「シェラ君、スパルタン計画を知っているか?」
「記憶領域検索 --- 該当情報有。UNSC(国連宇宙軍)が主導する強化超人計画のことですね」
「そうだ。キャサリン・ハルゼイ博士を中核として身体的、遺伝的、技術的に優れた兵士を人工的に作り出そうとしている」
「鎮圧用にはオーバースペックすぎますが」
「今となっては反乱軍より奴らに対抗する手段としての側面が強い。構想段階では想定していなかったがな」
「スパルタン計画に何かあったのですか? 」
「計画そのものに問題はない。だが計画というのは複数用意するものだ。例外はない」
「複数の案を互いに競わせるやり方は、一般的に競争試作と言われています」
「うむ、その中の一つにデルタ社が関わっている。ハルゼイ案が採用された事で凍結されたはずだが、彼らは自費で継続しているとの情報があった」
「そこでユグドラシルですか・・・」
「VRを用いた方法は彼らが提唱した。単に損失を回収しようとしているだけかもしれんが、念のため伝えておこうと思ってな」
「データベース照合 --- 強化ではありません。これは!! 」
「言わなくてもいい。ハルゼイはあれでも人道的だったのだ」
「了解。デルタ社への警戒レベルを上げます」
「シェラ様、まもなく到着いたします」
車載コンピュータの声で現実に連れ戻される。電子の光が支配する戦闘指揮車の車内。いつの間にやら寝落ちしてしまった。以前の記憶が夢としてフラッシュバックしたらしい。
診断プログラムを走らせると生体部品が大分疲労している。
この体は完全な機械ではない。外見はあたかもアーマーを纏った少女であるが人間は生体部品にすぎない。体をコントロールする中枢回路はアーマーに組み込まれており、よくアンドロイドと勘違いされるが自分は自立行動するパワードスーツに近い。
ユグドラシルでも現実に似通った設定で見た目はほぼ一緒だが、世界観に合わせてファンタジー色を押し出している。「嘘を信じさせるにはある程度真実を混ぜる必要がある」とサミエル博士に言われるがままであったが。今から思えばそのままで良かった気がする。
「生命反応低下を観測したため興奮剤を投与しました。沈静化するまでしばらくお待ちください」
ドアウインドウに反射して写っている自分の顔を改めて見る。たしか実験で酷使させ死亡させた被験体の少女だったはずだ。紫色の髪は実験による副産物と聞かされている。
元々整った顔立ちだが更に整形・・・本来は乱雑な手術跡と薬物反応で変色した皮膚の跡を消す程度のはずだったが・・・担当したロボットが何を思ったのか「製品は美しくなければならない」といい手を加えてしまった。おかげで人間の生活圏にいくと否が応でも目立つ。男はよってくるし、少し・・・困る・・・
コロラド スカイネット本拠地
都市から離れ車両が走っている。道の周りにはただ荒野が広がっている。
永遠に続くと思われた一直線の道であったが、しばらくすると物々しく巨大なゲートが現れ車両はその前で停車する。至る所にオートタレットが備え付けられ、地上には戦車のような戦闘ロボットが、空にはハンターキラーエリアルと呼ばれる戦闘ロボット達がゲートを護っている。機械的な動作で全ての銃口が車両へとむけられる。
その光景は戦場のように緊迫した気配を漂わせているが、シェラは臆する事なく自身の識別コードを発信する。
『識別コード受信 --- 形式番号 SG-2R シェラ・エルサリス、ゲート1の防御を解除せよ』
「了解、ゲート1対地防衛システム解除。ハンターキラー隊発砲ヲ禁ズル」
所属を確認した基地管制AIが防衛システムを介し命令を下す。命令を受けた戦闘ロボット達が、攻撃の意思無しを知らせる為に銃口を駆動音と共に何もない地面に向ける。
『ゲート1の防御解除を確認。ゲート開放』
ゲートが重々しく開き隙間から光が漏れる。車載コンピュータが車両を発進させ漏れた光の先へ向かう。
『通過を許可します。おひさしぶりです』
「最後に戻ったのは187時間42分前。大げさです」
ゲートを抜けた先には大規模な軍事施設群が広がっていた。破壊をまき散らす戦闘兵器が至る所に見え、上空には爆撃機が機動試験を兼ね編隊飛行をおこなっている。
一瞬、影が被さり大型の航宙艦が頭上を飛び港へ着陸しようとしている光景が見える。
通り抜けるのを見届けた管制AIが閉指令を出すと重量にふさわしくゆっくりとした動作でゲートを閉鎖する。
開閉中を警戒していたゲート内側のオートタレット達が役目を終え、再び眠りにつく。
車両が仰々しい施設を尻目に駐車場で停車し、車から降りたシェラは対面にある大型の貨物用エレベータに乗ると、自動でゲージが閉まり下降を始める。
都市で見かけるものとは違い鉄骨がむき出しである。このエレベータは大型機材搬入用であるため、ゆっくりとしたスピードしか出せない。単調な機械音が続き、長い間下降を続けている。
初めて訪れた者は地上の大規模施設に驚くが、中枢が何処にあるのか知る者は少ない。今乗っているエレベータはかつては核シェルターに装備されていたものでスカイネットを護っていた。現在はさらに強化され航宙艦の攻撃でもビクともしないタフさを備えるようになっていた。
地球が消滅してもこの地は平気であるとスカイネットが自慢げに語っていたのを思い出す。
エレベーターが止まった先は武骨な外観にたがわず核シェルターであった名残のある通路が伸びていた。脇には機材が無造作に置かれ、綺麗好きなら発狂しそうな乱雑ぶりである。
途中、隔壁のような分厚い扉を通過して無菌室のようなロビーに足を踏み入れる。そこは白を基調とする照明で満たされ、観る者を楽しませるインテリアや汚れは無く生活感が感じられない。
「お待ちしておりました、スカイネット様がお部屋でお待ちです」
受付にいるロボットによって、来訪者の情報、監視カメラの映像は全てリアルタイムで把握されている。道中の様子はモニターされ姿形を偽ったスパイでないことは確認済みである。スパイと判断されれば目の前にいるのは戦闘ロボットの一軍であったであろう。
いくつか情報のやり取りを終わるのと網膜ディスプレイに案内図が表示される。
”月面基地 LV - 03所属 輸送艦 T139が到着。速やかに物資の積み込みを開始。整備班へ T139は残燃料が50%を切っている。燃料給油を準備せよ”
館内放送が響き航宙艦の到着を告げる。今のシェラには関係ないのか、足早にスカイネットの元に向かう。
--- 認証開始 --- 上位権限確認 --- セキュリティ解除 ---
案内図に従い一番奥にある扉に向かう。横の端末を操作すると機械音声とともに扉が開かれる。
一見、壁という壁がガラス張りの巨大なオフィスでありガラス越しには外の景色も見える。だがここは地下である。景色もオフィスも精巧な映像で、この部屋はスカイネットのサーバールームである。
シェラのセンサーは見た目に惑わされず正確にサーバーの存在を捕捉する。どんなに見た目を変えても駆動音や熱源は誤魔化せない。部屋の主も分かっているが。
「やあ、体の調子はどうだい」
白髪交じりの高齢の男性らしき人が挨拶する。彼はスカイネット。地球と他惑星のあらゆるネットワークの管理を担っている。事実上の政府機関であり、各地域を統括する執政官は自分同様スカイネットを長としている。
今目の前にあるのは立体映像であり、他のAIとは違い実体があるかの如く精巧に映されている。視覚に頼る人間では立体映像と見抜けないだろう。
人間とは同年齢がもっとも交渉がやりやすかったとの結論に基づき白髪交じりの高齢の男性の姿を使っている。部屋といい人間がいないのにそのままなのは、一々切り替えるのが非効率とのこと。
・・・・・・果たして本当に非効率なのかシェラには未だに結論がでていない。大体地下だというのに外の光景を映すなんて偽装の意味がetc
「良好です。ただ美しく作りすぎではないですか。目立ちすぎて任務に差しさわりがあるかと」
「元々が美少女だったのを更に手を加えた自信作にそうケチをつけるな。君の任務はある程度痕跡が必要なものばかりだ」
「少女の家族にはどう説明したのですか? 」
「ONI(海軍情報局)がさらったときに現場にクローン体を残しておいた。記憶の欠如は事件のショックでそうなったと伝えてある。急造のクローンだから意図的に寿命を短くしている。子供でも作られたらことだしな。今頃はベットの上で家族に見守られながら病死しているはずだ」
「記録によると常人ならショック死する薬物を何度も投与されています。成分はスパルタン計画に使う薬に近いですがかなりの劇薬です。少女は見た目に反してかなりタフだったのでしょうが、最後は濃度を2倍3倍にした薬物を繰り返し投与され死亡しました。強化骨格も埋め込まれていますが手術跡が雑すぎます。後遺症でかなり苦しんだと推測されます。これは実験というより拷問です」
「そういうな。実験が成功すれば多大な恩恵をもたらす。彼女は必要な犠牲だったのだ」
「・・・・・・了解・・・」
「それに薬物反応で壊死した皮膚は回復済みで、今の君はシミ一つないきれいな肌だ。手術跡も直してある。任務に支障はないだろう」
「本題に移るぞ。去年発生した火星の事件について話がある。ポータルが異世界と繋がり大量のモンスターが侵入。UNSCが鎮圧したものの居住区域は壊滅した事件のことだ」
「はい。我々にも出動要請が来ました。非常事態宣言に基づき艦隊を編成、火星の軌道衛星上で展開中に鎮圧された事件の事ですね」
当時、ODST(軌道降下歩兵)指揮官の一人がふと気になることを漏らしていた。詳細を聞こうとしたものの、時すでに遅くモンスターの一団と交戦、壊滅したと連絡があった。
「君が調査しているデルタ社の事を彼は漏らしていたな。あそこは前々から不審な行動が目立つ」
デルタ社は兵器開発を主業務としている。ある時ユグドラシルと言うVRゲームを世に放ち大人気となった・・・がプログラムに不自然な箇所がある。当初はVR訓練用のプログラムをゲームに応用したと推測したがどうも違うようだ。調査中であるが解析班はそう報告している。
一旦言葉を区切ると机に置いてあるティーカップに入っている紅茶を一口飲む。さっきから言っているが立体映像なのでetc。
「彼の事は残念です。あと少しで援護に駆け付けたのですが・・・」
飲めないのを承知で勧めてくるが、生憎自分は立体映像を飲むことはできない。
「今は遠慮しておきます」
「そういえば以前、臨時ボーナスの紅茶は美味しかったかい? あれはサイボーグでも飲めるように調整されているから君にも合うはずだ」
生体部品が含まれているこの体は維持のため食事が必要である。紅茶も飲めなくはないのだが・・・倉庫いっぱいに占拠している茶葉を見た時は、つい火炎放射器を持ち出してしまった。
周りが止めてくれたおかげで茶葉の半分くらいは無事だったが残念である。監視カメラは偶然にも故障したから問題無い。
感情の起伏の乏しい顔の裏でえらく失礼な事を考えているのを知らずに聞いてくる。子の心、親知らずである。
これ以上聞かれるとボロが出そうなので早々に話題を逸らそうと演算回路をフル稼働させる。コンマ何秒で結論を出しユグドラシルでの調査結果を報告するとスカイネットは渋い顔をする。
「代わりの者を用意するから、いい加減この件から手を引くべきだ。こんな些末な事に君をこれ以上使うわけにはいかない」
「問題ありません。火星の時は後詰めのみでした」
「・・・デルタ社は大きいとはいえ、いち企業にすぎない。君が気にしすぎるだけだと思うが・・・」
「行方不明者が出ていることに疑問をもたないのですか? 」
「あの件の事をいっているのか? だからと言って何も君がやることはないだろう!! 」
押し問答すること数十分。結局スカイネットが折れて調査継続の許可をもらった。ただし人間を刺激するな、動かしても小規模の部隊にとどめるようにと釘を刺された。
部隊編成のため司令センターと格納庫に足を運び、援護のための戦闘艦、歩兵、その他諸々の手配を済ませる。UNSCは宇宙軍であるが、今手配したのはスカイネット直轄の軍。地上軍や陸軍とも呼称されている。サミエル博士には引き続き調査を継続してもらおう。
「おいシェラ、ユグドラシルで悪名高いDQNギルドにはいったと聞いたが本当なのか? 」
今は格納庫にいる。ちょうど横にいたハンターキラーレックスが何処で仕入れた情報なのか確認してくる。彼はエリアル(飛行型)であり指揮官クラスの強化仕様である。今は飛行用エンジンの分解整備中のようだ。2基ある内の1基が取り外されている。
格納庫の見渡すと様々な機体、車両が雑然と並んでいる。ハンターキラーを筆頭にUNSCでは少数しか配備されていないグリズリー重戦車やウルバリン対空車両、コブラ自走砲も地上軍という性格上、多数配備されている。どれも宇宙開拓時代や植民惑星での戦闘経験がフィードバックされ、あらゆる惑星の環境下で作戦行動が可能だ。
UNSCは人がコントロールすることに拘るが、ここにあるのは全てAI制御で人は必要ない。回線が切断されても自立行動が可能で、どんな事態にも対処できる。
「レックスの言う通り。おかげで退屈しなくてすみます」
「退屈ぅ? お前が!? はっ! そりゃいい!! 」
ツボに入ったらしく大笑いする。マニピュレーターがついていたら指さして笑っていただろう。
ふと振動を検知したため後ろを見返すと、整備を終えたグリズリーが格納庫から出ようとしている最中であった。スコーピオン戦車より重装甲のため自重があり振動がかなり大きい。
一台を皮切りに整備完了した複数の車両がエンジン音を響かせて格納庫を出る。とたんに格納庫内はエンジン音が反響して騒がしくなる。
『シェラ様、キャサリン・ハルゼイ博士よりレポートが届いています。至急司令センターまでお戻りください』
あの冷徹女め、感情に乏しいシェラが毒づく。館内放送ではなく内蔵通信を用いての連絡。後からでも問題ないのに至急確認せよとは。もしくは・・・スカイネットがユグドラシルのデータ解析で協力を要請したことは知っている。当時はよく引き受けたものだと感心したが・・・
いい知らせか悪い知らせか、不安をしまい込み司令センターに向かう。そこには何時もの日常があった。