卒業式前日。
多くの高校生3年生は昔話に花を咲かせる。まるで別れを惜しむ様に。
そんな先輩方の横を何事もなく通り過ぎ、いつもの場所に向かう。
雪ノ下さんと一緒に作った教室の鍵(無許可で作った、悪気はない)を手に持って。
奉仕部の前に来るとドアが少し空いていることに気づく。ドアを開けて見えた光景はいつもと同じような感じ。
ひとつの長机と昔じゃ有り得ないくらい近すぎる二つの椅子。
その一つの椅子に座る女性。
「……なんでいるんですか、雪ノ下先輩」
明日卒業する唯一無二の先輩、雪ノ下陽乃。
明日この人はここには来なくなる。
「いいじゃない、今日が最後なんだから」
「そうですね」
雪ノ下先輩の答えに賛成しながら隣の席に座る。最初はお互いの席は長机の端と端だった。でも今では長机の真ん中に間隔10cm程になっていた。勿論、付き合っている訳でもない。でも、この1年でお互いに良き理解者になれたと思う。
「……色々とあったね、この1年」
「……はい」
思い返してみると色々な事があった。
まずは昼飯、お互いに持ってきた弁当を一緒に食べる。お互いに自分で作ったものだった。どっちが美味しい、というより料理の腕前はどちらが上か、だった。因みに俺は家庭の家事全般担当ですべてこなしてしまう。特に出来たのは料理だった。最初に作ったときはお母さんと小町を泣かせてしまう程だった。だがそれは身内の話、世界では俺よりも凄腕の人なんて沢山いる。俺はすぐに井戸の中の蛙にはならない。だから俺よりも完璧超人の雪ノ下先輩の方が腕はいいだろうと思ったが、料理の腕は俺の方が上だった。寧ろ雪ノ下先輩の胃袋を掴んでしまった。おい、普通は逆だろ。雪ノ下先輩曰く、「こんな美味しいもの、高級レストランでも食べたことないよ!」だそうだ。もうちょい頑張れシェフ。
他にも沢山あった。
夏休みのボランティア、文化祭の独占権限で運営、体育祭も独占権限で運営、また競技種目で無双、生徒会選挙で、雪ノ下先輩の陰謀で俺が生徒会長就任し、そこから渋々教師のわいせつ行為の監察、対処、学校のセキュリティをアップでウイルス防止(これは全て俺がやった)など、学校に貢献した。
しかし、二三年生の先輩方に長時間に及ぶ暴力(反撃はせず、奴らを社会的に殺したのと自分がこれまでやってきたとこの意味の無さに絶望した)を受け、雪ノ下先輩に無断でこの件を教師に報告、退学届けを出した、そこからは家族に内緒でしていた掛け持ちのバイトを10から20にした。その中にはバーなどもあった。学校のことは考えなくて済むようになりバイトに没頭し、給料が全てのバイト先で4倍にもなった。1ヶ月していると、雪ノ下先輩に見つかり、雪ノ下先輩の家の部屋に連行されて長い時間説教されている事もあった。そこから退学してから入ったバイトは辞めさせられ、退学前にしていたバイトは当分休まされた。そこから雪ノ下先輩と平塚先生が総力を挙げ、俺が総武高校に戻った。
生徒会長も引き続き就任し、仕事をこなしていたが、誰にも頼らずただ1人でひたすらにやっていた事を雪ノ下先輩に報告され、生徒会の仕事を他の役員に任せて奉仕部に戻り、精神回復に尽力を尽くしてくれた。だが、奉仕部にいるときは雪ノ下先輩の抱き枕だった。そのときに聞こえた、「誰にも大路は傷つけさせないし、誰にも渡さない……」等という声が聞こえ、これは幻聴と判断し流していた。
元に戻った俺は生徒会、奉仕部、バイト、家事、勉強を両立し、楽しく過ごしていた。ときにはクリスマスイベントやバレンタインデーに雪ノ下先輩と楽しく過ごしたことは忘れないだろう。
……あと、雪ノ下先輩の誕生日に遊びに行ったときに雪ノ下先輩のお母さんに雪ノ下先輩と一緒に連行されたときはマジで焦った。その後色々あって、雪ノ下の両親に気に入られちゃうし、頭がパンクする。
こうして振り替えてみると、俺と雪ノ下先輩は丸くなったと思う。まぁ、雪ノ下先輩は変わったとしても俺が変わったかどうかは俺が判断する事じゃない、他人がする事だ。
「バイト、どう?」
「ちゃんと守ってますよ、退学する前のバイトしかやってません」
「そう、良かった」
恐らく、心配しているのだろう。またああなってしまうのではないかと。
だから俺は安心して雪ノ下先輩が卒業できるように一言いう。
「雪ノ下先輩」
「なにかな」
「ご卒業、おめでとうございます」
「!?」
貴女にお世話になったから。
せめて、貴女だけに向けて、
俺ができる最高の笑顔を見せる。
「もう……ずるいよ」
「ずるくないですよ、今までの感謝のお礼ですよ」
「……ありがとう」
卒業式当日。
俺は在校生の席に座っていた。いつもならただ座るだけの事なのだが俺は卒業式に仕事がある。
在校生の言葉。
これは現生徒会長の仕事、つまりは生徒会長の俺の仕事だ。
だが俺はこの仕事はあまりしたくない。
上級生による、暴力沙汰の一件があった為だ。2度と会いたくない。
因みに俺に暴力を振るった者は雪ノ下家によって、社会的に死んだ。まぁ、雪ノ下家が出なくとも、そうなる運命だったけどな。
まぁ、そんな訳で絶賛鬱だ。許してくれたまえ。
「卒業生、入場」
さて、卒業式も遂に始まり、卒業生が入場してくる。こんなにも大勢の卒業生がいる中でお世話になったのは一人だけだから一人ひとりに対する感情はない。
トラブルが起きることもなく、プログラムが進んでいく。
「在校生代表の言葉、在校生代表、比企谷大路」
「はい」
俺は静かに立ち、朝礼台の前に立つ。ゆっくりと息を吸い、言葉を出す。
「段々と暖かい季節になり、色鮮やかな時期になりました。まるで、先輩方の卒業を祝福しているかのようです………」
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無事に卒業式も終わり、卒業生の生徒が校門の前で目尻に涙を浮かべながら話している。俺はそんなものを横目に生徒会室に向かう。卒業式の後片付けと言ったところだ。でも、俺は一人だけでやる。役員の先輩方は卒業生とお話したいだろうし、仕事はなしにした。俺的にこの判断は紳士的だと思う!
……というのは建前で本当は1人になりたかっただけ。
俺としたことが、送辞のときに雪ノ下先輩のことを見てしまい、泣きそうになった。不覚だ。恐らくこの日にまた雪ノ下先輩の顔を見れば確実に泣くと思う。だから仕事の量を増やして遭遇する確率を下げた。
俺は思考は一旦やめてデスクチェアーの背もたれに寄りかかる。
……なんで俺はこんな事を考えているんだ。
昔の俺はこんなんじゃなかったはずだ。もっと物事を冷静に判断し、冷徹に、無感情で行動していたはずだ。なのに今はどうだ、リア充の様に自分のいいように考え、感情に流されている。昔の俺が今の俺を見たら失望するか、鼻で笑うぞ。
とりあえず、このことは後回しだ。今は目の前にある仕事を片付けないとな。
俺は仕事に移ろうと、ペンを取ろうとした時。
ッガタン!!
「!?」
いきなりドアが乱暴に空いた。
何事かと思い、ドアに視線を向けると……
「なんでこんな所にいるのよ!」
雪ノ下先輩がそこに居た。
……落ち着け、とりあえず冷静でいろ自分!
「なにって、卒業式の後片付けですけど?」
「……どうしたの?」
「……なにがですか?」
「涙出てるよ」
「!?」
思わず自分の顔に手を添えた。
手から感じるのは流れるような水滴。
……そうか、泣いているのか。
「……ただの汗です」
「嘘」
言葉も出ない。
「大路はさ、もっと楽にしてていいんじゃないかな、色々と考えすぎだよ。素直になろうよ」
「私は君と関われて良かったと思うよ、君と一緒に居られた事で自分が変わった気がする」
「少なくとも君の言う表と裏、いつもは裏ばかりだけど君なら表が自然と出るし、そうしていたい」
「君だって変わった、少し感情的になることがある。でも君はそれを受け入れてない。どうなの?」
……確かに自分でも変わったとは思う。だけどそれは今までの自分を否定する事になってしまう。この現状で自分を否定すれば何を信じれば良いのか分からなくなる。だから、変わることが俺にとっては恐怖だ。
「今すぐに変えられないと思う、でも変わる努力はしていこうよ。それだけでも進歩だよ?」
「変わる……努力……」
「そう、だから自分なりに頑張ればいいよ」
自分なりに頑張る……。
今までの自分は否定したくない。それだけは確かだ。
でも、変わらなければいずれ俺という比企谷大路は壊れる。
……雪ノ下先輩は変われたと言う。あの人は俺にとっては憧れに近いのかもしれない。人は憧れる人を真似ると言う。なら雪ノ下先輩を真似てみる。俺なりの努力だ。
「俺は雪ノ下先輩を真似てみます。俺なりの努力です」
「うん」
雪ノ下先輩は優しく微笑んだ。いつもは裏の顔で周りに対応しているが、俺だけにはこのような表の顔を見せてくれる。
「それじゃあ、記念撮影しようか、まずは奉仕部からね!」
「……はい!」
俺と雪ノ下先輩は生徒会室を出て奉仕部に向かう。
1年間という短い間だったけど、俺たちにとって、特別な場所へ。
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