prologue - 1 魔王、蹂躙する
四大精霊が眠るとされる地、イシュトラル。
ミクトラン山脈により大陸は南北に二分され、北は大森林、南は大荒原によって分たれる。これら四つの区域に、四つの文明が栄えた。
風の精霊、シルフに信仰を捧げる、ウィンパーラ。
火の精霊、サラマンダーに信仰を捧げる、フレイナル。
土の精霊、ノームに信仰を捧げる、アスタール。
水の精霊、ウンディーネに信仰を捧げる、シーストス。
異なる教えは、その戒律によって互いを排斥し合う。対立はやがて世界規模の宗教戦争へと姿を変え、戦いは多くの犠牲を払いながらも苛烈さを増していった。百と余年が過ぎた頃、ウィンパーラとシーストスが休戦協定を締結し、これに対するフレイナルとアスタールの連合軍が発足。南の荒原にて行われた両同盟軍の合戦は、後に「エッケフェルノの戦い」と呼ばれた。
百年続いた宗教戦争の、これが最後の戦いである。
彼らにとって、幕引きは天災そのものだったと言えよう。
突如、大荒原の空を埋め尽くす、おぞましい竜の群れ――悪夢のような力によって、戦場は一面が血の海と化した。まさに瞬く間の出来事だった。
魔王の登場だ。
四つの文明が魔王に平伏し、国境は意味をなさなくなる。
魔王は桁外れの軍を率いていた。魔法、武器、兵士、どれもが人間のそれを遥かに凌駕していた。ならば人類に希望はないのかというと、そうではない。
ここは四大精霊が眠るとされる地、イシュトラル。
戦いが始まると、彼らが信仰する四大精霊は降臨する。四大精霊は、かつてのウィンパーラ、フレイナル、アスタール、シーストスから四人の若者を選んで、魔を討ち滅ぼす力を授けた。かの精霊に選ばれし四人の者たちを、人々は憧憬の念を込めて「勇者」と呼んだ。
勇者たちは驚くほどに強く、魔王の配下を次々討ちとっていった。間もなくして人類連合軍が発足する。勇者に導かれるまま、連合軍は魔王軍へと攻勢をかけた。
迫りくる人間の大軍勢に、魔王は籠城戦を強いられた。
灰色の空の下、テカトル火山の
父を殺された、息子を殺された、夫を殺された、恋人を殺された――憎しみは人の数だけある。
火口にそびえたつ異様な建造物――魔王城。その周囲には、魔獣の死骸が折り重なるように散らばっている。
城内。
巨大な両開きの扉を押し開けて、玉座の間に、駆け込んでくる者がいた。
それは真紅のドレスに身を包んだ美少女だ。燃え立つ
「魔王様! ご無事で何よりです!」
赤いドレスの少女はひどく動揺していた。
「人間どもは群れを成し、火山の
「うむ――」
魔王と呼ばれた者が何かを言いかけたその時、重厚な鉄の扉に、無数の線が網目状に走った。そして一瞬の後、轟音を立てながら、鉄のブロックが床にぶちまけられる。
切り刻まれた扉の向こうには、双剣を構えた銀髪の青年が立っていた。その後ろには三人の女たちが並び立つ。
全身を灼熱感が襲い、赤い少女は、自分の身に起きたことを理解した。
「ま……おう……さま……お逃げ……くださぃ……」
玉座を見上げる瞳から、涙のつぶが散った。少女は背中から血を噴き上げながら、ゆっくりと地面に倒れこんだ。
その細い体をまたいだ四人の者たちは、前のみを見据え歩きだす。部屋の中ほどまで進むと、立ち止まりそれぞれの武器を持ちなおす。
「よくぞ来た。四大精霊に選ばれし勇者たちよ」
背もたれの高い玉座から、地面を震わすような重低音が響く。装飾のちりばめられた玉座に、脚を組んで座しているのは、目算でも背丈三メートルはあろう
「お前の悪徳もここで終わりだ、魔王!」
「……怒りを鎮めよ。そして話をしよう。私と手を組まないか?」
「何だと?」
「手を組まないかと言ったのだ、選ばれし者たちよ」
「ふざけるなァァ!」
「ふざけないで!」
「みんな! 耳を貸してはいけません!」
「魔王……あなたは、自分がどれだけ多くの人を殺したか、理解しているの?」
四つの鋭い眼光を一身に浴びた魔王は、肩を
序章から
固有名詞がたくさん出て参りましたが…
覚えていただく必要はございません… (_ _