オーバーウォーズ   作:フュラーリ

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リアル編
5. 機工戦姫、リアルへの帰還


ユグドラシル α基地

 

 

 

ジャーナル ~β基地奪還~

 β基地を制圧しているコヴナント軍から基地を奪還する。

 

・基地に侵入する-------------------- ◯ 成功

・ゼロットを排除し基地を掌握する-- × 失敗 

・コヴナント軍を一掃する------------× 失敗

・基地を破壊する-------------------- ◯ 成功

 

 

 指令室にあるモニターで今回のクエスト結果が表示されている。シェラの思惑通り奪還は無理だった。

 

 

 

「よかったですね、司令の思惑通りです」

 

 セリーナの辛辣な評価が始まる。プレイヤーのサポートを担当する彼女は、公式上はクエストが円滑に進むよう運営から提供された、という事になっている。事実は違うが周りには知らさせておらず、他のギルドメンバーからはちょっと(?)特殊なNPCだと認識されている。

 

「あの数で連携したところで数に物を言わされ切り崩されます。成功させるには立ち回りの上手な前衛タイプがあと数名必要ですね」

 

 辛辣な評価は止まらない。アドバイスするのはそうゆう役割だからいいとして、いつもならプレイヤーを逆なでしないようなブラックジョークを交えた微妙な言い回しをするはず。

 

 

「相変わらずキツイな~、お灸をすえるのが目的なら苦戦するレベルで問題ないだろ。君もいけばよかったのに。魔導鎧重砲撃といったっけ? ファントムを観察すれば増援ポイントは分かるから、そこを待ち伏せすれば敵の散開前に叩ける。あの様子では包囲される前に制圧射撃で足止めしたほうがいいぞ」

 

 指令室にいる基地管制官の1人がそう指摘すると、シェラは思い出すかのように自身の身体である魔導鎧の肩部を展開させ魔導砲を露出させる。

 

 予想通り分かれた。前衛の強化と言う意見と支援攻撃を充実させるべきとの意見のふたつに。

 双方とも一長一短で状況次第でどちらも覆ってしまう。遠距離から仕掛けてくる敵スナイパー対策が重要がカギである。

 

 

 DLC-Haloでは難易度が上がるごとに敵が徒党を組んでラッシュを仕掛けてくるから、紙装甲の後方支援タイプが戦力外になる。囲まれたら最後で盾役ですら防御力を上げても波状攻撃を防げない。機動力がないと逃げようがない。

 

 以前のクエストでは他ギルドの回復役が真っ先に狙撃で沈み、回復もままならない状態でクエスト失敗になるケースがあった。5人のスナイパーから一斉に撃たれればどんな防御も役にたたない。紙装甲ならなおさら。

 今回はそれを踏まえアイテムメインの回復に切り替えたが奪還には失敗した。

 

 

「・・・ラ軍団長、シェラ・エルサリス様!! 」

 

 呼びかけに気づきセリーナの方に向くと、紫色の長くて豊かな髪がフサッと宙を舞う。その光景は端正な顔立ちと相まってとても絵になり、男女問わずその場にいるプレイヤー達が見惚れる。

 

 運営、メーカーの思惑一つで強さなど簡単に変わる。どんなに粋がっていても所詮レールにひかれたゲームキャラに過ぎないという事実を皆が再認識してくれるとよいのだが。リアルの情勢は悪化している。今のままでは全員死亡する。

 

 

「皆を出迎えます。シャルティアもついてくるように」

「はい。シェラ様」

 

 指令室の片隅で警備のように無言で立っていたNPCはシャルティア・ブラッドフォールン。ぺロロンチーノ謹製でギャルゲー趣味が満載のNPCである。美少女の吸血鬼だが、そもそも醜女NPCを作るプレイヤーは少ない。

 理由は不明だがユグドラシルではプレイヤー作成NPCに大幅な制限が掛かっている。現在のバージョンではギルド拠点以外に同行させることはできないが、後発のDLCは別で連れ出して一部のクエストに参加させることができる。

 会話ルーチンも進化してDLC-Haloが用意したフィールドに限り、従来より受け答えのバリエーションが増える。

 もっともユグドラシルを開発したデルタ社のテクノロジーからすれば不自然な制限である。他のゲームはNPCでパーティを組めるのだが。

 

 NPCの扱いはプレイヤーによってマチマチで、黒歴史として封印する某ギルドマスターもいればぺロロンチーノのように見せつけるかのように基地内を連れまわすプレイヤーもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 基地に設置されているレーダーに反応あり。識別信号はβ基地所属ペリカン降下艇。たっちみー、ウルベルト、ぺロロンチーノが戻ってきた。

 

「おかえり、ボロボロだったな。今空いているのは2番だ。2番ターミナルへの着陸を許可する」

 

 基地管制官がねぎらう。戦いよりこうゆうのが好きだというプレイヤーも多い。ねぎらう言葉も板についている。

 

『誘導信号をキャッチ。オートモードで着陸する。これより最終アプローチを開始する』

「オートモード?~、アプローチはフライトものの醍醐味だろう? マニュアルでやれよ」

『こっちは疲れてるんだ。ラストで地面とキスは勘弁してくれ』

 

 ペリカンがプログラムに従いランディングギアを降ろし、2番ターミナルに着陸する。

 

「タッチダウン確認。ようこそわが家へ」

 

 

 

 

 

 着陸後、甲高いエンジン音がおとなしくなると後部ハッチが開き、シェラとセリーナ、シャルティアが出迎える。帰還した3人はグラフィックは変わらないが、全身で疲れたというオーラを出している。

 

「シェラ~、セリーナ~~。こんなに攻撃が激しいなんて聞いてないぞー」

 

 さっそくペロロンチーノが食ってかかる。いつもならロボッ娘萌え~と言うが今回はそんな余裕はないようだ。

 

「おかしいとは思っていたんだ。大体・・・ってシャルティアじゃないか! 」

「お帰りなさいませ。ぺロロンチーノ様」

 

 シャルティアが受け答えする。従来より格段に会話がなめらかである。ルパンダイブの如くシャルティアに抱きつくぺロロンチーノ。

 

「せっかく設定したのになんで廓言葉を使わないんだ? 大事な事なのに」

「申し訳ありません。現在のルーチンでは反映されておりません」

 

 言葉の残念さとは裏腹に、ほおずりするぺロロンチーノを意に介さず釈明するシャルティア。まだ不完全のようで汎用ゼリフが所々使われている。

 

「廓言葉はメーカーも想定していないだろ。無茶言うな」

「方言は要望が多く次のアップデートで反映される予定。廓言葉は不明です」

 

 シェラが運営から聞いた情報を教える。相変わらずつっけんどんである。

 

 

 

 

 

「話を戻すが、なんでフル装備が必要だと言わなかったんだ? 」

 

 ウルベルトが先のぺロロンチーノの指摘に同意する。言いたい事はわかるがどちらも運営が用意したものという事を忘れている。装備できたとしても難易度が上がるか強制解除されるかのどちらかである。

 

「忠告はしました。運営が超人プレイをいつまでも許すとでも? クエスト参加条件にはワールドアイテムの持ち込みは不可と書いてあります」

「その通りです。ああそういえばDLCと同時に新たな課金アイテムがラインナップされております。これらはDLC-Haloで使用できます。今ならセール期間中でお安くなっていますよ」

 

 満面の笑みを浮かべ課金アイテムのカタログを広げるセリーナ。守銭奴の顔である。

 

「そんなぁ・・・ヒデェ・・・こんのぉクソ運営が~~~」

 

 

 

 ぺロロンチーノの絶叫の後、周りがドッと笑いに包まれる。ここにいるプレイヤーは各々がユグドラシルを楽しんでいる。

 気が付くと3人の周りには人だかりができている。奪還に失敗したとはいえ、クエスト中の大立ち回りは他のプレイヤーの興味を引くのは十分で、普段そっけないウルベルトも満更でもなさそうだ。

 ぺロロンチーノの趣味のエロゲーは、同様の趣味を持つプレイヤーも多く話に花を咲かせている。人気声優である姉の話にもなったようで、その都度言葉を詰まらせていた。周りも苦手意識があることを知っていて茶化しているようだ。

 様々な感情が入り乱れるユグドラシル。大勢の頬が緩むその光景は、一般プレイヤーから人気なのも頷けるのだが・・・

 

 

 

 

 

 歓声の中、外部からの連絡が入る。今日は特に用件はなかったはずだが

 

「・・・はい・・・分かりました。そちらに向かいます」

 通信を切り皆に向きあう。今日はこれまでのようだ。

 

「すみませんが緊急の用事が入りました。この辺りでログアウトさせてもらいます」

「えぇぇー、このタイミングで!? 」

「ちょっと! リアルを優先するのは当然でしょ」

 

 あたりは騒然となるが口々にプレイヤー達は賛同する。

 

 

「仕事があるのはいいことだ。俺の友人が機械に仕事を奪われたと嘆いていたぞ。明日からどうしようって」

 

 機械という言葉にわずかに反応するシェラとセリーナ。周りに気が付いたものはいないが。

 

 

「それってどこの話? 聞いたことないけど・・・」

「リーチだ。友人は惑星リーチにいる」

「えっ、あの美しい星で? 信じられない」

「私の家族もリーチに引っ越そうかと思っているのよ。観光したとき綺麗だったから」

「公務員だったからかな? AI達がとにかく優秀だと。普通の職業なら平気だろ」

 

 

 

 

 --- ログアウト処理開始、暫くお待ちください ---

 

 

 

 

「しっかしシェラさんは時々妙に機械っぽいよな」

「当然だろ。ロボッ娘になりきっているんだから」

「でも咄嗟の行動は機械の反応だよな。普通は逆じゃないのか? 」

「そんなわけないだろ。なあシェラさん」

 

「えっ?・・・ええ・・・・・・その・・・通りです・・・」

 急に歯切れが悪くなるシェラ。

 

「そろそろ時間です。ここにいないメンバーにもよろしく伝えておいてください」

「分かった。また会おう」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに向き合い挨拶をすませる。最後に

 

「セリーナ。皆を頼みます」

「了解しました」

 

 セリーナが目くばせする。その様子はただのNPCではない。

 

 

 

 

 --- 処理完了。ログアウト開始します ---

 

 

 

 

 プツッと画面が消えるような音が鳴り、視界は暗黒に包まれた。

 


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