瞳下嬉楽譚   作:炉心

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 全てはカミへの愛。

 あらゆるカタチをした……カミへの愛なんです!!






フィギュラティヴ

 

 

 

 久しぶりに訪れた行きつけの美容室。

 

 扉を開いて颯爽と店の外へと足を踏みだしたミカヤ。その本日の機嫌は、殊更に上機嫌と言えるものだった。

 

 天瞳流の剣の道に生きる剣士として移ろいゆく日々を過ごす彼女は、平均的な世間一般の同年代の少女達に比べると女性的な側面が強調される機会が多い方ではない。とは言え、おしゃれやファッションに完全に縁遠い身かと言えば、いかせんそうではない。

 

 ミカヤ自身は本質的にも自覚的にも女性であると認識しているし、美容や髪の手入れにも相応に気を遣っていたりもする。何より、門下生や友人知人達からも羨望の眼差しで見られることも多く、風情のある言い方をすれば、『濡れ羽色の髪』と美称されるような長く艶のある己の黒髪。ミカヤにとってこの黒髪は、剣の実力とは別の意味で自慢すべき己のチャームポイントだと思っていたりもする。

 

「流石だな。自分で手入れしたのでは、こうはいかないからな」

 

 胸元に流していた髪の一房に軽く手を当てれば、普段ミカヤ自身が手入れをする時とは段違いの毛触り。正しくプロの仕事を感じさせる仕上がりだった。全体に軽くカットを入れてもらったことで軽めになった髪の感覚に促されてか、踏み出す足取りも軽く弾む。

 

「折角だし、どこか適当にブラつくかな?」

 

 休日で人通りも多いクラナガンの街の大通りだが、鼻歌気分も揚々なミカヤは軽快に通り抜けていく。気儘なウィンドウショッピングにでも洒落込むのも良いだろう。

 

「……随分と賑やかだな。何かのイベントでもしてるのかな?」

 

 少しばかり歩いた頃にどこか遠くより耳に伝わってきたのは、軽快で賑やかな音楽。頭の記憶箱からうろ覚えの記憶を取り出せば、確かこの先には中規模のコンベンションセンターに併設した公共広場があったと思うので、音楽の発信源となっているのはおそらくそこだろう。

 

 周知の事実ではあるが、ミッドチルダは時空管理局地上本部の御膝元であり、次元世界の中心にして先端世界を標榜している。それ故、管理局行政部ではインフラと市民生活の向上、それらに関係した公共サービス面を非常に重要視する傾向にある。特に首都機能を有し、地上本部の重要施設も多数置かれているクラナガンを中心とした都市部ではその様相も顕著に表れている。図書館や公園などと言った基本的な施設から、各種運動施設や文化施設を始めとし、多目的モール等の様々な目的の公共施設が都市内の区画のあらゆる場所に造られ、公的・私的を問わず多種多様なイベントも精力的に行われている。施設利用に対する市民意識も高く、実際に管理局が毎年集計している施設利用頻度の調査結果では、他の世界の主要都市と比較してもその利用比率が非常に高い数値にあるとの結果も示されている。

 

 ともあれだ。何かしらのイベントが行われているにしろ、広場に近づくにつれて徐々に増していく人の流れの多さから推察しても、そのイベントの盛況さが伺い知れた。

 

「ついでだし、少し見ていくかな?」

 

 ミカヤにしては少々珍しい反応であった。

 

 彼女の内なる野次馬根性が大なり小なり刺激されたのか、ただ単に機嫌が良かったことの延長線だったのかはともかくとして、特に目的も定めずに動いていた足が吸い寄せられるように音源を目指して動き出す。

 

「これは……ダンスミュージック?」

 

 徐々にハッキリと聞こえてくるリズミカルでアップテンポな曲調から、どうやら広場で行われていたのはダンスコンテスト系の催しだったようだ。周囲を行き交う人達の会話から、本命のコンテスト自体はすでに終了しているようだが、有志による参加自由のダンスパーティー的なものを数ヶ所に臨時で仮設ステージを設けて行っているのだろう。その内の一ヶ所が何やら非常に盛り上がっているそうで、どうも中心となって踊っている人物の独特なスタイルや高いダンス技術が注目を浴びている原因らしい。

 

(ふ~ん、面白い人が世の中にはいるみ…た……い…だ…………)

 

 噂になっている人物の面白そうな人物像に関心を寄せながら歩いていたミカヤだったが、頭の中に流れていた独り言はある時点から途切れ途切れになり、最終的に他の臨時ステージよりもあきらかに多い人だかりに囲まれたステージの様子を窺うことのできる場所まで来たところで完全に途絶えた。

 

 昼下がりの穏やかな陽気と明るい日の光が降り注ぐ野外のステージ。あくまで臨時の仮設である為、ステージの高さは階段で数段分くらいしかないが、広さはテニスコート半面ほどだろうか。ステージの端には大型のスピーカーと簡易の照明器具が備え付けられ、ステージ中央へと断続的に色の変わるスポットの光が当てられている。

 

 激しいリズムを刻む音楽と目まぐるしく色彩を変える光線の当たる場所で、周囲の観衆から注がれる視線と興奮と掛け声と興味の全てを一身に受ける存在。

 

 スラッとスタイリッシュなダークグレーのスーツに袖を通し、襟に銀糸の刺繍の入ったパリッと糊の効いたヴァイオレットの派手な色合いの開襟シャツ、素足に直履きしたアイボリーホワイトに金の留め具が付いた革靴と、なかなかにキレてる出で立ちの人物。

 

 ミカヤが急に痛みを訴え始めるこめかみに思わず指を押し当てる中、彼の人物は臨時ステージに設置された大型スピーカーから流れるリズムの波に乗ってさらに軽快なステップを踏み続ける。

 

 素人目に見ても分かるほど、ひとつひとつの動きのキレは凄まじく、それは人物の全身から発散される不思議な存在感を引き立たせる要因になっている。

 

 だがしかし。だがしかし。

 

 この人物をもってして、もっとも重要でインパクトを与えるのもの。圧倒的な印象となって周囲に訴えかけるもの。何より、ミカヤの頭痛と胸の奥にチラつく仄暗い炎を伴った感情の原因となっているものは、まるで別の部分にあった。……いや、正確に言うとしよう。あるひとつの部分に集約されていた。

 

(あ、終わったのか)

 

 そうこうしている内に曲が終了したらしく、華麗なフィニッシュを決めた人物の視線がミカヤの姿を捉える。

 

「おりょりょ? そこにおわすは、ミカヤさんじゃないかいな。おぃ~っす!」

 

 軽妙な足取りでステージを降りてきた人物は、ミカヤの記憶の中では今までに一度たりとも見たことがないような恰好を堂々とめかしこんだ、ただの知人レベル以上に見知った顔の少年だった。

 

 知られざる一面をミカヤに晒すことになった少年。一体どんな感じで話し掛けてくるのかと思いきや、どこか芸人じみた軽いノリで片手を上げて挨拶するという、何とも随分と適当な、ある意味でいつもどおりと呼べる調子だった。

 

「どうしたよ、変な顔しちゃって? いつもの凛とした女剣士風の美人が台無しになってるぞ?」

 

「……うっさいな。大きなお世話だね」

 

 どんな変な顔をしていたのかが若干気になったが、そんな思考はおくびにも出さず、ミカヤは軽口をたたく少年から少しだけ視線を逸らし、二言三言自分でもよく分からない内容を口の中で小さく呟くと、鋭さを多少増量した視線を改めて少年へと向ける。

 

「私のことはどうでもいい。それより、今は君だ。それは一体何なんだ?」

 

「んんん? 何って……踊ってたんだけど? 当然、超カッコ良くな! そう、今日の俺はダンサーでパフォーマーなのだよ! エンターテイナーなドリーマーなのだよ!!」

 

 ミカヤの質問に、「何、当然のことを聞いてんだ?」的な表情で答えを返し、ついでに特に聞いていない情報までビシッとキメた顔で朗々と歌い上げるように補足する少年。

 

「そうか。分かった。私の言い方が悪かったみたいだな」

 

 さて、ここでブチ切れてはいけない。ここはまだキレる場面ではない。

 

 質問の仕方が悪かったのだと、己の過ち(?)を潔く認めたミカヤは、深い溜息と一緒に胸の内に湧いた暗い感情を吐き出す。これで一旦仕切り直し。

 

「では、言い直そう。一体全体、何なんだその頭は?」

 

 眼前の少年の頭に形どられている丸い存在。それはキノコかはたまたマリモか。特異稀なるそれを指でさし、多少は口の端が引き攣っていたかもしれないが、それでもミカヤ的には笑顔な感じの表情を浮かべて再び質問する。今度は質問の主旨も明確だ。

 

「頭ぁ? ――――ああ、そう言うことか!!」

 

 意図を違えれば地獄が待っているとは知ってか知らずが、得心がいった科学者のような溌剌とした顔で声を上げる少年。

 

「理解したのなら、私としては是非とも説明して欲しんだけれどね。今すぐに」

 

「あれあれ。ミカヤ、もしかして興味津々? この髪型の持つ神気に当てられた? それとも、何気に憧れたりするとか?」

 

「前々から思ってはいたけど、やはり君はバカなのか?」

 

「んなっ!? 失敬な!! 俺がバカだって? バカと天才は紙一重なのをミカヤは知らないと?」

 

 駄目だ。どんどん脱線していく。この少年のペースで会話を進めていくと、話の本筋どころか入口にすら辿り着けなくなる。

 

「……どうやら充分に理解してなかったみたいだから、もう一回だけ言おうか。私は意味が分からないから説明しろと言ってるんだよ。君のその無駄に空間専有面積の広い髪型についてね」

 

 だから、強引にでも話を本筋に持っていく必要がある。会話でのマナー? 相手への配慮? するべき相手によるだろうとミカヤは考えている。

 

「ふっ。仕方ないな。ミカヤがそこまで知りたいとおっしゃるなら、応えてあげるが世の情けってものだからな」

 

 少なくともこの少年は対象外だろう。胸を張って腕を組んだ無駄に得意気に見えるポーズで頭を上下に振って頷いている少年を見ていると本当にそう思う。

 

「…………」

 

 相手も無言で冷たい視線を送っているミカヤのことを完全に無視しているのだからおあいこだろうし。

 

「答えよう! そして、教えてしんぜよう!! さあ、ミカヤ! 括目せよ!!」

 

 『カッ!!』と、効果音が聞こえそうな具合に見開かれる目。爛々と燃え上がるような情熱の炎を灯した少年の瞳から放たれた視線がミカヤを真っ直ぐに射抜く。

 

 握りしめられた右拳。そこに込められる純粋なるもの。それは、この場の空気をも支配していく。

 

「そう! これぞ真の漢のヘアー・イン・ソウル!! これぞ究極の漢のリビドースタイル! これぞ至高のクール・アンド・ヒートォゥゥゥ!! 即ち、見よ! 観よ!! そしてぇぇぇ……魅よ!!!」

 

 湧き上がれ、ソウル!

 

 ほとばしれ、パッション!!

 

 うねりを上げろ、ビート!!!

 

 高まる感情。昇りゆく気炎。

 

 その場の高揚が螺旋を描くようにして一点へ、ただ一点へと集中していく。

 

「かつて、森羅万象に存在せめし数多の諸霊。それら大自然の触媒を束ねし大いなる魂。真正なるグレート・スピリッツを感じる為、幼き人類に授けられし奇跡。無垢なる神魂を開放へと導く鍵。唯一にして無二なる髪型。我を融通無碍に成さんとする真言。その名は……」

 

 少年はジャケットの胸ポケットから金縁サングラスを素早く取り出し、流れる動作で己が顔へと装着。

 

「ア!」

 

 右手をピンっと天高く真っ直ぐに伸ばし、左手は己の身体を掻き抱くようにして抱きしめる。

 

「フ!!」

 

 左足で地面を勢いよく蹴り、そのまま右足を持ち上げた片足立ち状態でクルクルと二転そして三転

 

「ロ!!!」

 

 ミカヤの正面に身体が向き合った絶妙のタイミングで、『シュバッ!!』と風切り音を響かせて空中にあった右足を地面へと踏み下ろし、広くスタンスを取った逆Yの字を両足で形成。

 

 そして、伸ばしていた右手を引っ込めるのと交差して――――――――

 

「だぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 強く固く握りこんだ左拳を、少年は魂の奥底より轟く声と共に天を突く勢いで振り上げた!!

 

「「「「「ウオォォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」

 

 次の瞬間、少年の魂の叫びに呼応するように周囲より湧き上がる雄叫び。

 

 遠巻きにステージ傍で話していたミカヤと少年の様子を見ていた群衆の内、主にファンキーなスタイルの者達を中心とした多数の漢達による激しいソウルのシンパシーを感じての衝動だった。

 

 「よく言った! 若いの!!」「そうだ、それがクールなんだ! 『クール』の本質を感じ取ることのできる髪型の原点なんだよ!!」「ギタリストのジミ……、教師のボブ……、俺の大好きだったあの人達もそうだったな……」。わらわらと少年の元へと集まり、歓喜と信念と情熱をもって互いの肩を叩き合い、少年と熱い握手を交わし合う面々。今時の派手な格好をした若者がいた。草臥れたスーツ姿の中年がいた。薄く禿げた白髪頭の老人もいた。しかし、そこに年齢や立場の違いなど存在しない。あるのは各々の内に秘めた想いの丈を代弁してくれた少年に対する感謝と敬愛、偶然にも回り逢えた仲間との今この時を分かち合う喜びのみ。

 

 今この瞬間、この場にいた者達の魂は正しく『全にして一、一にして全』の大いなる高みの境地へと至っていた。

 

「…………」

 

 一人以外は。

 

 人口密度が急に高くなり、肌に感じる気温すらも急上昇したかに思える場所で一人だけ冷めた空気を纏って佇んでいるミカヤ。もう、関わるのも億劫な気分で、いっそこの場から立ち去ろうかとも考えるが、周りを群衆で囲まれたこの状況ではそれはそれで面倒な感じだった。

 

(……私、ここで何をしてるんだろう?)

 

 ミカヤの心中での呟きは、えらく哲学的でありながら、限りなく哀愁の気配漂うものだった。

 

 さて、そんなミカヤの様子はさておき。出会いがあれば別れがある。しかし、心の奥底にある真の絆で結ばれた友人達にとって、その場その瞬間での別れなど大した意味はない。今この場で熱き思いを馳せ続ける彼等にとって、物理的な距離や時間の隔たりなどは風の前の塵にも等しいのだ。

 

 別れを惜しむ気持ちが決してないわけではない。だが、束の間とは言え真の友情を温め合い、人の世の繋がりの大切さと奇跡を噛み締めあった彼等の目に涙など存在しない。

 

 「いずれまた」――――その言葉が未来での再会へと向けた誓約であり魔法の言葉なのだ。

 

 爽快な表情で去りゆく心の友の皆々に、「ありがとう。ありがとう」と親愛を込めた言葉を少年は送る。思いもよらぬ同士達との素晴らしい出逢いに満悦し、熱くなった胸に手を押し当てて余韻に浸る。

 

 嗚呼、アフロ……万歳!!

 

「最っ高ぉーの気分だな」

 

 サングラスを外して晴れ渡った空から降り注ぐ陽光に目を細め、天上に住まう創造主に対して祈りを奉げる敬虔なる聖者のように恍惚な表情で呟く。少年の目の端には薄く煌めく何かがある。

 

 今日は、誠に善き日だった。

 

「どうだ、ミカヤにも分かっただろう? この髪型の素晴らしさとクールさが。秘められたヒートとパッションが。無限大の想いが」

 

 そして、周囲に人がいなくなったことでようやく気づいたのだが、いつの間にか微妙に距離をとった場所に移動して、何故か極寒の氷海のような冷えた視線を送り続けていたミカヤへと向き直ると、少年は両手を大仰に広げて同意を促すような仕草で歩み寄り、

 

「丸刈りにしろ」

 

 容赦なく切り捨てられた。

 

「「…………」」

 

 沈黙。

 

 それは、沈黙だった。

 

 二人の間に横たわるもの。その名は、沈黙。

 

 そう、まさしく寒風吹き荒ぶ沈黙の時だった。

 

 二人の周囲の気温が一気に氷点下にまで下がったかのような状況。かの事態に対して少年が取った行動だが、

 

「恥ずかしがらなくてもいいって♪」

 

「坊主にしろ」

 

 どうやら彼は現状をスルーする方向に決めたようだ。

 

 何事もなかった、聞かなかったかのように笑顔のまま、まるで詠うように話を切り返す。それに対し、当然の如く再び振り下ろされるミカヤの断絶の一刀。

 

「素直になるって、とっても、とぉ~ても大切なことだと俺は思うんだ」

 

「いっそ引っこ抜け。毛穴から赤いモノを垂れ流すんだ」

 

「ヒドくね! 流石にヒドくねっ!!??」

 

 二人の間での温度差が凄すぎた。あと、遣り取りがどこか漫才じみていた。

 

「いくらなんでも今のミカヤさんの言葉はヒド過ぎると思います!! 裁判長、抗議します! 断固抗議の声を上げたいと思います!!」

 

「シャラップ」

 

「即時却下!? しかも、意外に流暢な異世界語!? 今日のミカヤさんは、取りつく島も無しですか!?」

 

 何故かヘンテコな敬語調でミカヤの冷酷な態度(?)に抗議する少年だが、対するミカヤにはこの少年に情けをかけるような愚かな寛容さを持ち合わせる気はなかった。

 

「くぅぅぅ……。何たることだ。ミカヤがこんなにもSな性格だったなんて。俺、知らなかったよ。これが成長と言う名の秘められた性癖の目覚めなのか? ミカヤは高いヒールで相手を踏みつける女王様タイプだったのか?」

 

「こら、何をみょうちくりんなことを口走っているんだ。……頼むから変な方向に話を展開していくのだけはヤメてくれないか」

 

 他人に聞かれれば誤解を招きかねない少年の発言に頭を抱えたくなる。今日は髪のセットも機嫌も陽気も上々な日だと数十分前までは思っていたのに、この少年を発見したことが運の尽きだったのか。

 

 ミカヤは大きく息を吐き、いい加減この茶番を終わらせることにする。

 

「もういいから。さっさとその髪型を解除したらどうなんだ」

 

「ありゃ? もしかしてこの髪型が変身魔法の応用なのに気づいてた? ミカヤってば、流石にするどーい」

 

 そう言うや否や、パチンッと少年が指を鳴らすと同時に少年の頭部が発光現象を放ち、一瞬後にはミカヤが見慣れた耳にかかるくらいに伸びた髪を軽く整えただけの特に特徴の無い髪型へと戻る。

 

「さ~て、華麗に踊ったおかげで小腹が空いたし、メシでも食いに行くかな~。そうだ、ミカヤは何かリクエストある? 特にないなら、俺的には近くで屋台フェスタをしているらしいから、そこに行ってみたいんだけど」

 

 軽く伸びをしながら歩き出した少年は、後ろからついてきていたミカヤに然も当然のような顔を向けてくる。

 

「……ちょっと待て。君の言い方だと、まるで私がこれから君と一緒に行動するみたいに聞こえるんだが?」

 

「甘いものがいいよな。クレープとかドーナッツ屋台とかを中心に制覇していくか」

 

「おい、ちょっと。聞いているのか? 私の話を――――――――」

 

 今だ様々なタイプの軽快な音楽が流れている昼下がりの広場。

 

 いつも以上に髪をバッチリとオシャレに決めた少女と変に気合の入ったように見える服に身を包んだ少年。

 

 連れ立って休日の午後を楽しむ人達の中へと消えていく二人の表情は、多くの人達と同様に屈託のない笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~おまけの会話~~

 

 

 

「ミカヤ。そう言えばさ」

 

「何だい?」

 

「今日はいつもより髪の感じに気合が入ってない?」

 

「たまたまだよ。午前中に美容室に行ってたからね。それに、少しセットしてもらっただけで、別に気合が入っているわけじゃない」

 

「そうか。わざわざ美容室にまで行ってたのか。な~るへそ」

 

「……何だその意味深な頷きは? 勘違いないように言っておくが、私は別に君と会う為にこの髪をセットしてきたわけじゃないぞ」

 

「いやー、それにしてもアレだな。やっぱ、髪型を変えると気持ちも変わるよな」

 

「ああ、そうだな……じゃない。おい、ほんとに私の話を聞いてるのか?」

 

「俺的には普段のストレートに伸ばしているミカヤの髪型も当然いいけど、今日みたいに少し雰囲気を変えた感じもなかなかに……くるっ!! ってな」

 

「……何をバカなことを。もう一度ハッキリと言っておくが、別に君の為に私は髪をセットしているわけじゃない」

 

「ありゃりゃ。そりゃ寂しい。でも、それじゃあミカヤは一体誰の為に髪をセットしてると? まさか! ついに硬派一直線なミカヤさんにも異性の影が!?」

 

「…………」

 

「あり? ミカヤさん? どーしたの? おーい。なんでそんなに急に無言? 不機嫌面?」

 

「…………もういい。バカ」

 

「あ~~……ゴメン! 申し訳ない! ちょっと今のは流石にデリカシーがなさすぎた。反省する! 謝る! 何でもするから許して! お願い!!」

 

「……まったく。君は。――――今日は君の全奢りだぞ」

 

「お、おおっ! オーライ! オーライ!! ミカヤが許してくれて、笑顔に戻ってくれるならそのくらいお安い御用でさぁ!! よっしゃ。じゃあ早速行こう! チャキチャキ行こう!!」

 

「……バカ」

 

 

 …………特にオチはなし。

 

 

 






 一度は試してみたい髪型の第一位だと個人的には思います。

 まあ、それはともかくとして。うちの作品内でのミカヤのツッコみ力が上がっている気がする今日この頃です。

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