「えっと、こんばんは?」
ル級は混乱していた。数時間前……仲間とはぐれたのか、たった一隻でいた艦娘を偶然発見。これはチャンスとばかりに彼女たちはその艦娘を襲うことにした。だが仕留めきれず、逃げる艦娘とル級たちの鬼ごっこが始まったのだ。
「私の拠点に何の用ですか?」
その艦娘を追いかけている内にとある島に辿り着いた。夜であるため獲物を見失いかけていたル級たち。獲物が逃げていた方向に島があったので、島のどこかに隠れたかもしれないとル級は部下に命じて島の周囲を偵察させていた。
だが旗艦である彼女が部下からの報告をここで待っていると島の方から何かが近付いてきた。部下ではない事はすぐに分かった。近付いてくるにつれてその姿がル級の目に入った瞬間、彼女は慌てた。
「あの……」
現れたのはセーラー服を着た幼い一人の少女。長い白髪で背は低い。そして何の武装もしていなかった。
しかし……彼女の赤い瞳が彼女自身が何者かを示していた。
(赤イ瞳、ソシテ感ジルコノ存在感……鬼デハナク姫様ダト!?コンナ所ニ姫様ガオラレルナンテ聞イテナイゾ!?)
ル級たちにとって鬼、姫とは自分たちとは一線を画する存在である。彼女たちに逆らえばただではすまない。このル級は以前姫に逆らった者が一瞬で肉塊に変わった瞬間を見た事があった。彼女たちは圧倒的な耐久力と攻撃力を持ち、ル級たち深海棲艦を従えるボスなのだ。
それが突然目の前に現れ自分に話しかけてきている。こんな幼い外見であろうと姫は姫。武装もせず無防備に立っているのは余裕の表れだろうか。
「聞こえてますか?」
「ナ、何ダ…何デショウカ?」
目の前の姫様の機嫌を損ねまいとル級は震える声で返事をした。
「あ、やっとお返事が返ってきました……あの、私の拠点に何の用でしょうか?」
「ヘ?拠点?ココハ姫様ノ拠点ナノデスカ?」
「はい、拠点で寝ていたら砲撃音が聞こえてきましたので外へ出た所、あなたたちがいまして」
目の前で無防備な姿を晒したまま少女が言う。こんな所を拠点とする姫様をル級は知らなかった。だが目の前にいる少女は間違いなくその存在感を放っている。
(シカシ、姫様トハイエ自分ノ部下デモナイ私ニココマデ無防備ナ姿ヲ見セルトハ……)
姫は上に立つ存在であるが故に威厳というものを持っている。簡単に言うと部下を従えるカリスマのようなものだ。だか目の前の少女からは威厳のようなものをまるで感じられない。ぼーっと自分の顔を眺めているだけ。一体何を考えているのか全く読めない。
(何ダコノ姫様ハ……)
一方その姫様は、
(なんかまた静かになっちゃいましたね)
『口数の少ない人なのかしら?』
何も考えていなかった。呑気である。
「ええっと……何かをお探しでしょうか?」
「……!」
その言葉にル級は我に返る。
「実ハ艦娘ヲ一隻追ッテイマシテ……」
「え?ああ、あれですか。それならもうとっくに向こうの方へと逃げて行きましたよ?」
そう言って少女は適当な方向を指し示す。
「ナッ!?」
「追うなら早くした方が良いですよ」
「報告感謝シマス!」
少女が嘘をついているなどとは微塵も思っていないル級は礼を言った後、慌てて部下たちを呼び寄せると少女が指差した方向へと消えて行った。
「これで良かったのかな」
『別にあなたがどちらの味方をしようが、私はとやかく言うつもりはないわ』
「敬語使われた……」
『そりゃ、あなた姫だもの』
「実感ないです」
『いずれ慣れるわ。それよりも艦娘の方はどうするの?』
「あっ」
少女が根城である廃船の元へと帰ると先程の少女が船の影に隠れてこちらの様子を窺っていた。
「おーい、もう大丈夫ですよー」
「……っ!」
彼女が後ずさる。
(そこまで露骨な反応をされるとキツいです)
『普通よ普通』
「シロ」
虚空に黒いもやが発生し、シロが現れる。
「了解。修復材ですかい?」
「!?」
(喋った!)
『完全に同期したからこの子の声も聞こえるようになったのね』
「ご主人?」
「…ああうん!お願い!」
シロの口から資材とバケツが飛び出す。
「ただ、バケツのストックは後6個しかないので気をつけてくだせえ」
「6個もあれば十分だよ」
バケツと資材を持って艦娘に近づき、それを艦娘の足近くに置く。
「修復材と資材です。ご自由にどうぞ」
「……」
「私はこの船の中で寝ていますから。ええっと……おやすみなさい」
シロに腰かけ運んでもらい船内へと戻る。
『……他に何か言う事は無かったの?』
「女の子と話した事がほとんど無くて……それと今すごく眠いんです」
ベッドに倒れ毛布を被ると猛烈な睡魔が襲ってくる。
『……まあたしかに今はやたらと話しかけても警戒されるだけか。朝になったら起こしてあげる』
「ありがとう……ござい…ます」
(どうしよう……)
艦娘の少女は目の前に置かれたバケツと資材を見て唸る。
(敵……じゃない?いやでもあの赤い瞳は……)
だが自分に対する敵意を全く感じなかった。その上こんな物まで用意してくれた。
「分からない……」
すると彼女の艤装から何かが飛び出す。その何かは小さな人間のような姿をしていた。大きさは手のひらに乗るぐらいしかない。彼らはバケツと資材に走り寄り何かを確認した後と少女の方へ振り返る。
「本物?ありがたく受け取っておくべき?」
彼らはこくりと頷く。
「妖精さんがそう言うなら……あ」
ぐらりと少女の体がよろめく。今まで保ってきた緊張の糸が切れたのだ。
「ごめん……もう限界」
倒れた少女に慌てて妖精たちが駆け寄った。
翌朝、廃船のすぐそばで眠る艦娘に膝枕をしている白い少女の姿があった。
『……何故膝枕なの?』
「……?地面に寝かせておくのは可哀想なので」
『(船内から毛布と枕を取ってくればいいだけじゃない……なんて言うのも野暮か)』
ちらりと少女は艦娘の姿を確認する。
青みがかった頭髪は短いツインテールに纏められ、髪留めの紐は上にはねている。緑色の着物に身を包んでおり、下は暗緑色のミニスカート仕立ての袴で袖振りの部分が緑から白へのグラデーション。そして見事な胸部装甲。右手を見ると弓道などで使う薬指と小指が露出した手袋(ユガケ)をつけている。 足は生足に足袋を履き、そこから下駄型の主機を装備していた。
「そして横に置かれているのは飛行甲板と矢筒と弓ですね」
『空母の娘ね』
「修復材、使ってくれて良かったです」
所々衣服が破けているものの、そこから覗く肌色には傷一つ無い。
『本当はドックで使うんだけど直接塗っても効果はあるのよ。……で、そろそろ離れてくれない?』
「「「「いやでーす」」」」
声は少女の頭上と横からあがった。妖精たちが少女の頭と肩にしがみついているのである。
「妖精さんに好かれちゃいましたね」
『しかも私の声も聞こえているっぽいし……』
艦娘に寄り添い治療を続ける妖精たちを見た少女が彼らにヤシの実を与えた所、すっかり懐かれてしまった。
「私が怖くないのかな?」
『艦娘の気配も持っているから、それが妖精には分かるんじゃないかしら?』
「あなたいい人ー!」
「ヤシの実美味しかったです…まる」
「蒼龍助けてくれてありがとー」
「髪真っ白ー。綺麗ー」
(あ、やっぱり蒼龍なんだこの娘)
妖精の一人が漏らした艦娘の名前は予想通りのものだった。やはりここは少女の知っている艦娘のいる世界らしい。
「妖精さん、ここに来るまでの経緯を簡単に教えていただけませんか?」
少女の膝の上ですやすやと眠る蒼龍はまだ起きそうもないので妖精たちに事情を聞く事にした。
妖精たちの話をまとめるとこうだ。
いつものように仲間と出撃。出撃先で深海棲艦との交戦中に海の天候が崩れた。戦闘の混乱で仲間と離れていた蒼龍は嵐に飲まれ一人遭難……その後鎮守府を目指して進むも途中であのル級たちと遭遇、振り切ろうと逃げているうちにこの島を見つけたらしい。
(ブラック鎮守府で単艦出撃させられた~とかじゃなくて良かったです!)
『真っ先にブラック鎮守府が出てくるのもどうなのよ』
蒼龍の顔を眺める少女。しかし視線はだんだんと……
「それにしてもでかい」
呼吸する度に上下する二つのお山はとてつもない存在感を放っていた。何故この娘は胸当てという物を着用しないのだろうか。気をつけねばはみ出てしまいそうだ。
『……比べるのはやめときなさい。これは別次元の存在よ』
少女が自身の胸をぺたぺた触っているとレディーから慰めるような声がかけられた。
空母たちのおっぱい担当艦には何故か胸当てが無いという謎。