赤べこ亭での騒動から2週間ほど経った。その間は大きなトラブルもなく、平和な日常が続いた。休日以外は隔日で稽古に行き、合間で仕事をちょこちょことこなし、充実した日々を過ごしていた。
実は、仕事というのは赤べこ亭とは関係ない、新しい商いだ。ここ数か月横浜に足繁く通い、どこか倉庫を買い取れないかといろいろと当たっていたのだ。
なぜ倉庫を買おうと思ったのか?それは、今後海運業が儲かるビジネスと睨んだからだ。ソースは前世で見た教科書に載っていた、札束に火を付け足元を照らすおっさんの風刺画。たしか、戦争がはじまり海運関係の成金が続出したとか、そんな話だったと思う。
いきなり船を買うのはあまりにもノウハウがないため、関連事業の貸倉庫から着手しようとの目論見だ。手持ちのお金では少し足りないのか、結構な期間探しているのだがなかなかいい塩梅の物件が見つからない。
本日は稽古の日、お昼ご飯を食べた後の休憩時間。することもないので、稽古が始まるまでの空き時間に木刀を振るう。
「フンッ、フン…。」
「オラッ!オラッ!」
隣で弥彦が私に張り合い素振りをしているが、午前の稽古で体力を使い、だいぶバテているため、素振りの型も崩れてきている。弥彦に張り合われてしまった場合、私が先にやめないと倒れるまで素振りをやめないので、そろそろ折れてあげるか。
「ふぅ、そろそろ休憩するか。」
「おぅ、俺は、まだまだ、いけるけど、な…。」
息も絶え絶えな癖に、意地を張って、少しほほえましい。縁側に座り冷めたお茶を飲む。ちょうどよいぬるさが、おいしく感じるな。
んっ?
「来客でござる。」
「ちょっ、ちょっと剣心。なに?どうしたの?」
「気を感じたでござるよ。」
混乱する神谷さんを置いてけぼりに、スタスタと玄関に向かう剣心さん。私も誰か来た感覚はあったのだが、これはわかる人にしかわからない感覚だよな。
神谷さん、弥彦と一緒に剣心さんについて行くと、玄関にはあの男が立っていた。
「喧嘩、しに来たぜ。」
「この間の…?」
「やはりお主か。」
『喧嘩屋』
ってかなんか、左之助こっちを見つめてるんだけど。
「えっ?私?」
「そうだ。浜口竜之介。俺はアンタと喧嘩しに来たんだぜ。」
えー?
「元新選組 捕縛方 浜口竜之介。使う剣はあの試衛館仕込みの『天然理心流』。鬼の土方副長の懐刀として維新志士の捕縛を専門の任務とし、刀は使わず木刀一本で単身敵地に乗り込み、捕まえた維新志士の数は優に100を超える。そんでついたあだ名が『木刀の竜』。しかも木刀を折ったところで素手で刀に立ち向かい、最終的に捕まえちまうときたもんだ。
狙った獲物は必ず捕えられ、天国にも地獄にも逃がさねぇ。拷問部屋行きの直行便。維新の志士達が木刀を見るたびに震え上がったってのは傑作だな。アンタ、見かけによらずたいした
まさか江戸に戻って牛鍋屋やってるなんて、誰も思わねぇだろうよ。
わざわざ幕末動乱の中心地だった京都に出向いて調べたんだ。だいたい当たりだろ?」
いや、大分話を盛られてる気がするんだけど。ってか、ストーカーか?移動が大変なこの時代に京都まで行って調べてくるなんて、なんだよコイツ。いい笑顔してるけど、やべぇよ。
「いろいろ言いたいことはありますけど、とりあえず喧嘩はお断りさせて下さい。
「そうはいかねぇんだ。これは喧嘩屋としての喧嘩。こっちも引くわけにいかねぇ。それよりも、俺はアンタに
怪訝な表情の左之助にむかって、とりあえず、ハッタリでニヤリと笑っておく。実は、例の赤べこ亭での一件の後、『喧嘩屋』
さて、今のこの膠着状態を利用し、考える。喧嘩を断れるか?答えはNOだ。京都までストーキングするしつこさから考えて、断れるとめんどくさそうだ。あとは闘い方か…。
「わかりました。闘い方と場所についてこちらの提案を飲んでいただけるのであれば、その喧嘩買いましょう。」
「いいですか、お互い一発ずつ交互に相手を殴る。殴られるほうは防御はしていいけども、決して相手の攻撃を避けてはいけない。先に立てなくなったほうが負け。武器の使用は禁止。場所は広いところがいいんで、河原がいいですかね。どうでしょう?」
ルールを聞くなり満面の笑みの左之助。神谷さんと弥彦はドン引きしている。
「ちょっ、大丈夫なのかよ!竜之介!」
「そうよ!やるならもうちょっと、ちゃんとしたやり方でやんなさいよ!」
「外野は黙ってろ!」
左之助に一喝されて弥彦も神谷さんも口を噤んだ。
「薫殿、弥彦。二人の決めたことに口出ししてはいけないでござるよ。…それに浜口殿から仕合方法を提案したということは、きっとなにか考えがあるでござるよ。」
不満げではあるが、剣心に諭され二人とも黙って見届けることにしてくれたようだ。
「みみっちぃコト言ったら問答無用でぶっ飛ばしてやろうかと思ってたんだが、アンタ、顔の割に漢じゃねぇか。せっかく持ってきたコイツは無駄になっちまうが。いいぜ、それでやろう。先行はどうする?」
顔の割には余計だ、と思っても口には出さない。挑発にならない。私、大人だからね。折角持ってきた斬馬刀も無駄にしてしまったし、ここは我慢だ。
「こちらの条件を飲んで頂いたんで。先行はお譲りします。でもその前に…。」
「あぁ、そうだな。オイ出てこい。」
近くの物陰に誰かがおり、視線と殺気を感じる。ろくでもないやつが潜んでいることは間違いないだろう。
「出て来いって言ってるんだ。」
左之助がドスを聞かせた声を出すと、もぞもぞと二人組の男が出てきたのだった。あれ、こいつら、比留間兄弟?
話を聞くと、そもそも左之助に喧嘩を依頼したのがこの比留間兄弟で、神谷道場でぶっ飛ばされた腹いせに、左之助をけしかけたとのこと。それで私に喧嘩を売りに来たのかと合点がいった。しかも、拳銃を隠し持っており、隙をみて狙撃しようとしていたんだから油断ならないね。
それを聞いてキレた左之助が拳銃を破壊してくれたんで、一応これで一安心。これで心置きなく喧嘩(?)できるね。
脱獄犯である比留間兄弟を放置できないため、仕方なく連行し、その場にいる全員で河原に向かった。
「さてと、それじゃあ、おっぱじめるか。」
「えぇ、はじめましょうか。」
河原に着くなり、すぐに喧嘩は始まった。いや、もはやこれは喧嘩じゃないな。一方的な『ハメ』だ。
「おりゃあぁぁ!」
左之助のテレフォンパンチが来る前に、両手を目の前に交差させ『だいぼうぎょ』だ。
ガっ!
左之助のこぶしを、腕を交差させた中心点で受けると、鈍い音が響き渡る。じんわり痛むが、たいしたことないな。
殴った左之助が驚いた顔をしている。
「案外頑丈じゃねぇか。こりゃあ、倒すのに骨が折れそうだ。まぁ、お前の拳で易々倒されるほど、ヤワな体してねぇがな!」
威勢よく吠える左之助。
「それじゃあ、次行きますよ。」
「おう!こいや!」
構える左之助に歩きながら近づき距離を測る。この辺だな。よし。
りゅうのすけは こしを ふかく おとし まっすぐに あいてを ついた!
「ぬわーーーーっっ!」
左之助は河原を転がりながら3m程吹っ飛んだ。残念ながら、地面には砂利が敷き詰まっているんで相当痛そう。
「うそっ!」
「なっ、なんなんだよアレ!剣心!どうなってんだよ!」
神谷さんと弥彦がドン引きしているのは、まぁ予想の範疇だ。
「生身で刀と渡り合えると聞いていたが、まさかこれほどとは…。」
だけど剣心さんまでなんか目を見開いて驚いている。アンタの方がもっとすごい技とかいっぱい使えるのに何驚いてるのさ!
「いっ、今のは効いたぜ…。いい拳じゃねぇか。あんた天然理心流ってのは嘘で、ホントは拳法家なんじゃねぇのか。油断したぜ。」
ボロボロになった左之助が起き上がり、カっと目を見開き、構えをとる。
「次は俺の番だ!」
「参った。もう立てねぇ…。アンタの勝ちだ。」
河原に大の字になり、寝転ぶ左之助。すがすがしい顔をしているが、こちらの気分はいまいち晴れない。
13回だ。何がって?私が『せいけんづき』を放った回数だよ!さすがに3回目あたりから、ボロボロになった左之助を殴ることに罪悪感を感じはじめたが、目に宿る闘志に一切陰りが見えなかったため、手加減はしなかった。
「神谷先生!申し訳ないんですが荷車とお医者さん手配してもらっていいですか?」
「わっ、わかったわ。」
こうなることは予想できたんだから、あらかじめ準備しておけばよかった。失敗したな。
「医者はいらねぇ。こんな怪我、唾つけときゃ治る!」
強がりながら立ち上がろうとする左之助に冷たく言い放つ。
「敗者は勝者の言うことを聞くって、相場は決まってるでしょ。ジッとしててください。」
「へっ、優しんだな、アンタ。」
「優しかったらこんなバカな事、途中でやめてますよ。」
なんとも後味の悪い勝利だな。やっぱり喧嘩なんてするもんじゃないね。
「アンタは勝ったんだ、シケた面すんなって。」
左之助の気づかいに苦笑してしまう。敗者に気遣われてしまうとは、情けないなぁ。
「竜之介って、本当に強かったんだな。」
弥彦が真顔で呟く。今回の強さはズルみたいなものなので、素直にうなずけない。
「どうだろうね。腕っぷしはあっても、私は心が弱いからね。」
「なんだよそれ…。」
何なのだろうか。私にもよくわからない。
チラ裏ですが、ドラクエ特技炸裂、せいけんづき、竜之介age(?)と作者がやりたいことを凝縮したような回でございました。
作者はこのような二次創作が大好物です。類似品ありましたら教えてください。
ここまで読み進めていただいた方は大丈夫かと思いますが、このような訳の分からない戦闘シーン(?)、原作の大事なシーン及び展開の破壊が嫌いな場合は、この小説があまり合わないかもしれません。
鵜堂編、斎藤編も、こんな感じになる気がします。
なにとぞご容赦ください。