フランドールと一週間のお友達   作:星影 翔

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 俊と別れてからのお話です。


3日目 胸に残る悲痛、新たなる決意

 俊を取り戻せないまま、私は紅魔館へと帰った。悔しさを目に滲ませながら、お姉様に手を取られ、私が最も愛した人と別れることになった。それが必然であったと分かっていたし、そうしなければならないのは嫌というほど理解していた。理解はしていたけれど、それでも私は彼を取り戻したかった。こんな矛盾まみれの言葉を聞いた者がいたなら、きっとそいつは「分かっていると口にするだけで分かっていない」と吐き捨てるだろう。だが、どうか分かって欲しい。私は何としても彼といたかったんだ。

 

「フラン、貴方は分かっていない。俊はもう死んだの。もうどうしようとも彼を取り戻すことなんてできないの…」

 

 帰ってすぐに告げられたお姉様の言葉が頭の中に木霊する。「取り戻せない」という言葉に私はまるで身体を引き裂かれる思いをさせられた。彼と一緒にいられないというのがどれだけ私を絶望させるのかをきっとお姉様は分かってない。私が俊に二度と会えなくなるという事実は知っていても、私が彼を好きでいるということを理解していても、それが私にどんな影響を与え、どんな表情、どんな心境になるかまで理解していないんだ。だからそんな簡単に「俊に会えなくなる」なんてことが言えるんだ。

 

「お姉様がそんな人なんて思ってなかったわ」

 

「フランっ!」

 

 私はお姉様を振り切って部屋へ走る。理解してくれない悔しさと悲しさに涙を零しながら、ひたすら部屋めがけて走り続ける。私はいつだって独り。大切な人を得てもすぐに離れてしまう。今もそう、まだ会うチャンスがあるというのにそれすらも許されない。現実という残酷なものから逃げたくて私は必死に走り続けた。

 と、そこで何者かが急に私の前に姿を現す。しかし、気づいた時にはその人物との距離はあまりにも近く、ブレーキが間に合わない。私はその人物に思いっきり激突する。

 

「うぅ…痛ったぁ…」

 

「申し訳ありません!大丈夫ですか?」

 

 そして、その相手は私をよく知る親しき人であった。

 

「……美鈴」

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですか…。俊さんは…もう…」

 

 紅 美鈴(ホン メイリン)、私やお姉様の従者の一人で基本的には館の門番をしている。でも稀に私の部屋に来てくれて話し相手になってくれたりもしている。私の大切な人の一人。

 私は美鈴を部屋へと招き入れ、ベッドをソファー代わりにして二人並んで座り、私はどんどん苦しくなっていく胸の内を明かした。

 

「もう…俊には会えないみたいなの」

 

 美鈴には何度か俊の話をしたことがあった。彼が現実に帰っていて退屈していた時や、彼がいなくなってから後も度々私の所に来てくれていて、その度に必ず俊の話を一度はしていた。美鈴もまた、そんな話を親身になって聞いてくれて、面白かったり楽しい時には一緒に笑って、辛い時には悲しんでくれた。今もそうだ。実際には会ったことがないにも関わらず、彼女は目に涙を浮かべて私の話に耳を傾けている。

 

「…ごめんね。美鈴には関係ないのに…」

 

「そんなことないですよ。私も俊さんに会ってみたかったです」

 

 美鈴がそっと私を優しく抱き寄せてくれる。頭をそっと撫でて、少しでも私を落ち着かせてくれようとしている。

 

「やっぱり、美鈴はいい従者ね。私、美鈴が館にいてくれて良かった」

 

「そんなことないですよ。従者としてなら咲夜さんの方がよっぽど優秀ですし、私なんて足元にも及ばないですよ」

 

「私は、咲夜があんまり好きじゃないのよね…」

 

「…それはまた何故?」

 

 だって…咲夜はお姉様の従者なんだもの…。あの人はきっとお姉様しか目にないんだわ。そんな人が私の苦しみなどわかるはずない。

 

 一人口を膨らませる私に何も分かっていないはずの美鈴がなぜか苦笑を浮かべている。

 

「それにしても、フラン様は本当に俊さんを好かれているのですね」

 

 美鈴の言葉が私の心を和らげ、そして傷つける。私が俊を好いていることを察して、そして言葉をくれる美鈴の優しさ。けれど、それは同時に私が俊と会うことができないことを思い返させる。それが予想以上に私の心を傷つける。

 

「……帰って」

 

「…え?」

 

 分かってる。美鈴は決して悪意があって言ったわけじゃない。

 

「帰って!!」

 

 なのに、なんで……

 

 怒りが込み上げてくる。こんな勝手なことしていい筈ないって分かっているのにどうしてもこの気持ちが抑え切れない。それだけじゃない、この怒りと同じくらい私の中には空っぽの虚無が詰まっている。それは私の心を苦しめ、胸を痛くする。そんな時、美鈴が咄嗟に一言私に向けて言った。

 

「フラン様、涙が流れていますよ」

 

「…えっ?」

 

 自分の顔に手を伸ばす。生温かい液体が頬を流れ、次々と雫となって零れているのが感じられた。けれど、その理由は瞬時には理解出来なかった。

 

「なんで……」

 

「それくらい、もう分かってるんじゃないんですか?」

 

 分からない。この雲がかって苦しい気持ちの理由が、この怒りの意味が…。

 

「フラン様はまだ俊さんを諦めきれていないんですよ」

 

「…っ!!」

 

 その言葉は私に瞬時に反応した。頭をあげ、美鈴を瞳に捉え、淡くて小さな可能性を信じ続けていることを自覚する。

 けれど一方で、そんなことが起こりうることなどありはしないと諦観していた。何よりそれはお姉様が許さないし、冥界にいるあいつを相手にするのは危険だ。諦めるより他にない…。

 

「…無理だよ」

 

「…?どうしてです?」

 

「だって、お姉様が許すはずないし、冥界にいる敵も強い。敵にするには相手が悪すぎる相手ばかりよ?そんなところに一人で突っ込んでも無謀なだけだわ…」

 

 俯く私に、その時不意に美鈴が私の隣から姿を消す。

 そして……

 

「フランドォールッ‼︎‼︎」

 

 彼女は部屋中を震わせるほどの声で私の名を叫ぶ。あまりに突然過ぎたその声に私は肩をビクッと震わせ、パッと頭をあげた。

 彼女は仁王立ちでこちらを鋭く見つめていた。まるで、師が弟子に試練を与えようとしているかのようなその姿には慈愛と同時に妖怪としての誇りさえも感じとることが出来た。彼女は私を前に

 

「貴方は強いっ!力だけでもない。でも決して心だけが据わっているわけでもない。貴方はその両方を兼ね備えている。レミリアお嬢様にも負けないくらいの立派なものが…」

 

「……美鈴」

 

「今までの貴方なら立ち塞がるものはみんな蹴散らしてきたはずです。自分の道を信じて疑わず、真っ直ぐ突き進んでいく。それがフラン様なんです!なら……」

 

「周りのことなんて、結果なんて気にせずにただひたすらに進めばいいんですよっ!!」

 

 美鈴の言葉がこの時ほど心に響いたことはなかった。いつも温和な美鈴が形相を変えてまで私に勇気を与えようとしてくれている。美鈴は私が失いかけていた自分のアイデンティティをもう一度再確認させてくれた。

 

「ありがとう、美鈴」

 

 私の表情は明るかった。意図していたわけではない自然とでた笑みが私の心に余裕を持たせてくれる。

 

「いえ、フラン様はその顔が一番ですよ」

 

「ええ、私は行くわ」

 

 私は心に刻む。美鈴から貰ったこの言葉を…そして、己の道を突き通すという決意を…。

 なんとなく壁掛け時計に目を通す。あと三十分もあれば日付が変わる。刻一刻と迫り来る彼との本当の別れ。けれど、彼がいなくなる前に必ず取り戻す、助け出す。

 私は美鈴に「ありがとう」と残し、勢いよく部屋の扉を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これでいいんですね?お嬢様」

 

 私がフラン様を見送って五分もしないうちにその気配はやって来た。それは誰であろうフラン様の姉、レミリアお嬢様だ。

 

「えぇ、ありがとう。本当に助かったわ」

 

「いえ、お嬢様とフラン様にお仕えする身ならば御命令に従うのは当然のことです」

 

 壁越しの会話、けれどそれでもお嬢様がどのような表情で、どのような心情で会話に臨んでいるのかなんとなくわかる。今のお嬢様にあるのは私に感謝しているのと同時にフラン様への謝意の気持ちが含まれている。

 

「しかし、妹の身を案じるあまりに過度に保護し過ぎではありませんか?」

 

「……どういうこと?」

 

 分かっているくせに。やっぱり、フラン様を幽閉したあの時からこの方は未だ変わっておられない。

 

「フラン様ももう十分に成長しました。狂うことも少なくなりましたし、能力だって使い勝手を覚えるようになってきました。それなのにお嬢様は未だにフラン様を赤子のように世話し続ける。昔ならばそれでも仕方なかったかもしれません。けれど、今のフラン様にとってはそれはただの邪魔な鎖でしかないんですよ」

 

「…………」

 

「フラン様に聞きました。冥界まで行ってお姉様に館に帰された、と。苦しくて胸が張り裂けそうだった、と。貴方はフラン様が心に抱いていた大切な気持ちを踏みにじったんですよ。それこそ…」

 

「うるさいっ!!!」

 

 お嬢様は私の言葉を遮り、そのたった一言で私を沈黙させる。

 

「…私がフランを守らないと、フランが死んでしまう。それだけは嫌なのっ!フランまで死んだら、もう私は生きる意味を見出せなくなる…」

 

 お嬢様の方から啜り泣く声が聞こえてくる。きっと彼女も不安なんだろう、自分の大切な妹が手の届かないところにまで行ってしまうことが。私もこれまで生きてきてそれに似た体験をしたことがある。それでもやっぱり…

 

「お嬢様、人も妖怪も成長するんです。フラン様も今懸命に成長しようともがいているんです。もし、お嬢様に姉としての自覚があるのなら、フラン様を止めてやめさせるのではなく、逆にフラン様を助けてあげてください」

 

 私は扉を開けると、お嬢様に最後に伝えたかったそれだけを伝える。これ以上、説教しても意味なんて持たないし、大切なのはお嬢様の決意の問題。それにこれ以上お嬢様を泣かせたら咲夜さんに殺されかねないし…。

 

「では、私は門番の仕事がありますので…」

 

 私はお嬢様に一礼して踵を返すと、その場を後にする。その道中、私はひたすらフラン様の無事を祈り続けるのだった。そして…あえて口には出さず心の中で告げる。

 

 

 お嬢様、あとは貴方の決意したいですよ。




 ここのところばたばたしていたのですが、ようやく落ち着いてきたので最新話を投稿させていただきました。遅くなって申し訳ありません。
 さて、これでレミリアの心がどう動くか、美鈴のお陰で前向きになることができたフランの願いは届くのか…。まだまだ続きますのでどうぞよろしくお願いします。
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