オーバーウォーズ   作:フュラーリ

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7. レッドゾーン

「こちらUNSCフリゲート艦インディペンデンス。前方の所属不明船に次ぐ。速やかに航行を停止し臨検の受け入れ準備をせよ」

 

「繰り返す、貴船は速やかにエンジン停止せよ。さもなくば撃沈する」

 

 インディペンデンスは本来ならこの宙域にいるべき艦ではない。

 地球のドックで改装中の戦艦スピリットオブファイアの護衛として地球にいるはずであった。その艦がこんなところにいるには理由がある。

 

 この宙域の防衛ステーションに停泊していたフリゲート艦チャールストンが反乱軍の破壊工作でエンジンを壊されたため、急遽回航してきたのだ。

 

 おかげで久々に地球に戻れると希望を抱いていた乗組員の上陸を取り消さなければならなかった。艦内のバーでは不満の捌け口として酒が飛ぶように売れているらしい。

 事前連絡も不十分で、ここに来る途中にすれ違ったUNSC艦から「何でここにいるんだ? 」と言われたい放題だった。

 更に悪いことは重なる。さっさと終わらせようとエンジンをぶっ飛ばして全速力で向かっている最中に所属の分からない船を見つけたのが運の尽きであった。

 

 

 

 

 

 最後通告の後、ようやく観念したのか所属不明船の推進ノズルから光が消える。さっさと識別コードを送信すればこんなことにはならずに済んだのに往生際が悪い・・・

 

「エンジン停止を確認。協力に感謝する。スラスターを使いその場に留まるように」

 

 宇宙では空気抵抗がないので、エンジンを止めたくらいでは減速しない。あくまでこちらのメッセージが伝わっているのかどうかの確認にすぎない。

 

「海兵隊に告ぐ。A隊は乗船の準備をせよ。B隊は待機。お客さんを待たせるな」

 

 インディペンデンスの艦載AIであるニコラスが規則に従い艦内放送で指示を飛ばす。ワートホグ(ジープ)が慌ただしく艦内を動き回り、艦載機であるD77-TCペリカン降下艇に海兵隊員が乗り込んでいく。

 ニコラスは艦内監視カメラの映像もモニターしており「野郎ども、パーティーの時間だ」とか「悪党をぶっ潰せ」とか勇ましく咆哮をあげている海兵隊員が映っている。これからやることは臨検であって敵地に殴り込むんじゃないんだぞと呆れながら見ているが。

 

「A隊へ、発砲は許可するが無闇に撃つな」

 

 念のためダメ押ししておく。海兵隊員は血の気が多く銃を撃ちたがる傾向がある。

 

 

 

 

「しっかし汚い船だな」

 

 ブリッジで観察していたケリー艦長は輸送船(と思われる)を一言のもとに切り捨てる。

 モニターに映る船を拡大するまでもない。宇宙チリがあちこちにこびり付いており、塗装が禿げて船体を構成する合成金属が露出している。最低限の洗浄すらしておらず、どう見ても法令点検に引っかかる醜さだ。

 

「エンジン停止とスラスター制御が雑すぎだ。船の姿勢が乱れている」

 

 UNSCでこんな操舵をやらかしたら降格ものだぞ。声に出さないが艦長の輸送船を見る目は侮蔑に満ちている。

 

「左右のエンジン出力が合っていなかった。制御装置がいかれているな」

 

 ニコラスが訂正する。人間とのコミュニケーション用の立体映像はくたびれたトレンチコートを着て葉巻の似合いそうな風体である。

 

「奴らは俺たちを馬鹿にしているのか。かなり流されている。あれは漂流というんだ」

「艦長がしっかり整備するように、とでも奴らに言ってもいいんだぞ? 」

 

 いくらなんでもこの規模の宇宙船の操舵手が、こんな雑な停止をするはずがない。

 

「まさか、俺たちは軍人だぜ。そんなことは役人にでもやらせておけばいい」

「いいからすこし落ち着け。船体をトレース中だ。もうしばらく待て」

 

 何があるか分からないうちは海兵隊を送り込めない。暴走しないでくれとニコラスは祈る。

 

 

 

 

「船の所属が判明。デルタ社輸送船ボリュー号だ」

 

 ニコラスがワイヤーフレームで表現したボリュー号を空中に表示させる。デルタ社のマークが強調されているのは彼なりのブラックジョークだろう。真っ当な奴らではないと。

 

「おいおい、あの会社かよ」

 

 天を仰ぐケリー艦長。

 

「火星に物資を運んでいる最中のようだ。識別コードを発信しない理由は不明だがな」

「面倒なことになったな。反乱軍と繋がっている札付きの悪じゃないか」

「おたくの娘もユグドラシルに熱中していると聞いているが? 札付きとは大げさな」

「すぐに取り上げたさ。VRゲームは危険だ。軽い昏睡状態になるからすぐ攫われてしまうぞ」

「・・・デルタ社の事を言っているのか? ゲーム中に行方不明になった者がいることを」

 

 この情報は一部の者にしか知らないが、デルタ社をただのゲーム会社と思っているものは余程の世間知らずである。

 艦長、艦載AIクラスともなるとゲームを隠れ蓑にしているのは周知の事実であった。

 反乱軍に武器、人員を供給していることも知られていて、警備とは名ばかりで実体は軍隊といえる警備会社をいくつも持っている。繋がりがなさそうにふるまっているが、一般人はごまかせてもONI(海軍情報局)は誤魔化せない。

 確たる証拠がないから動いていないが警戒はされている。

 

「アカウントで管理しているだろ。住所も知っているはず。管理がザルすぎる」

「嘘っぱちの紛い物だぞ、AIの間じゃ有名だ」

 

 ニコラスが言うにはプレイヤーにデルタ社が用意したAIが混ざっていて数を水増ししているらしい。プレイヤー(自称)が多く、フレンド情報をあてにできないという。

 

「アカウントを調べると大体がデルタ社の施設から発信されているからな。人間プレイヤーも殆ど社員じゃないのか」

 

 何でこんなことをするのか人間は理解できないとばかりに呆れた口調で言う。その反応は実に人間臭いが艦載AIの名誉のため黙っておこう。

 着任当初は喧嘩ばかりしたが自分も大分丸くなったなと自画自賛するケリー。

 

「評判は作られたものか・・・まあよくある話だ。それはそうとなんでそんなに詳しいんだ? 」

「艦載AIの1人がユグドラシルを調査している」

「おい、任務の中身を喋っていいのか? 」

「大した情報はないし任務と呼べるものじゃない。喋るほどのものじゃないから今まで喋らなかっただけだ」

 

 人間とAIが雑談しているうちに、流されているボリュー号がインディペンデンスに船首を向ける。そのことに2人は気が付いていない。

 

「主導しているのはONIか? 」

「違う、政府だ。我々のボスが興味を持っている」

「マジかよ! 」

「あのな。いい加減、艦長らしくない口調を変えろ!! 」

 

 

 

 ニコラスの怒鳴り声もなんのその、ブリッジに電子音が鳴り響き船体のトレースが終了したことを告げる。

 

「くそっ、怒鳴り足りないが・・・んっ? 船内に微弱だが生体反応多数。コールドスリープ反応に近い」

 

「妙だな。手元の資料によると主に資材、工作機械とサーバー部品を積んでいるはず。人員は後続の旅客船マリー号が担当するはずだ。それに生体反応微弱? 怪我人でも搬送しているのか? 」

 

 さっきまで雑談したとは思えないくらい冷静に思考するケリー艦長。なんだかんだで艦長になるだけの事はある。

 

「ボリュー号は病院船じゃないぞ。数が多すぎる。生命維持装置の数も異常だし航海前に提出された資料と違いすぎる。この宙域には3日後に通過するはずだ」

 

 

 艦長は先のユグドラシルプレイヤーが行方不明になっている話を思い出す。

 

「そうゆうことか・・・通信手、ONIに連絡を。連中のシッポを掴んだと」

 

 ブリッジで漠然と2人の会話を聞いていた通信手が大慌てで目の前の端末を操作する。だが何時になっても通信が繋がる様子がない。怪訝に思った周りからの視線を浴び、額から冷や汗が出しながら夢中で端末を操作する。

 

「ダメです、通信が繋がりません」

「何だと!? 故障か」

「違います。機器に異常はありません。外部からジャミングされています!! 」

「何? 発信源はどこだ!? どこの馬鹿がやった」

 

 通信手は端末を何度も確認する。映し出されている情報が信じられないとばかりに手が震えている。それでも事実を伝えるため声を震わせながら告げる。

 

「・・・発信源はボリュー号です・・・すぐ目の前の・・・」

 

 

 

 

 

 通信手とは別にあらゆる情報を確認していたニコラスが普段の態度から想像もつかないくらい緊迫感のこもった声をあげ、ブリッジの空気が一瞬で凍る。

 

「船体に高エネルギー反応・・・MACガンだ!! 照準がこちらを向いている! 」

 

 エネルギー反応でようやくわかったがボリュー号の船首にはMACガンが取り付けられていた。さっきまで漂流していた船とは思えない正確さで標的を捉える。

 ボリュー号の船首はとっくにインディペンデンスに向けられている。微調整だけで発射できる体勢だったのだ。

 

 UNSC戦闘艦の標準装備であり主砲でもあるMACガン。宇宙空間での戦闘には不可欠だが断じて民間船が搭載するものではない。

 

「偽装か!くそっ、回避行動急げ!! 」

 

 命令が行き届いた時には全てが手遅れだった。膨大な電力によって加速されたタングステン合金の砲弾がインディペンデンスの装甲を打ち抜き艦内にまで到達した。

 乗組員を守っていた大気と重力は失われ、急速に剛性を失った金属はもはや艦を形作ることができなくなった。

 

 

 数刻しないうちに宇宙に放たれた光は音がなく幻想的で・・・そして残酷であった。

 

 

 

 

 UNSCフリゲート艦インディペンデンス MIA(作戦行動中行方不明)

 

 

 

 

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