エーテルちゃんはひとりぼっち   作:菓子ノ靴

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chapter 1 - 9 地獄だ…

「……何っ? 何なの? こ、来ないでっ。お、お義父様(とうさま)に言いつけるわよ! 何がしたいのよっ!? 来なぃ――もごっ!?」

 

アリシアは、目にも留まらぬ速度で右腕を一閃した。

 

すると次の瞬間には、エーテルの口内に、丸められた手ぬぐいが詰め込まれていた。怯んだエーテルの後ろに回り込んで、もう一枚の手ぬぐいで口を縛る。そういう趣味があるのかと思うくらいの、手際の良さだ。

猿ぐつわだ。

 

もごっ(ちょっと)もごもごっ(外しなさいよ!)

「それでは、ふふ、魔法を使ってみてください、ふふ……」

 

もごもごもごっ(できるわけないでしょ!)

 

ここにきて初めて、アリシアの涼しい微笑みがくずれる。上塗りされたのは性悪女の笑みだ。

 

「できませんか? できませんよね?」

もごごっ(外せえええ!)

「姫はどうでもいいとおっしゃいましたが、儀式について学ぶことは肝要です。汎用魔法は口枷をされるだけで、こうもあっさりと無力化されてしまうのですから……」

もごもごもごもごごっ(口枷するやつなんてお前だけだ!)

「それはどうでしょう? 実戦では何が起きるかわかりません。より対応力のある戦法を取るのが騎士の(たしな)みです」

 

ふと見上げれば、そこには姉が妹に向けるような微笑みがあった。

 

「私の授業はここまでです。お付き合いくださり、ありがとうございます」

 

ようやく終わった……。

 

エーテルはじっとりと睨み「早くこれを外せ」と言外に命令する。だが、お姉さん然とした笑顔が返ってくるだけだ。気まずい静寂が二人を包む。すると何を思ったかアリシアはいきなりエーテルの後ろ手をねじり上げ、手ぬぐいで縛り始めた。

 

もがっ(ちょっと)もがもがもがもがっ(これ以上何するつもりよ!)

「ふふ、昔を思い出しますねえ。懐かしいですねえ、ふふ……」

 

完全に身動きの取れなくなったエーテルを、唯一壊れずに残っていた机に押しつけると、アリシアは手を高々と振り上げた。

 

悪戯(いたずら)する子は、()()()ですよ」

 

(……しょ、正気かこいつ?)

 

アリシアは正気だった。

容赦のない平手が、エーテルの突き出された部分に打ち込まれた。

 

――ペシィィン!

 

もがあっ(痛いいい!)

 

何とも恥ずかしい音が響く。

 

――ペシィィン!

 

単なる痛みよりも、羞恥の方がずっと上だった。

 

もがあっ(やめろおおお!)

 

――ペシィィン!

 

「私はまだ二十代ですがっ!」

 

もがもがもがあっ(気にしてたのか!)

 

――ペシィィィィン!

 

怒りがこもったせいなのか、平手打ちの威力が数倍に増した。三発目にして耐えがたい痛みになりつつあった。

 

――ペシィィィィィン!

 

「もうすぐ三十ですよ悪かったですねえっ!!」

 

もがもがっ(痛いってば!)

 

――ペシィィィィィィン!

 

「年増で悪かったですねえっ!!」

 

もがもがあっ(もう分かったって!)

 

エーテルの経験上、アリシアは百回叩くと言ったのなら、百回以上は確実に叩く女だった。つまりあと九十四。

 

――ペシィィィィィィン!

 

あと九十三。

 

――ペシィィィィィィィン!

 

あと九十二。

 

――ペシィィィィィィィィン!

 

あと九十一。

 

――ペシィィィィィィィィィン!

 

あと九十。

 

(あぁ……地獄だ…………)

 

エーテルにできるのは、百を超えないように叩かれた回数を覚えることだけだ。

 

――ペシィィィィィィィィィン!

 

地下の書物庫という名の地獄から、恥ずかしい音が響く。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
まだまだ続きます m(_ _ )m

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