外伝~2~永い後日談のクトゥロニカ神話『一途な彼等』 作:カロライナ
10分ほど時間が経過しただろうか。想定していた時間より短時間で修復は終わりを告げる。床頭台の上には端座位の状態で座るドッグテイマーの姿があった。
あのうるさい口は閉じているが、刺すような視線だけはしっかりと武器を抱えている爆雷を見据え睨みつけている。
「…おい、武器も返しやがれ。こんな荒廃した世界で武装解除した状態であるこうモンならバケモノ共の餌食になるだろうが」
「あぁ。ほらよ」
「チッ…」
武器の催促に爆雷は素直に応じ、適度な距離を保ちながらもドッグテイマーの武装である二挺拳銃とサバイバルナイフを投げて渡す。彼女はその投げ渡された得物を先ほど縫合されたばかりの腕を動かし受け取るとナイフは定位置に、拳銃は細工がされていないか確認する為に舌打ちをしながらその場で点検し始める。
爆雷はドッグテイマーが人ならざるものであることに対し、悪寒をその身に染みわたらせながらも一通り彼女の武器点検が終わるまで口を開かずに眺めていた。
「小賢しい小細工はしてねぇみたいだな」
「取引には含まれていねぇが、別にそこまでする必要はねぇからな」
「はっ、そんなお人好しじゃこの世界での長生きは絶望的だな。ま、オレ様はてめぇらが早急に惨たらしく死ぬ事を祈って…」
「待て」
一通り点検を終えるとマガジンに込められた初弾を装填し両手に大型拳銃を携え、犬達に唸られながらその部屋を後にし、目障りな人間と犬どもを駆逐しようとドス黒い思想を構築しつつ悪態を付きながら台から降りる。
しかし、一歩踏み出すよりも先に爆雷の方が彼女を呼び止めた。
「あ? まだ何かあんのかよ?」
「お前が発したその情報が正確かどうか、確認するって条件がまだ残っていたよな?」
「おーおー、まだそんな事覚えてやがったのか。で、どうやって確認すんだ? オレ様はてめぇの確認作業に付き合っているほど暇人じゃねぇんだ」
「2つ質問をする。それに正直に答えてくれりゃいい。それだけで十分だ」
「ヒャハハハハハハハ! そんなことか、で? どんな質問だよ。なんでも答えてやるぜ?」
呼び止められたことに対し、彼女は面倒臭そうな顔をしながら爆雷を見つめる。それから爆雷が取引の条件に関して提示すると、条件について鼻で笑い小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべてみせる。そして提案してきた確認方法を聞くと実に馬鹿らしく、人間らしい愚かな方法であり、盛大にその場の床に笑い転げながら、意地が悪そうな笑みを爆雷に見せ受けるのだった。
『お前が俺に隠していることを全て話せ。』
「…は? はぁ…? オレ様はてめぇに全部…話し…た….」
爆雷の表情はガスマスクに遮られ、読むことができない。しかし、ドッグテイマーは背筋に恐怖とはまた一味違った、逆らえない「何か」の存在を感じ取る。
己の手で爆雷を仕留められなかった際、外の環境によって早死にするようにと隠していた情報を強固な意志で、押し留めようとするものの、口が、身体が、脳が、勝手に動き包み隠していた情報を喋り始めてしまう。爆雷が最初に出会ったとされるヘビトンボの情報、ドッグテイマーはまだ続いていると思っている最終戦争について、粘菌と呼ばれるアンデット動かしている構造の仕組みについて。犬工場について。
…隠し通したつもりだった全ての情報を赤裸々に話してしまう。
「はぁー……」
「お、おい!! てめぇ!! オレ様に一体何をしやがった!!!」
爆雷は深く長くため息を1つ吐き出す。ドッグテイマーは意志に反しながらも、自分の仕出かしたことに対し二挺拳銃を爆雷に突きつける。その顔には恐怖の色が浮かんでいるのは誰でも明確に把握することができた。
拳銃を突きつけるのと同時にドッグテイマーを取り囲んでいる犬も吠え始め、爆雷の命令1つでいつでも飛びかかることができる様な姿勢になるが、爆雷はその飛びかかりの姿勢を腕の一振りで解除させる。
「ドッグテイマー…」
「質問を続ける前にオレ様の質問に答えろ!!」
『お前は俺に隠し事をしていたって事だな?』
ドッグテイマーに対する飛びかかりを制止しながら、爆雷は呆れ返ったかのような声色で彼女の名を呼ぶ。周囲の番犬が大人しくなったことで拳銃の一つを犬に向けていたドッグテイマーであったが、全てを爆雷へと向けた。
しかし、二挺拳銃を突きつけられ脅迫状態にあっても爆雷の口調は変わる事は無かった。
「ああそうだ!! そうだが、だからなんだってんだ!!! あ、奴隷になれって事か!? ヒャハハハハハッ!! バッカじゃねぇの?! てめぇが、オレ様に何をしたのか知らねぇが てめぇがココで死ねばオレ様もてめぇの奴隷にならずに済む!! ま、最初からなる気もねぇがな! お人好しの間抜け野郎!! 死に晒―――」
『俺達に危害を加えるな』
引き金が引かれるよりも早く、医務室全体に爆雷の声が響き渡る。やがてその部屋に響いたのは、ドッグテイマーが二挺拳銃を細かく震わせる音のみだ。
「な、なんで…」
「魔術先制って知ってるか? ま、知らねぇだろうな。それじゃ、これから旅のお仲間として『同行よろしく』ドッグテイマー」
理解が及ばない自身行動に戸惑うドッグテイマーの頭に手が置かれ、まるで犬を撫でるかのように撫でるガスマスク越しに目元のみ天使のような微笑みを浮かべた爆雷の顔がそこにあった。
【おまけの後日談】
「ドッグテイマー、ちょっと『こっちにこい』」
「クソが、オレ様も暇人じゃねぇんだよ」
「悪態を付きながらも来るんだね。えらいえらい」
「気安く頭を触んじゃねぇ!」
「そんな狂犬チワワなドッグテイマーちゃんにプレゼントだ。『動くなよ』」
「てめぇ! またオレ様に…やめろ!! 首輪を付けんじゃねぇ!!!」
「大丈夫。似合ってる似合ってる」
「ぜってぇ、いつか、ぶっころす」
【後書き】
これにて
外伝~2~:永い後日談のクトゥロニカ神話『一途な彼等』閉幕となります!
そろそろ第5クトゥルフ神話TRPGも投稿したいところですね!
では、皆様 また私の小説でお会いできることを楽しみにしております。
最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました!!