プロローグ的な感じなので、つまんねって言う方は1話まで飛ばしてください。
ーー遠い、夢のようにおぼろげな記憶。
ーー昔々、手の届かないほどには古い昔だ。
「ブリット、行け!行くんだ!!」
「待ってよ父さん!私も戦う!!」
「駄目だ、逃げるんだ!!」
炎に包まれる宿屋の中、少女とその父親の声が響く。喉が焦げ付きそうな空気の中で、少女は必死に父を引き留めていた。
「父さんも母さんも、どうして私を奴等と戦わせないの!?……お婆ちゃんもお爺ちゃんも、ちゃんと戦えば……」
父親の鎧にしがみつき、しゃくりをあげて涙を流す少女を、彼は優しく撫でる。
「……ブリット、私の可愛い娘。あの二人は無駄に死んでいったんじゃない、俺達を守るために捕らえられたんだ」
「だから……」
それならば、どうして両親達まで犠牲になる?そう言おうとした少女の口を、父はそっとふさいだ。
「だからこそ、さ。彼らは命をとして守ってくれた。なら、次は私たちの番だ。今度は私たちが、自分の娘を守る番だ」
それでもなお少女が反論しようとしたとき、出入り口から一人の女性が入ってきた。少女が成長し、大人になったらこうなるであろう、金色の髪が美しい女戦士だ。
「イェルド、サルモールの増援がきたわ!!やつらここで決着をつける気よ!!」
「くそっ、早すぎる。さっきのやつらは牽制か!?」
父はそう毒づくと、もう一度娘の顔へ向き直った。その目は真っ直ぐに、少しでもはっきりと彼女の姿を目に焼き付けようとするかのようであった。
「……ブリット、聞いたね?今すぐここを離れるんだ。言った通りに山を越えれば、ハンマーフェルへと逃げることが出来る。そうすれば私の仲間が助けてくれるはずだ」
「………嫌、嫌だよ……」
「ブリットムルヨル!!!」
微動だにしない娘を父は、彼女の愛称ではなく本名で怒鳴り付けた。その剣幕と勢いに飲まれ、彼女はビクリと固まる。
「生きるんだ。俺達の分も、お婆ちゃん達の分も、生き延びるんだ。生きて……、己の『使命』を知るんだ」
「使命……」
少女は、父の言葉を反芻する。意味はわからない、だがそれが重要なことだけはわかった。祖父や祖母が死に、両親が己の命を燃やしてでも守ろうとするもの。
父が、優しく少女の身体を押す。そしてそのままきびすを返し、母の元へと向かっていった。ただの一度も振り返らずに。
「あ…………」
追いかけようと足を踏み出すが、燃え落ちてきた梁に遮られる。思わず庇った腕を下げると、もう両親の後ろ姿は見えなかった。
ブリットヨルムル、12歳の誕生日のことである。
◆
「ん……」
ゆっくりとまぶたを開けると、そこは暗い洞窟であった。焼け落ちる家屋は無く、己の身体は成人のそれだ。
「昔の夢……か」
重い身体を起こし、ベットロールから立ち上がる。顔でも洗おうかと水場へ向かうと、違和感に気がついた。
「涙……?そうか、私泣いてたんだ」
そっと、頬を伝った水滴を拭う。自分なりにけりをつけたつもりであったが、まだどこかで引きずっていたらしい。
「もう十年も前の話か……。よく生きてたなあ私」
焚き火に薪をくべ、調理鍋を置く。袋から出した林檎を刻み、レタスを剥きはじめた。料理は得意ではないが、作っていると気分が紛れるのだ。
「可愛い幼女も、今じゃ洞窟で野宿する傭兵かぁ……。時の流れは残酷なものね」
しばらく煮込むと具は柔らかく、腹をくすぐる匂いを醸し出す。香料を入れて木皿に盛れば、アップルキャベツのシチューが完成だ。
完成したシチューを口に運びつつ、黄ばんだ地図を広げる。端々が傷んだそれは、スカイリムとシロディールの国境辺りの地図だ。
「今いる山を抜ければ、スカイリムの国境を越える。地方は……、ファルクリースか」
自分の今いる場所を見つけ、そこからスカイリムの国境を越えるルートを考える。正規のルートを使えないブリットには、これが一番の方法なのだ。
「サルモールの目は気になるけど、帝国軍の警備に穴がある今がチャンスね。何故かは知らないけどありがたいわ」
何かの罠のような気がするが、これが好機だろう。今を逃せば次のチャンスはわからない。多少の危険は犯す価値がある。
鍋の残りを飲み干し、袋を取り上げて立ち上がる。無駄にする時間は無い、帝国軍とていつまでも空けてはいないのだ。
かつては鉱山であった洞窟を出ると、そこは一面の雪国だった。タムリエル大陸の最北、スカイリムへ近づいている証拠である。
「……んー、しょっと!さて、それじゃあ行きますか。ノルドの生まれ故郷、タムリエル最北の地、『スカイリム』へ!」