嗚呼、僕に寄り添う彼女らはヤンデレ   作:Re:クロバ

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第2話:ことうみ同盟

文系選択者の俺は朝の通学路で日本史の参考書を熟読していた。

 

「やっぱ『〇〇文化』っていう系統は覚えなきゃいけない単語が多いんだよな。今度の模試までに間に合えばいいけど」

 

朝日が刺す首都の車道にかかる横断歩道で、その問題量の多さに悶々とする。はぁ、と特大のため息をつき、ライムグリーンに信号機が点灯したので、いざ渡らんとしたが、俺を呼び止める流麗な声。

 

「海未」

 

「おはようございます」

 

「こんなに朝早く…もしかして、部活とか?」

 

「えぇ。弓道部の朝練で」

 

「大変なんだな、お前も」

 

「哀刀こそ。毎日早朝登校お疲れ様です」

 

「はは…あんがと。ま、慣れればどうってことないんだが」

 

海未に呼び止められたということもあり、黄緑色の電光は真紅色に変貌を遂げていた。途端に爆発的に行き交う車両の数々。自然の物ではない排気ガスに満ちた風が鼻腔を刺し、鼻を曲げる。

 

参考書をカバンにしまい、代わりに取り出したタオルで鼻を塞ぐ。

 

「いくら1年経とうとも…この、臭いには適応できそうにねぇな…」

 

「ま、まぁ…地元の私でも思わず咳き込んでしまうほど、排気ガスが多く発生しますから」

 

苦笑いの海色少女に呼応するかのように、俺も苦笑。

 

「あ、信号変わりますよ」

 

「ん?お、そうっぽいな」

 

今度こそはと思い、隣にいる彼女と渡る。

 

「そういえば今日は穂乃果の家でバイトの日でしたよね?」

 

「おう、そうだよ。今日も放課後勤務しなきゃなー」

 

「頑張り屋さんなんですね」

 

「そう…なのかねぇ?俺としては普通だと思うんだけど」

 

「いえいえ。貴方は立派な目標がある故に穂乃果の家でバイトしているのでしょう?ただただお小遣い目当てでバイトをする一般の高校生より幾分もマシです」

 

「そう言ってくれて嬉しいぜ、素直にな」

 

ニパッと笑いかける俺の背には陽光がかかり、まるでこの嬉しさを天も分かちあってくれているかのように思えた。

 

そして見えてくるは、我が学校の正門。

隣にいる海色少女に別れを告げ、俺は今日も学校生活に臨む──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──昼休み。

 

屋上にて晴れ渡る蒼穹を見上げ、指で四角形のレンズを作る。

中庭へ行こうかと思ったのだが、先程の授業が長引いたせいで場所取りに遅れを取ってしまったのだ。

 

故に俺は今、数人の学友と共に食事のマナーをガン無視した、仰向けに寝ながら弁当を食らうという行為をしている。

 

「つーかよぉ、晴宮」

 

「ん?」

 

「今日は気分が良いんだよなー!俺たち!」

 

「へー。どしたんよ」

 

「っ……モテるヤツは自覚なしと来たか……死ねよ」

 

「辛辣かよ。んで?何か良いことでもあったのか?」

 

「ほら。昼休みだってのにぃ?お前の周りに女子がいない!!いつもは猫の糞にたかるハエみたいに集結するっつーのに!今日はいないんだよ!!」

 

「だからか……いやさ?俺もそれは思ってたんだ。いつもなら、こういう休み時間に自由なんてものは存在しないはずなんだけど…今日はやたらとゆっくりできるなー。って」

 

「なんだよ…やっぱりモテるヤツの意識はそんな感じか?」

 

「だからっ!」

 

「ん?」

 

「俺はこうやって、お前らとゆっくりのほほんと昼休みを送れるっつー事実に大満足なの!」

 

「晴宮……」

 

「わ、分かったらさっさと飯食えや…」

 

「1つ言いたいことがある」

 

「……なんだよ」

 

「男のツンデレはキメェぞ?」

 

「ぶち殺すぞテメェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──傾く陽光は橙色に煌めく。

 

歩く道中で、肩をシバきながら通り過ぎていく学友たちに大声で怒声を上げてから、周りを確認。

 

確かに彼らが昼休みに言っていた通りで、周囲に女子の存在は発見出来なかった。

 

「こうしてたかられないと…逆に違和感が生じるな」

 

夕日を一身に浴びながら独りごちる。

 

いくつか角を曲がり、小道に入る。そのまま大通りへ抜け出し、今度は閑静な住宅街へ。そこに俺の目当ての店があった。

 

丁度、家の前でシャワーを用い、水を散布する穂乃果の妹と遭遇。

 

「よっす」

 

「あ、哀刀さん。こんにちは」

 

「あれ?雪穂ちゃんのみ?」

 

「ううん。中でお父さん待ってるよ?」

 

「そっか。んじゃ、水撒きよろしくっ」

 

「はいはーい……って…なんだか都合良く扱われてない!?」

 

「あはは。そんなこと無ェって」

 

愉快に笑う俺は、店内に入店。入った途端に視界に入るケースの内部に陳列されている和菓子の数々は穂乃果の親父さんの渾身の力作。

 

洗練された技術で作成された逸品の数々は一種の芸術品。至高の品々は今日も輝きを増すばかりだ。

 

そして俺はそそくさと厨房へ。

そこにいたのは当然、『師匠』

 

ちなみに、この『師匠』という呼称、冗談抜きだ。

実は俺、将来の夢はパティシエなのだ。それにあたって和菓子の知識も積んでおきたいと思い、その末にここに辿り着いたというわけだ。

 

知名度はさほど高くはないのだが、そこの商品を口にした時、自分の中での和菓子の常識が変わった。

舌触り、味。それぞれが非の打ち所が無く、庶民的な饅頭でさえも、高級和菓子のように思えてしまった。

 

そして俺はその作り手である、彼の腕に惚れ込み弟子入り。ここで働く理由も彼に全て話し……受け入れられた。

 

以来、俺は彼の一番弟子。寡黙な師匠に今日はどのような技術を伝授してもらえるのだろうかと考えると、興奮が止まらない。

そして、味見のことを考えるとヨダレが止まらない。

 

「……」

 

「あっ、は、はいっ!着替えてきますっ!!」

 

熱い視線を送っていた俺に気づいたのか、目だけで『着替えろ』と指図される。もちろん、俺は一目散に厨房を出て、いつも通り和室を借りる。

 

そこで用意されている、いかにも和菓子屋さんという感じの真っ白な服を着用するのだ。

 

カチャカチャと音を立てながらベルトを解き、パンツを露わにした。

そして、そのまま用意されている白のズボンに手を伸ばしたとき、違和感を覚えた。

 

──誰かに見られてる?

 

食い入るような視線を感じ、怖気が走る。じんわりと背筋に汗。泳ぐ視線は部屋中を探る証。

 

特に変なものは無かった。

 

ドラマやアニメの見すぎで、こういう被視感を覚えるときには必ず監視カメラのようなものが仕掛けられていると思ったのだが──無い。安堵が満ちる。

 

はぁ、とため息をつき、やっとの思いで着替える。首や肩を回し、強ばった筋肉をほぐした。

 

少し開いた襖から入る心地の良い隙間風を味わってから、俺はついに部屋を出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ただいまー!!」

 

威勢の良い…と、言ったらかなり失礼の部類に値するが、これ以上に綺麗に当てはまる言い方は無い。そんな声が玄関にて響き、鼻の頭を理由あって粉で白くしてしまった俺が出向く。

 

「よっす」

 

「哀刀くん!いらっしゃい!」

 

にこやかな穂乃果と後ろに控える8人に片手を軽く挙げて応じ、再び厨房へ戻る。短時間で蓄積された疲労を持つ故に、これが彼女らに対する最大の挨拶だった。

 

厨房へ戻った瞬間、作業は再開。水ですすいだ手を垂らし、次の戦いに挑む──

 

 

 

 

 

 

 

「──ねぇ、雪穂?」

 

「んー?何、お姉ちゃん」

 

「穂乃果がいない間にさ?……変なことしてないよね?」

 

「私にとって変なことはしてないよ」

 

「そう……なら、いいんだけどね?ちょっと、忠告しておこうと思って」

 

「忠告?」

 

「うん」

 

 

 

「あんまり彼に近づかないでよね…汚いのが移っちゃうから……」

 

 

 

 

 

 

 

空の色が橙色と紫色のグラデーションに映える頃、俺は学ランに着替え店を出た。

周りには俺が出るまで穂乃果と談笑してたのであろう少女たちも同伴だ。

 

「哀刀」

 

「ん、海未か。どしたよ」

 

「今日もお疲れ様でした」

 

「いやいや。将来のことを考えるとあれくらいの作業で音なんか上げてられねぇから」

 

「ふふっ、貴方って人は…」

 

若干汗臭い高校男子と対照的に、花のような香りを醸し出す海未と言葉を交わす。

 

「ちょっと~!なんでアンタばっかソイツと喋ってんのよ!」

 

「矢澤…先輩?」

 

「ほら、どいたどいた。ふふっ、何か世間話みたいなのするわよっ」

 

「って、言われましても…ネタなんか無いですよ?」

 

「いいのいいの!なんなら、にこから話を振ってあげる!」

 

「は、はぁ……」

 

突然の乱入者に戸惑うばかりの俺。自然と離れていった海未との先程の会話を名残惜しく感じる暇もなく、これまた俺とは対象的な先輩との会話が始まった。

 

 

 

 

 

「──っ…!!」

 

「海未ちゃん」

 

「……ことり」

 

「にこちゃんが邪魔してきたんだね?」

 

「ええ……ええ!そうですとも」

 

「そっかぁ……目障りだね…」

 

「せっかく消したのに……これでは意味が無いじゃないですか…!」

「安心して、海未ちゃん」

 

「ことり?」

 

「他にも策はあるよ?だからね……絶対に彼を……」

 

「「私たち2人だけのものに…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

──すっかりと日も落ち、ただただ悪戯に暗黒が広がる。耳に心地良い波音を聞きながら、俺はやっと自宅へと辿り着いた。午後11時だった。

 

「ただいま」と形の上での言葉を発するが、もちろん返事は期待していない。そのまま光が漏れるリビングへと足を運ぶ……も予想外の出来事が起こった。

 

扉を開けた瞬間、下腹部に衝撃。けれども、痛くはなく、衝撃を与えた主を見下ろした。

 

「って……曜!?」

 

もう夜も遅いというのに、その眠そうな目を擦りながら精一杯ニコッと笑う彼女は……一応、幼なじみである渡辺 曜その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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