」

 

「Да!」ガチャガチャ

 

コンッ……

 

「無線手!近くの味方を呼んで!」

 

「……………」

 

「何ぼけっとしてんの!?早く……」

 

「………無線機が壊れてる、おそらくさっきの衝撃でイかれた」

 

「あ、あぁ……あぁぁああぁあ……!!」ガクガク

 

シャァ〜〜〜〜………

 

「ひぃっ!?」

 

「車長、さっきの転輪を撃った音、たぶんラハティ対戦車ライフルだよ、20mmの大口径ライフルで、T-34の天板じゃ防げない」

 

「だから今振り落とそうとしてんじゃないの!操縦手早くしなさ……」

 

シャァ〜〜〜〜………

 

「ひゅぃっ!?」ビクッ

 

「………どこに人がいるか探してるみたい、ご丁寧に銃口を押し付けて」

 

「いやぁ!いやぁ!助けて!」

 

「死ぬわけないじゃないですか、ってかあんま暴れると痛いっす」

 

「く、クラッチが、重い……」グッグッ

 

「出るぅ!もうここから出るぅ!!」ジタバタ

 

「なぁんで戦車の主砲は大丈夫なのに拳銃とか機関銃が怖いんですかねこの車長殿は?」

 

「ちっちゃい頃に、押入れにでも、閉じ込められたんじゃ、ないです、か?」ガチャガチャ

 

バッシューーン!!!

 

ギィシャァァン!!!(貫通音)

 

ピーーッ

 

「あ、操縦手ちゃんが………」

 

「死亡判定………そんな、1発で………」

 

「あっ、操縦手ちゃんちょっと退いて、死亡判定出たら操作できないから私がやるね」

 

「うー、お願いします………」

 

「い、いやだ、出して、出して!ごめんなさい!許してぇ!」ジタバタ

 

「ちょっといい加減うr」

 

バッシューーン!!!

 

ギィシャァァン!!!

 

ピーーッ

 

「あっ………うちもやられた」

 

「いやああああああああああ!!!!」ガタンガタン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョージside

 

 

『いやあああああああああああ!!!!』

 

「何を騒いでいるんだ………」

 

死ぬわけでもないのによくもまああそこまで暴れられるものだ。

 

演技でもなさそうだし、ラハティはもういいか、ステンガンを突きつければ降伏するだろう。

 

「開けろ!」

 

ラハティを動かなくなった(おそらく操縦手をやった)T-34駆逐に立て掛け、ステンガンを構えてガンガンと砲塔を蹴る。

 

「う、撃たないで!降参!降参します!」

 

キューポラから身を乗り出してきたプラウダの生徒の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃであった。

 

………え?そんな怖かったか?

 

「今すぐ降りろ!携行武器は置いて行け!」

 

「わかった!わかったから銃口を向けないで!」

 

T-34駆逐から降りてくる車長、操縦手、無線手、そして偵察役だった装填手を両手をあげさせて一列に並ばせる。

 

「死亡判定が出た者は持ってる武器があれば出せ、死亡判定が出ていない車長はここで自害しろ」

 

「そ、そんな………」

 

「…………嫌ならさっさと行ってくれ、正直弾が勿体無い」

 

なんだこれは、俺が悪者みたいじゃないか。

 

「弾以下の命とは……」

 

「お前たちの学校じゃそれくらい当たり前だろ?ほら、銃は2人に一丁ってな」

 

あの映画は正直かなり楽しめたが、架空のスナイパーをでっち上げてそれも戦果にするあたりがお国柄というかなんと言うか。

 

実際はあのレベルの狙撃手が数百人単位でいた、という話のほうがまだ信憑性がある。

 

「いや戦争じゃないから、あとうちの車長あんま虐めないであげて、銃とか異様に怖がっちゃう子だから」

 

「そうなのか?………それは悪いことしたな」

 

うーん、抵抗の様子がないからステンガンはしまっていいか。

 

「ちょっと待て、確かハンカチが………」

 

「(ねえ、なんかいい人っぽくない?イケメンそう)」

 

「(マスクで顔見えないから何とも、性格は良さそう)」

 

「あった、こんなのでも良ければ使ってくれ、あと、移動するならそこにあるアエロサンを使うといい」

 

ハンカチを泣きじゃくるT-34駆逐車長に渡しつつ若干雪に埋めて隠したアエロサンを指差す。

 

「ぐすっ………」

 

「すまなかったな怖がらせて、機会があれば何か埋め合わせをする」

 

「マジっすか?じゃああとでメアドとライン教えてもらっていいっすか?」

 

「いいぞ、終わったら交換しよう、あとそれから、このT-34はもらってもいいか?」

 

コンコンッと装甲をノックしつつ聞いてみる、鹵獲ルールは知ってるはずではあるが、まだ車長は生きてるから反対されたら死亡判定を出させて強制鹵獲しなくちゃならない。

 

「あー、車長?T-34あげてもいいっすか?」

 

「そ、それは……その………」

 

「嫌なら仕方ない………目を閉じておけよ?」

 

ステンガンを腰らへんで構える、狙いは大雑把にT-34駆逐の車長だ。

 

「あげます!あげますぅ!!」

 

「うーん、このヘタレ車長」

 

「ヘタレかわいいですよ車長ォ!」

 

なんだこの…………なんだこの………うーん?

 

「………えー、ってわけで、鹵獲どうぞ」

 

「あ、あぁ、そうする」

 

正直もうちょっとくらい粘って欲しかった気がする………気分的に。

 

なんか少し冷めたな………まあいい、続けよう。

 

アエロサンで被撃破車両とその搭乗員の集合地点に向かった彼女たちを見送ったあと、大洗の校章デカールをT-34駆逐の規定位置に貼り付けた。

 

ラハティをT-34駆逐の側面上部に括り付け、アエロサンから持って来た武器弾薬爆薬を積み込み、ヒビが入っていたらしい転輪を交換し履帯を繋げ直した。

 

大洗の校章デカールがなかなかにダサく、T-34駆逐の細い砲身もあり頼りない印象を受ける、色もアエロサンに入ってたペンキで緑色の横線を砲塔と車体に施しているため誤射は無いはずだ。

 

引っ張って来た無線機で戦車道連盟の審判につなげる。

 

「戦車道連盟へ、こちら聖グロリアーナ女学院チーム、大洗学園対戦車道部所属ジョージ・カーライル、対戦相手のプラウダ高校のT-34を鹵獲、審査を要請する」

 

『要請受諾、確認中………異常なし、使用を承認する』

 

これで、このT-34駆逐は俺のものだ。

 

操縦席に座り、内部にあった作戦地図らしきものを見ながら北西の村へ直進する。

 

結構な時間を食ってしまった、転輪がヒビ割れているとは思わなかったから履帯を繋げてから気づいて二度手間になってしまった。

 

「こちら戦車猟兵、チャーチル以下全車両に告ぐ、T-34中戦車57mm砲搭載型を鹵獲した、緑色で横線が入った、大洗学園の校章デカールを貼り付けてあるT-34は攻撃しないように徹底せよ」

 

『こ、こちらチャーチル、あの、その…………T-34を鹵獲したんですの?』

 

「ああそうだが…………KV重戦車のほうがよかったか?」

 

向こうのが強いからな。

 

『い、いえ、最高の戦果ですわ、合流に際してはくれぐれもご注意を、こちらは『ドォォォオオオン!!!』何事ですか!?』

 

無線を通して響いてきた砲撃音、こいつは40mmの音じゃない、76mm砲の音か!

 

『こちらマチルダ3号車!KV-1により襲撃を受けています!ちょっと2号車危n(シュパッ!)被弾、すみません大破しました!』

 

『同じく6号車!KV-1sが出てきました!歯が立ちm(シュパッ!)やられました……』

 

『8号車、っ!?きゃあ!?(シュパッ!)………くっ、やられました、T-34が来ます!』

 

『マチルダ全車は撃ち返しながら後退!直接攻撃を受けていないものは近くの車両の後退を援護しなさい!村の中央まで引きずり込んであげなさい!……ペコ、徹甲弾装填、以後の装填は迅速に『はい!』、アッサム、一撃で仕留めなさい『了解!』、ルフナ、相手に弱点を晒さないように『はい!』』

 

まるで女傑だなダージリンは。

 

『ここで食い止めれば戦車猟兵さんと私たちで挟み撃ちができますわ…………それと、イギリスにはこんな格言がありますわ』

 

ほう?イギリスの格言とな?

 

『【帆がいちばん高く上がっているのは、風に向かっている時である。流されている時ではない。】、各車、踏ん張りなさい』

 

ハハッ!こりゃあいい!最高だなおい!

 

「イギリスの英傑、ウィンストン・チャーチルの言葉か、いい言葉だダージリン、なら『俺』からも一言送ろう、【不利は一方の側にだけあるものではない。】」

 

今は不利であろう、立て続けに3両もマチルダがやられた、事態は最悪と言っていい。

 

それが現在進行形で襲いかかって来ている、波に乗ったプラウダの攻撃を受け止めることは、ビックウェーブの前に立ちはだかるが如く無謀と言えよう。

 

しかし、不利は一方だけにあるわけではない、戦いとは、人生とはそういうものだ。

 

『ふふ、そうですわね、ジョージさん』

 

「3分、いや2分耐えてくれたなら、俺も攻撃に参加できる、あと少し耐えてくれ」

 

『皆さん聴きましたわね?私たちの【グロリアーナ(栄光ある女人)】をお見せする時ですわ』

 

ダージリンの鼓舞でモチベーションは高く維持されているが、性能差は歴然だ。

 

一刻も早く北西の村で劣勢を強いられる聖グロリアーナ女学院の援軍に着かなければならない、なのにこのT-34駆逐はなかなかどうして速度が出ない。

 

操縦手を死亡判定にするまでの間かなり車体を揺すぶっていたからどこかイかれたのか?クソッ、クラッチは重いし曲がらないし視界も悪いし搭載されている無線機は死んでるし………何が傑作中戦車だ!この【ピーーーーーーッ】!!!

 

イかれた社会主義の豚め!Ⅲ号戦車とⅣ号戦車とM4中戦車の産みの親に土下座しやがれ!

 

というか……………。

 

「こんなクソ重クラッチ戦車なんぞ作りおって!やる気あんのかスター◯ン!」

 

はぁ………はぁ………ふぅ………スッキリした。

 

スッキリしたところで状況の整理だ、まず相手は正面と右と左の、大雑把に三方向から同時に攻めて来ている。

 

勢いそのままに3両のマチルダが沈黙、叫んでるときに入っていたらしい通信によるとさらに2両落とされて残りは5両。

 

だがただやられるだけでなく、T-34-76を1両仕留めていたようだ、でかした!

 

これで残りはKV-1とKV-1sが2両ずつ、T-34-76が2両とT-34駆逐が1両だ。

 

幸いにも今乗っているT-34駆逐ならKV重戦車だろうがT-34だろうが抜ける貫通力を持っている、だが致命的なのがこいつの乗員が俺だけということだ。

 

戦車砲用の重い砲弾を装填して照準、発射しつつ走行するなんて無理だ。

 

だから、少々惜しいがこいつに乗って突っ込んで1発撃ったら乗り捨てて爆薬で戦おう、今の1人ではそれしかできない。

 

だがそれで充分だ、西住の言った通りの戦法と、市街地という好条件で負けるはずがない。

 

「待ってろ、イワンども」

 

ふと、ボーイズ対戦車ライフルに付けたボコストラップが揺れるのが見えた、これから起こることを想像して楽しそうに笑い転げているようだった。

 

「ボコボコにされるのは俺の方かもしれんが」

 

相変わらずろくに加速しないポンコツ戦車の内部で蹴りを入れつつ、北西の村へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャーチルⅦside

 

 

キュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラ…………

 

「………………」

 

キュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラキュラ……………

 

「9時方向、KV-1、狙いなさい」

 

「はい」

 

ウィィィィン…………カシャン

 

「fire」

 

「fire!」

 

ドゴォン!!!

 

《プラウダ高校、KV-1走行不能!》

 

「いい狙いですわアッサム、これで残り6両ですわ」

 

「砲塔基部に直撃です、さすがですアッサム姉様」

 

「ありがとう、ペコ、次も徹甲弾でお願い」

 

「はい!」

 

カコン、ガシャッ……コンッ!

 

「装填完了!」

 

「…………3時方向、T-34」

 

「はい」

 

ウィィィィン………カシャン

 

ドォン!

 

カァコォォォオオオンッッ!!

 

「T-34-76の76mm砲では、正面は抜けませんわ…………fire」

 

「fire!」

 

ドゴォン!

 

《プラウダ高校、T-34-76、走行不能!》

 

「これで残りはKV重戦車だけです、でも油断しないように」

 

「こちらは正面なら抜かれませんが、KV重戦車相手では照準を誤れば弾かれてしまいますわね」

 

「えぇ、でも私はあなたの腕を高く評価していますのよ?アッサム」

 

「嬉しいことですわ…………ペコ、紅茶のお代わりをいただけるかしら?」

 

「はい、少しお待ちくださいませ」

 

「僚車の状態はどうですの?」

 

「はい………南側の7号車と後方の10号車が健在、それ以外は………大破です」

 

「…………思わしくありませんわね、お相手さんはKV重戦車が3両、こちらは戦車猟兵さんのT-34-57を含め4両ですが、現状では実質3両」

 

「弱点を見せる気はありませんが、KV重戦車相手ではマチルダでの時間稼ぎは逆効果でしょう」

 

「打って出ることができるほど、私たちもマチルダも早くありません」

 

「…………ここは戦車猟兵さんの到着を待ちましょう」

 

「7号車より通信、残りのKV重戦車は村の入り口で終結しつつある模様」

 

「…………お相手さんはT-34-57を鹵獲されたことを知らないはず…………戦車猟兵さんに無線を」

 

「はい!」

 

「こちらチャーチル、現在私たちはチャーチルとマチルダで3両、お相手さんはKV重戦車3両でにらみ合っています、状況を打破するためにお力を貸してもらっても?」

 

『こちら戦車猟兵、もちろん、俺の頼りない腕で良ければ』

 

「謙遜なさらないでくださいまし、あなたは私のチームの次に頼れる腕ですわ」

 

『過大評価で縮み上がりそうだ…………それで、どのような策を?』

 

「ジョージさんにはT-34-57で敵中に突撃して欲しいのですわ」

 

『囮か………よし、わかった』

 

「嫌な役を押し付けてしまって申し訳がないのですが、お願いしますわ」

 

『嫌な役?おいおいそれはジョークか?………帆がもっともたかい場所に上がっているのはどんな時だ?』

 

「あら………うふふ、うまく返されてしまいましたわね」

 

『ははは、俺は囮、そっちは攻撃…………しっかり頼むぞ』

 

「えぇ、私のチームが、私のチャーチルの砲手が、確実に撃破しますわ」

 

『頼もしい限りだ、よし、ダージリンのチームを信じる……………今から突っ込むぞ!あとは頼む!アウト!』

 

「アウ…………もうきれていますわね………全車前進準備、村を抜けて雪原に出ますわ」

 

『『はい!』』

 

「アッサム、行進間射撃でKV重戦車の撃破は可能ですわね?」

 

「100%確実に撃破して見せますわ」

 

「ペコ、まさかさっきの装填が最速とは言いませんわよね?」

 

「!……先の装填より、0.5秒縮めてみせます!」

 

「ルフナ、お相手さん方に、聖グロリアーナの走りを見せて差し上げなさい」

 

「華麗な走りをお見せしますわ」

 

「皆さん、友軍T-34がお相手さん方を混乱させますわ、この期に我々は村を出て撃破します、戦車前進、打って出ますわよ」

 

ブォォォオオオオオオオオオンッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョージside

 

 

「あの丘を越えれば…………よし!ってKV-1にKV-1s!?村の入り口の邪魔なところに!」

 

だが気づかれていない!一気に距離を詰めて…………ここだ!停車!

 

ギャギャンッ!

 

落ち着け、落ち着いて砲塔に移れ。

 

そうだ、AP弾は………こいつか、装填…………よし。

 

カシャッ……コンッ!

 

良い音がなるんだな、お次は照準だが………えぇいまどろっこしい上に見にくい!

 

とりあえず十字のところをKV-1sの砲塔背面に合わせておいて………おっと、少しずれ………ぐっ!?こっちに砲塔が指向中!?

 

「くそっ!当たれ!!」

 

バムッッ!!

 

ギッシャァンッッッ!!

 

シュパッ!

 

《プラウダ高校、KV-1s、走行不能!》

 

「よし!KV-1sをやった!!」

 

車体後部の下部に運良く突き刺さった57mm砲弾は、そのままエンジンルームを貫通撃破!

 

戦車に搭乗しての初撃破をもらえるとは、プラウダも優しいものだ。

 

ドォン!

 

ギッシャァンッッッ!!

 

「グァッ!……ちくしょう、やられた!」

 

俺の乗っているT-34駆逐はKV-1sの撃破に気づいた近くのKV-1に撃ち抜かれ撃破された。

 

「だがまだ終わっちゃいない!」

 

幸いにも横向きに停車していたのもあり、やられたのはエンジン周りで、俺のダメージは軽傷、つまり試合続行可能ということ!

 

すぐさまT-34駆逐から飛び降り、括り付けたラハティを外………そうとするがKV-1が照準してきたから回避!!

 

雪の上を転がってT-34駆逐の陰に隠れる。

 

KV-1とKV-1sの位置を確認し、最後の収束手榴弾を取り出してKV-1に向けて投げる。

 

「ソォイ!!!」

 

と同時に、KV-1めがけ突撃する。

 

狙い通り、KV-1は榴弾による破片効果で俺を倒そうと撃ってきたが、直前に投げた収束手榴弾の爆発によるブレによって砲身があらぬ方向を向き、榴弾はかなたにすっ飛んだ。

 

KV-1にまとわりつくと、KV-1の砲塔を盾にKV-1sの履帯をボーイズ対戦車ライフルで狙い撃つ。

 

バァンッ!

 

ちっ、こんな時に外すか俺!

 

次弾………ダメだ!間に合わん!

 

ボンッ!

 

ガァンッ!!

 

ドォン!

 

ヒュッ………………

 

い、今の砲撃、KV-1sの砲身にピンポイントで当てて狙いを数ミリずらした…………のか?

 

村の方を見るとマチルダがその40mm砲から煙を出していた、どうやら撃ったのはあのマチルダのようだ。

 

「とんでもないマチルダがいたもんだ……って動くなKV!」

 

砲塔がマチルダを指向しようと旋回を始める、マチルダは後退するがその鈍足では隠れる前にやられる!

 

だがもう爆薬はない!KV-1だけでなくKV-1sまでもマチルダを指向し始めた!

 

どうすれば…………えぇい!ダージリン!よく見ておけ!

 

「戦車猟兵の仕事は徹底的な妨害なんだ!」

 

ボーイズ対戦車ライフルを構える、狙うはKV-1の砲塔、そのペリスコープ、さらに言えば砲手用のペリスコープだ!

 

13.9mmに耐えられるか!?

 

「喰らえ!」

 

バァンッ!

 

パリンッ!

 

KV-1にはふたつあったな、もうひとつ!

 

カシャッ!コォンッ!

 

バァンッ!

 

パリンッ!

 

「これで狙えまい………このままKV-1sのペリスコープも………」

 

なっ!?もうマチルダが照準されてしまっている!?だがボーイズで………。

 

バァンッ!

 

スゥン…………

 

1mmも掠らないですっ飛んでいく13.9mm弾…………スゥゥ〜〜……。

 

「ここで外すかちくしょう!」

 

カシャッ!コンッ!

 

次弾…………間に合わん!

 

ブォォォオオオオオオオンッッッ!!!

 

こ、この非力なベドフォード ツイン・シックスガソリンエンジンの音は!

 

チャーチルⅦ!

 

ドォン!

 

キィィィイインッ!

 

『KV-1sの76mmではお昼休みの側面は抜けなくてよ』

 

「マチルダの前に側面を晒してまで出てきやがった……」

 

なんつぅイケメンだよダージリン…………淑女の嗜みっていうのは半端じゃあないな。

 

っとぉ、ぼけっとしてる場合じゃねえ!KV-1がチャーチルⅦに突っ込んでいきやがる!

 

「とぁっ!」

 

このままじゃ巻き添えもいいとこだ、すぐに飛び降りる、KV-1はそのままチャーチルⅦに向かっていく。

 

ドォン!

 

撃った!?まz

 

カァァァアアンッ!

 

しょ、正面!?超信地で側面を隠して正面を向けたのか!?2、3秒あるかないかの時間で、そんな早技を……。

 

『ゼロ距離であっても、チャーチルの正面は貫通を許しませんわ』

 

『Fire!』

 

ドゴォン!

 

《プラウダ高校、KV-1s、走行不能!》

 

ゼロ距離とはいえ、照準と砲身の誤差がある中でターレットリングをあんな簡単に…………。

 

「かっこよすぎて惚れるじゃないか!」

 

爆薬はもうないが、とっておきがひとつある!

 

「たらふく飲みな!」

 

空中に酒瓶を放り投げる、中身は高濃度のアルコールで防水加工済みの布が栓になった火炎瓶。

 

モロトフのカクテル、とも言うやつだ。

 

ボーイズのマガジンを外し、込めてあった徹甲弾を取り出し、曳光弾を装填する。

 

ガシャン!

 

火炎瓶がKV-1の上に落下し、瓶が割れて中身がエンジン上部に広がる。

 

「燃えろ!」

 

バァン!

 

「うぐっ!?」

 

くそ、姿勢が悪いせいで肩が……。

 

だが、弾丸は真っ直ぐに飛んだようだ。

 

13.9mmの曳光弾がKV-1の車体後部に着脱する。

 

瞬間、高濃度のアルコールを含む液体が激しく燃え上がり、瞬く間にエンジンから黒煙が上がり出す。

 

ペリスコープを破壊され周囲の確認もできないKV-1は突如エンジンがダメージを受けたことに混乱でもしたのか、バックギアを入れて下がろうとした。

 

「まだ動くか!?」

 

なんて頑丈なエンジンなんだ!燃えてるんだぞ!?こんなことがあるのか!?

 

しかしすぐに動きが止まり、白旗が上がった。

 

《プラウダ高校、KV-1、エンジン破損炎上判定により走行不能!》

 

《試合終了、聖グロリアーナ女学院戦車道、大洗学園対戦車道連合の勝利!》

 

「お、終わったか」

 

し、心臓に悪いぞ最後のは…………。

 

しかし、苦しい中で価値をつかむこの感覚…………。

 

「あー……最高だ」

 

雪の上に倒れて寝転がって空を見る、試合開始の時とは打って変わって星が見える。

 

右肩の痛みさえ忘れてしまいそうなほどの勝利の余韻、久しぶりだ………。

 

視線をずらすとボーイズにつけたベトナムちっくなボコが目に入る。

 

はは、どうだ西住、お前の作戦で勝ってやったぞ!まさしく軍神のごとき的確な読みだった!

 

「ははは、まるで勝利の女神だな」

 

おっとりしてておどおどした勝利の女神か………はっ!最高かよ、嫁に来いやマジで。

 

「ジョージさん?大丈夫ですの?」

 

西住のことを考えていたら女傑が膝を折って俺の顔を覗き込んでいた。

 

「あーー…………すまない、初めての模擬戦で気持ちの良い勝ち方ができたものでな……」

 

「共感できますわ、私も一年生の頃、学内の模擬戦で隊長を務め勝利できた時、あなたのように満たされた感覚がありましたわ」

 

「一年生のダージリンか……見たいものだな」

 

「あら?今の私よりも若い方が好みですのね?」

 

「美しいものに時間なんて関係ないさ、俺にしてみれば絶世の美女も老人も、どちらも美しいものさ」

 

長い時間を生きて老いた存在であれ、その人間の輝かしさや美しさは失われないのだ。

 

「良い言葉を聞かせていただきましたわ、それとジョージさん」

 

「なにかな?」

 

「集合がかかっていますので、起きて下さいますこと?」

 

「おっと、レディを待たせるのはいかんな」

 

跳ねるように飛び起き、体についた雪を手で払うと、膝を曲げた屈伸の状態から立ち上がったダージリンと目が合う。

 

「それでは、マスクを外して下さいますわよね?」

 

「そういえばそんなことも言ったか…………あぁ、今外すよ」

 

顔面の防御のためにつけていたガスマスクを外す。

 

ふぅ〜〜………やはり汗臭いな、帰ったらよく洗わないとな、って汗を自覚すると体が冷えてきた!?

 

寒い寒い!…………って。

 

「ダージリン?何か顔についているか?」

 

「…………」

 

「あ、汗臭いのは我慢してほしい、ちょっと動き回ったせいで……」

 

「…………イケメン、いえ、中性的で可愛らしいお顔ですのね」

 

「人の気にしてるところを躊躇ないな!?」

 

「私は好みでしてよ?」

 

「光栄だが可愛らしいというのはちょっとな……」

 

まさか、この後ほかの戦車の搭乗員やプラウダのやつらにもそう言われるのだろうか?

 

まあ、言わせておいてやるか、それよりもこの後西住をどうからかってやろうか?

 

ボコの格好をした西住の自撮りでも送ってもらうか?

 

…………考えといてアレだが、ただの変態だな。

 

それも衣装まで準備している筋金入りの変態みたいだな。

 

…………興味はあるけどな。

 




みほ「囮を低速で移動させてる間に陣地転換、即座に半方位かぁ………プラウダの雪上での機動力はすごいなぁ、履帯幅の大きいパンターでも重みであそこまで速度は出ないし……」

まほ「ふむ…………件の男は大洗の留学生だったか、それも対戦車道とは」

みほ「あぁ!あっ!!あんな近くまで寄っちゃうの!?……あ、すごい当ててるっ!……わぁーー!T-34-57に飛び乗っちゃった!?」

まほ「くっ!なぜ私はカメラを持ってきていないんだ!……あんなにはしゃいでるみほを撮影できないとは、不覚!」

みほ「わっ、わっ、すごいすごい!揺れる車体の上で仁王立ちしたまラハティをあんな正確に…………」

まほ「むっ、T-34の車長に銃を………試合上致し方ないが、非常過ぎるな、やはりみほに近づけるわけには……」

みほ「そのまま鹵獲しちゃったよ!?あれ?あれ?でも操縦って…………あっ、出来たんだ、なんでもできちゃうな〜」

まほ「戦車の操縦までこなせるか……しかも特に難しいT-34系列を、か……」

みほ「むっ……聖グロリアーナのチャーチルもすごい、動きが違う、一連の流れが決まってて、淀みがない川みたい」

まほ「隊長車だけあって質は良いようだ、私のティーガーと乗員でどこまでいけるか……」

みほ「KV-1の背後!相手は気づいてない!チャンスだよジョージ君!落ち着いて狙って!」

まほ「……撃破したか、それも初撃で…………エリカ、すまないがもう一度その男について……」

みほ「あぁっ!!!T-34-57がっ!!!……あ、あれ?ジョージ君、無傷?」

まほ「運良くエンジン周りの損傷で済んだか、しかし軽傷は負っているはず、軽傷以降は少しのダメージでも重傷から死亡になりうる、回避重視の消極的な動きになるだろう」

みほ「え!?突っ込んじゃうの!?危ないよ!ダメだよ!!」

まほ「なっ、ペリスコープの狙撃まで……エリカ、本当に最近始めたばかりの留学生なんだろうな?」

みほ「!!……マチルダの40mm砲でKVの砲身を撃って方向を逸らした!?」

まほ「反撃を豚飯のチャーチルが防いだか」

みほ「今投げたのは?……火炎瓶!曳光弾で着火を!」

まほ「………いくら調べてもダメか、黒森峰の諜報チームを使うか」

みほ「か、勝った……勝った!おめでとうジョージ君
!おめでとう!!」

まほ「ちくしょう!なんでカメラ持ってねえんだ私ィ!!!」

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