さてどこまでいけるものか……。
※2017/09/03
ロキールとレイロフの誤字を修正しました。
北国特有の、切りつけるような風が頬を撫でる。スカイリム地方、ファルクリース領に位置する町、ヘルゲン。そこに向かう馬車の上で、彼女は憮然としていた。
「くそっ、なんだってこんなことになったのよ……」
「まあ、お互い運が無かったのさ。戦争ならこんなこともある」
前を見ると、青色の鎧を来た男が座っている。手には拘束具が付けられ、それは彼だけではない。ここにいる全員、正確には馬車の荷台に乗せられたもの全員が手枷を嵌められていた。
「あんたは?」
「俺はレイノフ、こっちは……ええっと」
「ロキール、ロリクステッドのロキールだ」
レイロフと名乗った男は、隣に座る襤褸を纏った男も紹介する。
「君の名前は何て言うのかな?」
「ブリットムルヨル。長いから皆、ブリットって呼んでる」
ブリットと名乗った彼女は、半眼でレイロフを見ていた。
「そうか、良い名だな」
「そうね、名を誉められるのは悪い気はしないよ。あんたらの所為でこうなってなきゃね!!」
「くそっ、奴等があんた達を探していなきゃ。今ごろ馬をかっぱらって、ハンマーフェルへおさらばしてたさ」
彼女達はスカイリム国境付近に居るところを、帝国軍の奇襲に巻き込まれたのである。現在スカイリム地方では、帝国軍と反乱軍ストームクロークによる内乱が起こっているのだ。目の前のレイロフもストームクロークの一人である。要するに二人は、この男達のとばっちりを受けたのだ。
「傭兵の仕事でも無いかと来てみれば、とんだとばっちりよ。持ち物も全部取り上げられて、あの剣お気に入りだったのよ?どうしてくれるのよそこのあんた」
イライラとしながら、隣に座る猿轡を噛まされた男へ吐き捨てる。ブリットは、傭兵として各地を放浪していたのだ。金色の髪に、定まった家を持たずに放浪するのは理由があるのだが、それも終わりかもしれなかった。二人の詰問に、レイロフは涼しい顔をして答える。
「言葉に気を付けろ。君は今、上級王ウルフリック・ストームクロークの御前にいるんだ」
「なっ……、あのウルフリックか!!あんたが捕まったら………、なんてこった!!俺たちはどこへ連れていかれるんだ!?」
「ウフリックだって?あの『王殺し』のウルリックか!ああ、くそっ!何てことに巻き込んでくれたのよあんた達は!!!」
猿轡の男の名前を聞いたとたん、ブリットとロキールは慌てて騒ぎ出す。それもそうだろう、ウルリック・ストームクロークと聞けば、このスカイリムでは知らぬものは居ないと言われるほどの有名人である。
ウィンドヘルム首長、ウルリック・ストームクローク。スカイリムを治める首長の一人であり、同時にスカイリムの首長を束ねる上級王トリグを殺した張本人である。スカイリムの内乱も、この男が原因なのだ。
そうこうする内に、馬車はヘルゲンの城門をくぐり抜け、その内側へ入っていく。
「どこに行くかは知らんが。まあ、俺達にはソブンガルデが待っているんだ」
「嘘だろ!?嫌だ、なんでこんなことに!!」
涼しい顔で言うレイロフに、ロキールはあわてふためく。そんな中、ブリットは馬車の側を歩く帝国兵の会話に耳を傾けていた。もしかしたら脱走の糸口があるかもしれない。だが、聞こえてきたのはさらに残酷な言葉であった。
「これはデュリウス将軍、死刑執行人が待機しています」
「よし、さっさと終わらせよう」
死刑執行人?今、死刑執行人と言わなかったか?
「ショール様、マーラ様、ディベラ様キナレス様アカトシュ様!!神様誰でもいいからお助けぇ!!」
馬車の上でみっともなく命乞いをし、ロキールはガタガタと震え出す。ロキールがこうしていなければ、ブリットも震えていたかもしれない。ブリットとしても、故郷であるスカイリムで罪人のように殺されるのは真っ平だ。しかし、武器も鎧も剥ぎ取られ、ボロ1枚のこの身で出来ることなどはたかが知れていた。
馬車は城壁をくぐり、砦の中へと入っていった。そこの住人達の目、車列に付き添う者達から、ブリットは自分達がどうなるかを想像していた。
「見ろよ、軍政府長官のデュリウス将軍に、サルモールの手の者達までいる。賭けてもいいが、この件には奴らもかかわっているだろうな」
サルモールとは、サマーセット島のアルドメリ自治領を統治する組織のことであり、そのほとんどがハイエルフで構成されている。そして、同時に自領内にてハイエルフ至上主義を掲げる集団である。そして、ノルドが崇めるするタロスの信仰を弾圧したのも、ほかならぬ彼らであった。
「子供の頃は、帝国軍の城壁や塔が頼もしく思えたものさ」
「……あんた、良くのんびりとしていられるわね」
ブリットの頭を、嫌な予感が駆け巡っていた。まさか、いやそんなはずはない。だが、これ以外に考えられなかった。
馬車は更に奥へ入り、広場へと出る。そして、そこにはブリットの予想していたものがおかれていた。
「おい、おい、なんだよあれ!……おいまてよ、なんで止まるんだ?ああ、嫌だ、嫌だ!」
それを見たロキールが、癇癪を起こしたように騒ぎ出す。実際、ブリットも今すぐにでも逃げ出したかった。
斬首台、すなわち処刑用の道具である。
馬車が止まり、付き添いの帝国兵が自分達へ降りるように命じる。いよいよもって、最悪の事態であった。
「なんてことよ!斬首台!?恨むわよウルフリックめ!!」
思わずそんな言葉が大声で出る。それだけ、今の状態は差し迫っていたのだ。考えてもみよう、広場には処刑用の斬首台、すぐ横には上級王殺しの大戦犯、こんな状況でのんびりと自分は死なないなどと寝言をほざいている奴がいれば、そいつはオブリビオン級の大馬鹿者だ。
その大バカ者なのか、或いは秘策でもあるのか。そのどちらでもなく覚悟を決めているからかもしれないが、レイロフが皮肉気な笑いとともにブリットを振り返った。
「さあ、いくぞ。神様を待たせちゃあ悪いからな」
どちらにせよ、ブリットはここで死ぬつもりなど無い。他のノルドは死ぬことを、ソブンガルデへ行けると言って喜ぶ。しかし生憎ブリットは、生まれたときから諸国を放浪していた為か、そういった考えには乏しかった。故に、ここで死ぬなど真っ平ごめんである。彼女は縄を解こうと暴れるが、横にいた帝国兵に腹を蹴り飛ばされた。女であっても容赦はないらしい、まったくとんだ仕事熱心である。
そうこうするうちに、順番に囚人たちが下りてくる。それを見ていた、帝国軍の隊長と思われる女が居丈高に告げた。あの日の夜、ブリットたちを捉えた軍を率いていた奴だ。
「リストの名を呼ばれた者から、順番に処刑台へ並びなさい!」
自由になったら、この女から縊り殺してやる。そう胸に近いつつ、ブリットは必死に逃げる方法を考えていた。
ウルフリック、レイロフ、次々に名前が呼ばれ、遂に自分とロキールの番が来た。
「やめてくれ!俺は反乱軍じゃない!!!」
ロキールはそう言いながら、石畳を蹴ってそのまま逃げだした。愚か者め、自分たちは死刑囚だぞ。そうブリットが思っていると、向こうの方からロキールと思しき悲鳴が聞こえた。
どうやら、弓兵によって射殺されたらしい。なりふり構わず逃げていれば自分もこうなっていたと思うと、ブリットの背中に寒いものが流れた。
「次、他に逃げたいものは?」
その声に、ブリットは思わずかぶりを振る。逃げたいのは確かだが、わざわざ寿命を進んで縮める必要もあるまい。自棄を起こすのは最後の最後で十分だ。
隊長の隣の帝国兵が、リストを見て困惑したような顔をする。そして、困ったようにブリットへ問いかけた。
「あんた、あんたの名前は何なんだ?」
その言葉に、ブリットは少しむっとする。自分たちで捕まえておいて、その囚人の名前を本人に聞くとはいかがなものか。
「ブリット、ブリットムルヨル。種族はノルドよ、ここには傭兵業を探しに来たわ」
その言葉を聞くと、帝国兵は同情を込めた視線を向けた。
「なるほど、ついてなかったな同族よ。……隊長、この女はリストにありません」
どうやらこの帝国兵は、まだ話が通じる方らしい。ブリットはそこに一筋の期待を見出した、しかし………。
「リストはもう必要ないわ。彼女を処刑台へ」
隊長はあっさり切り捨てると、そのままブリットを処刑台へ送るように命じた。ブリットの中で、生きて帰ったら殺す人間第一位に選ばれた瞬間である。勿論二人目はいまいましいウルフリックだ、よくも厄介ごとに巻き込んでくれたものである。
「ご命令通りに、隊長。気の毒に、だがあんたはここで、自分の故郷で死ねるんだ」
帝国兵が、気落とした声でそう告げる。どうやら、さりげなく自分の助命を請うていたようである。
「生憎と、種族はノルドでも生まれはシロディールなの。まあ、すぐに旅立ったから生まれ故郷なんて覚えていないのだけれどもね。……はあ、こうなったら覚悟を決めるしかないのかしら?」
ほとんどあきらめに近い感情で、ブリットはストームクローク兵たちの横へと並んだ。斬首台の前では、デュリウス将軍がウルフリックへと詰め寄っていた。
「ウルフリック・ストームクローク、ヘルゲンにはお前を英雄と呼ぶものもいる。だが、声の力で王を殺め、王座を奪うものを英雄とは呼べない」
声の力とは、限られた人間が使えるという特殊な魔法である。ブリットが祖母から聞いた話では、竜の言葉を操り、その言葉に込められた力により、様々な現象を起こすらしい。声の力に卓越したものは、山を吹き飛ばし、天候すらも自在に操るという。ブリットは子供の頃の与太話程度として忘れ去っていたが、どうやら話を聞く限りではそうでもなさそうである。そして、もしウルフリックがその声の力の使い手だとすれば、それを警戒していたがゆえに猿轡を嵌められたのであろう。
「ここに帝国がお前を処刑し、この反乱を終結させる。スカイリムは再び平穏を取り戻すだろう」
そう言いきると、デュリウス将軍はウルフリックへ背を向け、帝国兵達がいる場所へと戻っていった。
ーー魂を喰らえ。我は強者、絶対なる強者なり。
処刑人の隣に立つ司祭が手を広げ、死刑囚達に死後の祈りを捧げる。まったく、死後の安息を祈るくらいなら、死なないように祈って欲しいものである。
「エセリウスに送られる汝らの魂に、八大神の慈愛があらんことを…………」
「ふんっ、時間の無駄だ。さっさと済ませろ」
タロス神を省いた八大神と言う言葉が勘に触ったのか、一人のストームクローク兵士が処刑台へ歩み寄ってきた。
「良いだろう、まずは貴様からだ」
不機嫌な顔をした隊長が、その兵士をひざまずかせて蹴倒す。腕で合図すると、処刑人が斧を振り上げた。
どちゅっ
肉を断つ音と共に、ストームクローク兵の首が転がり落ちる。身体が大きく痙攣したのを最後に、彼の身体はピクリとも動かなくなった。
さて、これで一人めの処刑が行われた。次は一体誰か、ウルフリックか、隣のレイノフか。まあ、最初はやはり重要人物の処刑から……。
「次、そこの襤褸を着たノルドだ!」
おや、どうやらストームクローク以外の人間から処刑するらしい。自分以外にも捕まっていたとは、災難な人間もいたものである。そんなことを考えていると、後ろの帝国兵がブリットの背中を突き飛ばした。
「痛っ、やめなさいよ!あたしは反乱軍とは関係ないっての!!!!」
抵抗するが、拘束された身では無意味であった。突き飛ばされ、処刑台の手前までやって来る。ブリットの脳裏に、祖母と母親の顔が思い浮かんだ。若くして死ぬ自分を、彼女らが許してくれるだろうか……?
思い出の中の親達の答えは、「家族全員ロクな死にかたしてないからなー」であった。現実逃避にしても雑すぎる答えである、もっとマシなのはなかったのだろうか……。
ーー始まりだ。いかな者も、我を倒すにはあたわず。
斬首台の前に膝をつき、首を差し出す。動こうにも、例の隊長が自分の背中を踏みつけており、首すらろくに退けられない。下手に動けば、斬られたときに激痛でのたうち回ることとなるだろう。斬首とは、半端に失敗すれば地獄の様な苦痛が待っているのだ。自分の祖父が、まさにその例であったブリットとしては、非常に避けたいことであった。
視界の向こうで、処刑人が斧を振り上げる。嫌だ、死にたくはない。そんな考えもむなしく、ブリットの処刑は進行していった。そして…………。
ーー定命の者よ。その傲慢、我が餓えを満たす糧としよう。
幻聴か、先程から声が聞こえる。自身の奥底に響くような、重い声。だが、それは幻聴ではなかった。
辺りが唐突に騒がしくなる。処刑の興奮とは違う、畏怖の混じったものだ。ブリットは最初、いつまでも斧を降り下ろさない処刑人を不思議に思っていた。だが、すぐにその理由がはっきりとした。
視界の端の空に何かが見える。鳥ではない、もっとなにか大きなものだ。巨大な翼と、腕と足をもった怪物。それはどんどん迫って来て、そしてついに目の前の塔へ降り立った。
「なんだあれは!?」
周りの人間達が、口々に騒ぎ出す。背中を踏みつける隊長も、目の前の処刑人も、唖然としてそれを眺めていた。そんな人間の騒ぎなど一顧だにせず、その怪物は巨大な口を開く。
『ーーーーー!!』
人々が吹き飛び、大地が揺れる。晴天であった空には雲が広がり、いくつもの火球が降り注いだ。
声だ。ブリットはこの現象が、ドラゴンの声の力によるものであるという結論に達した。少し前のブリットであれば、この天変地異に狼狽えるばかりであっただろう。だが、ウルフリックの話を聞き、祖母の話を思い出したことが幸いした。話に聞いたドラゴンの伝説も、この光景を考えれば納得がいく。竜語の魔術こそが、今の状況の原因だ。
気がつけば、自分を踏みつけていた隊長も、目の前にいた死刑執行人もいない。仮ではあるが、ブリットは自由の身となったのだ。命の危機に変わりはないが。
死刑執行という最悪の状況は脱したが、今度はドラゴンの襲撃である。無論、立ち向かおうなどとは思わない。そんなことをすれば消し炭となるのがオチだろう。
吹き飛ばされて痛む身体を起こしていると、どこからか声がした。竜語ではない、人間の声だ。
「全員砦へ避難しろ!!そこの死刑囚達もだ!!」
おっと、死刑囚の我々まで匿っていただけるとは感涙の極み。そんなことを考えていると、隣に一人の男がやって来た。
「レイロフ。ちっ、しぶといわね」
「ははっ、よく言われるさ。さて、早く塔へ逃げよう。神様だってそう何度もチャンスをくれちゃしないだろう」
言うに及ばず。背を低くしたまま、近くの塔へ避難する。その途中、横目である人物の姿が目に入った。あれは恐らく、デュリウス将軍であろう。火球の雨のなかで、大声で兵達を指揮している。もしかすれば、先程命令したのは彼かもしれない。
いずれにせよ、早く逃げるに越したことはない。転げるように塔の中へ入ると、レイロフがその扉を固く閉めた。
「はあ、はあ、はあ。なんなのよこれ!何が起こっているの!?ウルフリック!あんたはなにか知らないかしら?あれは伝説にあるドラゴンなの?」
塔のなかには、捕まったストームクロークの兵士達と、その頭目のウルフリックが逃げ込んでいた。ブリットは、もっとも真実に近いと思われるウルフリックに詰め寄った。だが、返答は期待したものではなかった。
「伝説は、村々を焼き払ったりはしない」
その返答に、ブリットは肩を落とす。あまり期待していなかったとはいえ、これでは解決策がない。塔に籠り続けても、ドラゴンに襲われるか再び帝国に捕まるだけだ。なにかないかと階段を昇っていると、再び地響きが起こった。ブリットの耳に、先程と同じ声が聞こえる。
『ヨル……トール、シュル!!』
ゾッとして身を引くと、自分が先程までいた場所を炎が通り抜けた。壁に隠れて外の様子を見ると、あのドラゴンが壁を吹き飛ばしたようである。
「おいブリット、大丈夫か?」
慌てて駆け付けたレイロフが、ブリットの安否を確認する。その問いかけに手を振って答えると、レイロフは吹き飛ばされて出来た穴を覗き込んだ。穴からは外の景色と、隣の兵舎が見えた。
「危なかったな。もう少しでソテーになっていただろうよ」
「本当、生きているのが不思議なくらいよ」
レイロフは何かを考えるようにうつ向くと、顔をあげて切り出した。
「なああんた、あそこの民家まで跳べるか?」
「は?あんたなに言い出すのよ」
突然の問いかけに、ブリットはキョトンとする。この男は、一体何を言っているのだろうか?
「もし行けそうなら、先に脱出してくれ。あんたまで俺達に付き合う必要はないからな」
確かに、ブリットにはストームクローク達と付き合う必要はない。しかし、逃げる方法が………。
「あー、それはつまり、ここからあの炎上している民家に飛び写って、そこから地上へ降りろと?」
「ああ、その通りだ」
確かに、それならばここから逃げることも可能だろう。火事真っ盛りの建物へ逃げ込むという危険性を考えねばであるが。
「他に方法はない。ぐずぐずしていればいつドラゴンが戻ってくるかわからないぞ」
「ちっ、仕方無いわね。火だるまになったら恨むわよ!」
そう言うと、ブリットは壁に足をかける。こうなったら自棄だ、いずれ死ぬなら生きる可能性にかける方がマシである。
「さらばだ同族よ、また会おう」
レイロフの別れの言葉に、両手だけをあげて返す。面倒に巻き込んでくれたが、もし会えたときには小言のひとつでも送ってやろう。まあ、いわゆる同族のよしみである。
石材を蹴り、宙に身を踊らせた。ギリギリ届く、そう思ったブリットは、民家の2階へと転がり込んだ。
屋根が燃え落ちていたことが幸いし、ブリットは無事に着地する。そのまま立ち上がると、床に空いた穴へ飛び込んだ。
「げほっ、ごほっ、薫製になるかと思ったわ」
煙を吸い込んだ影響でえづきながら、ブリットは外へ逃げ出す。後ろで木材が倒壊する音を聞き、彼女の背に冷たい汗が流れた。
外の惨状は、何とも悲惨なものであった。民家は焼け落ち、そこらには燃え盛る炎が立ち上がっている。熱さに顔をしかめながら駆けていると、つい先程聞いたような声が耳に入った。
「こっちだ!!死にたくない奴は隠れろ!!」
声の方向を見ると、先程リストを持っていた帝国兵が、一人の少年を庇っていた。
「あんた、無事だったんだ……」
「ああ、さっきの囚人か。死にたくなかったらあんたもついてきてくれ」
ここで別れてもメリットは少ない。この男はともかく、ブリットにはここの土地勘が全く無いのだ。男の後ろについていき、ドラゴンに見つからないよう民家の陰へ隠れる。
「ここも直に見つかる。向こうに帝国軍の砦があるはずだ。そこまで急ごう」
「そこは大丈夫なの?ヘルゲンの出口は?」
砦へ行こうと言う帝国兵に、ブリットは疑念を浮かべる。あのドラゴンは石壁程度は軽く破ってきた。その砦は果たして充分なのだろうか?
「心配ないさ、あそこはジャイアントでも容易に壊せないような頑丈さだ。それに、幾らドラゴンでも地下までは追って来れないだろうよ」
なるほど、それならば信頼できる。ブリットとしてもひとまず態勢を立て直したい。
「走れるか?」
「なんとかね」
二人は見合わせると、合図で民家の影からでる。幸いドラゴンは移動したらしく、見つからずに進むことが出来た。
帝国兵達が応戦するなかを、二人は必死に駆けていく。民家を抜け、ようやく城門へ到達したところで、男は足を止めた。見ると、手前から青色の鎧を着た男がかけてくるところであった。
「レイロフ、この裏切り者め!!」
「ハドバルか、今度は止めないだろうな!?」
前方からやって来たのは、レイノフであった。ハドバルと呼ばれた男はレイノフと面識があったのか、その姿を見つけると激しく食いかかった。
「今は時間が惜しい、止めてくれるなよ!」
「お前など、ドラゴンに食われてソブンガルデに送られてしまえ!!」
そう言うと、ハドバルとレイロフは別々の方向へ逃げていく。
ブリットは呆気にとられてみていた。この二人はドラゴンが暴れる真っ只中でも、そのような口論が出来るのかと。だが、ぼうっとしてもいられない。彼女は少し迷ったものの、ハドバルの方へついていくことを決めた。