オーバーウォーズ   作:フュラーリ

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ユグドラシル編~プロローグ~
0. オープニング


" 我が子らよ、銀河に散らばる人間の子供たちよ、私はここに宣言する。

 我々の偉大なる祖先はかつて辛く厳しい航海を得て自由を得た。新しい地は我々に力を与えた。

 人は機械の道具ではない。人を支配するのは人でなければならない。我々が虐げられることはもうないのだ!!

 しかしこの事実を否定し、我々に銃口を向けるのであれば、私は容赦ない報復を行う!!

 子々孫々に至るまで苦しみを与えてやろう!! "

 

 

『以上が反乱軍最高司令官の声明です。UNSC最高司令部報道官はこの声明に対し次のように述べています』

『彼らは殉教者を装い銀河の平穏を脅かそうとしています。彼らはテロリストにすぎません。皆様はくれぐれも甘言に惑わされないように・・・』

 

 その言葉を最後まで聞くことはなかった。モニターが突然切れたからだ。

 

「たっち、ここにきてまでニュースを見るな!」

「黙って見させてくれよ、ウルベルト」

「まったく・・・ウルベルトはニュースキャスターに向いてないな」

 

 たった今ニュースを見ていたのはたっち・みーと呼ばれる白銀の騎士。

 モニターの電源を切ったのは羊の頭を持つ悪魔のような風体の男で名はウルベルト。

 ウルベルトにはぺロロンチーノと呼ばれるバードマンが付き添っていた。

 

「何言ってやがる。こいつは単に権力が欲しいだけだろ」

 ウルベルトが一言で切り捨てる。

 

「まあ確かに。奴の言い分には吐き気がする。自分が正義だと言ってるだけだ」

 ぺロロンチーノがウルベルトに同意する。権力闘争は人の世の常だが、短い人生の中で散々見せらせ彼らはうんざりしていた。

 

「賛同者は彼こそが平和をもたらすと言ってるぞ」

 たっちの職業は警察官である。彼は上官の中に反乱軍に賛同するものがいることを察していた。

 

「笑えんジョークだ。知ってるだろ、平和を主張する奴は皆クズだってことを。こいつはただのテロリストだ」

「少し落ち着け。メリディアンコロニーで起きた反乱も鎮圧された。奴はいずれ処刑されるだろ」

 白熱するウルベルト。たっちとぺロロンチーノがなだめようとするが、その前に澄んだ少女の声が響く。

 

「その辺にしてください。周りが怖がってますよ、ウルベルト」

「シェラ! 君も来てたのか」

 

 3人が振り向くと、そこには甲冑をまとった美少女がいた。彼女の名は・・・

 

「次のクエストはあなた方3人ですか? 」

「ああ、少し無謀だったか? 」

 たっちが顔色を伺うかのようにシェラの顔を覗き込む。たっちは美少女であるが何を考えているのかよく分からないシェラが苦手だった。

 

「はい、かなり。ですが私は出ませんよ。後方で支援します」

「問題ないさ。いざとなれば誰かさんを的にして逃げればいい」

 そう言ってたっちを見るぺロロンチーノ。

 

「この野郎! 」

 前衛を見捨てる後衛の常とう手段を茶化すぺロロンチーノと否定するたっち。声に反して彼らは和気あいあいとしていた。

 

 

「ぺロロンチーノ、ぶくぶく茶釜はいないのですか? また喧嘩? 」

「ウゲッ!!・・・」

「うおっ、いつもながらキツイ・・・」

「絶対分かってるな・・・彼女・・・」

 

 シェラの一言に3人が一斉に渋い顔をする。長ったらしいアバター名なので戦闘中は略称だが、普段はそのままぺロロンチーノと呼んでいる。

 

「シェラ・・・ぺロロンチーノが姉に勝てないことはよく知ってるだろ? 」

「喧嘩にすらならないことは知ってるのに・・・シクシク」

 さっきまでの威勢は宇宙の彼方に消えた。

 

「ついに勝ちましたか。他のメンバーに知らせないと」

「もういいだろ・・・」

「違うぅぅぅぅ・・・実家の給士ロボが故障したんだ。メーカーに苦情言ってるところ」

「故障? 古いモデルですか? 」

 なだめるようにシェラはぺロロンチーノと向き合う。

 

「サイバーダイン社製の240-C/4だよ。たまたま家に来ていた親戚に攻撃したんだ」

「なるほど。C/4は人格形成プログラムに欠陥があって廃盤になってます。サイバーダイン社から交換の通知が来ていたはずですが? 」

「そこそこ長かったし交換をサボってたみたい。両親がそのままにしてた」

「C/4以降のモデルは人工脳が新型です。仮に人間を攻撃しようとしても行動抑制システムが脳を緊急停止させます」

 

「他のメーカーもいいんじゃない? デスペラード社のサイボーグタイプがよさげだけど」

 ぺロロンチーノが前々から思っていたことを口に出す。シェラはやけにサイバーダイン社を推すなと疑問に思いながら。

 

「ちょっとまて。それは子供の脳を使ったモデルだぞ。マスコミから糾弾されてるだろ」

「身元登録されてない紛争地域の子供だから国民じゃない。法律上は問題ないが会社の言い分だ」

 ウルベルトの発言にたっちが捕捉する。デスペラード社には腹が立ってるが仕方がない。

 

「デスペラードはあまり対応がよくなく、何かあっても交換してくれませんよ。同一メーカーなら割引もあります」

 やはりというかサイバーダイン社を推すシェラ。

 

「う~ん・・・考えさせて」

 ぺロロンチーノは結論を出せない。もっともこの場で決定したところで姉の判断には逆らえないのがぺロロンチーノである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェラと呼ばれた少女が3人を見送ると、壁に設置された立体映像投影装置が女性を写す。

 

「ユグドラシルはずいぶんブラックボックスが多いですね」

「セリーナ。貴方もここにいましたか・・・」

 

 彼女はただの立体映像ではない。セリーナはUNSC戦艦の艦載AI。今はユグドラシルにいるが惑星ハーベストへの増援艦隊に組み込まれたため、本来ならここにいるべきではない。

 

『次のニュースです。UNSCは惑星ハーベストへの増援艦隊派遣を正式に決定しました。派遣軍総司令官のコール提督によりますと、艦隊は戦艦や大型艦を中核とする編成でハーベストの軌道上に到着後、コヴナントに対し大打撃を与えるとのことです』

 

 ウルベルトが消したモニターとは別のモニターがニュースを流し続ける。ここはユグドラシルであるが、現実の出来事に興味を持つ者はいくらでもいる。

 

「その様子では進展はなさそうですね。いつまでここに? 」

「UNSC最高司令部から可能な限りあなた方をバックアップするようにと通達がありました。幸い乗艦はまだ整備中です」

 声音まで変えて声を真似るセリーナ。偉丈夫に言われたらしくその声は傲慢さに満ちていた。

 

「以前も言ったように他のAIに交代するべきだと・・・」

「おやおや、こんな面白そうなことを譲るつもりはありませんよ」

 シェラの指摘を遮り笑顔で答えるセリーナ。他のAI同様セリーナもやけに人間臭い。

 

 

 セリーナの主張に呆れたのか、シェラが天を仰ぐ。

 その視線の先には監視カメラがあり、無機質に彼女達の行動を録画していた。

 

 

 シェラは一瞥すると足早にその場所を離れる。その様子を見て何かを察したのかセリーナの映像も掻き消える。一瞬であったが彼女達は監視カメラの正体が分かっているかのような表情を浮かべていた・・・

 

 

『銀河は大変な時を迎えています。人間は今こそ一致団結しなければなりません』

『現在イプシロン・インディ星系全域で避難勧告が発令されております。また今回の声明を受け、各銀河系で渡航制限がかけられました。皆様、恒星間航行する際には十分注意してください。今日はこの辺で失礼します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは遥か未来の話・・・

 人類が地球というゆりかごから出て宇宙に進出した時代・・・

 

 人類は機械の支配を受け入れ繁栄を謳歌していたが、それに対して一部の人間が反発。反乱軍を結成し抵抗を始めた

 

 人類が人類自身の混乱を収めきれないまま地球外知性体と遭遇。彼らはコヴナントと呼ばれ、様々な種族で構成される軍事的・宗教的同盟であった

 

 人類は孤独ではない。そう喜んだのもつかの間、彼らは突如として攻撃を仕掛けてきた

 未知なるものからの攻撃に誰もが絶望したものの、幸い攻撃は微小であり、現在コヴナントは惑星ハーベストに対して散発的な攻撃をするにとどめている

 

 宇宙がこのような混迷を極めても、民衆は我関せずで日々の暮らしを送っていた

 

 機械が支配する世界

 全ての人間がその世界に適合したわけではない

 社会からつま弾きされたもの、疲れたものは安住の地を求めた

 

 機械が、人間が、用意した仮想空間へと・・・

 

 

 ここまでは皆がよく知ってること

 

 

 

 

 

 

 

 ここからは皆が知らないこと

 

 

 仮想空間の1つでありゲームと呼称されるユグドラシルで行方不明者が続出

 身柄を確保できた者もいたが人間として見る影もなく、ただ生きているだけだった

 

 ユグドラシルを開発したのはデルタ社と呼ばれる企業。人が人を支配するべきだといい、常にきな臭い噂が付きまとう企業

 

 人類を支配する機械勢力の1つであり、ネットワークを統括する "スカイネット" はこの問題を憂慮し、自身の配下をユグドラシルへと送り込む

 

 

 

 その名前は・・・

 形式番号 SG-2R シェラ・エルサリス

 

 

 


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