『今流行りのアイドルユニットであるダークイルミネイトのお二人をゲストにお呼びしましたー!!』
テレビの向こうに映る彼女たちは、どう形容すれば良いか……まるで友人である彼女のドッペルゲンガーという錯覚を感じた。
客観的に見て、これは現実逃避だ。
自分の友達が誰だったか分からなくなるなんてのは、酷くもどかしくなる。
『ダークイルミネイトのメンバーである二宮飛鳥さんと神崎蘭子さんはどちらも中学二年生なんですよね』
『えぇ、まさに世間で言うところの中二病真っ只中です。いつも友人などに迷惑をかけてる自信があります』
『我も良き友に恵まれていると感じている。万の感謝を以っても足らぬであろう』
『飛鳥さんにとって、中二病というのはどういうものなのでしょうか?』
二宮にとっては強がりだ。
『強がり……ですかね。意地というか、納得できないものがあったから、虚勢を張り続けています』
『なるほど……蘭子さんはどうでしょうか?』
神崎は、フィルターかな。
『我……えと、私は……その、会話があまり得意ではなくて……き、緊張してしまうのですが……』
『蘭子、大丈夫だよ。頑張って』
『う、うん。あの……キャラになりきって話すと緊張しなくなるので……ーーこうして、高貴なる闇の魔力で自身を護っているのだ』
『な、なるほど……ありがとうございました』
司会の人が少し引き気味に切り上げ、そして曲紹介へと移り、彼女たちのステージが始まる。
彼女たちのユニット初曲である【双翼の独奏歌】は万人受けではないものの、一度聞けば彼女たちの曲であるとすぐに分かる曲だ。
歌詞、ダンスの振り付けは共にそれ相応のファンタジー性を伴っており、聞けば見れば、それほど味を出してくる。
机の上に広げている雑誌に目を移す。
『堕天使降臨!? 黒い翼を生やした少女たち』という見出しで大きく見開きを飾り、後のページでかなりの量の文字数であるインタビュー記事が載った今週号だ。
これはツテでゲットした物で、今本屋に行けばすでに完売しているだろう。
「……夏休みなのに、大変な奴らだな」
俺は家でゴロゴロとできる休日の毎日。
片や休みのおかげで仕事が増え毎日引っ張りだこである彼女たち。
焦燥感。
黒い煙が胸を燻る。
「ーーゲホッゲホ!?」
違うこれ物理的に辺りに黒い煙が立ち込めてる!!
「火事!?」
焦げ臭さと夏の温度だけじゃない熱さを肌に感じる。
目眩でパニックになりながらも火事場の馬鹿力か人生で一番の俊足を見せた俺の足が玄関までたどり着き、そのまま外に飛び出た。
「はぁっ……はぁっ! なんだよちくしょう!!」
見ると、火事なのはウチではなく隣の家で、その火が俺の家に燃え移っている。
すぐさま消防車をと思ったが、急いで出たためスマホを家の中に置いてきていた。ついでに雑誌は何故か手に握りしめていたままだった。
そんなに大事か、それが。
その選択は、おそらく本心なのだろうけれど。
遠くでサイレンの音が聞こえる。
騒音が小さくなっていき、俺は一人そこに座り込んだ。
ふと少しの笑みが浮かんでくる。
「……遠くなったんだから、どっちでも同じだろ」
その言葉の意味は自分でも分からなかったけれど、何故か胸にストンと落ちた。
めのまえが まっくらになったーー
救急車に運ばれるほどの怪我は負っていなかったので、そのまま警察に事情聴取された。隣の火なので、俺からは事実確認だけだった。カツ丼はなかった。
保護者に連絡はつかない。
父親も母親もとうの昔にいない。いるのはただ一人、一番疎遠になりたい姉貴がいるだけだ。
断腸の思いで姉貴の連絡先を警察に教え、そして仕事でデスマーチの真っ最中であろう姉貴に連絡が行き渡った。
姉貴はただ一言ーー
「うちに来て」
それだけを俺に伝えた。
中学二年の夏休み序盤。
最悪の運を引いちまった。
家が火事になったことは前兆に過ぎない。
まだネカフェに泊まった方がマシとさえ思う。
とあるビルの前に俺は立っている。
来た回数は少なく、中に入ったことは一度もないその場所は、俺にとっては地獄の門そのものだった。
中から姉貴が出てくる。
「……災難だったね」
「今からな」
姉貴の名札にはこう書かれている。
『千川ちひろ』
ここ346プロダクションの事務員で、そこに勤めている二宮や神崎のプロデューサーである人物の嫁。
またの名を、春川ちひろだ。
今明かされる衝撃の真実ゥ!!
いや正直すまんかったと反省している。後悔はしていない。
春川ちひろって誰だよ(真顔
春川春樹
千川ちひろのかなり年の離れた弟であり、夏休み初日に家が火事に遭った。
ついでにスマホも焼け落ちた。
春川ちひろ
改め千川ちひろ。346プロダクションの千川Pに嫁入りして今に至る。弟は実家に残り今は旦那の家に住んでいる。
春川家
両親は他界。家は生前両親が建てた家(灰)。ローンはちひろがあらゆる手を使って払った。
ダークイルミネイト
デビュー曲【双翼の独奏歌】で大ヒットしたちまち流行に乗った二宮飛鳥と神崎蘭子の二人アイドルユニット。
売れ出し中なので夏休みなんかなかった。ブラックである(イメージカラー