宙ぶらりんのお姫様   作:TS百合好きの名無し

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区切りのいいとこまで書けたので投稿します。

※注意! 今回の話には悪質なキャラ付けなどの胸糞展開があります(特定のキャラへの風評被害を防ぐため、主要人物以外の名前などはあえて何も決めていません)

書いててメンタルがガリガリ削られました……
それでもよろしいという方は心の準備をしてからどうぞ。


ヒーロー

 

 

 

 困っている誰かを助けられる人になりたい。それが艦娘になる前からの少女の夢だった。

 

 ごくごく普通の家に生まれたが両親は仕事で家を空けることが多く、実質独り暮らしという環境の中で彼女は育った。親に甘える機会が少なく、いつも孤独や寂しさを感じていた彼女。けれども幼いながらに彼女は理解していた。

 

 ―――お母さんとお父さんはお仕事で忙しいんだもん、邪魔にならないように自分はいい娘でいなくちゃ。

 

 そうしないと自分は嫌われてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

 

 彼女の憧れは物語の主人公のようなヒーロー。

 誰かのピンチに颯爽と現れて助けてくれて、とっても強くて優しくて眩しくて、たくさんの人から必要とされる……そんな存在。誰かから必要とされたい。いつからか彼女はそう願うようになっていた。

 

 ある日両親が離婚した。彼女がまだ十歳にも満たない頃の話だ。とても辛くて悲しかった。自分を引き取った父親は相変わらず家に帰って来ず、彼女の存在など忘れてしまっているかのようだった。

 学校にも、いつの間にか自分の居場所はなくなっていた。

 

 

 ───君は艦娘の適性があるね。

 

 十歳の時の艦娘適性診断で言われた言葉。

 艦娘……ある日から世界中の海に現れた謎の怪物たちと戦う護国の戦乙女。かつての軍艦の魂をその身に宿し、人々を守るために今日も海で戦っているらしい存在。それになれば自分も誰かから必要とされる人になれるかもしれない。

 

 幼い少女は艦娘に志願した。最初から艦娘として存在するドロップ艦娘とは違い、ただの人間からの艦娘化の手術の成功率は60パーセントもないんだとか、記憶を失ったり魂を乗っ取られる場合もあるなどと色々聞かされたけれど、全てどうでもよかった。彼女にとってはなりたい存在になれるかどうか、ただそれだけ。

 彼女の決定に父親は最後まで何も言ってこなかった。

 

 睦月型駆逐艦の七番艦『文月』。それが艦娘となった少女に与えられた名前。幸か不幸か、彼女は何の問題もなく艦娘となった。

 

『あたし、文月っていうの。よろしくぅ~』

 

 そして少女は艦娘の世界へ足を踏み入れた。

 

 きっと彼女は誰かに助けて欲しかったのだろう。自分はただ困り続け、誰かの助けを待つことしか出来ない存在だと思っていたから。

 

 こんなあたしでも、誰かを助けられるんだ。

 困っている誰かの力になってあげられるんだ。

 平凡だと思ってたあたしにも、才能ってあったんだ。

 

 なら、あたしは……

 

 

 初めて海の上に立ってワクワクした。初めて握った砲にドキドキした。初めて放った魚雷の威力に驚き感動した。

 

 なれるかもしれない。自分が憧れたヒーローに。自分の心の大きな隙間に熱い感情が流れ込んできた。それはとても心地の良いものだった。……最初の内は。

 

『どうしてまともに当てられないんだ。君は真面目にやっているのかい?』

『だ、だって相手の動きが本当に早くて……』

『他の娘は当ててるじゃないか。君だけだぞ? ウチの鎮守府で出来ていないのは。悪いが君一人にいつまでも付き合っていられるほど、こっちも暇じゃないんだ』

 

 自分には艦娘になれる素質はあっても、それだけだったのだ。

 もちろん努力はした。それでも言われたことが何一つ上手く出来なかった。周りはそんな自分を笑い、司令官は失望した。一緒にいては自分も悪く言われるからと、数少ない仲間たちも離れていった。

 

『君のような役立たずはここに必要ない』

 

 ―――心の中で、何かが折れる音が聞こえた。

 

 役立たずの烙印を押され、別の鎮守府に飛ばされた。けれど新しい場所でも結果は同じだった。

 

『的にしかならんではないか。こんな役立たずを引き取ったのは間違いだった』

 

 そうして各鎮守府を転々とした。どこでも結果は同じ。自分を本当に必要としてくれる人は1人もいなかった。

 

『うーん、君の実力ではちょっとね……』

『まったく……貴様は資源の無駄遣いにしかならん』

『お前はいるだけの存在だな。ウチには必要ない』

『鈍臭いし、うじうじしてて暗いしで、本っ当に役に立たないわね。見ててイライラする。早く別の鎮守府へ行ってちょうだい』

『君は艦娘に向いてないよ』

『さっさと家に帰れ。それが一番だ』

 

 やがて自分はブラック鎮守府と呼ばれる場所にやってきた。

 

『……貴様は捨て駒だな。出撃は明日だ。その命をかけて旗艦を守れ』

 

 完全にこちらを見下した目。その目は『お前など必要ない』と物語っていた。

 

 

『おい新入り、出撃だよ』

 

 見るからに強そうな艦娘たちに加わって出撃した。戦艦、空母、重巡……少女と違って強く優秀な艦娘たちなんだろう。

 

『ちっ、今日はやけに敵が多いな。ついてねえ』

『弾薬の残りも少ないし撤退した方が良くない?』

『でも奴ら、結構しつこいですね……何か手を考えないと……』

『あら、そういえばちょうどいいのがいたじゃない』

『なるほど、有効活用ってやつだな』

 

 その日の出撃は敵との遭遇率が高かった。度重なる戦闘で弾薬が心許なくなったところでまた敵艦隊と遭遇し、自分たちは撤退することになった。自分以外の艦娘たちが無線で何かを喋っていたけれど、何を話しているのか分からない。

 

 今は敵艦からの逃亡中、旗艦の人が自分を手招きしてきたのでそちらへ向かう。

 

『喜びなさい。落ちこぼれの役立たずに良い仕事をあげます』

 

 その人は形だけの嫌な笑顔を浮かべてそう言った。

 

『行ってらっしゃい』

『え……?』

 

 お腹に激痛が走り、気がつくと自分の体は宙を舞っていた。

 

『が…ふ!?……あぅ…あ…ぐ、うう……』

 

 痛い。海面に叩きつけられ、別の場所にも痛みが走る。虚ろな意識の中、かすかに耳に聞こえたのは遠ざかっていく嘲笑。自分は囮として捨てられたのだ。

 

 全身が、心が、痛い。どうして自分は蹴られたのだろう。どうして彼女たちはあんなに遠くにいるのだろう。どうして自分は一人で敵に囲まれているのだろう。

 

 きっとあたしが落ちこぼれだからだ。役立たずだからだ。だから『必要ない』んだ。

 

 砲撃もロクに当てられない。大事な場面で何度も味方の足を引っ張る。鈍臭くてすぐに落ちこむ。いっつもうじうじしてて暗いヤツ。見ててイライラすると怒鳴られる。

 こんな艦―――必要ないもんね。

 

 立ち上がる気力もない。やがて来るであろう死。恐怖に怯えて目を瞑り、歯を食いしばる。

 自分に向けられたいくつもの主砲。きっとこれから想像を絶する痛みが襲いかかるのだろう。いや、もしかしたら痛みを感じる間もなく一瞬で死ぬのかもしれない。

 体が強張り、真っ暗の視界の中、砲撃音が一斉に聞こえた。

 

 

「諦めないで」

 

 

 鈴のような声が少女の耳を打つ。優しく抱き上げられ、少しして下ろされる。

 砲撃音と敵艦の悲鳴をBGMに、彼女が目を開くと、涙で滲んだ視界の先に、誰かの小さな背中があった。

 

 桜色のセーラー服を着た白い少女が自分を守るように立っていた。

 

 彼女は煙の上がる砲を片手で構えたまま、もう片方の手で顔にかかった髪を払った。

 

「……すぐに終わりますから」

 

 一歩前へと踏み出しながら、文月を落ち着かせるように言う。

 

「良い子にしていてくださいね」

 

 臆することなく、怪物たちの前へと、進み出るその姿は何処までも落ち着いていて、とても凛々しかった。高鳴る鼓動、熱を帯び始めた頬に手を当て、ゆっくりと息を吸い込む。

 

 文月の瞳に映る少女の姿は、まるでテレビや本の中にしかいない、子供を守るヒーローのように映っていた。

 

 

 

 

 

 




ヒーローは遅れてやってくる。

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