オウル「段が二つ違えば―――――――」
――――――――この主人公、思った以上にソード・アートしない――――!!
そんな感じで始めます。
何かアスナ、憑き物が落ちたような晴れやかな顔してるな。
ヨフィリス閣下を連れて行くときに何か覚悟でも決まったのだろうか、偉丈夫のエルフ副官相手に全く遅れをとってない。
重武装の《フォレストエルブン・ヘビーウォーリアー》のヒョイヒョイ躱し、少しずつHPを削っている。殺めるのはきっと、嫌だろうから早く加勢しなくては。
「おのれ人族の分際で!」
「人種差別は良くないんじゃない!?」
エルフに対して『人種』と言い方が正しいのかは知らないが。
とぼけた事を言いながら、怒声と共に上段から振り降ろされた剣を、こちらも全力の振り降ろしで答える。
鋭い剣戟が衝撃となって前髪を少し揺らした、様々なバフが掛かって今はステータス以上の威力が出てるはずなのに、全く押し返せない。
今いる層を考えれば、俺のレベルはかなり高いはずなのだが・・・・。
「小僧・・・・貴様は何故、ダークエルフの味方をするのだ・・・?」
「・・・・・」
何故、と来たか・・・・。
勿論ここはクエスト云々ではなく、どんな思惑があってこの戦争に割り込んでいるのか、と言う事だろう。
ぶっちゃければ、「野郎より女の方が気が進んだからです」なのだが、そんな答えを出せば必死に戦っている女性陣から、いよいよ見限られる。
「そもそも、何でお前ら同じエルフで殺しあってんの?人族でもここまで大掛かりな戦争はしてないよ?」
勿論ゲーム内での話だが。第一、コペルを正当防衛とは言え殺した俺が言っていい事じゃないかもしれないし。
「我らカレス・オーの民は古の時代より、ダークエルフと戦い続けてきたのだ!それも全て、この虚空に浮かぶ城を解放せんがため!我らのその尊き使命、貴様なんぞに邪魔はさせん!」
「先祖代々からの報復を、未だに続けてるのか・・・・」
しかしフォールンエルフの暗躍を考えると、先祖の頃から何か仕組まれていた可能性がある。だとすれば、このエルフ達はする必要のない戦争をずっと続けていることになる。
「やるせないな・・・・」
近代の戦争の理由は(宗教関係を除くと)大体、経済・・・・詰まる所『金』だ。
ゲームのシナリオとは言え、彼らの戦いはリアルの戦争を考えれば、十分すぎる程正当性のあるものだろう。金が決して汚いというわけではなく、『先祖のため』、私腹を肥やすためではない。
何もかもゲームと割り切れない俺が軽く止めても良いものか・・・・?
「迷いがあるなら戦場に出るなッ!!」
「うおっと!?」
此方が考えていることを察したのか、鍔迫り合いから急に引き、横から蹴りを放ってくる。
咄嗟に柄で受け止めたが、騎士らしい鎧を纏っているので重量では負けている、無様に尻もちをついてしまった。
そしてそれを見逃す指揮官ではない。
「恨みは無いが覚悟ッ!!」
「――――――――」
此方が尻もちをついて、のしかかるように《バーチカル》を俺の顔面目掛けて放ってくる。
目の前の景色がスローモーションになり、こちらの顔を真っ二つにせんとゆっくり剣が迫ってくるのが分かる。
近くでは目を見開いたアスナとシノンが、遠くでは船に乗ったまま戦っているユウキ達がこちらを凝視している、これが走馬灯と言う奴か?今生の記憶は別に思い出していないが。
だがしかし、これをまともに受ければスタンが入り、続く連続ソードスキルで俺は死ぬだろう。
そんな事を正確に把握し、全神経を集中させている俺の生存本能は成程、中々有能な様だ――――――
「―――――躰道基本技、斜状蹴り」
―――――――まぁ、流石にこれ位では死ぬつもりは無いが。
尻もちをついてしまった状態から左足で相手の右腕から振り降ろされる、前に横から打つ。
ソードスキルはかなりの命中補正があるため、避けるには同じくソードスキルで迎え撃つか、大きく軌道から離れる必要がある。
「なっ!?」
が、流石にこんな無様な格好からソードスキルを放つことも出来なければ、大きく軌道から離れることも出来ない。
なのでその威力と命中補正を逆手に取り、蹴りの反作用で剣から逃げ、隙を可能な限り減らし追撃を牽制する。目の前ギリギリをライトエフェクトを纏った剣が通り過ぎた、危ねぇな!
「猪口才な!!」
ソードスキルの硬直、と言っても単発で恐らくその強さから、スキルで言う《スキル硬直時間短縮》辺りの効果ですぐさま体制を戻すだろう。
「それ実際に言う奴初めて見たわ!!」
だから勢いのまま続けて放つ。
仰向け、と言っても左足のつま先と掌で地面から数センチ浮いている状態から、体を捻じる様に右足の踵で敵のこめかみを狙い打つ。
「がッ!??」
「―――――躰道基本技、半月当て(試合ならこれで勝ったんだろうけどなぁ・・・・)」
残念ながらこれは命がけの戦闘、そしてここは戦場である。
ついでに言うならこれは飽く迄もただの武道の技、スキルではないので大してHPは減らせていない。
「ぐっ・・・咄嗟にしては中々の蹴りだが、蚊に刺された程度だな!」
「―――――言ったな?(こいつ、徒手空拳の方が・・・?)」
さっきの蹴りと言い、鍔迫り合いと言いステータスは同等だが恐らく・・・・素手の方が御しやすい。
確信を得たので俺は足もとに転がっている《ソード・オブ・ディキャピテート》を―――
「くたばr「さっきからやかましいよ、お前」なっ!!」
――――
ウル〇ラマンの八つ裂き光輪の如く回転しながら、俺の剣が指揮官に向かって行く、さしもの指揮官も度肝を抜かれたのかクラウチングスタートの様に伏せる。
「愚かな、剣を捨てるとは―――」
「―――考えなしでするかよ」
立ち上がりきる前に、距離を詰めて剣の間合いの内側に入る。
相手の右手首を掴み、肘の外側に左手を添える、左足の踵を相手に向け、踵を戻す勢いと同時に左手を上げて
「セイヤァッ!!」
「があぁぁぁぁぁ!?!?」
剣を持ったままへし折った、躰道捻体法形技、左右掌底逆手折り。
当然そのまま剣を相手に渡すわけもなく、湖に捨てる。
「おッ・・・のれぇええええええッ!!」
「―――――・・・・」
――――――――――躰道。
明治に生まれた『剣道』『柔道』『合気道』、有名な『空手道』に至っては(諸説あるが)15世紀辺りにできたという。
それに対して『躰道』が確立されたのは1965年程、『昭和中頃』辺りである。
歴史は比較的浅い、そして聞きなれない理由はもう一つ。
例えば、剣道には『剣術』という平安からの歴史が。
例えば、柔道には『柔術』という戦国からの歴史が。
しかし躰道にはそれが
近代から出来たこの武道は独自の『武術』という前身が無く、
その理念も殺傷目的では無く、人間成長を重んじるスポーツ的要素が強い。
しかも足運びも独特で、アクロバティックな三次元的な動きはすぐには覚えられない。
結論を言うと、決して躰道自体が弱いのではなく、『動きが玄人向けな上、現実的に実戦でアクロバティックな動きは使わない』という観点から躰道
「シッ!!!(旋体手刀打ち、盾を払い、首をへし折るつもりで!)」
「ガ・・・ヒュッ・・・!!」
―――――では何故、雨木梟助は躰道を体得したのか? 理由は二つ。
一つ目、仮想世界では肉体の限界が限定的にだが無いこと。
レベル1でもオリンピック選手並みの身体能力が発揮されるこの世界。
それこそHPバーがゼロにならなければ呼吸さえ必須ではないため、スタミナ切れの心配はない。
そのため現実ではあり得ない様な三次元的な動きが出来る。
二つ目、躰道の動き自体仮想世界に合っていると判断したため。
少し先程の武道の歴史に話が戻るが、剣道に至った剣術にせよ、柔道に至った柔術にせよ、地に足を付けて、一対一での実戦を想定したものが多い。
ボクシングの様に打ち合うことは少なく、本質的に『一本=即死』である。
だが、競技としての色合いが強い躰道は少し違う。
判定は『一本』『有効』『技あり』と他の武道と同じだが、
試合でも間合いは計るが体力が続き、有効打が取れない限りずっと技を放ち続ける。
そして空手と違い曲線的な激しい動きが多く、伏せてから攻撃もあり、近代の武道にしては珍しく
「ハァッ!」―――首を狙う飛燕蹴り
痛みも息切れもなく
「フッ!」――――伏せて躱した敵に追撃の旋体膝頭当て
仮想世界ならではの動きに調和し
「ウォ―――」――――距離を取られたら!
円を描くように避け、身体の合理性を生かし連続で攻め続ける。
「ラァァアッ!!」――――顔面に転体宙捻転蹴り!
「ガッハ!?!?」
そのままエルフの指揮官は受け身もまともに取らず湖に落ちた―――――――『一本』である。
――――――――上手くいって良かったぁー!
「原態復帰」、剣道で言う残心をしながら距離を取る。
ユウキやシノンで試してはいたがまさかここで使うとは、しかも丸腰で。
落ちた指揮官は右腕が取れているにも関わらず、こちらを睨みつけながら器用に泳ぎ撤退していく・・・・・・勢いで腕もいだけどプレイヤーと同じように生えてくるのだろうか?
「オウル君終わったなら手伝って!」
「っと、すまんすまん!」
《クイックチェンジ》で捨てた剣を取り戻し、アスナと副官の間に割り込み振り降ろされたハルバードを下から《スラント》で弾き返す。
「スイッチ!」
後ろからアスナが言いながら入れ替わり、鳩尾に《リニアー》を打ち込む。重装兵だけあってそれだけでは落とせなかったので、間髪入れず《ホリゾンタル》で叩き落とす。
「撤退―!撤退―!」
敵のエルフ艦も指揮官と副官が落とされた事により戦いを中断し霧の向こうへと消えていく、シノン達もキズメルも無事だ。
「・・・ふ、勝ったわ、風呂入ってくる(慢心王)」
「フラグ建てないでくれる?」
お前もか、ブルータス。
こちらのボケに合わせて、着実にツッコミスキルを上げつつあるアスナとハイタッチをする。出会いはじめを考えると、かなり社交的になったなぁ。
何かヨフィリス閣下と話し合うことがあるのかアスナはヨフィリス閣下の元へ行った、そして入れ替わる様に、
「やったな!オウル!」
「凄いじゃん!あれ何て武道なの!?」
「躰道っていうんだが・・・・そっか、フィリアには見せて無かったな」
ティルネル号から降りてきたキズメルとフィリアが労いに来た。
俺が船から降りアスナの穴埋めをすると同時に代わりにフィリアが操舵をしてくれたのだ。指揮官や副官クラスとなると戦闘向けではないフィリアでは不安が残ったため。
「勝てたからいいけど、あの武道は拓けた場所ではうまく使えないんじゃなかったの?」
「いやー、あの指揮官とまともに剣で殴り合うと手こずりそうだったから・・・」
「不意を突いてステゴロの方が勝てると思ったわけね」
そういう事だ。シノンのメイン武器は短剣なので相性は良さそうだが・・・・・・。
「まぁ、今はいいか、ところでユウキは?」
「外に出てメールを送るって、ここじゃ外の人とは連絡取れないしね」
そいうやここは隔離マップだったな、迷宮区もいい加減最上階にたどり着いていることだろう。無礼というか、礼儀知らずな話かもしれないが、早いとこ報酬をもらって攻略組に合流しなくては。
「見事な体術でした、オウル」
「ヨフィリス閣下!」
いつの間にかアスナと話し終えたヨフィリス閣下が後ろから来ていた、暗闇では声しかわからなかったが、こうして目の当たりにしても性別が分からない。
エルフはやはり性別が曖昧なのか?と思ったがキズメルの時のことを思い出し、すぐにその疑問を払拭する。シノンさん何故睨んでおられるのです?(すっ呆け)
「貴方方が居なければヨフェル城は無事では済まなかったでしょう・・・・私の心からの謝礼、そしてそなた達の武勇を称える褒賞として、二品持って行きなさい」
見てみれば後ろに馬鹿でかいチェストがあり、どれも現時点では凄まじいレアリティなのだろう。キラキラ輝いている、ついでに言えばフィリアの目もキラキラ輝いている。
うん、いいよ、俺が話しとくから行って来いよ。目で「私もういっていい?」と訴えかけていたのでGOサインを出す。
「ヤッホー!どれも凄そうなのばっかり!どれにしようかな?これにしようかな!?」
「・・・・・・何か、スミマセン」
「いえいえ、命がけで戦ってくれたのですから」
クスクスと微笑みながら、フィリアを眺めている。閣下、お歳お幾つ?
孫を見ている老人の様だ、そんな馬鹿な事を考えながら俺もチェストの品定めを始める、でもやっぱりこういうのはRPGの醍醐味だよね、スキルしかり、アイテムしかり、ポ〇モンしかり。
効率無視して御三家はいつも炎タイプです。
「剣はまだまだいけそうだからなー、コートもこっちのがまだ強いし・・・・ブーツとアクセサリーかな?」
小声でブツブツ呟きながらプロパティを見ていく。袴とかあったら後々欲しいけどアインクラッドにあるんだろうか?
そんな事を考えていると――――――
「おーい、オウルー!」
「んー?ユウキどうした、今ちょっと手が離せないんだけど」
「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
「出来る事なら何も聞きたくない、聞かなかったことにしたい」
それも立派なフラグですよね?そのセリフが出たドラマとか映画、大体後で面倒な事が起こるよね?
「じゃあ独断と偏見で悪いニュースから」
「なんでだよ、せめてそこは良い方からだろ」
「攻略組がボス部屋に特攻しました」
「うん、もうそれで全て片付いたよね?良い方はどうせ迷宮区の最上階まで行ったとかだろ?」
実質悪いニュースだけだった。
ディアベルが先導したのか、キバオウが先走ったか、ジョーとかいう奴が扇動したのか。
それともあの、なんだ、何だっけ?
ディアベルの事信奉してるシミター使い?ハイ〇ル王国いつも救ってる緑色の勇者みたいな名前の奴。
「あ~・・・攻略組が昇り始めたのはどのくらい前だ?」
「一時間位前かな?」
「どうするの、オウル?」
もう選び終えたのか、真新しいブーツを履いてるシノンが問いかけてきた。
いや、どうするって言ってもな、正直褒賞選びに専念したい。そんな意識低い系攻略組オウルこと俺は、取り敢えず今から追いかけた場合のデメリットとメリットを天秤にかける。
「今からじゃあ、ボス部屋に割り込む形になるからな。いいんじゃない?この層位、参加できなくても」
今や、このパーティーの平均レベルは17程、多分フィリア辺りがレベル上がったのでもう少し高いかもしれないが、リーダー格のディアベルやキバオウでも14,5位だと考えれば十分すぎる。
「オウル?天柱の塔の守護獣に挑むのか?」
「正確には俺たちの・・・・同僚?がね。まぁ、もう間に合いそうにないし、足並み乱して事故とか起こったら怖いし、今回は見送るよ」
自惚れではないが、俺が戦おうと言わなければここに居る全員無理に戦いに行きはしないだろう。アスナもやり切った顔しているし、今から効率云々言わないだろう。
しかし閣下とキズメルの顔は翳っている。
「オウルよ、人族の戦士は水の上を走れるのですか?」
「え・・・・いや無理ですよ?少なくとも戦いながらは・・・」
閣下が聞いてくるので一瞬考えるが・・・・アルゴの奴は走っていたがあれは特殊な例だろう、攻略組にアルゴと同じくらいAGI極振りの奴なんていないはずだ。
「そうですか・・・・私達も伝承でしか聞いたことが無いのですが、ここの守護獣はヒッポカンプという怪魚らしく、どれだけ乾いた土地であろうと水を湧かせる能力がある、と」
ヒッポカンプ、確かギリシャ神話の海馬だっけ?ベータの時のボスはヒッポグリフ、ハリー〇ッターで有名になった奴だ。
と言うかだ、その話が本当なら早く行かなくては全員溺死してしまう。正義の味方でもないのに理想を抱いて溺死する。
「マズいな・・・・全員一回褒賞選びは中止!今から迷宮区に昇る!ユウキ、アルゴに―――」
「大丈夫!念のために迷宮区の入口で待機してもらってる!」
「でかした!シノンとアスナは―――」
「「もう選び終わった!」」
早いね、君ら。じゃあ―――――
「行くぞフィリア」
「あと五分!」
寝起きか。
「行こうねフィリアちゃん」
「あと気分!」
どんだけー。
「四十六億年!」
「不老不死かお前は!てか地球もう一個出来るわ!」
ファミレスのおもちゃコーナーに噛り付く子供の如く駄々を捏ねるフィリアを、肩の上に米俵の様に担ぎ、ティルネル号に乗り込む。
わがまま言うんじゃありません!また戻ってくるから!
「慌ただしくてすみません、また戻ってきますので。キズメルもまたな」
が、何と言うか、エルフは顔立ちこそ北欧系な感じだったが、思いやりはジャパニーズ基準だった。
「何を言っている?私も行くさ、勿論」
「what’s???」
思わずメッチャネイティブな感じで聞き返してしまった。そして二次会の飲み屋に同行するかの如し気軽さで、
「あぁ、では私も」
ヨフィリス閣下が言って、数舜間を置いて。
「「「「ええぇぇぇぇーーーーーーー!?!?」」」」
四人の少女の驚愕が湖面を大きく震わした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふ、勝ったわ、風呂入ってくる(正気/zero)。
武道にかなり詳しい方が居たら、少し不自然な所があるかも知れませんが、「まぁ小説だし」と流してください。
好きな休載してた漫画が再開する目途が立ち、今回はこんな感じになりました。