フランドールと一週間のお友達   作:星影 翔

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思っていたより過程が長くなってしまいました。
◯あとちょっとだけ手直ししました


2日目 願う者と説く者 その壱

 翌日、あの長く、とても止むとは思われなかった雪が突然ピタリと止んだ。そればかりではなく、辺りの植物たちもそれをあらかじめ理解していたかのように同時に一斉に花を咲かせ、今や館周辺はまるで夢の楽園のような雰囲気を醸し出していた。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりっ、咲夜」

 

 異変を解決し、帰ってきた咲夜を笑顔で出迎える。それに対して咲夜も笑顔で「妹様、ただいま帰りました。」と返してくれる。それに続くようにお姉様が、そしてパチェがやって来る。

 

「おかえりなさい」

 

 この和やかな雰囲気と弾けるようなみんなの笑顔が私は大好きだ。495年生きてきて、今まで他人の笑顔なんてほとんど見てこなかった。いや、見られなかったんだ。私自身も今まで笑うという事はほとんどなかった。私は自分を閉じ込めたお姉様を恨み、それにひたすら我が身を委ね、壊すことばかりを考えた。その結果、それがもう一人の狂った人格を作り上げてしまった。無論、あの時に笑顔なんて文字は私の頭には一文字たりとも存在するはずがなかった。

 私に笑い方を教えてくれたのは彼…。

 彼と出会った事で私の心は救われた。どんな時だって彼は私のために一緒にいてくれた。たとえ離れてしまっても必ずやって来てくれた。それがたとえ私が狂っていた時でも…。彼には計り知れない恩がある。

 そして、私はいつのまにか彼を好いていた。友達という意味ではなく、本当に彼の事を想っていた。

 

 だからこそ彼には死んで欲しくなかった…。これからもずっと私と一緒の時間を過ごして、色んなところを二人で行きたかった。

 けれど、私達二人にはそんな時間は与えられなかった。

 彼は人間の中でも極端に寿命が短かった。それはどれだけ抗っても変わることのない運命。どれだけ彼を想っても、どれだけ彼と何気ない日々を過ごしたくても、この揺るがぬ事実が私達を引き離していく。それが苦しくて、それが寂しくてたまらなかった。「ありがとう」と遺した彼の言葉を聞いた時、私は決して「こちらこそありがとう」とは言えなかった。どちらかというのなら、私は彼の死を認めたくてただ泣くことしか出来なかった。

 

 今でもたまに彼と一緒にいる夢を見る。

 彼が笑う。私が笑う。そんななんの変哲もない夢だったけれど、私にとってはそれだけで十分だった。

 ただ、それが現実だったら…とそれだけを心残りにして…。

 

 私は彼に飢えていく。寂しさを抱えながら……。そんな時、お姉様は私にあることを教えてくれた。

 

 

 『冥界に俊がいるかもしれない』と………。

 

 

 私は決意した。彼の元へと向かうことを…。危険を冒しても彼に会いたいと願う自分の心に従うことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 皆が寝静まる頃合いを見計らって私は屋敷を飛び出した。他のみんなに迷惑はかけたくなかったし、私自身としても、出来れば彼と二人きりで話がしたかった。

 

 とはいっても、どうも冥界がどこか分からない。お姉様から詳しいことは何一つ聞かなかったからまったくのゼロから捜索しなければならない。

 

「場所くらいちゃんと聞いておけばよかったかもね…。いや、それだとバレるか…」

 

 一人ブツブツと零しながら、お姉様の言っていた「冥界」を探す。しかし、やはり隔離されて面積が狭いとは言っても幻想郷だ。探すのは困難を極める。竹林の中や、ジメジメする森を散策してみるも、一向にそれらしいものはない。

 けれど、彼と再会したいという強い思いが私を前へと突き進める。「諦める」という選択肢は存在しなかった。

 

「絶対に会いにいくからね、俊」

 

 そうこうしているうちに気付けば、彼を探し始めてから数時間が経過し、東の空がわずかに明るくなってきていた。吸血鬼の活動限界時間が迫ってきている。太陽の光は吸血鬼にとって猛毒と一緒だ。日傘のようなものがあれば十分にカバーできるのだが、今の私はそんなものは持ち合わせていないし、昇りたての朝日の角度を考えても日傘では防御しきれない。

 

 その場で小さく溜息をつく。仕方ない、今日絶対見つけなければならない訳でもない。明日もある。そう自分に言い聞かせてみる。

 だが、そんな私の心を本能が拒んだ。今を逃せば二度と彼に会えない、そんな思考がパッと頭に浮かび上がった。どこかで彼がそう言ってくれてるみたいにそれは私の頭の中をいっぱいにする。

 無意識に顔を上げた。

 その時だった…。

 

「……あれは?」

 

 私の視界に小さな穴のようなものが映る。空に存在する見えるか見えないかくらいの小さなその穴はその遠さにも関わらず、その異質な雰囲気を私に感じさせていた。

 地面を蹴り、翼に魔力を流し込んで空を飛ぶ。

 しばらくすると私の眼前に巨大で真っ暗な闇が現れる。同時に私は確信した。

 

「きっとここね…。お姉様の言っていた冥界っていうのは…」

 

 不思議とこれが冥界への入り口だと瞬時に確信できた。ただの直感に過ぎないけど、なぜかこの先に俊がいる気がする。この先で私を待ってくれている気がする。

 その真っ暗な闇の中へと手を伸ばしてみる。中はひんやりとしていて、春なのにも関わらず、昨日までの冬の寒さを想起させるほどであった。夜目が効く吸血鬼でも見えないほどの闇を前にした時、少し恐怖を感じた。この先に広がっている世界が想像できない。それが想像以上に警戒心を刺激するんだということを理解した。

 

 俊は私と出会う時、どんな気持ちで来てくれていたのかな…?

 

 そんな思考に幾許(いくばく)(ふけ)っていると、意を決してその異質極まる穴へと飛び込んだ。

 

 目が回る。重力があっちこっちへと切り替わって感覚が掴めない上、その度ごとにやってくる浮遊感が不快で仕方ない。もはや落ちてるのか上がってるのか、回ってるのか静止してるのかも分からなくなってる。

 そんな空間にしばらく囚われていたかと思えば、気付いた時には私の身体は薄暗い世界の中、冷たい石畳の上に横たわっていた。

 

「……ここは?……うっ!?」

 

 さっきの空間のせいか、頭痛がひどい。少しばかり吐き気もする。立とうとするも平衡感覚が定まっていないのか、上手く立てない。

 しばらく四つん這いの状態を維持して感覚を取り戻したところで、改めて私は立ち上がり、辺りを見回す。どうも薄暗くて見えづらいが、明かりのついた広く長い階段は視認できた。そして、空は真夜中かと錯覚してしまうような暗黒で、その中に白くふわふわした物体が数多く浮遊している。

 

「しゅーーんっ!!いたら返事して!!」

 

 階段を上りながら彼を呼ぶ。ここまで来ればあとは彼に委ねるしかない。彼も間違いなくここで行動している訳だから、変に動いて入れ違いになるのは避けたい。だから、私はこうしてのんびり動きながら必死に彼を呼ばなければならない。

 

「俊っ!いるんでしょ!?」

 

「いるよ…、ここに」

 

 あの声が聞こえる。上だ。私はそれに従って視線を上に向け、彼を探すべく見回してみる。すると、長い長い階段の中途の踊り場に彼の姿はあった。

彼は私と目が合うのを合図に一段ずつ下りてくる。

 彼が下りてくる。ゆっくりとした足取りで、あの頃と変わらない笑顔で、私を真っ直ぐに見つめながらやって来る。

 そして、私から二段ほど上のところで立ち止まり、口を開く。

 

「来てくれたんだね、ありがとう」

 

 彼の感謝の言葉に思わず涙ぐむ。本当はこちらからも返事をしなければならないのに上手く口にできない。何を言おうにも唇が震えてしまって声が出せない。そんな私を彼は優しげに見つめ、やがて踵を返した。

 

「こっちにおいで」

 

 彼に案内されるがままついていく。長い階段を一段ずつ上っていけば、段々と目の前に大きな屋敷が見えてくる。

 彼は門構えで立ち止まると大声で叫んだ。

 

「幽々子さんっ!自分ですっ!俊です!!開けていただけますか!?」

 

 すると、目の前にそびえていた門の扉はギシギシと音を立てながらゆっくりと開いていった。

 

 そして、そこから見慣れない女性がこちらに向けてやって来る。青い和服姿に桃色の髪、そして従えているかのように彼女につきまとう白いふわふわ、その全てが私にとって見慣れないものであった。

 

「お帰りなさい、俊。そしていらっしゃい、フランドールさん?」

 

 その彼女に名を呼ばれた瞬間、何とも言えない悪寒が私の全身を巡った。両腕で身体を包み込むような姿勢をとって上目遣いで彼女に視線を送った。

 いつのまにか私は彼女に恐怖していた。私の脳裏に不意に「死」という文字が浮かび上がっていた。そしてそれは意識していなければそのまま「死」へ流されていきそうな、それだけに余計に彼女を恐ろしく思われた。

 

 そして、彼女に案内されるがまま、私はその広大な屋敷に足を踏み入れていく。

 彼女に恐怖を感じた。けれど、私は決してここで引くわけにはいかなかった。何のために彼は私をここへ呼んだのか。それはきっとこの冥界に何かしらヒントがあるからに違いない。彼を現世に蘇らせる何かが。なら何とかしてそれを見つけ出さねば…。

 

 彼は何も言わずに屋敷へと入っていく。私もついていくのだが、何だろうか、その彼の背中が私に警戒を呼びかけているように見えた。今から相手にするであろう者の恐ろしさを私に警告してくれているような気がした。たった一週間だったけど共にいた者同士の直感というのか、そんな感覚が私の脳内にこれから起こるであろう危険性を伝えてくれていた。

 

 彼は連れ帰る。絶対に。互いに触れ合えるようになって必ず帰る。そして、きっとまた一緒に暮らす。今度はお姉様や咲夜も一緒に、そのためにも……

 

 

 俊っ、絶対に助けるからねっ!!

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