あと、いつもより文字数も少なめです。
「………ない…」
そんな声がすぐそこから聞こえてくる。目を向けてみれば、そこには冷蔵庫に頭を突っ込んだまま首を傾げるフランの姿があった。
「ないって、何が無いんだ?」
フランは仕方ないと顔を引っ込めると、僕に向けて不満げな表情を浮かべていた。
「昨日、俊が作ってくれたプリンがなくなってるのよ…」
「あらら…」と相槌を打つ反面、僕自身も同じように首を傾げた。フランの言う通り、実際昨日、僕はフランとレミリアさんの為にプリンを作った。フランがどうしても「俊の作ったプリンが食べてみたいの!」と言うものだから、咲夜さんに助言を貰いつつ、なんとか完成させたのだ。
しかし、その時には既にフランは眠気に襲われていて、意識も朧げだったものだから「なら、明日にでも食べたらいいよ」と言い聞かせて部屋に連れて行ったというわけだ。元々、紅魔館に外の世界の技術の結晶である冷蔵庫は存在しなかったのだが、過去に友人に聞いた記憶を頼りに冷蔵庫の簡単な仕組みなどをパチュリーさんに伝えたら、数日後には金属の箱などを改造して、魔力を用いた冷蔵庫を完成させてしまった。パチュリーさんの他にも助力した人物がいたようだが、僕はその姿は見ていない。
すまない、話が脱線した。つまりはそのプリンは次の日にフランの口に運ばれる為に冷蔵庫に大切に保管されていたのだが、フランが確認した時には既にその姿はなかった。上機嫌で起きてきたことから、彼女もかなり期待していたのだろうと察することができた。それだけに無かった時のショックも大きかったようで、今も彼女はそこでしょんぼりとしている…。僕も彼女に食べてもらえなかったのは辛いところがある。
「楽しみにしてたのに…」
しゅん…としているフランの背中をさすってやりつつ、僕の脳は全力で犯人を導き出そうとしていた。消えたのはフランのプリンだが、恐らく部外者がわざわざ侵入して食べたわけではなさそうだ。その他に部屋を荒らされた形跡や食料が奪われたという報告は聞いていないし、仮に部外者の侵入によるものなら、僕やフランがプリンの不在に気付く前に殺人鬼たるメイド長がそのナイフで犯人を串刺しに向かっていることだろう。でも、あのメイド長はいつも通りに業務をこなしているところをみると、どうやらそうではないらしい。気づいていないという可能性も考えてみたものの、フランが幽閉されていた際にもベッドの下に隠れていた僕を見つけていたくらいだ。そんな人間が大切なお嬢様の妹君のプリンがなくなっていることに気づかない可能性はゼロに近い。
仕方ない。ここは周りに聞き込んでみるか…。
「フラン、ここで落ち込んでいてもなにも始まらない。とにかく犯人を探してみよう。聞き込みだ」
「ききこみ…?」
「美鈴さーん!」
門を隔てて美鈴さんを呼んでみるが、反応がない。仕方なしに門扉を開け、隙間から美鈴さんの様子を窺う。
「美鈴さーん…めいり……」
「クー……クークー…」
静かで同時に安らかな寝息を立てながら、美鈴さんは眠っていた。実に気持ちよさそうな顔に気まずいように感じた僕はそっと後ろのフランの方に振り向いてそっと首を横に振った。
「美鈴は…寝てるの?」
「うん、ぐっすりだよ」
その瞬間、フランは諦めるどころか、むしろ嬉々として扉を開け美鈴さんの目の前に立つと、その場に魔法陣を展開する。この時点で嫌な予感はしたものの、どうせ正攻法で起こそうとしてもどうせ彼女は起きないだろうから、彼女には悪いがこうしてしまった方が効率がいい。
「めーりん!!起きなさい!」
「んむ…むにゃ……ふぇ…?えぇ!!?」
魔法陣から大量に放たれる魔力による特有の空気とフランの声でようやく目を覚ました門番は、目の前の光景に驚くと同時に目元に涙すら浮かべていた。
「ちょ…ちょっと妹様!?どういうおつもりなんですかぁ!!?」
「どういうつもりも何も、起きなかっためーりんが悪いんだからね。悪い子には私がお仕置きしてあげる♪」
「それはお仕置きってレベルじゃないんですけどぉ!!」
禁断『スターボウブレイク』!!
「ぎぃやぁぉぁ!!」
迫り来る弾幕を必死に回避する美鈴、そしてそれを見て喜ぶフラン。そしてその様子をそっと見守る僕。日が照っているせいで、日傘をさしているフランはあまり動けないが、その分弾幕の密度は凄まじく、美鈴さんもこれまた必死な様子だった。そんな中、美鈴さんはようやく僕の存在の気づいたらしい。
「ってか、俊さん!いらっしゃったんですか!?」
「うん」
「『うん』じゃないですよ!お願いですから早く妹様を止めてください!このままじゃ間違いなくやられますって!!」
「そーなのかー」
「どこの宵闇妖怪の真似ですかっ!ってか俊さん会ったことないでしょう!?」
「うん、でもフランから聞いたことあるよ?」
「そうなんですね!って、いやいやそんな話してませんって、早く妹様を止めてくださいよぉ!」
「はいはい、おーいフラン!美鈴さんが『一番良いのを頼む』だってさっ!」
「オッケー!任せてよ!!」
「あぁもう!!この人は余計なことしか言わない!!誰でもいいから助けてぇ!!!」
30分にも渡るフランの猛攻を逃げ切った美鈴さんだったが、もはや動くエネルギーすら残っていないらしく、壁にもたれたまま、まるで燃え尽きたあしたのジョー状態だった。
「あれ?めーりん動かなくなっちゃった。死んだの?」
「いや、流石にそれはないと思うよ。ところどころ危ない場面はあったけど、直撃はしてなかったから」
「じゃ、もっかい同じことしたらまた起きてくれるかな?」
「やめて差し上げなさい。美鈴さんのライフはもうゼロよ」
無邪気にきゃはっと笑うフランを見るだけなら可愛げな少女に違いないが、言動と行動は情け容赦ない。流石はレミリアさんの妹だ。美鈴さんも気の毒になぁ…。
あれ、そういえば僕等は何の為にここに来たんだっけ…。…そうだそうだ。美鈴さんに聞き込みしようとしたんだった。
「美鈴さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
………………
「……美鈴さーん?」
………………………
「お願いですから起きてくださいよ〜!」
…………………………………
「まぁた私の弾幕を受けたいのかしら?」
「いえいえいえ!!!滅相もありません!!」
フランの一声が美鈴さんの魂を地上に呼び戻したようだ。どうやら、さっきの一方的な弾幕ごっこが相当彼女の脳内に恐怖を植え付けたらしい。
「で、お話とは?」
「あっ、そうなんです。実は昨日僕がフランの為に作ったプリンを誰かが勝手に食べちゃったみたいなんです」
だが、美鈴さんの表情はいまいちパッとしたものではなかった。
「へぇー、プリンですか…。とはいっても昨日は来客はありませんでしたし、私自身もずっと門番として外にいたので少なくとも外部の人間の可能性は低いんじゃないですかね?」
やっぱりそうか…。まあそもそもプリンだけを食べに来る泥棒なんて考えられないしな…。
「じゃあ、誰か心当たりありませんか?プリンを食べそうな人」
「そんなのお嬢様に決まっ……ゲフンゲフン!いや、ちょっと分からないです…」
「ん、何か言いませんでした?」
「いえいえ、そんなことはないですよ」
「やけに外が騒がしいと思ったら貴方達だったのね」
どこか慌てていて怪しげな動きを見せる美鈴さんを追求しようとしたものの、背後からやってきたその声に止められてしまう。振り向いてみれば、そこにはいつものように優雅に佇むレミリアさんの姿があった。
「どうかしたの?」
そうだ、彼女にも聞いておこう。何か手がかりを知っているかもしれない。
「実は、先日フランに作ってあげたプリンを誰かに食べられてしまって…」
「…………………」
「………レミリアさん?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をね。プリンねぇ…。私にもちょっと分からないわ。私は貴方が作ってくれた時に食べちゃったから、その後のことは何も知らないの」
「そうですか…」
「役に立てなくてごめんなさいね」
「いえいえ、ありがとうございます」と、彼女に返したものの、今のところ一向に犯人に関する手がかりは掴めていない。犯人の尻尾くらいは掴めると思ったのだが…。犯行は誰にも気づかれないくらい完璧だったのか?でも、完璧な犯行だったとしてもなぜプリンだけを狙ったんだ?僕が作った時には別に特殊な風味付けなどは何一つとしてしていないぞ?
「咲夜さんは何も言ってませんでしたか?」
「ええ、特に変わったことは言ってなかったわ。今は里に買い出しに行ってもらってるところよ」
今は咲夜さんに助力を求めるのは難しいか…。仕方ない、違うところを当たってみるか…。次当たる場所といえば、『図書館』だな。
「フラン、『図書館』に行こう。パチュリーさんや小悪魔さんならもしかしたら何か知ってるかも…」
「そうね。場合によっては力づくでも喋ってもらうことにしよっか♪」
「お願いだからパチェを殺さないでね…」
冷汗を垂らしながらそう口にするレミリアさんを背にフランと僕、特にフランは意気揚々としながら図書館に向かうのだった…。
どうだったでしょうか…。次回で犯人の正体が…?犯人の察しはつきましてかね?
え?結局誰なのかって?そりゃあどう見たっておぜ(殴
ちなみに次回はこの話を踏まえながらいつも通りのシリアス満載の方向に戻ります。どうやってそうなるかはお察し下さいませ。