嗚呼、僕に寄り添う彼女らはヤンデレ   作:Re:クロバ

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息抜きにと書いたものに本腰を入れ始めている自分がいる……本当に悪い癖です。

追記:あらすじを変更致しました。




第3話:堕天の誘い

不思議に思うことが2つ。

 

1つ目は当然、台風について。

報道や気象庁も台風について事前から懸念していたというのに、内浦は嘘のように晴天だ。

 

永続的に鳴く蝉、水平線の彼方まで晴れ渡る蒼穹を自由という意味を噛み締め羽ばたく海鳥、今日も飽きずに廃棄されたゴミを捜索するカラス。

 

それらはまるで自然が生み出した暴風の魔獣の接近を嘲笑うかのように普段通りの生活を送っていた。

 

しかし、それも去ることながら2つ目。

 

心地良い眠りから、覚醒。安眠を阻害する雑談音が耳障りだ。

「んっ…」と唸りながら、重いまぶたを持ち上げる。

 

「ほらっ!皆がうるさくするから哀くん起きちゃったじゃない!」

 

梨子さんの声が聞こえた。腕時計を確認すると、午後3時。結構寝てしまっていたらしい。

 

しかし次の瞬間、冷房の効いたリビングで僕は驚愕。不思議に思うことの2つ目。それは……

 

知らぬ間にAqoursメンバーが集結していたことだ。

 

 

 

 

 

 

生気の宿らぬ目で周りを見渡す。黒、銀、金、赤……などといった髪色が僕を頭上から見下ろす。さらに驚くことに、僕はまだ梨子さんの膝枕にお世話になっていた。

 

「えーと…」

 

「あ、そのままでいいよ。哀くん」

 

「と、言われましても……梨子さんも辛いだろうし」

 

「私は構わな「確かに哀刀の言う通りね!」

 

梨子さんとの対話に割り込んできた鞠莉さん。すると、僕の頭を浮かせ、自分の膝枕の上に誘導。

されるがままに今度は鞠莉さんに膝枕を差し出されたのだ。

 

はっきり言って申しわけないが梨子さんより柔らかな太ももだ。そんな、わずかに高くなった膝枕に早くも順応しつつある僕。

 

「存分にくつろいでね!」

 

とは言われるも…幼なじみ2人と梨子さんほど接点があるわけではないAqoursのメンバーとは、彼女らが千歌さんの家に来ていた時に初めて会って喋れる程度の仲になった程度なので、正直そんなに落ち着けない。

 

感触は極上だが、総合的に梨子さんの方が落ち着ける。いや……女子高生に膝枕されて落ち着き払っているのもいささか問題があるだろうが。

 

「てか……どうして皆さん僕ん家に?」

 

「あ、実はね…」

 

口を開いた鞠莉さんが説明を始めた。どうやらバスで学校に向かっている途中で警報に気付き、降車した後で徒歩でここまで戻ってきたらしい。

 

「徒歩で帰って来たんですか?こんな海が間近にある町で台風の接近にも関わらず歩いて帰路に着くなんて……無謀過ぎますって」

 

「やっぱ危なかったかしら?」

 

「当然ですよ…」

 

「でも、こうやって実際に家まで無事に帰宅できたんだし!」

 

「……まさかとは思いますが、その家って……僕ん家?」

 

「That's right!」

 

「えぇ……ていうか台風来てんなら安全を考慮して、1番近かった黒澤家に避難した方が良かったんじゃ?」

 

「そっ、それは……」

 

「簡単なことですわ」

 

横から、僕の頭を撫でる手と共にダイヤさんが出てきた。

 

「哀刀の家に厄介になるという意見の総意が出たからですわ」

 

ズッコケそうになった。寝ている時点でズッコケるも何もないが。

 

「なんでそういうことに……?」

 

「あら?乙女たちに詳細まで問いただすのですか?」

 

「……それは聞いてくれるなということで?」

「そういう解釈で構いませんわ」

 

なんじゃそりゃ。

僕は何度も高速で(まばた)きをするも、今の不思議な状況を少しも理解できないでいる。

 

けれど、まぁ…つまりはあれだ。

 

今日1日は彼女らと共に生活を送るということだ。

 

とは言ってもだ。

 

「ところで、なんで皆さん僕を囲んでいるんですか?」

 

「「「見守ってるの」」」

 

そう声を揃えて言われましても。

 

微動だにせず、目だけで異議を唱えようかと思っても、感情のこもらぬ我が瞳では無意味だと思い、諦めた。

 

膝枕を差し出す鞠莉さん、頭を撫で続けてくれるダイヤさん、何故かは分からないが両手をルビィと花丸に握られ、僕に微笑みかける他のAqoursのメンバー。

 

なるほど。ここを天国と仮定してもいいような気がしてきた。

僕は日没時まで、怠惰に時間を貪るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、午後6時。

ヒグラシの鳴く声が付近に充満している。結局今日は不思議なことだらけだった。

 

近づいているのか分からぬ台風や、Aqoursに徹底的に甘やかされる午後の一時(ひととき)

 

現在、風呂掃除をしている僕は必死にスポンジを駆使して汚れを落とすために躍動している。

女子はこういう衛生面を気にするとよく聞くし、ましてや相手は今をときめく女子高生。

 

それならばと思い、通常の倍の時間を費やして浴槽を磨きあげる。

 

「ていうか、僕の家に厄介になるって……まさか泊まるってことかな…?布団とか絶対足りないって…」

 

「それなら大丈夫よ」

 

ビクっと肩を揺らし、振り返る。

 

そこにはドアを全開にし、腕を組み仁王立ちをしている善子が不敵に笑っていた。

 

「な、何を根拠に…」

 

「さっきアンタの部屋にお邪魔させてもらったり、収納を見たりして、布団を確認してたんだけど」

 

よくも許可も無しに人の部屋に入ってくれたな。

 

「哀刀のベッドで私と2人で寝れば丁度数が足りるのよね」

 

今度こそズッコケた。転倒し、朝からずっと着用していた制服を泡だらけにしてしまった。

 

「な、なに言って…」

 

反論を唱えようとしたが、あっさりと裸足で入室してきた善子に鼻をツンと突かれ、押し黙る。

彼女は後ろ手にドアを閉め、完全に密室になってしまった。

 

「ちょ…何して「いい?」

 

人差し指を立ててから、その整った顔を吐息がかかる域まで近づけ、艶美に笑う。

 

 

 

「私は本気よ?」

 

 

 

首筋を冷や汗が伝う。彼女の綺麗な瞳が僕の黒瞳を捕らえて離さない。

 

沈黙が流れた。

 

どちらも口を開こうとせず、僕は若干後ずさりし、彼女は更に詰め寄る。顔の距離は先程よりも縮まり、僕と彼女の顔の間には親指さえ入らないだろう。

 

「ふふ……ちょっとでも動いたら……キスできちゃうわね?」

 

「……は、離れなよ」

 

「何のために?」

 

「いや…その…からかってるんなら…あの…」

 

「哀刀、私言ったわよね。本気って」

 

「そ、それは、僕と一緒に寝ることに対してじゃ…」

 

「じゃあ、訂正」

 

今度は距離はそのまま、耳元に近づき、囁く。

 

 

 

「私は本気……アンタに対する気持ちが本気なのよ」

 

 

 

甘い言葉を囁かれ、腰が砕けそうになる。麻酔を打たれたかのように、濡れることも忘れ尻餅を着く。目を限界まで見開き、「ぁぁ……あ…」と情けない声が漏れる。

 

「ふふ…哀刀、真っ赤よ?」

 

指摘された通り現在の僕は羞恥の色に染まっているのだろう。完全に楽しんでいる様子の彼女を相手にして、何もできない自分が情けなかった。

 

と、思っていたら羞恥ゲージがカンストする出来事が発生した。

 

左の耳の中に蛇のようにうねる何かが侵入してきた。「ひぇっ…!?」とまたもや情けない声。くすぐったくて、握りこぶしを作ってしまう。

 

そんな様子でしばらくしていると、突貫を止めた何かは、ゆっくりと名残惜しそうに出ていき、僕は安堵に包まれる。

 

しかしホッと息をついた次の瞬間、耳の下部を何かで挟まれ、大声を上げそうになる。

 

「し、静かにしなさいよっ」

 

そんな僕の口を驚くべき速さで塞ぐ善子。

 

「さ、さっきからな、何して……」

 

「耳を責めてる」

 

「ふ、ふぇ…?」

 

「いいから……そのままでいて。絶対に声上げちゃダメよ?」

 

注意する声を最後に善子は再び口を開け、僕の耳を舐め回す。

 

意味不明だった。

 

これを我慢しろだなんて、まるで悪魔の所業だ。舌がうねる度に全身が小刻みに震えてしまう。自然と手は彼女の肩に伸び制止を促す。

 

「ふふっ…やめて欲しいの?」

 

どうにかして首を縦に振る。もう風呂掃除どころではなかった。

 

「ダ~メっ」

 

そう言い残し彼女は僕を責める。立ち上がってこの場から逃亡するために手をついても、まだシャワーで流していない洗剤のせいで何度も滑り、とうとう後頭部をしたたか床に打ち付けてしまう。

 

「つっ…!!」

 

「あ~ぁ……もしかして、そんなに良かったのかしら?」

 

含み笑いで質問する善子。すっかりと腰が抜けてしまった僕はまだ感触が残っている耳に意識がいき、また、朦朧(もうろう)としている。

 

「あら?立ち上がらないの?」

 

「いや……これは…」

 

「それとも、立ち上がれないのかしら?……けどまぁ、こんなに無防備な姿晒されちゃったら………ねぇ?」

 

強烈な色香を漂わせる善子は、僕に馬乗りになる。腰辺りに乗られ、完璧に動きを封殺された。それに、暴れて抜け出そうとしても腰が抜けて力が入らない現状だ。馬乗りになられた程度で意味があったかは定かではない。

 

「うわぁ……!跨ってるだけなのに、アンタの心臓の音がバクバク感じるわよ哀刀っ!」

 

それだけヤバイってことだ。

 

「じゃあ実際に聞いてみよっと」

 

そう言うと、体全体を僕に寝かせほんのりとピンク色をした耳を左胸に押し当てる。

 

「うるさいくらいの鼓動ね」

 

うっとりと声を漏らす彼女。多分はたから見たらとんでもない絵面だろう。

泡塗れの男子に艶美な色香を纏う女子。男子が泡まみれなのを除けば、かなり不純な光景だ。

 

「あ、あのさっ……も……ぅ…やめ…」

 

「嫌よっ」

 

「で、でもさ…こんなことしてたら…その…晩御飯の時間とか遅れるし……あの…」

 

「……まぁ、確かにそうね……このままじゃ、埒が明かないっぽいし……それじゃあ…」

 

何か悪巧みをしている眼をして、悪魔の宣告を告げる。

 

 

 

「私とエッチする…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?善子ちゃんは?」

 

部屋の主の許可を取らず、勝手に哀刀の部屋に入っているルビィが思い出したかのように、隣にいた黒長髪の姉に尋ねた。

 

「そう言えば…見ませんわね」

 

「お外かな?」

 

「ふふっ…まさか」

 

ルビィの発言を妄言として見なすダイヤは、彼のタンスを漁る。

 

「やっと見つけましたわ」

 

「お、お姉ちゃん…!?それって…!」

 

「えぇ……彼の下着ですわ」

 

「な、何するつもりなの…?」

 

「ふふ…見てなさい」

 

すると、ダイヤはそれを右手に所持していたバッグに押し込み、左手に持つ手提げカバンから先程のものと同種のボクサーパンツを取り出した。

 

「すり替え…?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「でも…どうしてそんなこと…」

 

「分からないの?ルビィ」

 

「え?」

 

「私たちはこれで彼の下着を得ることができたのですよ?……この意味を本当に理解していないの?」

 

「……っ!!凄いよ、お姉ちゃん!」

 

「うふふ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は仰天し、開いた口が塞がらなかった。善子から飛び出た淫語が頭に粘りついて瞬間接着剤のように離れない。

様々な出来事により混乱している頭で彼女が発した言葉の意味を充分に咀嚼(そしゃく)する。

 

結果、羞恥を抱くのと頬の紅潮は免れなかった。

 

「な、なんてこと言ってんだ!?」

 

「だってそうすればキリがいいじゃない。アンタもこの状況にムラムラしっぱなしじゃないの?」

 

「そんなわけっ……!」

 

「ふ~ん……嘘つき」

 

語尾にハート印が付きそうな甘い声で、彼女は手を僕の下腹部へ沿わせてゆく。

 

「だ、ダメだって!!」

 

「おっかしいわね?なんでここが膨らんでるのかしら?」

 

「ちがっ…!それは……」

 

「それは?」

 

「っ……」

 

「答えられないのね?なら黙ってされるがままにしておけばいいのよ」

 

吐息がかかる。今までとは打って変わって荒い息遣いに変貌していることから、かなり興奮していることが嫌でも分かった。

 

「本当に……やめっ…!」

 

「はぁ…この意気地無し……まぁ、そこが可愛いんだけど」

 

「な、なんて?」

 

「何にも言ってないわよ。……てか、アンタこんな機会無いわよ?女の子から誘われたら男なんて喜んで腰振るもんだけど」

 

「な、なんてことを言うんだ!?」

 

「ふふ…冗談よ」

 

はぁ、とため息をついた善子。諦めたような表情を浮かべ、僕から退く。すっくと立ち上がった善子は僕に手を差し出した。

 

「ほら、立ちなさいよ。夕飯が遅れるわよ?」

 

「…誰のせいだと?」

 

「何か言った?」

 

「別に」

 

「ふーん……でも…あーぁ…ガッカリね。根性はないだろうと予想してたけど、その通りとは…あんた本当に男?」

 

「酷い」

 

女子高生の酷評は鋭利な刃物のように、僕の心を切り刻んだ。差し伸べられた手を掴み立ち上がる。

 

「せっかく私がここまで勇気出したのに…」

 

「そんなこと言われても…」

 

「ふんっ……あ、じゃあ。こんなのはどう?」

 

「へ?」

 

「アンタが私の手の甲にキスするってのは」

 

「えぇ…?」

 

「ほら…えーと…愛の証みたいな」

 

「…………本当にそれをしたら、気が済むの?」

 

「うんっ!!」

 

まるで餌を与えられた(こい)のような食いつきっぷりだ。

 

「はぁ…マジか……じゃ、じゃあ……失礼します」

 

僕はそのまま握りしめていた彼女の綺麗で可憐な手を口元に押し当てる。指先は冷たかったが、手のひらはほんのりと温かい。

 

「はぁ…」と恍惚の声を漏らす善子を見るところ、満足していただけたのだろう。

 

「じゃ…風呂掃除を続行するから…また後で」

 

恥ずかしさで顔を上げれなかった。この気持ちを紛らわせるために鼻を擦るも、泡が付いた。

 

「あっ………それじゃ、私もお返し!」

 

それに目ざとく感づいた善子は、僕の頬を両手で挟み、舌で泡を舐めとるだけでなく、そのまま鼻を甘噛み。

 

「にゅえっ!?」

 

「あははっ!うぶな反応!」

 

最後に可愛らしく舌をペロッと出し、嵐は過ぎ去った。まだ動悸は治まらず実際に胸を撫で下ろす。結局彼女は何がしたかったんだ?

 

でも、あの行動から判明したのは……

 

「善子が…僕に好意を抱いている…?」

 

改めて口にしてみると、顔から火が出そうだ。そんな羞恥を洗い落とすかのように僕は必死にスポンジを動かすことにしてみたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その哀刀の努力を嘲笑うかのように、浴場の入口に背を預ける堕天使は悠然と手の甲をさすっていた。

 

 

「ねぇ?いいわよね?ねぇ?こんなに愛してるんだから、これくらいのことはしても許されるわよね?ね?」

 

 

誰に確認を取っているのかは分からないが、暗笑をたたえる堕天使は涎混じりの舌先で自らの手甲を(ねぶ)る。

 

それはそれは愛おしく、慈しみ、感慨深く、恐れ多い様子で味わっているのだ。

 

「ほら…見てよ哀刀っ…!ぷはぁ……アンタと私の唾液が…んっ……混じってるわよ?これ以上に悪魔的な幸福は……まぁ、あるけど…今はこの悦びを存分に堪能させてもらうわねっ…」

 

堕天使は躍動する。

 

愛しき者を感じるために。

 

愛欲に溺れ、身を掻き抱きながら愉悦を感じる彼女の慈愛は止まることを知らないのだ。

 

ところで、

 

そろそろ哀刀は気づかなければならない。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、鞠莉」

 

「なぁに、果南?」

 

「調子はどう?」

 

「好調ね」

 

「なら安心」

 

「わざわざ確認しに来たの?」

 

「うん。今回の基盤となっているコレにはしっかりとしてもらわないと」

 

星が出現しだした、今宵。2人の少女は眼前のモノを見る。街灯が少量しかない内浦の夜は当然、漆黒に包まれている。

 

時並みザザァーっと聞こえる波の快音が耳をくすぐる。満点の星空の下で悪辣(あくらつ)劃策(かくさく)はいよいよ動き出す。

 

それに気付き、打破する為にはまず……

 

快活なお嬢様と、快活な海の少女…2人の視線の先に悠々と存在する電柱に感づく必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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