めっっっっっっちゃみじかい
博麗霊夢がどこにもいない。
それは爽やかな朝、神社のこと。いつものように訪ねていくとそこには酔いつぶれてすっかり寝こけている鬼しかいなかった。
からからと風に吹かれ転がっていく落葉が、
私の深層心理に得体の知れない不安さを植え付けていた。
私はいつものように散歩と拝借を兼ねた実利のある旅を始める。今回はもう獲物を定めてあるのだ。それの前にいろいろと寄り道もするが。
地下図書館に行った。根暗な魔女と吸血鬼の主がお茶をしているのをメイドがにこやかに眺めていた。霊夢はいなかった。ついでにちょうど入用だった系統の本を三冊借りてきた。
白玉楼に赴いた。桜はもうとっくに散ってしまったようで人気はない。今日も亡霊の姫はどこに入るかと言う勢いの食べっぷりだ。むしろどこにも入らないからあの食欲かもしれないな。庭師に追い回されたからなにも持たずにさっさと出てきた。霊夢はいなかった。
竹林を訪ねた。昼食にうさぎを獲ろうとしたところ親玉に見つかってしまった。仕方がないので永遠亭まで奥に入って空腹の治療でも受けることにするか。霊夢はいなかった。病気ではないらしい。
花畑の上を通りかかる途中に天狗に会った。巫女の行き先は知らないようだった。弾幕ごっこに付き合わされてしまった、嫌いじゃないが疲れるんだぜ。流れ弾でも下に当たろうものならおっかないのが出てくるしな。
もう一度神社へ戻ってみた。やはり鬼しか居ない。酔っ払っていて要領を得ないがこいつの仕業ではなさそうだ。二角鬼はのらりくらりしているから好きじゃないぜ。宴会を起こしたいという異変の理由は気に入っているが。
守矢神社にも一応行った。商売敵だから居ないとは思うが。早苗は今日も元気だ。今から人里まで布教活動に行くらしい。同伴を提案されたので寄りたいところがあるから少し待ってくれと伝えた。
天界まで赴いてみた。天人の彼奴の姿を拝む前に衣玖に阻まれてしまった。なんでも今日は天界への立ち入りは全面的に禁止されているらしい。それだけ聞ければ用はない。
地底に足を伸ばした。この一角鬼はいつでも快活で、正直でいい。酒を奢ってもらった。酒場にも居ないらしい。地霊殿は誰もすすんで行きたがるようなところではないだろう。私も心根を見透かされる彼奴は苦手だ。
んじゃ行こうかと守矢に戻った。夏らしく暑い。蜃気楼がまるで巨人のように揺らめいていた。いや、巨人に蜃気楼がまとわりついていた。また河童たちが何やらやっているらしい。異変になったら面倒だから程々にしてほしいなんて彼奴は言うんだろうか。
人里まで降りる最中に妖精と天狗が弾幕ごっこをしていた。いや、あれは弾幕ごっこなのだろうか……? 一方的に振り回して写真を撮ってるようにしか見えないな。それにしても見ない天狗だ。天狗なんていっぱいいるから仕方ないな。
早苗と別れて廟にでも向かおうかと思った道中、あれは化け狸の大将だろうか。ご機嫌そうに何処かに向かっていく。……人の姿だと尻尾がないのが痛いぜ。モフ度が下がる。面白そうなのでついていくことにする。祭りとかならばったり会うかもしれないし。
その先はたしかに祭りの屋台だった。ただまだリハーサル時点らしく、人は少ない。どうやら本屋の娘と連れ立ってこれを見に来たらしい。面霊気がひらりふらりと愉快に踊っている。本番は明日だと隣で見ていた男に教えてもらった。また来よう。
夜だというのに相変わらず蒸し暑かった。次はどこへ行こうかと当てもなくフラフラしているときれいな歌が聞こえてくる。鳥目にならない方だし、いい声だからあの人魚のようだ。水の近くは涼しそうだし狩っていこうかとも思ったが、冬が旬らしいと聞いたことがあったので今日は勘弁しておいてやろう。
……おかしいな。
今日は幻想郷の何処にもあの見慣れた赤い巫女服を見つけることができなかった。
紅魔館にも白玉楼にもマヨヒガにも迷いの竹林にも永遠亭にももちろん人里にも、妖怪の山にも天界にも地底にも神霊廟にも祭りの喧騒の中にも霧の湖にも――――
「あら、魔理沙じゃない。どうしたのげっそりした顔して」
あたりはすっかりと朝だった。結局一日幻想郷を飛び回り歩き回ったことになる。
げっそりと神社に戻ればまるで一日そこにいたかのような顔をして彼奴がお茶を飲んでいた。
「なんでもいいじゃないか。それにしてもお前昨日は何処に居たんだ?」
「ちょっと月まで出かけてたの」
――ああ、そりゃ見つからないわけだよ。
一日の徒労にため息をつきつつどっかりと巫女の隣に座り込んだ。そこでようやっと思い出した事象にはて、と首を傾げる。
昨日の獲物はなんだっけか。