フランドールと一週間のお友達   作:星影 翔

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今回はかなり文字数が多くなりました。


4日目続 手に入れたものと失ったもの

 私は全速力で冥界への穴をくぐり、ぐるぐると回る視界の先に以前に俊と出会ったあの長い石段が見えた。

 

「おおっと…」

 

 無事に着地こそ出来たものの、散々回転したことによる感覚の麻痺で思わずに倒れそうになる。それでもなんとか耐え、その後に襲ってくる強烈な目眩も目を瞑ることでなんとか堪える。

 深呼吸を何度か繰り返し、気持ちを落ち着かせると、静かに、そして重く最初の一歩目を歩み出す。私の心のままに、周りなんて関係ない。私は私のやりたいように生きる。私が望むのは俊と一緒にいること。もう誰にも邪魔させない。お姉様がなんだ。亡霊がなんだ。

 

「私は私よ」

 

 階段をどんどん登っていく。一段一段登るごとに自分の気持ちを深く心に刻んでいく。

 長かったように思われた石段だったが、私が自分の気持ちを改めて心に刻み込んでいるうちにいつの間にか登り終えていた。そして私の視線の先、石畳の道が続くその真ん中に、その人影は立っていた。

 

「やはりやって来ましたか、悪魔の妹」

 

「あなたは?」

 

 以前に私が冥界に行った時には彼女の姿は見なかった。白いシャツの上に緑色のベスト、膝下まで伸びる同じく緑色のスカートを纏った銀髪の少女の顔は鋭く、私に殺意を向けているのは火を見るよりも明らかだった。

 

「私は魂魄妖夢、幽々子様の御命令で貴方を斬り伏せに来た」

 

「ふ〜ん、私を斬ろうなんて簡単に言ってくれるわね」

 

 彼女の見下した態度が少し腹立たしかった。恐らくは相当自分の腕に自信があるのだろう。自分に酔っていると言ってもいいかもしれない。しかし、彼女の雰囲気にはあの亡霊、彼女の言う幽々子様が持つような艶やかさはない。恐らくは私ほども生きていないに違いない。そういうやつの大半は未熟者だ。

 

「すぐに倒して俊を助ける!」

 

「貴方を倒して幽々子様をお守りする!」

 

 この会話が開戦の合図となった。私が全速力で彼女の懐に飛び込み、間髪入れずに回し蹴りを繰り出す。しかし、それはあっけなく空を切り、間合いを取った彼女が蹴りを繰り出した直後の私へ刀を振るう。横一文字切りをその場で屈むことで間一髪回避し、そこで隙をついて足払いを仕掛ける。しかし彼女はそれも見切っていたようで素早く地を蹴るとまたも後ろへと後退した。

 

「流石は吸血鬼、パワーとスピードには目を見張るものがありますね」

 

「褒めるくらいなら俊を出してくれる?」

 

「無理な話です。あなたは私に斬られる運命。再会などもってのほか」

 

「あ、そう。やっぱりそこは変わらないのね」

 

 今度は彼女が地を蹴る。その華奢な体には似合わぬほどの力強く素早い斬撃、吸血鬼の動体視力で躱すが、斬撃の後に続く風がその斬撃の恐ろしさを伝えていた。もし一撃でも受ければ私は一瞬たりとも意識を保つことなく死ぬだろう。たとえ一発であろうと受けるわけにはいかない。

 

「あなたは愚かな吸血鬼ね。死人のためにわざわざ冥界にまでやって来るとは…」

 

 無数に繰り出される斬撃を躱していると、不意に彼女が独り言のように私に語りかける。

 

「死んでしまった者に未練なんて残すもんじゃないわ。そもそも彼が死ぬことくらい貴方もわかっていたんでしょう?」

 

「………」

 

 確かにわかっていた。俊はすぐに死んで私と離れ離れになる運命だと…。けど認めたくなかった。彼が離れていってしまうことが怖くて、それが寂しくて仕方なかった。

 

「あの死人も愚かなものね。大人しく死んでおけば良かったのにわざわざ蘇りたいなどと願うなんて…」

 

 その言葉に思わず反応した。私の好いていた俊を「愚か」と口にした彼女に強い怒りを覚えたからだ。私を馬鹿にするのは好きにやってくれて構わない。今までたくさんの人を殺めてきた過去もある。今更言い訳をするつもりもないし、償わなければならないことも知っている。

 だが、私の大切な人を馬鹿にするのは違う。死んでもなお、彼は私を必要としてくれる。私にとっても彼は必要であり、大切な存在だ。その彼を冒涜することは私が許さない。

 

「俊は私の大切な友達よ!私の大好きな人間の友達。その俊をバカにするのは私が許さないっ!」

 

 私は回避から一転、彼女の攻撃を(かわ)し、下へ潜り込むと彼女の鳩尾(みぞおち)に肘打ちを打ち込み、一瞬怯んだ隙をすかさず回し蹴りで決める。

 

「ぐわぁっ!!?」

 

 彼女の身体は宙に浮き上がり、蹴りの勢いをそのまま受けて猛スピードで飛んでいくと、勢いよくすぐそこの白壁に叩きつけられる。

 

「うっぅ……、かはぁ…!?」

 

 呻き、最後には苦しそうにそこへ吐血する銀髪の少女。その目は朧げで意識があるのかも定かではなかった。吸血鬼のほぼほぼ全力の力を注ぎ込んだのだから生きているだけ奇跡に違いない。

 けれど…

 

「ま…まだ、まだやれるわ」

 

 よろよろにふらつきながらそれでも彼女は立ち上がり、私に剣を向ける。そんな彼女の幽々子への忠誠心に敬意を覚えたのと同時に、死ぬことも顧みない彼女の愚かさを酷く冷笑した。

 

「まだやるの?もうボロボロじゃない。これ以上戦っても死ぬだけよ?」

 

「構わない、私は幽々子様の従者、幽々子様のために死ねるのなら本望だわ」

 

 その精神にはどこか同情できるところはあった。私も俊のためなら命を賭けたって構わないと思っている。俊に会いたいというのだから死にたくはないけど、彼を救うためには死んでもいいと思える気持ちぐらいはある。

 

「そう…、なら仕方ないわね」

 

禁忌『レーヴァテイン』

 

 剣を構え、私は彼女の前へと立つ。トドメを刺すというのは完全な決着をつけるということを指すが、ここまでして抗うというのなら、いっそのこと苦痛に顔を歪めてまで戦わせるより殺してしまったほうが楽になれるだろう。

 可哀想という気持ちもないわけではない。助けたいと思わないわけでもない。けれど、俊を取り戻すための障害となるなら排除せざるを得ない。もともと散々人間たちを壊し続けていたんだから、今更壊した人数がたかだか一人増えようが大したものじゃない。全ては俊を蘇らせる為なのだから…。

 

「…さようなら」

 

 そうして、私は剣を振り下ろそうとした瞬間…

 

「甘いわよ?」

 

「……っ!?」

 

ドオォォオォッッンッ!!

 

 今度は私の身体が宙へと投げ出される。視界が一回転し、直後に身体がドサっと地面に叩きつけられ、舞う土埃と地面との衝撃で肺を圧迫されたことによって何度か激しく咳き込む。全身を鋭く激しい痛みが走って思わず倒れた状態のまま腹と胸を押さえた。

 何が起こったのか。妖夢のもしもの反撃に警戒して周りへの注意を怠っていた。私がトドメを刺そうとするその直前まで、彼女から反撃が来ることもなかった。この状態でありえるとすれば、彼女以外の何者かの攻撃だ。そして、この空間でもっともその可能性がある人物が一人…。

 震える腕でなんとか上半身を持ち上げると私に向けられた視線を追って上を見上げる。

 

「…あ…なたは…」

 

 絞り出した言葉を投げた先にはあの時に出会った亡霊の女性がこちらを冷ややかな目で見つめながら悠然と宙を浮いていた。

 

「あらあら、私の妖夢をまた随分と可愛がってくれたのね」

 

 扇子で口元を隠しながら、ちらりと妖夢を見やった彼女の言葉から怒り以上に恐ろしいまでの殺気を感じる。脳が、身体が明らかに危険信号を発している。しかし、動こうにも身体が言うことを聞いてくれない。

 

「くっ…」

 

 動け、動け私!俊を助けるんじゃないの?ここで負けたら、ここで死んだら俊とはもう会えなくなっちゃうのに…。

 

「誰であろうとこの死者の世界を荒らすことは許されないってことくらいわかっていて?」

 

「…えぇ、もちろん。それを承知でここに来たんだもの」

 

 意識がぼんやりとしている。目の前に立っているはずの幽々子の姿が霞む。けれども、彼女が私へトドメを刺そうとしているのは雰囲気で理解できた。

 

「そう、ならもういいわね。安心なさい、死んでも私がちゃんと面倒を見てあげるから」

 

 彼女の周りに光が現れる。恐らくは私の息の根を止めるための光弾であろう。こんな状態では回避できないのは明白だ。

 

「お疲れ様、また後で会いましょうね…」

 

 その直後、彼女の周りの光がどんどんと大きくなってくる。光弾が近づいているんだろう。あと数秒もかからない内に私は死ぬ。

 ごめんなさい、咲夜、美鈴、パチュリー、お姉様、そして俊。私はどうやら帰れなくなったみたい…。

 出来れば、もっとみんなと…一緒にいたかったな。

 私は迫る運命に覚悟を決め、ゆっくりと目を瞑った…。

 

……………。

 

…………………。

 

………………えっ?

 

 しばらくの沈黙。しかし、それは私が死んだ訳でも彼女が突然攻撃をやめた訳でもなかった。

 

「おねえ…さま?」

 

 目を開いたその先には私を守らんと立ちはだかるお姉様の姿があった。

 

「大丈夫ですか!?妹様?」

 

 ふと横からの声に振り返ると、そこには咲夜の姿もあった。

 

「さく…や」

 

「妹様、良かった…」

 

「よく頑張ったわ。ゆっくり休みなさい」

 

 お姉様は私に向けて微笑みを見せる。死を免れた安心感のせいなのか、お姉様がいつもより格好良く、輝いて見えた。

 咲夜に寝かされ、私はそこからお姉様を見守る。気高い紅魔館の主人のカリスマはしっかりと見て取れた。

 

「私の妹をどうするつもりだって?」

 

「冥界を荒らす危険分子として排除しようとしたまでよ。私達には大義名分がある」

 

「なるほどね、でも私の大切な妹を殺そうとしたのだからそのツケは当然払ってくれるのよね?」

 

 お姉様は幽々子に向かい、鋭い口調で問い詰める。幽閉されていたこともあってか、今までお姉様の本気の表情は見たことがなかったけど、その雰囲気はさながら紅魔館の当主たる者の威厳を感じさせていた。

 けれど、やはり幽々子の方もその程度で動揺するような雑魚ではない。お姉様の渾身の怒りを向けられてもなお全てを見透すかのようなその冷めた微笑みを消すことはなかった。

 

「もちろんよ、フラン(あの子)を殺した暁には記憶を失った亡霊の状態で貴方に送り返してあげようと思っていたところよ」

 

「へぇ……」

 

 口では平静を装っているつもりなのかもしれない。けれど、怒りはお姉様が思っているよりも強く心に、そして身体に表れているようだった。足元には魔法陣が紅色の輝きを放ち、その青い髪は下から吹き上がる魔力に揺られ、手にはお姉様の武器、スピア・ザ・グングニルが握られていた。

 

「死にたいのね…」

 

「いえ、もとより死んでいる身ですから?」

 

「なら、存在そのものを消してあげるわ」

 

 一度深呼吸するお姉様。すると次の瞬間、お姉様その手に持っていたグングニルを投げ、グングニルが幽々子の背後のある地点に突き刺さる。すると、落ち着いた口調で私に言った。

 

「フラン、もう十分に回復できたかしら?」

 

「へっ?あっ、うん、大体は」

 

「なら私のグングニルのあるところまで走りなさい。私の予想が正しければ、そこに俊がいるはずよ」

 

 その言葉に私だけでなく、僅かに幽々子も動揺した。まさか場所を特定されているとは思わなかったのだろう。そんなことをふと考えたりしていたが、いつのまにかそんな思考は頭の隅へと追いやっていた。俊がいる。私にとってそれは何よりも嬉しいことでこれ以上に勝るものはなかった。いちいち周りを気にしてこの喜びを半減させる必要なんてない。しかし、ここで一つ気になったことがある。たった二日前、お姉様は私と俊との接触に反対していたはずなのに、今では私の為に身体を張って戦おうとしてくれている。ありがたいのだが、どういう風の吹き回しなのかお姉様の意図がいまいち理解できなかった。

 

「なんで…なんで私の為に」

 

「妹の為なら命すら惜しくない。姉っていうのはそういう生き物なのよ」

 

 さあ、行きなさいとお姉様の言葉に背中を押され、私は駆け出した。お姉様はきっと本心からその言葉を投げてくれたに違いない。意図なんてない。ただ私のことを想って来てくれたんだ。そのお姉様の心がこれまでになく嬉しかった。翼は未だ回復しきれていないので使えないが、お姉様の応援に応えるためにも全力疾走あるのみだ。

 

「さて、全力で行くわよ、白玉楼の亡霊」

 

「自分の武器も持たず、素手で戦いに挑むなんて、いくら吸血鬼でも少し自分の力を過信しすぎではなくて?」

 

「ふん、貴方なんて素手で十分よ」

 

 お姉様の自信溢れる答えにやれやれと彼女は首を横に振る。

 そんな言葉のやりとりがあったかと思えばお姉様が動き出し、戦闘が始まった。私も必死にグングニルの方向を目指し、ひたすら走る。

 しかし、そこで私と並行して走る影が一つ。

 

「行かせはしないっ!!」

 

「あなたねぇっ!」

 

 走りながらも的確に斬りつけてくる彼女の攻撃を避けるものの、攻撃が邪魔で先へと進めない。

 

奇術『ミスディレクション』

 

 彼女の元へ扇状に広がったナイフが向かっていったかと思えば次の瞬間にはいくつかのナイフが彼女目掛けて飛んでいく。

 

「なにっ!?」

 

「妹様の邪魔をする者はこの私が許さない」

 

「咲夜…」

 

 いつのまにか咲夜がナイフを両手に妖夢と対峙していた。

 

「妹様、お急ぎを」

 

「……ありがとう」

 

 そう言い残し、私は再び走り出す。石段を駆け上がり、地面へ刺さっているはずのグングニルを目指す。

 走っていくうちに自然と俊との思い出が頭の中に蘇ってくる。彼の笑う姿、必死に私を助けようとしてくれていた時のこともしっかりと覚えていた。

 

「絶対にあなたを救い出す。決して死なせはしないっ!」

 

 微かに見える小さな人影へ向けてちょうど治癒した翼を力一杯羽ばたかせ、最大出力で突撃する。最初は小さかったその影はあっという間に大きくなっていき、私がブレーキをかけ終える頃にはその姿は私の目と鼻の先にまで近づいていた。

 

「はぁ…はぁ……俊、やっと会えた」

 

 目の前にいる俊は死装束の服装で身体は鎖に繋がれ、十字架へと縛り上げられていた。意識はとうになく、諦観を帯びたその表情に胸が締め付けられるような思いがした。

 

 …今、助けるからね。

 

 私は彼に触れようと試みる。

 しかし…

 

バヂチィィンッ!!

 

「うっ…ぐわぁ!」

 

 弾き飛ばされたものの空中で態勢を立て直す。どうやら彼を囲うように強力な結界が敷かれているらしい。念のため目を探してみるが、そのようなものはありそうにない。私の能力への対抗策というわけなのだろうか…。どちらにしてもこのままじゃ彼を助けるどころか、目の前の結界すらも越えられそうにない。

 

禁忌『レーヴァテイン』

 

「こわれろぉぉっ!!」

 

 炎の剣を握り、私は何度も結界の破壊を試みる。けれども結界は一瞬揺らいで見えるだけで破壊には至らない。

 

「どうすれば…」

 

 ふと辺りを見渡してみる。辺りには土と桜の木、所々に岩塊があり、その中の一つにグングニルが突き刺さっている。

 …グングニル?

 

 私は岩に刺さったグングニルを引き抜き、一つの案を導き出す。その案とはこの槍に私の全力の魔力を注ぎ込んでそのまま力づくで穴を開ける。一瞬結界が揺らいでいるのをみると、どうやら完全に力を逃がしきれていないらしい。それを破れるのはこの方法しかない。

 ふと、お姉様の方へ視線を向けてみる。状況は私が思っていたよりもお姉様が不利な状況だった。

 

「あらあら、さっきまでの威勢はどこにいったのかしら?」

 

「チッ、まだよっ!」

 

 そんな会話を吸血鬼である私の耳に届く。お姉様は素手なのにも関わらずなんとか互角にまで持ち込んでいるらしく、けれども長くは持たなさそうだった。お姉様に助けを求めようと思ったものの、あの状態でそれは不可能に違いない。咲夜の方も案外苦戦しているらしい。

 

 私がやらなきゃ…

 

「お願い、俊を助けたいの。力を貸して…グングニル」

 

 グングニルを両手で握りしめ、私の全身全霊の力を込める。私の魔力を食らっていくグングニルは淡い輝きを放ちはじめ、やがて込め終わると私はその槍の切っ先を結界へ向けた。

 深呼吸を一つする。一点を睨みつけて狙いを定めた瞬間…

 

「いぃっっけえぇぇっっ!!!」

 

 私は全力でそれを突き刺した。結界が必死に槍を弾き返さんと抵抗するが、こちらも負けじと力を込め続ける。

 やがて、結界に小さな穴が開いたかと思えば、その穴はみるみる広がっていき、最後は結界の霊力がバランスを失ったせいか、綺麗に全て弾けて霧散した。

 

「…やったぁ!」

 

 喜びが身体中を伝っていくが、反対に体力的には立ち上がる力すら残っていない。思わずそこに座り込み、荒い息を整える。全身全霊を込めた私に残された力はもうない。立ち上がれるかも分からない。

 ここで、お姉様の戦局を覗いてみる。不利な状況だったが、打開できたのだろうか…。

 

「吸血鬼も大した強さではないわね」

 

「黙りなさい、この程度でそんな評価されても困るのよ」

 

 そうは言うものの、実際問題お姉様が不利なのは揺るがなかった。悠然と佇む彼女に対し、お姉様は息が上がってかなり疲労している。この状況からしても勝ちにもっていくのはなかなかに辛いものがあるのはお互いにそれは分かっているはずだ。

 だが、あえてなのか彼女が動くことはない。体力消耗を極力抑えたいという魂胆か、それとも…

 

「これで決めるっ」

 

 その時、お姉様が動いた。持てる力を尽くして幽々子への突撃を敢行する。

 しかし、お姉様の身体は幽々子へと衝突することはなく、幽々子はお姉様のすぐ真横へと回避していた。それは誰もがみてわかる致命的な隙。

 

「ご苦労様でした」

 

 一発、たった一発の打撃が全てを変えた。お姉様は真下へと叩き落とされ、地面に衝突した瞬間、辺りに凄まじい土煙が舞う。

 

「うぐっ…」

 

 大きな穴の真ん中でお姉様は倒れたまま動かない。虚ろな目をしたお姉様だが、そこへトドメを刺さんと幽々子が降りてくる。

 

「終わりね、結構楽しめたわ」

 

 どうしたらお姉様を助けることが出来るのか。エネルギー不足の頭が懸命に考える。私が突撃すれば彼女の気をそらすことができるんじゃないか。いやダメだ。この距離じゃ私が全力で飛んでも間に合わない。第一今の私じゃ死ににいくようなものだ。魔力も多少は回復したが、疲労が酷い。

 ……そうだ。

 

「よく粘ったわね。褒めてあげる。けど、最終的には死ぬ運命だった」

 

「……ふふっ」

 

「何がおかしいの?」

 

「いや、それで勝った気になってるなんてなかなか甘いわね」

 

「ついに壊れてしまったのね。可哀想に…」

 

「壊れたかどうかはあと五秒もあればわかることだわ」

 

「五秒?」

 

「おねえさまぁぁっっ!!」

 

 私は回復すらそっちのけで魔力をグングニルに込めると、大きく振りかぶる姿勢をとる。あとのことはお姉様次第だけど、お姉様ならきっと幽々子を倒してくれるはず…。

 そして私は最後の力を振り絞ってそれを投げる。お姉様に全てを託す。グングニルは真っ直ぐ幽々子の方へと向かうと幽々子はそれを素早く避け、その隙にお姉様が目の前に飛んでくるグングニルを掴んだかと思えば、そのまま地を蹴り、彼女の頭上へと飛び上がる。お姉様はそのままグングニルの切っ先を幽々子に向けるとそのまま重力に従ってその槍を幽々子の胸へ深々と突き刺した。

 

「この勝負、私の勝ちよ」

 

 槍を抜いたお姉様が放った言葉が聞こえたかと思えば、幽々子は静かにその場に座り込むと、吐血し、咳き込んだ。胸からもかなりの出血であったが、亡霊である以上これより死ぬことはない。

 咲夜の方もどうやら決着がついたらしく、お姉様の方へと駆けていくのが見えた。

 全てが解決された今、私の目の前には私にとって大切な存在がいる。

 

「俊…」

 

 目を壊し、鎖を破壊すると、重力に任せて落ちてくる俊を抱き止める。

 

「…嘘」

 

 抱き止めることができた。触れられないはずの俊は今、私の腕の中で眠っている。信じられない光景に思わず涙が零れる。

 

「俊……おかえり」

 

 生き返った。上辺だけではなく、しっかりとこの温みがそれを証明していた。

 涙が止まらない。嬉しい気持ちが抑えきれなくてどうしようもできない。

 

「…うっ、あぁっ……」

 

 そんな時、俊が唸り声を上げる。彼の顔を見てみれば、その目は小さくもしっかりと開いていた。

 

「……フラン?」

 

「…っ……うんっ…そうだよ、フランだよ」

 

 今一度俊をしっかり抱きしめる。掴んだ幸せを噛みしめるように…。もう二度と手放すことのないように…。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま、フラン」

 

 いつかに交わしたその言葉が私に実感をくれる。もう一度ぎゅっと彼を抱きしめる。

 

グシャッッ!

 

 途端、鈍い音ともに私の背に鋭い痛みが走る。背中からお腹全体にまで広がっていくその冷たいものを確認してみると、私のお腹から何やら銀色に光る突起物が生えている。瞬時に私は自分のお腹に刃物が貫通していることを認識する。しかし、痛みに悶えている暇なんてなく、意識が消え去ろうとするのを懸命に耐える。

 気力を振り絞って、後ろを振り返る。そこには身体中に傷を負い、あちこちから血を垂らしながらも懸命に立ち、私を睨む銀髪の少女、妖夢の姿があった。

 

「あなた…か…」

 

「幽々子様を…お守り…す…る…」

 

 直後、妖夢は力尽き、その場に倒れ伏せる。彼女の足掻きは見事私の息の根を止めようとしている。だんだん足も震え、立っていることが難しくなってきていた。

 

「やっとここまで来れたのに…、やっと俊に会えたのに…。また、また離れなきゃいけないの…?やっと一緒にいられると思ったのに…」

 

 ふと俊へ目を向けてみる。唖然とした顔つきで私を見つめる俊を見て、意識も限界まで達していた私は絞り出すように一言だけ告げる。

 

「ごめ…ん…ね」

 

「おいっ!フランッ!!」

 

 直後、私の足はついに崩れ、そのまま座り込むと横の方へと倒れ込む。私を懸命に呼ぶ俊の声もだんだんと薄れ、ついには聞こえなくなる。視界も狭まっていき、掠れていく。

 本当にごめんね…、私はもう無理みたいだから…、……さようなら。

 最後に彼に向けて微笑みを見せると、それを合図に私から意識と呼ばれるものは微塵も残らずに消え去った…。




最初は分割しようかなと思っていたんですけど、どうにも丁度よく区切れるところがなくてこのようになりました。次からはいつも通りの文字数になると思います。

意見や感想ありましたら是非書いていただけると嬉しいです。
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