嗚呼、僕に寄り添う彼女らはヤンデレ   作:Re:クロバ

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ストーリー上、ここから女の子の登場が少なくなっちゃいますが悪しからず。






第6話:ハレミヤ

新幹線の中で、僕は終始無言だった。目も瞳孔も限界まで開いている。窓の外で過ぎ去る情景を意味もなく見つめ、右手の親指を噛む、噛む、噛む。

 

『カナトは一人っ子だぞ?』

 

ーーうるさい。

 

『再開の印にさぁ?』

 

ーー黙れ。

 

『人違いな訳ねぇって』

 

ーー確かに亡き兄に瓜二つとは言われていた。

 

『ちょっ、やめろって~』

 

ーー笑うな。ずっと(わら)ってたんだろ?

 

 

 

 

『ん?お前なんかおかしくね』

 

 

 

 

「おかしくねぇぇよっっっ!!!!!」

 

気づけば座席から立ち上がり絶叫していた。隣でまたもやババ抜きをしていた善子たちは驚いてトランプを床に落とす。

 

それに視線も向けずまたもや指を噛む。

 

兄さんはいつだって、僕の味方だった。優しくって、カッコよくって、頼りがいがあって……大好きだったんだ。いつまで経っても僕に愛想を尽かさず、構ってくれた。

 

なのに…なんで?

 

いや…でも……アイツが…あの金髪が言ってたことは絶対に……

 

「嘘だ」

 

「え?ど、どうしたのよ哀「黙れよ、お前っ!!」

 

「黙れよ…黙れよ黙れ黙れ黙れ黙って黙れや黙ってください黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!嘘だ!絶対に嘘だ!!!」

 

『カナトは一人っ子「うるっせぇんだよ!!!」

 

『カナトは一人「気持ち悪ィんだよ、テメェ!!」

 

『カナトは「消えろ、消え去れよ…なんでそんな意地悪すんだよ……そんなの嘘に決まってんだろうが…!」

 

「妄言も虚言もお断りだっっ!!!僕は僕……………ハッ!」

 

そこで気付く。晴宮家の次男の存在を否定するような嘘をつくあの男に何故これほどまでに激昂しているのか。そう思うも、この胸の(くすぶ)りは消えそうにない。

 

若干の落ち着きを取り戻した僕は周りを見渡し、驚いた顔でこちらを見る乗客の方々に頭を下げる。それから、シートに沈みこんだ僕は頭を両手で包み込んだ。

 

「クソ……なんで?どうして?冗談かもしれない発言だぞ?なのに、どうしてこんなにも腹が立つんだ?」

 

独り言を呪詛のように唱える僕は自問自答する。またもや指を噛もうと手が動くが、滴る紅液と割れた爪を見て、固まる挙動。

 

歯を軋ませるほど噛み締める。眉間にしわを寄らせ、ギラギラと猛獣のような光を宿した僕の双眸(そうぼう)はいつもの生気のない黒瞳を忘れさせるには充分過ぎた。

 

そんな様子の僕に、悲痛な表情をするルビィが血が滴る僕の手を優しく包み込む。

 

「あ、哀刀くん…?」

 

「……」

 

「き、急にどうしたの?その…訳の分からないこと言って……」

 

「関係…ないよ……ルビィには」

 

「哀刀くん……」

 

彼女は何も悪くないということは分かっている。それは重々、承知だ。だが、今の僕は誰かを憎まずにいれなかった。しかもそう思ってしまっている醜い自分に気づいた途端、自責の念に駆られ、死にたくなる。

 

空いている手で、指先が白くなるほどの握り拳を作ってから下を向く。

 

 

それ以来僕は家に着くまで、一切の言葉を発さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1週間が経った。

 

僕は学校に登校していなかった。

 

スーパーに行って、食材を購入する時以外はずっと家に引きこもっている。

 

睡眠時間もストレスのせいでどんどんと減少し、最近では3時間と半刻しか眠れない。酷いクマが出来た顔を憂鬱に鏡前で視認。表情を変えようと試みるも、氷漬けされたかのように頬の筋肉は微動だにしない。

 

絆創膏を貼り付けた指先を一瞥(いちべつ)してから、リビングに戻り、ソファに落ち着く。

 

それから僕は虚空を睨み続けるのだ。そうでもしないと、今にも発狂してしまいそうで仕方がなかった。

 

普通の人から見ると、物凄く馬鹿らしいと思う。街頭で訳の分からぬことを兄の友達に言われ、それは冗談の可能性が高いというのに、関わらず引きこもってしまうという行為が。

 

「兄さん……」

 

何故、あの金髪は兄さんは一人っ子などと言ったのだろう。もしかして、兄さんが僕の存在を公表していなかったのだろうか。そう思う度に、僕は兄さんにとって邪魔者なのか?という疑問が浮上してきてならない。

 

ゆらりと幽霊のように立ち上がった僕は、玄関へ足を運ぶ。

 

そこにはいつもと変わらぬ様子の朗らかな兄さんの写真があった。兄さんの遠く後ろの方では母さんが写っており、風に飛ばされている帽子を走って追いかけている。

故に、この写真には少しブレがあるのだろう。心配症で愛妻家の父さんが撮影者なのだから仕方がない。

 

写真立てを手に取り、眺める。いつ見ても元気づけられる良写真だった。けれども、今の僕にはそれすら(かす)んで見える。

 

ふと、違和感に気付いた。

 

写真立ての背中側をとんとんと指でつつくと、分厚い何かが反発してくる。当然、写真立てをひっくり返して、カバーを外す。すると、幾重にも折られた写真が数枚ころころと床に落ちる。

 

腰を降りそれを拾おうするも、頭の中で何故か制止を促す声。「もう戻れなくなる」という注意喚起。けれども、僕の声で再生されるその言葉を「知るか」と突っぱねた僕は少し古びたコンパクトにされている写真を手に取る。

 

くしゃくしゃにシワが寄っている写真を広げ、そこに投写されている光景を確認。

 

背景は海、白い砂浜。見慣れた地元の風景だった。そして、そこにそびえ立つ見慣れた旅館。写真に刻まれた日付を見るに数年前の写真。朗らかな笑みを浮かべる幼少期の……

 

──Aqoursの面々がいた。

 

誰といると思う?

 

──僕の兄と。

 

兄にとって幼なじみと言ったら、このメンバーの中では千歌さんと曜さんしかいない。

少なくともそう兄さんは言っていた。…だが、この写真はなんだ?

 

次の写真を見る。

 

撮影場所は相変わらず、旅館前。日付の刻印も数分程度しか変動していないところを見ると、「もう1枚」の流れで撮ったものなのだろう。だが、角度が違った。

 

写しているのは現在では梨子さんの家が建っている方角。

もちろん当時は何かが建っているわけはなく、空き地。雑草だけが生えているのを見ると、物寂しさに襲われる。

 

更にもう1枚めくる。

 

今度は現在僕の家が建ってある方角だった。喜色を浮かべる兄さんと幼い彼女らの背後には当然我が家が……──

 

 

 

 

 

 

 

家を飛び出す。バイトで貯めたお金で購入したバイクをふかして、交通量皆無の車道を一気に突っ走る。

ヘルメットも被らず疾走する僕の額には冷や汗が比喩などではなく、本当に滝のように吹き出していた。

 

──なんでなんでなんでっ……!?

 

次第に車がちらほらと見えだしても、スピードを緩めることもなく疾駆。どんどんと周りの光景は後ろへと過ぎ去り、やがて1つの建物が視認できた。

 

急ブレーキでコンクリートの地面を焼いてから、駐車。大きめのシャツの裾を翻しながら、施設内に入る。

 

施設の中は閑静で、高齢者の方々が数人程度。後はほとんどが職員だ。僕はそんな静寂が支配する空間をズケズケと足音荒く、窓口まで切り抜けた。

 

「どうも、こんにちは。今日は何のよ「確認したいことがあって」

 

受付嬢の公務上の台詞を遮ってまで、僕は市役所で声を上げる。

 

「か、確認…ですか?」

 

「えぇ。内浦の詳細な地図を見せてくださいませんか?1軒ずつ苗字が記されているあの地図です」

 

僕の無茶振りな要望に文句も言わず(それでも訝しげな顔はしていたが)、受付嬢は地図を出してくれた。

 

それを広げて、確認。地図上で、元来た道を辿る。

 

ツシマ…ワタナベ……違う。シライシ…ヤマダ……ハラダ……クサカベ…イノウエ…ミヤザキ……──…タカミ…サクラウチ…………

 

「え?」

 

「ど、どうかなさいましたか?」

 

「あの……その…ミヤザキさんの家とこの…タカミさん家の間に…ハレミヤってあるはずなんですけど…」

 

「ハレミヤ……晴宮?す、すみません。少しお名前をよろしいでしょうか?」

 

「…晴宮 哀刀です」

 

「……それは…カナトではなく…?」

 

「アイトです、ハレミヤ アイト」

 

「えーと…あの…ちなみにカナト様のことは…」

 

「知ってます。僕の兄ですから」

 

「サエ様とケンジ様は…」

 

「母と父の名ですね」

 

「……」

 

「ど、どうなさったのですか?」

 

突然顔を畏怖で染め上げる受付嬢。デスクに戻り大きな台帳を持ち駆け寄る。その表紙には沼津市戸籍と書かれていた。

 

「カナト様は…数年前に事故でお亡くなりになられました」

 

「……そうです」

 

 

 

「……サエ様とケンジ様も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目元に影を落とし、ヘルメットを被って家への帰路に着く。

まだ受付嬢の言葉が脳内で反芻(はんすう)している。

 

『この沼津市に晴宮という苗字の方は3名しかおりませんでした』

 

『晴宮 ケンジ様、サエ様…そしてカナト様。カナト様は交通事故で、晴宮夫妻は息子を若くして亡くしたショックで心中……共に車道に身を投げたのです』

 

『なので、現在この沼津に晴宮という苗字を持つ人間がいるわけがないのです』

 

『ちなみにミヤザキ様とタカミ様の間にある土地は空き地とされております。ハレミヤで登録はされておりません』

 

『そして住民票登録の際に記録しましたが…』

 

『晴宮夫妻に息子はやはり1人しかおりません。カナト様だけです。しかも、全国の市役所に確認したところ、ハレミヤ アイトという人間は存在しませんでした』

 

『つまり………貴方は誰なのですか?』

 

 

 

 

 

 

 

夕日が水平線に隠れ始め、紅い光線を放つ。バイクをガレージに停めて、終始無言のまま家のドアを開ける。

 

照明の着いていない玄関で、僕は下駄箱に付いている鏡を見た。未だ床に散乱してあった兄の写真を顔の横に持ってきてからだ。

 

──そっくりだった。

 

少し眉の形は違ったり、兄さんのように歯並びは良くなかったが、今の僕は写真の中の兄と瓜二つだ。

 

「僕が……晴宮家の息子じゃない…?」

 

「じゃあ僕は一体なんなんだ!?」

 

「……いや、待てよ」

 

「皆おかしいよ」

 

「僕の中には家族と過ごした記憶がしっかりとあるんだ」

 

「なのに…それなのに……僕が誰だなんて……そんなの決まってるよ」

 

「僕は晴宮 哀刀。誇り高き晴宮の次男だ」

 

そう言いつつも、僕は手の中で兄の写真を無意識の内にぐしゃぐしゃな歪な形に変えてしまっていたことを、度重なるストレスのせいで正常な思考能力を欠いていたせいでついぞそれに気付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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