Fate/SnowScene Einzbern   作:アテン

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ハーメルンよ、私は帰って来たああああああッ!!




…はい、言ってみたかっただけです。

別に失踪してたわけではありません…。



第十三夜 相見える四つの陣営

鷹眼の鋭い眼光、灰を被ったかに見える白髪に浅黒い肌、その身に包んでいる血で染められたかのような赤い外套の名は『赤原礼装』───…それを持っている者は、どんな世界でもたった一人しかいない。

 

 

「貴様…こんなところで何をしている。」

 

「アーチャー…。」

 

 

学園へと足を運んだ、俺ことバーサーカーを待ち受けていた者の正体は、この第五次聖杯戦争に参加しているサーヴァントの一騎であり、この先の未来で因縁のある奴だった。

奴の姿を見た瞬間、心臓がばくりと跳ね上がる……こんなところで、こいつと会うなんて思いもしなかった。

 

アーチャーとは、近い先で戦うことになるのは重々承知していたが、まさかここでそんな機会が訪れるとは予想だにしなかった。

それは、あいつも同じだったらしいのか奇襲をかけてきた側だというのにも関わらず、どこか驚いているように見えた。

 

 

「何故、お前がこんなところにいる…!

何故、お前が─────…イリヤスフィールのサーヴァントとして、この聖杯戦争に参加しているんだッ!!」

 

 

「……。」

 

 

あり得ないモノでも見るかのような眼で、俺に問いただしてくる……奴の言動も無理はない、文字通り、俺が聖杯戦争に参加していることは、あり得ないことなのだからな。

第五次聖杯戦争に参加することが正史に刻まれているアーチャーにとって、俺はイレギュラー中のイレギュラーだろう。

 

 

「答えろ!イリヤスフィールのサーヴァントはギリシャの大英雄『ヘラクレス』のハズだ!

お前が、バーサーカーとして現界できるはずがないんだ!!一体、何が目的だ!!」

 

「アーチャー、俺は──────…」

 

 

 

 

────────────…pipi!!

 

 

 

言いかけたその時、右耳に掛けていた、特別製のインカム型通信機が鳴り響いた。

自分で用意したものだが、悪いタイミングで鳴りやがったそれに、若干の煩わしさを覚えたが通信相手のことを考えたら出ない訳にもいかないだろうが、果たして、呑気に通信に出ることを目の前にいるアイツは許可してくれるのか…。

 

 

…ちらりと、視線を前に向けるとアーチャーは少し不服そうな顔をしていたが、出ることを了承したのか腕を組みながら、視線を俺から外した。

 

 

 

そういうところは、相変わらず紳士だな…。

 

 

 

奴の気遣いに今は素直に感謝して通信を繋いだ。

 

 

 

 

「キャスターか?」

 

《ええ、私よ。何か不服かしら?》

 

「悪いが、今は茶を濁す余裕がすらねぇ。何か連絡があるなら、言ってくれ。」

 

 

俺の緊迫した状況を察したのか、面白くなさそうに通信越しに息を吐くキャスター……乗ってもらえなかったのが、そんなに気に入らなかったのかよ…。

 

 

《貴方の言っていた通り、あのセイバーのマスターとアーチャーのマスターが交戦を始めたわ。

そして、予告通り…あの坊やは逃走に徹していて、戦意がないみたい。》

 

 

やっぱり、遠坂が士郎に戦いを吹っ掛けたか。

原作通りの行動に一瞬、安堵しかけるが、これからどうなるかまだ分からないので安心するのは、まだ早い。

最悪、遠坂が士郎を殺してしまう可能性もあるのだからな…まぁ、遠坂 凛の人間性を考えれば、そんなことはあり得ないと思うが、よく死ぬ主人公で有名な士郎だから否めない。

 

それ以外にも不安材料はある、遠坂家に代々伝わる呪い────…もとい、遺伝である“うっかり”のせいで、何が起こるか分かったものじゃない……!!

 

 

 

…なんだか、すごい不安になってきたぞ。

 

 

 

遠坂が色んな所にガンド撃ちまくって、そのうちの一つが跳ね返ってきて士郎に直撃した何てことも…あり得なくはない。

 

 

 

 

《ねぇ、ちょっと聞いているのバーサーカー?》

 

「…ああ、うっかりって怖いな。」

 

《なんの話よ…それで、どうするのよ。あの坊や、あのままだと死んでしまうかもしれないわよ?》

 

 

キャスターは、まるで「早く助けに行かなくていいのか?」とでも言いたげだ。

彼女は、俺が士郎のことを気遣っていることを見抜いているんだろう、実のところ、今すぐにでもあいつのところへ行きたいところではある…。

 

 

だが─────。

 

 

「…こっちも問題発生だ。」

 

《アーチャーのことね。こっちでも確認してる。》

 

 

あっちのモニターでも、俺と奴が対面している姿が映っているようだ。

俺は、無線から流れてくるキャスターの声に耳を傾けつつ、アーチャーから視線を外さなかった。奴も警戒しているのか、律儀に通信が終わるのをじっと待っているものの、隙は一切見せてはいない。

…やっぱり、一筋縄では行かないよな、あいつのことだから、ここを簡単には通してくれないだろう…。

 

 

 

仕方ないか…。

 

 

 

「なんとか、こいつをかわして士郎のところへ向かう。

キャスターは、そのままモニターしていてくれ、何か起こったらすぐに連絡くれ。」

 

《…了解したわ。でも、いいの?》

 

「?」

 

《貴方、あのアーチャーに何か思うところがあるみたいだから。》

 

 

その声には少しだけ、こちらを気遣っている色が見られた。

これには流石の俺も驚いた、まさかキャスターに心配されるとは思ってもみなかったし、それに俺がアーチャーに対して特別な心境を抱いているということを、彼女にに気付かれるとは思ってもみなかった。

魔術的とはいえ、繋がりを持っているイリヤでさえ、少し引っ掛かりを感じる程度にしか思っていないのに。

 

 

 

意外も意外、だが、その気遣いは少しだけ胸のつっかえを消してくれた。

 

 

 

 

「なんだ、心配してくれてるのか?」

 

《馬鹿なこと言わないで、あれだけ大見得切って同盟を持ちかけたのに、使えなくなったら困るから言ってるだけよ。》

 

 

さっきよりも冷淡な声音で言い放つキャスター。

ツンデレを期待したわけではないが、ちょっと残念な気持ちになった自分が気持ち悪いな。

適当に会話を切り上げて、通信を切ってアイツに向き直る…褐色の仏頂面が腕を組んで通信が終わるのを待っていやがった、ほんとに律儀だなあいつ。

 

 

「お喋りは終わったか。」

 

「お喋り言うーな!俺は、ただホウレンソウを守ってるだけだっつーの!」

 

 

人の通信を子どもの内緒話かのように扱うアーチャーに俺は吼えるようにツッコミを入れる。

そんな俺に対し、この色黒白髪男は「やれやれ…」と呆れたように溜め息を吐きやがった…溜め息を吐きたいのはこっちだっつの…。

 

 

(けど、なんか…懐かしいな…今のやり取り。)

 

 

英雄時代で、ほんの少しだけの共闘期間中に行われたやり取りを思い出した。

確か、あの時も緊迫した状態だというのに、こんな風に馬鹿話をしてたなぁ…俺達だけじゃない、そこには多くの仲間達も居て、みんなで軽口を叩きながらも過酷な戦場を乗り越えてきた。

そこには、アーチャーも居て…まぁ、今のように捻くれた性格してたけど、仲間として共に戦ってたんだよな…。

 

 

そんな風に考えていると、あいつも同じだったのか懐かしんでいる表情をしていることに気が付いた。

 

 

あいつも、懐かしんだりするんだな…まぁ、原作でも何度かそんなシーンがあったような気もするけど。

俺の視線に気が付いたのか、アーチャーは間もなくしてハッと気が付くと、すぐに表情をいつものような鋭いものに変えて、こちらに向き直りやがった…くそ、もう少しあのままで居てくれたら『加速』使って、校舎へ乗り込めてたのに…!

 

 

一瞬とはいえ、行動に移すのが遅れたことが仇となったのか、ここから逃走するタイミングを見失っちまった。

 

 

 

「…貴様、ここから逃げようとしていたな。」

 

「何故バレたし…」

 

 

キャスター曰くの“表情に出ていた”ってやつなのか、俺の考えを見事に読み取ったアーチャーは蔑んだ眼で睨みつけていた……あっぶね、あのまま逃げてたら確実に後ろから、串刺しにされてたかもしんねぇな。

まぁ、こいつのことだし…最初っから『加速』を使うことを想定していたかもしれんな、なまじ因縁深い間柄なもんで互いの手の内も考え方もある程度読めるもんな。

 

 

さぁて、どうしたもんかねぇ…さっさと、士郎の様子を見に行きたいんだが。

 

 

物は試しか……。

 

 

 

 

「アーチャー、そこ通っていい?」

 

「この状況で、良いと言うと思っているのか?」

 

 

 

ですよねー。

 

 

 

「…そんなことより、さっきの質問に答えてもらいたいのだがね。」

 

「黙秘権を行使する」

 

「そんなものがあると思っているのか。」

 

 

 

うんまあ、知ってた(棒)

 

 

 

 

可能な限り詰め込んだユーモアセンスで乗り切ろうとするが、そうは問屋が卸さないとばかりにアーチャーは冷淡なツッコミを入れてくる。

もう少し、優しい対応をしてもらいたいものだが、こいつから優しくされてもあんまり嬉しくないどころか、想像したら居心地も悪くなりそうだから撤回しておこう。

 

 

 

さて…どうしたもんかな、ある程度何らかの障害は起きるとは予測していたが、こいつが来たのは完全に計算外だ。

 

 

 

「…やっぱり、素直には通してくれないか。」

 

 

やれやれ…普段は興味なさげに素通りするはずなのに、こういうことになるとムキになって頑ななのは相変わらずだな。

こうなった、アーチャーは誰が何を言おうとも変わることはない……であるならば、強硬手段しか残されていない。

 

 

「そこをどけ、今は付き合っている暇はないんでな。」

 

「…やはり、口割らないか───…ならば、この後の行動は容易に想像できるな。」

 

 

呆れたように述べた後、アーチャーは表情をより一層険しいものに変え、いつも使用している夫婦剣を投影して構えた。

 

 

 

「構えろ、バーサーカー。この身は既に英霊、ならば英霊同士が相見えたからには剣を取り戦うことが道理だろう。」

 

「…仕方ねぇ。」

 

 

それだけ呟くと、俺は夫婦剣に対抗するかのように己の宝具である非対種の双子銃を取り出して銃口を奴に向けた…こいつと戦うからには、生半可な戦い方じゃ通用しねぇ。

 

 

 

 

“本気で倒す気で行かなきゃな。”

 

 

 

 

「今は、お前に付き合ってる暇はねぇ────…さっさと、越えさせてもらうッ……!!」

 

「越えられるものなら、越えてみろ……!!」

 

 

 

対峙するは、黒と赤───…破壊者と守護者。

 

 

 

奇しくもそれは、状況こそ違うが最後に殺し合った時と全く同じだった。

 

 

 

その事実に、チクりと胸が痛んだ気がしたが…この時の俺は気に止めるほどの余裕はなかった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

日常的に見慣れた学校の廊下を激走している俺こと、衛宮士郎は、現在進行形で後方から追ってくる同級生にして先日大変世話になった赤鬼───…もとい、遠坂から逃げている。

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

その怒声と共に飛び交うのは、彼女の指先から放たれる呪い(ガンド)。北欧で伝わる小さな呪いは、伝承とは違い、一発でも直撃したら確実に吹き飛ぶだろうシロモノだ。

 

 

 

弱小の呪いがどうすれば、あんな殺人兵器に変わるというのだろうか……。

 

 

 

───…って、今かすったぞ!?あぶなっ!!

 

 

 

「往生しなさい衛宮くん!!大人しくやられなさい!」

 

「誰が止まるかよ…ッ!!」

 

 

あんなものを食らったら、呪われるだけじゃ済まされないだろう、体が消し飛んでしまいそうな勢いだ。

 

 

「くそっ───…」

 

 

このままでは、やられると思い近くの教室に逃げ込んだ。

我武者羅に走り続けていたから、どこの組なのか分からないけど机が並んでいるところを見れば、普通の教室なんだろう。

 

 

 

教室に入った俺は、教室の扉の鍵を全て閉めて立て籠もった。

 

 

 

ドンドンと外から遠坂が扉が強く叩く音が教室内に鳴り響く。

扉越しから聞こえる怒声に冷や汗がたらりと滴るが、ひとまずは息を整えても大丈夫だろう。

 

 

「遠坂の奴────…一体どうして…」

 

 

先日まで、何だかんだ言って親切に教えてくれた遠坂。

右も左も分からず、セイバーを召喚し、聖杯戦争に巻き込まれてしまった俺を見捨てず、助けてくれた。

たった少しだけの時間、セイバーのマスターとして聖杯戦争に参加することを決めた瞬間から、いずれ戦うことは決まっていた…俺も覚悟していた、けど、やっぱり…。

 

 

 

───俺は、遠坂とは戦いたくない。

 

 

 

「なんとかして、遠坂を止めなきゃな…さて、どうしようか────」

 

 

 

そこで、俺はようやく気が付いた。

 

 

 

外にあった、怒声が無くなっていることに…。

 

 

おかしい、あれほどサイレンのように響いていた彼女の声が突然、ピタリと鳴り止んだぞ。

遠坂の性格から、大人しく諦めたとは思えない……一体、どうしたっていうんだ……ッ!?

 

 

 

その時、ぞわりと背筋が凍るような感覚が走った。

 

 

 

扉には鍵をかけ、窓からも入ることは不可能、俺以外誰もいない密室なのにこの感覚は何だ…?

 

 

 

 

まるで────そう、罠にかかったネズミのような。

 

 

 

 

────────ッ!!

 

 

 

扉の向こうで、遠坂の声が微かに聞こえてきた。

俺の勘違いでなければ、今のは魔術の詠唱に間違いない!!

 

 

「くそっ!!」

 

 

このままだと、やられる───!!

 

 

そう思った、俺は側にあった机を縦に寝かせて身を守るように体の前におき、詠唱を始める。

 

 

同調、開始(トレース、オン)…!!」

 

 

机を強化して、盾として使おう。

これで、ひとまず遠坂の攻撃に耐えることができそうだ…!

机の陰に身を隠して、攻撃に備えていたその時……。

 

 

 

 

Fixierung,Eilesalve(狙え、一斉射撃)───!」

 

 

 

 

 

扉の向こうから、彼女の叫ぶ声が聞こえた次の瞬間。

 

 

 

 

魔力の弾丸の雨が、俺を襲った。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

俺とアーチャーとの戦闘が開始してから数分が経過しようとしていたが、勝敗は未だに付いていなかった。

俺は、ジリジリと迫ってくる、白と黒の夫婦剣を避けながら適度の距離感を保ち、アーチャーへ向けて双子銃の弾丸を放つ。

対してアーチャーは、両手に持った夫婦剣で切り払いながら回避し、接近して夫婦剣を振り下ろしてくる。

 

 

 

両者の実力は互角…攻防戦は未だに続き、拮抗状態が続いていた。

 

 

 

「いい加減ッ、そこ退け!!」

 

「退くと思っているのかッ!」

 

 

 

白の剣戟が俺の右頬を掠る…!!あっぶねぇぇ、このやろ!!

 

 

 

「当たるかっ!!」

 

 

避ける動作をしつつ、右手に持っているディーヴァを放つが軽々とかわされた。

かなり、際どいタイミングと角度からの攻撃だったんだけどな…今のを避けるとは、やっぱり…こいつの厄介さは英雄時代から変わんねぇな!!

 

奴だけ…英雄時代から何度も対立してきたあいつだけは、俺の力の全てを知っている。

戦略、能力、魔───…全ての情報を開示されている為、あらゆる戦術に対応される。

それは、俺だけじゃなく…あいつもそうだ、俺もあいつの戦術や力を熟知しているため、どんな攻撃が繰り出されても切り返すことができる。

 

 

 

つまるところ、お互いの行動に対応できるから全然終わんねぇ!!って状態に陥っている。

 

 

 

これじゃあ、埒があかないっ!!

 

 

 

「らぁッ!!」

 

「フッ…!!」

 

 

やけ気味に回し蹴りを顔面に向けて、蹴りつけるが当たる訳もなくあっさりと避けられて距離を取られる。

あいつも、拮抗状態が続いて埒があかないと思ったのだろうか、ばつが悪そうな顔を浮かべていた…きっと、俺も同じような表情をしているんだろうな。

 

 

(それにしても、どうしたもんかなこれは。)

 

 

長い事、ここでの足止めでかなりの時間をロスしていることに焦りを感じ始めてきた。

このままだと、流石にまずい……士郎を見張りつつ、学園に現れるだろうワカメこと間桐慎二を懲らしめつつ、ライダーを無力化したのちにアサシンの行方を聞くつもりだったのにおじゃんになりそうだ…。

今頃、士郎も遠坂にガンドを打たれながら追いかけまわされていると思うし…何とかして、ここから離れなきゃな。

 

 

 

一瞬の隙を突いて『加速』で逃げられるか?

 

 

 

あいつに限ってみすみす見逃してくれるとは思えないが……やるだけやってみるか。

 

 

 

 

双子銃のグリップを握り締め、アーチャーへと向う。

 

 

 

 

…その時、突如として上の階にある教室が爆発した。

 

 

 

────って、はっ?爆発!?

 

 

 

突然の爆発に思わず唖然とした。

何だ今の…知らんぞ、劇中であんな爆発のシーンなんて見たことないし…。

 

 

「なんだ…今の爆発は?」

 

 

俺に心当たりがないなら無論、こいつにも身に覚えがないわけで険しい顔のまま上を見上げていた。

どうやら、アーチャーが行ったわけではなさそうだ…じゃあ、誰が────。

 

 

 

 

 

「…ぁああああああああああああッ!?」

 

 

 

 

 

 

やった?と思考を巡らせたところで、今度はそんな叫び声が聞こえた。

 

 

 

視線を戻すと、そこには二階の教室から“真っ逆さまに落下してきている士郎の姿があった”

 

 

 

 

 

「…って!?士郎さあああああああんッ!?」

 

 

 

 

 

とんでもない光景に目を疑ったというべきか、はたまた現実を疑ったと形容すべきか…とにかく、すごい驚いた。

そしてなにより、士郎お前何してんだよ!!このままだとdead endは確実だぞ!!タイガー道場まっしぐらだぞッ!?人生にセーブポイントなんか存在しないんだぞ!みんなノーセーブ、ノーコンテニューで生きてんだぞおおおおおおッ!!

 

『狂化』が働いてないのにも関わらず狂ったように言葉の波が脳内を駆け巡るが、それが原動力になったのか無意識に『加速』を発動し、その場から駆け出し─────…空中で士郎をキャッチすることに成功した。

 

 

 

 

あ、あっぶねぇぇ…!!完全に意識外の行動だったけど、俺ナイス!

 

 

あと少し遅れていたら、士郎が地面と合体するところだったぜ…。

 

 

 

 

《バーサーカー!!士郎はっ、士郎は大丈夫なの!?》

 

 

良く動けた俺、えらいえらいと自分自身を褒めているとインカムから焦燥感が滲み出ていることが丸分かりのイリヤの声が聞こえてきた、あちらのモニターにも士郎が二階から落ちてきたのを確認できたようだ…。

俺は返事を返すことなく、カメラの位置に視線を向けてコクりと頷いて士郎の安全を伝えると間もなくして、我が主様が胸を撫で下ろすように息を吐くのが分かった。

 

 

「ば、バーサーカー…!?な、なんでここに!?」

 

 

 

なんでここに?

 

 

こっちの台詞じゃい!

 

 

 

信じられないものでも見るような眼で見上げてくる士郎…そこで、俺は顔バレしたのではないかとハッとしたが幸いなことに着地した時に礼装のフードが被さったようだ、色んな意味で助かった…。

 

 

しかし…一体、何であんなところから落ちてきた?というか何があったんだ────?

 

 

そう思い、ちらりと士郎が落ちてきた二階部分を見上げると。

 

 

 

すると、破壊された窓から遠坂の姿が現れた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

遠坂は俺を見て……というより、俺に抱えられている士郎の姿を見て驚いている表情を浮かべた。

 

 

 

「…なるほど、そういうことね──…!!」

 

 

遠坂は何かを呟いたかと思うと窓から飛び降り、下にいるアーチャーへと指示を飛ばす。

命令(オーダー)を聞き取ったアーチャーは、“人間”では目視できないスピードで自分の主のもとへ駆け出し、空中でしっかりと受け止めて地面へと着地した。

 

 

その様子を確認しつつ、俺は士郎を下ろして双子銃を握り直す。

 

 

同じくして地面に降り立った遠坂は従者よりも一歩前へと進み出た。

 

 

 

「遠坂…!!」

 

 

俺の横にいる士郎が張り詰めたような声を上げる…きっと、原作通りにあの赤い女と物騒な鬼ごっこをしたんだろう…同い年で見知ったとは言え、相手は生粋の魔術師。

他の奴らよりかは良識人とはいえ、怖い思いをしただろうに…少しだけ、隣にいる我が主様の大事な男の事を不憫に思った。

 

 

「やるじゃない衛宮くん、私としたことが完全に騙されたわ…まさか、最初からそういう算段だったのかしら?」

 

 

 

ナニイッテンダ!!フジャケルナ!!(0M0#)

 

 

いや、ホントに何言ってんだこいつ。

一人で勝手にスカした顔で喋ってる姿にはダディじゃなくても思うはず。

 

 

「…何言ってんだ?お前…?」

 

 

ほらぁ、士郎も同じこと思ってるー。

 

 

…などと、お茶らけてみたものの依然として、遠坂の表情が変わることはなかった。

ここまでくると流石の俺も反応に困る、マジで遠坂は何のこと言ってんだ?

 

 

「この期に及んで白を切る気?、それともそれも作戦の内かしら?」

 

「だから、何のことを言っているんだ遠坂!?算段とか作戦だとか言っている意味が分からないぞ!?」

 

 

 

 

「しらばっくれてんじゃないわよ!!アインツベルンと手を組んで私を貶めるつもりだったのでしょう!?」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

ヴェッ!?(0w0;)

 

 

 

「おかしいと思ったのよ、いくら明るい内とは言えセイバーを連れて歩かないなんて自殺行為をする意味が分からないもの。」

 

 

それもこれも、全てこの為だったのかと言わんばかりにこちらを睨んでくる【あかいあくま】、もとい遠坂に俺も士郎も言葉を失った。

彼女が知らんのも無理はないが、セイバーはとある諸事情から霊体化できない身だから学園に連れて来れないのは仕方がない事なんだが、それを説明できるわけもなく。

 

 

「ご、誤解だ遠坂!!俺がイリヤたちと手を組むなんて────…」

 

 

そうだ!もっと言ってやれ!

 

 

「さっきの光景を見て、そんなことが通用すると思う?」

 

 

ですよねー。

 

 

どうやら、さっきの俺の士郎を助けたのが誤解に繋がったようだ…っていっても、あのまま士郎を見殺しには出来なかったし、我が主様に士郎が死ぬような光景を見せたくなかったしさぁ…。

 

 

「いいわ。一度は騙されたけど二度目はないわ…幸い、セイバーは居ないし、ここで迎え撃つわ!」

 

「遠坂!!」

 

 

迎え撃つわ!じゃ、ねーわ!!

 

 

おいおい、マジで俺ら手を組んでるって思われてんのか!?

このままだと、士郎が遠坂と手を組まないルートに入っちまう可能性が微レ存!?

またまた、俺の知らない改変に頭を悩ませていると突如としてその場の空気が変わり、そして───…

 

 

 

 

「あははははっ!ほら、だから言っただろう遠坂?衛宮なんかより、僕と組んだ方が良いってさぁ!」

 

 

 

 

そんな愛嬌が微塵も感じられない憎たらしい声が聞こえてきた、この声は…まさか…。

 

 

 

「慎二…!?」

 

 

ワカメの野郎がいやがった…。

ワカメこと、間桐慎二は下品な笑みを浮かべながらこちらを見下すように眺めていやがった。

 

 

「よぉ、衛宮。まだ、くたばってなかったんだねぇ。」

 

「慎二…お前、なんで…!?」

 

 

突然の親友(?)の登場に士郎は驚きのあまり言葉が出ないみたいだ。

そんな彼の姿を見て、慎二は愉快そうに口角を釣り上げながら言い放った。

 

 

「“なんで?”おいおい、随分とおかしなこと言うじゃないか。もしかして、わざと言ってんの?それとも…本当に分かんないの?」

 

 

 

慎二は笑みを浮かべたまま、右手に持っていた本を見せつけるように開いた。

それを目の当たりにした俺はすぐに察した…やれやれ…どうやら、面倒事がまた一つ増えたみたいだ。

俺が溜め息を吐くと同時に慎二は、自信たっぷりに“名”を呼んだ。

 

 

 

「来い『ライダー』。衛宮にお前の姿を見せてやれ。」

 

 

慎二がそう言うと、鎖の付いた短剣がこちらに向かって飛んできた!

士郎がギョッとした様子で後ろに下がると同時に俺は前に出て、短剣を回し蹴りで弾き返した。

弾かれた短剣は持ち主のところへ返り、それを目で追っていくと慎二の隣に誰かがいることが知れた。

 

 

 

そいつは、薄紫色の長い髪を膝下まで伸ばしたボンテージ姿にアイマスクをした長身の美女……“騎乗兵”のサーヴァント『ライダー』だった。

 

 

 

「サーヴァント!?じゃあ、まさか慎二…お前は!!」

 

「ようやく気付いたみたいだね…そう、僕こそがこのライダーのマスターさ!!」

 

 

 

心底、愉快そうに言い放つ間桐慎二…その横には獲物を見つけた蛇のように妖艶な笑みを浮かべるライダー。

 

それらを黙って静観しているアーチャーとそのマスターである遠坂 凛。

 

方や、蛇に睨まれた蛙の如く一歩も動けずにいる衛宮士郎と俺ことバーサーカー。

 

 

 

 

運命の悪戯か、それとも誰かが意図して起こしたのか──────…

 

 

今、この場に四つの陣営が相見えた。




まさか、この話を考えつくのに年越すまで時間が掛かるとは…。

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