第1話 銀眼の魔女 前編
第1話 銀眼の魔女 前編
―――― イタリア 某所
深夜の静けさに包まれた街。だが、何処か血生臭い不気味な雰囲気も醸し出している。街の住人達は、まるで何かに怯え息を潜めているようだ。
この街では、一ヶ月前から連日のように惨殺事件が発生していた。
始まりは、この街に観光に来ていた一人の男性だった。この男性は、街並みを題材にした風景画を描くため数日この街の宿に滞在していた。ある晩、夜景のスケッチをするため宿を出たが戻ってくることはなかった。
そして、二日後。街に走る川のほとりに凄惨な遺体となって発見された。
その遺体は、胃や腸といった内臓を食い散らかされたように殆どの臓器は原形を留めてはいなかった。
すぐに警察によって捜査されたが犯人の目星がつくことはなかった。
それどころか、遺体発見から三日後。新たな犠牲者が出た。
一ヶ月後。犠牲者の数は、十人を越えた。
しかし、犯人に繋がる証拠や証言が挙がることはなかった。
ただ一つはっきりしていることは、犠牲者は皆内臓を喰い荒らされ死んでいるということだ。
まるで、グールに貪られたかのように・・・・・・。
街の住人達は、恐怖のどん底に陥れられた。
そして、この地に伝承になぞらえて人々は口々にこう言った。
―――― “妖魔”が現れたと・・・
―――― フォルトゥナ
かつて、世界を救った正義の悪魔“スパーダ”が領主だったという伝説が残る城塞都市。
数ヶ月前、この城塞都市で起こった魔剣士教団の暴発の傷跡がまだ残るこの都市の片隅にとある事務所がある。
魔剣士教団の暴発から少したった頃出来た便利屋の事務所である。
この事務所の店主の名前ネロ。
数ヶ月前に起こった暴発の渦中にいた人物。孤児として教団に引き取られ、悪魔を狩る者として育てられた。だが、単独行動や命令違反が多く、教団の汚れ役として任務が大半だった。そして、数ヶ月前の事件でスパーダの息子であるダンテとの出会い、自身の中に流れるスパーダの血のことを知り、兄のように慕っていたクレドの死により教団を脱退し、今に至る。
立ち上げたばかりの事務所の経営は軌道に乗ったとは言いがたいがダンテの仲間の一人であるレディからの仕事を褪せんしてもらったり、教団時代のつてからの依頼でなんとかなっていた。
そんなある日の事だった。
一本の電話。
そこから、すべてが始まった。
ネロが事務所に鳴り響く電話をとった。
電話の主は教団時代に赴い先で知り合った国際警察の捜査官ジェイク。かつて悪魔に襲われているところを助けた事がきっかけでそれ以降、悪魔絡みの事件に助力している。
今回もどうやら悪魔絡みの事件が起こったようだ。
「ジェイク、久しぶりだな。」
「ああ、この間の事件では世話になった。」
「何大したことじゃない。それよりも、また、何かあったのか?」
「その事なんだが、今イタリアのある街で起こっている事件の捜査をしているんだが、どうも奴ら絡み線が濃厚になってきてな・・・。」
「何?」
「詳しく話はこっちでしたい。昨日、お前の事務所に飛行機のチケットを送っておいた。それを使ってイタリアまで来てほしい。」
「ずいぶん焦ってるみたいだな。」
「ああ、もうすでに十三人殺されているからな。なるべく急いでほしいんだ、ネロ。」
「!!分かった。」
「よろしく頼む。お前の仕事道具も乗せられるよ手配してある。飛行機の搭乗日は三日後の1時発だ。」
「了解。じゃあ、三日後に。」
その後ジェイクからの電話切るとイタリアに行くための準備を始めたネロ。その日の内にチケットと手紙、一枚のカードが届いた。どうやら、チケットと一緒にカードを見せれば空港のセキュリティをパス出来るようだ。さすがは、国際警察と言ったところだろう。
翌日、キリエにこの事を伝えるため、キリエのいる孤児院へ足を運んだ。
キリエは、あの事件の後、クレドと暮らしていた家を離れフォルトゥナにある孤児院に住み込みで働いていた。
「キリエ、久しぶり。」
「ネロ!元気そうね。」
久しぶりに見るネロの元気な姿に喜ぶキリエ。だが、背中に背負うギターケースの存在にその表情は少し硬いものになる。
「ネロ、また仕事なの。」
「・・・・・・。」
どこか、自分を心配するキリエの様子に言葉が詰まる。自分の仕事の危険性は数ヶ月前の事件で身に染みている。悪魔という人智を超えた存在を相手にしているのだ、いつ命を落とすか分からない。
キリエ本人もあの事件を通しそのこと十分に理解している。ましてや、あの事件で実の兄を亡くしているのだ。不安でしょうがない。いつまた兄の様に自分の前からいなくなってしまうのかと・・・。
ネロとて、キリエの気持ちを理解している。しかし、悪魔という存在から背を向けることができなくなっている現実がある。教団時代に突如右腕に発現した悪魔のそれ。そして、あの事件で知ってしまったこの身体に流れるスパーダの血が悪魔と戦うことを宿命付けている。
「・・・、すまないキリエ。知り合いからの依頼でしばらく・・・、イタリアに行く事になった。」
「・・・・・・。」
「キリエ・・・「必ず・・・。」」
「必ず、帰ってきてね。」
「・・・・・・、ああ、必ずここに帰ってくるよ。ここは、俺の“故郷”だから・・・。キリエが待っていてくれる場所だから。」
そう言うと、ネロはキリエに背を向け孤児院を後にした。