宙ぶらりんのお姫様   作:TS百合好きの名無し

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どうでもいいことかもしれませんが、私の作品内では「この娘」と出てきたら基本(このこ)という読みの意識で書いています。
それはさておき、地の文書くのがすごく大変です。正直苦手と言ってもいいほど。執筆にかなり骨が折れます。
だからと言って会話ばかりにすると内容が軽く見えるという不思議。前回と今回は難産でした。次回も多分。
今回も全然長くないので、ゆっくり読むことをおすすめします。


抱擁

 

 

 

 間に合った……その事実に小さく胸を撫で下ろし、ハクは自身の腕の中でぎゅっと目を瞑っている少女を、そっと下ろした。

 はっきり言って状況は全く分からない。深海棲艦たちに砲撃しつつ、無我夢中で少女に向かって飛び、なんとか被弾を避けることが出来たが、依然として危険な状況のままだ。

 

(私を見ても砲を下ろしませんね。それどころか狙いまで付けている)

 

 突然現れたハクへの動揺は見てとれるが、殺意と敵意はしっかり彼女に対しても向けられている。話し合いの出来る相手ではない。戦うしか背後の少女を守る道はないだろう。

 

(レディー、力を貸して)

 

『もちろんよ。でも大丈夫、あなたの体は戦い方をきちんと知っているわ』

 

(そうですか、レディーを信じます。……そういえばこれはまだ試したことがなかったですね)

 

 ハクは右手に付いたわるさめ砲を展開解除。イメージするのは12.7cm連装砲B型改二……俗に夕立砲と呼ばれる駆逐艦用の主砲と五連装酸素魚雷。真っ白な光がハクの右手と太ももを覆い、光が消えるとそこには彼女がイメージした通りの武装が装備されていた。

 

(完全な艦娘用の兵装……こんなことも出来たんですね)

 

 ますます自分という存在が分からなくなってきたが今は気にしても仕方ない。

 

『ハク、先頭の軽巡が狙ってる!防いで!』

 

 瞬間、彼女の体は迷うことなく、流れるような動きで標準を合わせ、引き金を引いた。

 

「ガアッ!?」

 

 一撃目で相手の砲が爆発四散、二撃目で胴体を撃ち抜き沈黙させた。とっさに動いた自身の体もそうだが、武器の想像以上の威力にも驚く。

 

(とにかく今は……この娘を守る、それだけです!)

 

 恐怖はない。守るべき存在が後ろにあるから。

 敵が体勢を整えるのを許さず、ハクは殺意の塊の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 鳴り止まぬ砲撃音と敵の叫び声。文月はその場にぺたんと座り込んだまま、眼前の光景に心を躍らせる。

 

 右手に駆逐艦の主砲、両太ももに酸素魚雷を装備した白い少女はたった一人で五隻の敵艦と渡り合っていた。敵はすでに文月のことなど眼中になく、少女しか見ていない。

 

 人型の敵重巡リ級と撃ち合う少女の背後にもう一隻のリ級が回り込む。あのままでは危ない。少女の背後をとったリ級が砲撃。だがその瞬間、少女はまるでそれが見えていたかのようにしゃがみこんだ。放たれた砲弾は少女と撃ち合っていたリ級に命中、さらにそのリ級から遅れて放たれた砲弾が背後のリ級に当たり、同士討ちとなった。

 狙い通りだと言わんばかりに少女は前後のリ級たちを軽く一瞥し、魚雷を一本ずつお見舞いして次の標的へ向かう。

 

 残り三隻。だがその内の二隻の敵駆逐イ級は少女の砲撃から旗艦の戦艦ル級を庇い、立て続けに一撃で沈んだ。

 大きな水柱が上がりル級の姿を隠してしまう。

 

 そこでふと少女がこちらへ振り返り、彼女と文月の視線が交わった。

 透き通るような紅い目が文月を映している。心臓の鼓動が、頬の熱が、一層激しさ増した気がした。あっという間に四隻の敵艦を沈めた彼女はどこまでも自然体で、余裕すら感じさせた。

 

 そして水柱が消える。再び姿を現したル級の砲はしっかりと少女に向けられていた。

 

「あ、危―――」

 

 危ない!と言いかけた口は少女が海面を指差したことで止まる。

 

「大丈夫、もう終わりですから」

 

 文月の目はル級の前の海面に数本の白い雷跡を捉えた。

 轟音。一際大きな水柱が上がった。少女はその様子を澄ましたように眺めている。

 

 ああ、駄目だ、やっぱりかっこいいや。目が離せない。

 

 一目見た時から感じていた胸の高鳴り。心臓がばくばくとうるさいし、顔がすごく熱い。まるで憧れの人を前にした乙女のように鼓動が鳴り止むことはなく、文月は惚けたようにそれを眺めていた。

 

 あの娘が、きっとあたしが憧れた存在なんだ。

 

 自分がなりたかった理想の姿。テレビや本の中のヒーローのように誰かのピンチに颯爽と現れて、守ってくれて、可愛くて、綺麗で、かっこいいヒロイン。それに比べて自分は……

 そこまで考えて、冷水を浴びせられたように、自身の熱が急激に冷めていく。

 泣いちゃ駄目だ。我慢しないと。せっかく助けてくれた少女を困らせてしまう。意思とは反対に少女を見つめる視界がどんどん曇っていく。

 彼女はなんて眩しい存在なんだろう。こんな、誰からも、必要とされない自分なんかより、遥かに───

 

「泣いているんですか?ああ、もう、ほら……」

「うぁ……」

 

 自分とそこまで変わらない、けれども少し大きい体に抱き寄せられる。冷え切った心と体を温めるように、慈しむように、包み込むように、そんな優しい抱擁。

 文月の瞳のダムはあっけなく崩壊した。

 

 

 

 

 ハクは自身の腕の中で嗚咽を漏らす少女を見る。彼女はこの少女の名を知っている。睦月型駆逐艦七番艦『文月』、それがこの少女の名だ。

 ハクの知る文月という艦娘は、「天使のロリボイス」と言われるほどの甘ったるい声、「ゆるふわ系」で全体的にポケポケとして掴みどころがない口調、戦闘時での砕けた物言いというギャップが特徴的な艦娘だ。

 

(だけどこの娘は……)

 

 彼女と顔を合わせたハクが見たのは、暗く濁った少女の目。その奥には恐怖でも絶望でもなく、ただ深い悲しみと大きな孤独があった。文字通りその目は死んでいた。

 それを見た瞬間、思わず彼女を抱きしめていた。一体彼女に何があったのかハクには分からない。だが彼女の抱える悲しみや孤独を少しでも癒やしてあげたかったのだ。

 彼女のさらさらな髪を優しくなでると、嗚咽が一層ひどくなり、胸元にぎゅうとしがみつかれる。自身の腕の中で泣きじゃくる小さな彼女の存在が堪らなく愛おしい。

 辺りが暗くなるまで、ハクは静かに少女を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 




ハクちゃん強い(姫は伊達ではない)

次の話は現在半分ほど書けているのですが……軽い百合?というか女の子同士の絡み?というか……書くのが難しくて難航中です。

そもそもこんなの需要があるのかすら……

文月との絡み要りますかね?(ツインテ幼女とポニテ幼女の絡み……個人的にはありですけど。……ホント何書いてんだ私は)

ではまた。

世に文月のあらんことを……
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