奇跡が奇跡たる理由。それは、誰にでも起こることではないから。
これは2人の出会いの奇跡が起こらなかった世界の物語。
※注意
穴だらけ設定 原作クラッシャー
主役は大体歪んでいる
「…旅に出よう。」
私、松浦果南は内浦の町から少し離れたとある駅にやってきた。私は今日、生まれ育った町を旅立つ。
この町を離れるのは……どこか切ない。残してきた幼馴染がいるからか…それとも、想いを伝えられなかった親友がいたからか。
切符を改札機に滑り入れる。向かうのは9番ホーム。吹き付ける木枯らしに、私の身体が震える。赤と緑のマフラーをぎゅっと握り、締め直した。
旅のきっかけは、幼馴染の鞠莉とダイヤだった。
二年前にスクールアイドルを始め……挫折した私たち。分かってる。そうなってしまったは私のせいだから。私の余計なお節介のせいだから。
あの時の私たちはスクールアイドルとして順調に成長を続けていた。そりゃあ、μ'sやA-RISEには遠く及ばないとは思うけれど……それでも並のスクールアイドルくらいにはいいパフォーマンスができるようになっていたと思う。
だけど、東京でのイベントを目前にしたあの日、私は聞いてしまった。鞠莉が海外留学を勧められていることを。そしてその誘いがある度に、鞠莉はスクールアイドルを理由にして断っていることを。
確かに鞠莉は成績がすごくいい。もともとお父さんがアメリカの人であることも考えると、海外留学の誘いがあったとしてもなんの不思議もない。
だけどショックだった。海外留学は鞠莉にとって大きなチャンスのはず。けれどスクールアイドルがそれを邪魔してしまっている。私達が鞠莉をスクールアイドルに誘ってしまったばっかりに、彼女は未来の可能性を失ってしまうんだ。
だから私は東京のイベントで歌わなかった。スクールアイドルを挫折した
今でも時々迷うんだ。
あの時、鞠莉を突き放してしまってよかったのか、って。ダイヤはそれでいい、って私に賛成してくれたけど……。そもそもダイヤがスクールアイドルを始めようって言い出したんだし、この決断はあの子を傷つけてしまったと思う。
鞠莉だって、スクールアイドルを続けたがってた。お別れの時もあんな顔で……忘れたくても忘れられない。
けれど、あの子の将来を私達のワガママで潰すわけにはいかない。あの子にはもっとあの子にあった道がある。そう思ったら、こうするしかなかった。
これが鞠莉の未来を守るためにできる、私の精一杯だった。
そしていつの間にか時は流れ、三年生の秋になってしまった。あの日鞠莉がアメリカに旅立ってから、彼女とは一度も連絡を取っていない。
スクールアイドルをやめてしまった私達の代わりに、今は幼馴染の千歌たちがスクールアイドルをやってるみたい。どういうわけか私たちと同じ、『Aqours』を名乗って。多分、ダイヤかその妹のルビィちゃんの入れ知恵なんだろうね。私たちもそんなに有名じゃなかったし、千歌も旧Aqoursのことを知ってるそぶりはみせなかったから。
千歌たちは廃校回避をしようと頑張ってるみたいだけど、正直、厳しいと思う。特に人気が出るわけでもないし、ラブライブでも予選落ちを繰り返してる。このままいけば、浦女の廃校は免れない。
そういえば…私たちがスクールアイドルを始めたのも、浦女を守りたかったからだったよね………。結局何もかも無駄だったのかな…。
この時期、三年生の皆は受験で忙しくしている。特にダイヤは網元の家系だから、って国立大学を目指して勉強詰めみたい。アメリカにいる鞠莉だって一緒だろう。
家業のダイビングショップを継ぐ予定の私は、受験に追われる心配もなく、日々のんびりと過ごしている。
「あはははっ………。暇なのは私だけ…か…。」
一人ぼっちの駅構内に響く、私の乾いた笑い声。
お嬢様の2人と普通の女子高生の私が釣り合うわけなかったんだ。2人と私では、見えてる世界が違うんだから。
ふと、視界の隙間に色が映った。
綺麗な紫色。
その色に近寄ってしゃがんでみる。
花のつぼみだった。今にも咲こうとしている花のつぼみ。花の種類とか詳しくない私には何の花なのかさっぱりわからないけれど。
「こんな季節に咲こうとしてるなんで、あなたも変な花だね。」
つぼみをつんつんと人差し指で押す。
もちろん、つぼみは何も答えない。
違う。変なのは咲けない私の方だ。
ダイヤも鞠莉もその才能の花を咲かせようと一生懸命頑張っている。千歌たちだって一緒だ。他のみんなだって、一生懸命輝こうと必死にもがいてる。
そんな中、私は1人、なーんにも考えずに毎日を過ごしていて………。
あの時から私の時間は止まったまま。私だけが、過去に縛り付けられてる。このままじゃいけない。
「変わらなきゃ、私も。」
だから、旅にいかなくちゃいけない。1人で行かなくちゃいけない。
ダイヤや鞠莉みたいに自分のなるべき姿を見つけるために、色んな世界を見るんだ。
その間、学校はサボっちゃうことになるけど…今更いいよね。三年生の始めの頃だって、家の手伝いでずっと休んでたし。どうせ廃校になっちゃうんだから留年だってないでしょ、多分。
そもそも、浦女に入学したのだって、大切な友達とずっと一緒にいたかった、っていうだけだから。
…あれ?じゃあ今、私はなんでひとりぼっちで浦の星に通ってるんだろう?
「まもなく9番線に列車が参ります…。」
ぼんやりとつぼみを見つめていた私の耳にアナウンスが響いてくる。ホーム内にやってきたのは鈍行列車。これでいいんだ。のんびりな私の自分探しにはちょうどいい。
列車の中は私1人だった。窓際の席に座り、外を眺める。しばらくすると列車が発車し、外の景色がゆっくりと動き始めた。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
「はぁっ………」
大きく溜息をつく。
旅に出る、とはいったものの特に行き先も考えていない。窓からは秋になり黄金色に色づいた町が見える。あの田園の一つ一つも、誰かの輝きの結晶なんだ。
世界は輝きに溢れてるのに……私だけが輝けない。
なんだか無性に切なくなった。
日が暮れて、だんだん暗くなってきた。相変わらず電車の中は空っぽのまま。
街には次第に灯りがともり…それらは月明かりと共に真っ暗な車内を少しだけ照らす。
何も考えずに飛び出してきてしまったが、これからどうしたものか。よくよく考えてみると、私1人では食事も寝る場所も用意できない。たった1人では生きられない。自分の力の無さを思い知った気がして、また胸がズキズキと痛む。私は……弱い。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
どこまでいけばいいんだろう………どこまでいっても何も変わらないのかな……。
今日何度目かの溜息をついた。
「はぁ…」
「どうしたの?そんな溜息ついちゃって?」
「えっ…」
誰もいないはずの電車に、突然女の人が現れる。頭の後ろでお団子を作った、とっても優しそうな女の人。
バチバチッ…ブゥン…
ようやく列車の電気がつき、客車の中が明るくなる。それまでは暗くてよく見えなかったその女の人の姿をはっきりと認識することができた。
ああ…そうか。この人は電車の車掌さんだ、きっと。黄色い縁取りのされた青い制服に、白い羽をつけた帽子を被っているんだもん。なんだか駅員さんの制服みたいでとってもかわいい。
車掌さんが私の隣に座った。
「見た所…高校生なのかなん?平日の夜中に一人旅なんて関心しないぞ〜?」
私の顔を覗き込み、戯けた様子で話す車掌さん。仕事を楽しんでる、って感じ。今の私には…キラキラと眩しすぎる。
「君はどこから来たの?」
「沼津の内浦です。」
「へぇーっ、私、友達と何回か行ったことあるよ。いい町だよね。」
「そう…かな…」
私にとってあの町は故郷でもあるけど…辛い思い出もあるから…一概に好きとは言い切れない。
「車掌さんは?」
「私?うーん…。なんて言えばいいかなぁ…?とりあえず、ここからずーっと遠くから。」
答えになっていないような気もしたけれど、この人がどこから来たかなんてそんなに重要じゃない。多分この人は、私が全く知らない場所から来たんだろう…そう思った。なんとなくだけど。
車掌さんとの会話が途切れてしまう。窓の外には相変わらず綺麗な夜空が広がっていた。内浦の方が綺麗かもしれないけど……電車から見るそれは普段よりも幻想的に見える。もしこんな気分じゃなかったら、もっと景色を楽しめたのだろう。
「今日はどうしたの?何か辛いことでもあった?」
車掌さんが優しく話しかけてきた。柔らかい笑顔が素敵だ。何故だろう。この人といるとなんだかとっても安心する。
「いえ…。ただ、このままじゃいけない、変わらなきゃな、って。だから旅に出た。」
つい口が滑ってしまう私。変だよね、出会ったばかりの人に自分の心の闇を打ち明けるなんて。けれど、何故だかこの人とは他人同士な気がしなくて…
「ははぁ、なるほど。………私と一緒だなぁ。」
車掌さんがぽつりと呟く。
「私もね…少し前まで、変わりたくて必死だった。必死にもがいて、頑張って、いまの自分になれた。」
「すごいですね…。私なんて、なりたい自分も分からない。」
俯き、閉じた膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。やっぱりそうだ。この人だって人生を輝いてる。輝けないのは…私だけ。
「……はいっ。これ。」
「えっ…?」
車掌が私にパンを差し出してくる。確かにお昼から何も食べてないからお腹は空いてるけど…。いくらなんでも初対面の人からご飯を貰ってしまうのは少し抵抗がある。
「お腹が膨れれば、ちょっとは幸せになれるよ。よく言うでしょ?腹が減っては戦はできぬ、って。」
「いやいやいや。私、戦なんていかないし……」
ぎゅるるるる
私は顔が赤くなるのを感じた。
「ふふっ、体は正直みたいだね。はい。」
「むぐっ…⁉︎」
車掌さんが無理やりパンを私の口に突っ込む。どこのコンビニでも売っていそうなジャムパンだった。口の中にイチゴの甘さが広がる。なんだか普通のより甘く感じられた。
「どう?おいしい?」
口の中がいっぱいで話すことのできない私はコクンと首を縦に振る。
「あなたのこと、もう少し教えて欲しいな。どうして変わろうって思ったの。」
車掌さんが尋ねてくる。私は一旦口の中を空っぽにして答えた。
「私が友達に…みんなに置いていかれてるから。皆、自分のやりたいことがあって、それに向かって頑張ってて、立ち止まっているのは私だけで…。」
また、心の闇をぶちまける。
そんな私にも車掌さんは相変わらず優しい。
「だから、みんなに追いつこうと思ったんだ?」
「はい。」
首を上に持ち上げて、天を仰ぐ車掌さん。「うーん」としばらく考え込む。しばらくして再び私の方を向き、話し始めた。
「慌てなくていいと思うけどな。ほら、高校生には高校生にしかできないことってあるし。」
「友達…ですか?…だったら私には関係ない。私はもうずっと1人だもの。」
高校生にしかできないこと、と言われて、何故か真っ先に友達のことが浮かんだ。それが私に一番かけているものだと、自分で分かっていたから。
「そんなことない。きっとあなたの友達は、あなたを待ってる。」
鞠莉が私を…?
そんなはずない。私が鞠莉を傷つけてしまったんだから。あの子が私を求めてくれるはずがない。
「あなたはどうなの?すれ違った友達を諦めきれた?」
私が…鞠莉を諦める。
そんなこと、できるわけない。でなきゃこんな旅だってしてないし…こんなに胸が苦しくはならない。
私は何も言わずに、ただただ顔を歪める。そんな私を見た車掌さんは、私の想いを察したように話し続けた。
「……だよね。できないよね。私だって、できないよ。大切な仲間を忘れるなんて、絶対できない。」
私も車掌さんもおなじ。
だったら、鞠莉も私を待っていてくれるのかな。まだ、鞠莉とやり直せるのかな。
「…ねぇ、歌は好き?」
「歌…ですか?」
車掌さんが唐突に聞いてきた。
どうだろう…。確かに歌うことは楽しいと思う。スクールアイドルをやるくらいだし。
うん、作詞とかもしていたし、私はきっと歌が好きなんだ。
「ふふっ、そうだと思った。」
私の心を見透かしたように、車掌さんが言う。私、まだ何も言っていないのに……。
そうしたら、車掌さんは少しだけ息を大きく吸った。その口から紡がれる旋律は私がよく知るものだった。
「♪〜」
「その歌…⁉︎」
私達3人が花火大会で歌うために準備していた……けれど歌えなかった、あの歌。仲間とともに苦難を乗り越えるという想いを込めて作った曲なのに、その直後、皮肉にもバラバラになった私達の歌。
私達3人しか知らないはずのその歌を、車掌さんは慣れた風に歌い上げた。
「嘘…なんでその歌を…。」
「私、この歌好きなんだ。沢山の想いが詰まってる。」
ドクン……ドクン……
心臓が高鳴る。
楽しさを共に過ごしたあの時と、悲しさに崩れた別れの時、2つの想いが私の中を駆け巡る。その歌を聞いて、私は2年の時を超えた。
私の視界がぐにゃりと歪んだ。
「歌っていいよね。切ないことがあってもさ、笑って歌っていられれば幸せになれる…そんな気がする。」
笑って歌えば…幸せ。
できるなら、そうしたかった。
ずっと笑顔で、3人で歌い続けたかった。
「友達と歌った歌なら、尚更。素敵な思い出に包まれて…とっても不思議な気分にならない?」
そう。
そしてあの時は二度と戻ってこない。私の思い出の深く底に沈められたあの時は。
思い返す度、私の胸は締め付けられる。
ぽとん。
私の手の甲で雫が一つ、はねた。
「ッ………会いたいよ…鞠莉ぃ…っ」
涙が止まらない。車掌さんの前だというのに、私は声を漏らしながら泣いてしまう。
鞠莉の将来のため。
そのために私だけじゃなく、ダイヤや鞠莉の今の幸せを奪って………私はいったい何をやっているんだろう。
鞠莉に会いたい。会ってちゃんと話したい。将来とか、そんなのより…今あの子と一緒にいたい。
「鞠莉、鞠莉ぃ…うわぁぁぁん!」
車掌さんは泣いてる私を優しく抱きしめてくれた。あたたかかった。私も車掌さんを抱き返して、いっぱい、いっぱい泣いた。二年間溜め込んだ涙は、一向に止まる気配を見せなかった。
やっとみつけた。私のやりたいこと。
私は鞠莉と踊りたい、歌いたい…ずっと一緒にいたい。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
「ん…………っ」
列車の走る音に目を覚ます。泣き疲れて眠ってしまったみたい。車掌さんが私に膝枕をしてくれていた。
いったいどのくらい眠っていたのだろう。空はまだ暗かったけれど…何処か都会にやってきたのか、私の町とは比べものにならないくらいに街が煌々と輝いていた。
起き上がり、車掌さんに咄嗟に謝る。
「あっ…あの、ごめんなさい…」
「気にしないで。…どう?すっきりした?」
私はコクリと頷く。
『間も無くな…… ……や。』
「あっ、もうそんな所まできちゃったのかぁ。じゃあここでお別れだね。」
車内アナウンスを聞いた車掌さんが立ち上がり、列車の前方のドアへと向かう。私は少し驚きながら言った。
「えっ?車掌さん、降りちゃうんですか?っていうか降りちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫!っていうか、私車掌じゃないし。」
「ええっ⁉︎」
「ふふっ、私、車掌さんだと思われてたのかぁ〜。まぁいいや。私の旅はここで一旦停車。ここが私のお祭り会場だから。」
途中下車…ってことは車掌さんはまだ旅を続けるんだろうか。
「うん。私の旅はまだまだ終わらない。もっと遠くを目指して、私達は旅を続ける。」
びっくりした。私、まだ何も言っていないのに、まるで私の心の疑問を見透かしたように話し始めるんだから。
車掌さんは空を指差す。その先に自分の旅の果てがあると言わんばかりに。
キーッ………
列車はそのスピードをだんだんと落とし、駅のホームに停車する。ドアがすぅーっと開き、その間をためらいのない笑顔で降りていく車掌さん。その笑顔には一筋の翳りもなくて…旅に不安のない車掌さんがとっても羨ましい。
私は窓を開けて車掌さんを目で追った。立ち止まる車掌さん。私の方を振り向き、
「ここもすぐに旅立つことになるから…運が良ければ旅の途中でまた逢えるかもね。」
「いや……多分もう逢えないね。あなたの旅の終着駅はここみたいだから。」
「私の…終着駅…?」
ピィーッ。
車掌さんがホイッスルを吹いた。
「がんばって。」
それは車掌さんの旅の始まりの笛。
それは私の旅の終わりの笛。
カタン……
車掌さんの後ろ姿が見えなくなると同時に、私の後ろから足音が聞こえた。誰かがまた乗り込んで来たんだろうか。気になって座席に座ったまま、後ろを振り返る。
そこには車掌さんとは別の、私と同じくらいの女の子が立っていた。
「嘘っ……⁉︎」
彼女を見て、私はとても驚いた。
黒いスーツに金色の髪。そして紫色のウサギの仮面。まるで仮面舞踏会の参加者のような出で立ち。
顔は仮面で隠れていたけれど、私は一目見てそれが誰かを確信した。たった二年離れ離れになったくらいで、大切な親友のことを忘れるはずがなかった。
「ふふっ、久しぶりね。」
「そんな……ありえないよ…⁉︎」
「ありえなくない。私とアナタはいつだって一緒だもの。」
心臓がありえないほど強く、早く拍動を繰り返す。今にも体から飛び出してしまいそうなくらいに。
「実は私、舞踏会に来たんだ。だけど、partnerがいなくてね〜…」
おもむろに私に近づく彼女。彼女は私の前に跪き、私の左手を掴む。そして流暢な英語で、こう言った。
「My princess,Shall we dance ?」
ありえない。どうして。両手で口を塞ぐ。流しきったはずの涙が再び溢れ出す。零れ落ちる涙を拭い、私はせいいっぱいの笑顔でこういった。
「っ…もちろんっ!」
彼女のふっくらと柔らかい唇が、私の手の甲に触れる。彼女は顔を上げ、私に優しく微笑みかけた。
「どうして…どうしてこんな所に?」
「どうして…って決まってるでしょう?ガンコオヤジなお姫様を迎えに来たんだよ。」
ガンコオヤジなお姫様って…。矛盾してる。だけど今私の目の前にいる彼女は本当にステキで、まるで王子様……ううん、どんな王子様よりも素敵だ。
「ふふっ、ドレス姿のカナンもとってもbeautifulだよ〜」
ドレス…?うわぁ…!
いつの間にか、私の着ている服がトレンチコートから緑色のドレスにかわっていた。こんな可愛い服着たことなくて、少し恥ずかしいけど…とっても嬉しい///
「さぁ、踊りましょう。私だけのCinderella」
私の手を引き、2人で電車の外へ飛び出す。そこは閑散とした駅のホーム…………だった筈なのに、舞踏会のステージに変わっていた。私たち2人のためだけに用意されたステージ。
彼女は私の手をとり、ワルツの構えをとる。すると何処からか曲が流れてきた。全く聞いたことない曲のはずなんだけど……不思議と踊ることができた。
星空がシャンデリアのように輝いて…綺麗な夜空にぽっかりと浮かぶ満月が私達のスポットライトになった。
ピアノの調に合わせてステップを踏み、クルクルと踊る。私が回るたびに大きなスカートがふわりと広がる。まるで夢のような時間。たった2人の舞踏会、奇跡のようなこの時を精一杯楽しむことにした。
「ねぇ、その仮面…外してもいい?」
「ええ、構わないわ。」
私は彼女の後頭部に手を伸ばし、結び目をするすると解く。紫色のウサギの仮面が顔から外れ、その下から見慣れた顔があらわれた。
月明かりが、出会いの時と同じ、優しい笑顔を照らしていた。
その希望に輝く黄色い瞳をみていると、私の胸はまたきゅぅっと締めつけられて、顔が熱くなってくる。
「まーたそうやって泣いちゃって。お姫様に涙は似合わないよ〜。Keep smiling!」
彼女は私のほっぺを指でつまんで、無理やり笑顔にしようとする。ちょっと強引なところも相変わらずだ。
「だって…だって!」
我慢なんてできるはずない。
あの日すれ違ってしまってから、ずっと想い続けていた友達が目の前にいるんだから。
私は親友、小原鞠莉に抱きついた。
「もう、絶対に離さないから…!」
「私もだよ。もうあなたと絶対離れたりしない。」
お互いに耳元で呟き合う。
ホッとしたからかな。私の体を再び睡魔が襲う。 鞠莉の腕の中で、私はそっと目を閉じた。
薄れゆく意識のなか、どこか遠くで笛と列車の警笛がなったような気がした。
「カナン!ホラ、起きて!カーナーンー!」
「んっ…」
目を開くと、見慣れた天井。
あれ…?ここは?
「もうっ…何寝ぼけてるの!もう朝だよ!ほらみてっ……シャイニーッ!」
うわっ、眩しいっ…!
鞠莉が部屋のカーテンを勢いよく開ける。朝日が私の目に飛び込んできて、私の意識が次第に覚醒し始めた。
今のは…夢?
「今日はカナンが主役のLiveの日でしょ!早く起きた起きた!」
そうだ。今日はAqoursが9人になって2回目のライブの日。昨日は鞠莉と一緒に眠ったんだった。
嫌にリアルな夢だったなぁ…。もし鞠莉が浦女に帰ってこなかったら、あんな未来もあったのかも。
そう思うと、私の目の前に笑顔を振りまく親友がいることが、奇跡みたいに感じる。
ん、私ってばなんだか千歌みたいだね。
「…カナン?大丈夫?具合でも悪いの?」
まだ少しぼーっとしてる私をみて、鞠莉がそう言った。目の前の奇跡の親友を、なんだか急に抱きしめたくなった。
「鞠莉…はぐっ!」
鞠莉のいい匂いが私の鼻をくすぐる。ふふっ……あの時、鞠莉と仲直りできて本当によかった。
「Oh!急にどうしたの⁉︎…今日のLive、緊張でもしてる?」
驚く鞠莉。私はさらに強く顔を押し付ける。鞠莉の匂いが強くなった。
「んもぅ…。カナンってば甘えん坊さんなんだから。しょうがないわね。」
鞠莉も私の腰に手を回し、私のことを抱き締め返す。鞠莉の温もりが私に伝わってきた。
あったかい。
「これからも……ずっと、ずぅーっと一緒だよ、鞠莉。」
私だけに聞こえるくらい小さな声で、ぽつりと呟いた。
戯れる2人の後ろ。見知らぬ紫色の花が、部屋の花瓶で綺麗に咲いていた。
Aqours2ndライブ名古屋公演2日目に参戦し、この物語を書くことを思い立ちました。そのため、主に後半、2ndライブ要素が色んなところに現れています。ライブを見ていらっしゃる方は、より楽しんでいただけたのではないでしょうか。
今回は「HAPPY PARTY TRAIN」をモチーフ楽曲にしてみました。他にもSKYやG線上、未熟などの要素を取り入れています。
登場人物はあえてハピトレの幼果南ではなく、車掌さんにしてみました。その正体は……ご想像にお任せいたします。彼女たちの旅はどこまで続くのでしょうか。とにかく僕は、最後まで見守り続けることを決めました。