嗚呼、僕に寄り添う彼女らはヤンデレ   作:Re:クロバ

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第7話:剥げよ偽り、表せ真実

日めくりカレンダーの破り捨てられた日付たちが床に散乱する。それはもう30枚以上になっていた。

 

1人、テレビを意味もなく見つめる僕はもう不登校歴1ヶ月と化していた。

 

寝癖は整えず、1週間近く言葉も発していない。このまま声帯が失われていくのではと錯覚させるほどに声を出そうという気分にならない。

 

あれから自宅には何本もの電話がかかってきた。もちろん相手は僕の学校の教師陣。どうにかして僕の不登校の理由を判明させたかったのだろうが、こればっかりはどうしようもない。

 

さて。

 

ふぅっ、と息を鋭く吐いてから立ち上がる。身だしなみを久しぶりに整え、外に。ガレージのバイクの元へ向かう。

 

──今日は少し遠出をして京都まで出向いてみよう。

 

最初は僕の戸籍を探るためだった。市役所での驚愕の事実を胸に抱き、僕は静岡県の市役所を周回した。

けれどもどこへ言っても「ハレミヤ アイトは存在しない」の一点張り。

 

だから僕は市役所巡りを諦め、自宅警備と成り果てていたのだが…急に気分が変わった。

 

エンジンを蒸かして、バイクに跨る。ヘルメットをしっかりと着用して前方を見据えた。目指す先は古都、京都。そして、僕は風のようにバイクで疾駆したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

祇園や様々な神社、寺院を抜けて、僕は京都市に辿り着いた。所要時間は6時間。すっかりと天高く登った太陽は灼熱の光線を大地に降り注いでいる。

 

臨時の駐車場にバイクを落ち着けてから、僕は歩き出す。周りには観光客だらけで、正直言って誰が日本人だか分からなくなってくる。

 

小腹も空いたので、観光客向けのお店で八つ橋を買ってから、その独特なニッキの香りを味わう。それをつまみながら道を歩くというのもなかなか楽しい。

 

平日の真昼に八つ橋を道中食らいながら、悦に浸る僕は古都をどんどんと散策する。

戸籍の有無の確認に来たはずだが、楽しんでしまっている自分。だが、最近の暗い気持ちをまとめて払拭するかのように僕は八つ橋を食らい続けた。

 

そして何回か横断歩道を渡っていると、前方に集団を発見した。

 

「ん?」

 

すっかりと食べきった八つ橋の箱をリュックにしまい、ひっそりと近寄っていく。すると、その集団の何人かがこちらに気が付き、顔を綻ばせた。

 

──そう、その集団は僕の学校の同学年の生徒たちだった。

 

「お!?晴宮じゃねーか!こんなとこで何やってん…てか、お前引きこもってんじゃ?」

 

「え…いや…その…お前らこそなんでここに?」

 

「不登校様はゼッテー分かんねぇよ。…ったく……ほら、これ見ろよ」

 

ぶっきらぼうに手渡されたひしゃげた紙を閲覧。

 

「社会科…見学?」

 

「そーだ。ほら、ここ」

 

クラスメイトが背後を親指で指す。降り注ぐ陽光にしかめっ面をしながらも、眼前を確認。そこで初めて判明した。

 

「うぇっ!?こ、ここって…」

 

「そう……京都大学だ」

 

八つ橋に夢中で気が付かなかった壮大な大学を目の当たりにして、僕は思わず後ずさりする。

今、僕は視界に日本のトップクラスの大学を捉えている。そう考えるだけで何か熱いものが胸にこみ上げてきた。

 

「ここの研究施設を見学すんだよ」

 

「し、知らなかった…」

 

「当たり前だろ?…あ、招集かかったから、俺らはもう行くな」

 

「え、えぇっ!?ちょっ、待って!」

 

この後、僕は先生らに直接会って、何度も腰を折って同行を懇願。最初は複雑な表情をしていた教師陣だが諦めたような雰囲気を醸し出しながら、渋々了承。

 

猛烈に感謝してから僕は先ほどのクラスメイトの元へ舞い戻った。

 

「うっわ…交渉成立させやがったのかよ、お前」

 

「まぁね」

 

軽口を叩きながら、京都大学の敷地を踏む。靴底から伝わってくる感触は普段歩いている道路と変わりないのだが、なんというか…非常に感慨深い。

 

本来の目的からは大きく脱線してしまっていたが、僕は気にすることなく皆と共に歩く。

 

広大な敷地を歩み進めていくと、前方の生徒たちが立ち止まっていく。どうやら目的地に到着したようで、これから整列するらしい。

 

ピシッと隊列を組んだ僕ら生徒は炎天下の中、代表の教師の説明を聞いていた。そして僕はその見学内容に再度驚愕。

 

「えっ…マジで!?」

 

「そうだよ、大マジだぜ?いや~…俺も楽しみで昨日眠れなかったんだよな~。なんてったって、俺たちが今から見学すんのは世界に誇る、日本が生み出した新技術の結晶!iPS細胞の研究所なんだからな!」

 

感動というものを通り越して、打ち震えた。クラスメイトが発した言葉を脳内でゆっくりと咀嚼(そしゃく)する。

 

「すっ…ごい…ヤベェぜ、これっ!」

 

「そうだろ!?お前がなんで京都にいたのかは分からねぇが、ついてきて正解だろ?」

 

「と、当然だよ」

 

教師の説明を全く無視して僕はクラスメイトと共に見学内容に想いを馳せる。高鳴る胸を抑えつつ、とうとう僕たちは施設内に入ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~!凄かったな!晴宮!」

 

「最先端の技術をこの目に出来るなんて…思ってなかったよ」

 

「ほんと、それな。あ、じゃあ俺らはバスで帰るから、お前もしっかり帰れよな。…事故んなよ?」

 

「やめてよ!怖いから!」

 

意地悪に笑うクラスメイトはぶんぶんと手を振り、別れを告げた。そして、あの笑顔は「明日学校来いよ」と明確に綴っていた。

 

心の中で苦笑し、元来た道を辿る。しかしだ。

 

「iPS細胞……ね」

 

最悪のケースを考えてしまった。

 

そんな思いを霧散させるかのように、頭を掻きむしり、僕は駐車場までの道を走ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

その次の日から僕は不登校を解禁。クラスメイトから笑顔で迎えられたところを見ると、大した心配は無かったのかと錯覚したが、突如号泣した何人かの友達のせいで相当心配してくれたということが判明した。

 

そして現在昼休み。

 

晴れ渡る蒼穹を見上げ、欠伸が無制限に出る。

 

「あ~…やべ…鼻水が…」

 

「晴宮お前、風邪ひいたのかよ」

 

「いや…ちゃんと体調面には気を遣っているけど」

 

屋上で弁当箱を解放させる僕は何人かのクラスメイトと共に、昼食をとっていた。

 

「はぁ…のどかだな…」

 

「まぁな…あの雲のように定期テストもどっか行っちまえばいいのに…」

 

「おい…現実を思い出させんなよ」

 

「つーか、晴宮。お前勉強大丈夫なん?」

 

「いや…結構ヤバめ」

 

「ったく…これは勉強会確定か?」

 

「僕は勉強会ほど学力を低下させるものは無いと思ってるから」

 

「偏差値40の高校に通ってる俺らに、んなこと言っても無駄だぞバカ」

 

「バカにバカとは言われたくないよバカ」

 

「お前な……」

 

ありきたりな男子高校生の会話を繰り広げる僕だが、やはり胸の中の曇天は晴れてくれない。こんな空のように快晴だったらいいのに…と澄み渡る青空に嫉妬。

 

だがやはり、学校に行き始めたことにより、ズレていた感覚は補正され僕の中での戸籍問題の存在が極小化していった。

本当はもっと焦るべきというのは分かっている。けれども、自然とそんな気持ちは抱けなかったのだ。こんな美しい青空の前では。

 

 

 

 

 

 

 

バイク通学を容認している我が学校の規則に則り、僕はエンジンを蒸かせて、友達を家まで送った。たまにバスでも通学するが、基本的には僕はバイク登校だ。羨ましいだろ。

 

「いや~、お前が不登校になってから帰るのにわざわざ歩かなきゃならなかったんだぞ?本っ当に足が復活してくれて便利だわ~」

 

「お前な…!」

 

「あっはっは!冗談だっつーの!ほらほら、早く帰って課題やれよ課題!休んでたからたんまりと溜まってんだろ?」

 

「うっさい!もう帰る!」

 

友達に中指を突き立ててから僕は帰路に着いた。陽が落ち始めた中、しばらく運転していると、視界に見慣れた我が家を捉えた。

 

バイクをガレージに停め、ぐぐっと伸びてから庭へ直行。ホースを手にして蛇口を捻る。清涼な水が先端から溢れ出たのを確認してから花へと散布した。

こうやって花を育てて愛でることが僕の唯一の楽しみなのだ。

 

口端をニッと上げ、水を撒くこと数分。陽光に反射する水滴が庭に星空を創造しているのを見てから、ホースをしまう。ふぅっと息をついてから僕はベンチに着席してスマホを弄った。

 

友達からのLINEを数回返信し、Twitterを閲覧。ニコニコ動画で面白いものでもランキングに浮上してないかという定期確認を行う頃には夕日は海の向こうへ沈み始めていた。

 

これから太陽は英国などを照らすのだろう。一切休まず日照し続ける太陽には僕も脱帽する。

 

さて、と言った具合に汗をかいたワイシャツを翻し玄関のドアに手をかけ、名残惜しく庭を確認した時だった。

 

──あれは…

 

僕の視線の先には以前、果南さんらの妨害のせいでついぞ確認することを忘却していた異物だった。あの時のように夜闇に包まれているわけではないので、しっかりとその異物を視認できた。

 

僕はゆっくりと近寄ってその正体を把握。

 

「……木?」

 

天高く突き抜ける見覚えのない樹皮を撫でる。──僕は仰天した。

 

何度も何度も樹木の表面を手でさする。けれど、帰ってくるのは異常なほどにツルツルとした感触。これだけで天然物ではないことが嫌でも分かる。

 

上を見ても、葉はしっかり付いているが、よくよく目を凝らす。庭に常置している脚立を取り出して登ってみた。

 

近づいて見てみても、何の変哲もないただの葉っぱのように見える。だが、それを今実際に触っている僕はそれが自然の産物ではないことを確信した。

 

葉を1枚折る。夕日にかざすと表面に反射し、てらてらと光沢がゆり動く。僕はそれを掌で包み込んで圧縮。パキポキっと破砕音が鼓膜に響き、手の中を見る。

そこには無残に粉々となった葉っぱの形をしている何かがあった。

 

目の前に掲げ、触ってみる。

 

「……っ!?か、紙粘土!?」

 

そう言ってから、実際に触ってみないと分からないほどの職人技で制作されたこの擬似樹木を睨む。

脚立を勢いよく降りて、ベンチの上に置いておいたカバンの中の筆箱からカッターナイフを取り出した。

 

木に激突するかのような猛進で走り、凶器を樹皮に突き立てた。恐ろしいほど安易に刺さった樹皮を縦横無尽に切り裂いていく。

 

「っ……!っ……!」

 

小さく吐く息と共に烈度を増す。加速しながら、全ての力を絞り出すかのように切り刻み……刀身が折れた。

 

芝生の上にポスッと落ちるナイフの残骸を見ることもなく僕は、切り込みの入った樹皮を乱暴に破り捨てていく。そしてこの感触は身に覚えがあった。

 

ホームセンターなどに行った時に売っている、パズルピースのように組み替えることのできる子供向けカーペットの感触にそっくりだった。あれはスポンジに似たような素材で製造されている…だからこそ、カッターナイフでも切り刻めたのかもしれない。

そう白熱しながら、僕はとうとう偽りの表皮を剥いだ。

 

──露呈したのは灰色。

 

それを見た瞬間、僕は苛烈さを増大させ、時が過ぎるのを気にせず……偽りの虚像の全てを壊してみせた。

 

 

 

 

 

幾星が夜空に煌々と輝く。わざわざ家の押し入れから持ってきた懐中電灯を口に咥えながら、異物に張り付いていた偽物樹皮の小さな残骸を手にした箒で払っていく。

 

満足のいった僕は箒を地面に放り投げ、懐中電灯を手にする。明るいLEDライトの白光で眼前の異物を照らした。

 

──我が目を疑った。

 

なにせ、目の前には……我が家の敷地のはずであるのに…申請した憶えも無いのに……

 

電柱が建っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

早起きをして、弁当を作る。昨夜のうちに剥き出しにした電柱に関しては謎のままだ。このことを市役所に相談しようかと思ったが、期待はできない。

 

本来、存在するはずのない家に存在するはずのない電柱が建ち、そのことに関して存在するはずのない人間が相談をけしかけるのだ。笑い話にもならない。

 

ジュージューと油の爆ぜる音を聞き、現実味があるようで無くなってきた僕の人生を振り返る。

 

そんなことも去ることながら、カバンに教材などを詰め込み、下駄箱に付いている鏡の前で身だしなみを整えた。うん、驚いたよ。

 

鏡の中に写っている1人の少年は……薄い笑顔を貼り付けていたから。

 

表情を戻そうとしても上手くいかない。顔の筋肉が言うことを聞いてくれないのだ。サイコパスの片鱗を感じさせるかのような暗笑をたたえている。その後も奮闘したが結果は変わらず。

 

それどころか、歯の隙間から笑い声までもが漏れてくる。

 

これは本格的にヤバイと自我はあるものの、表面上はヤバイやつ。けれど、このまま通学しないわけにはいかなく、表へ出た。

 

朝日が射す中、顔をしかめ……たつもりでいて、バイクをガレージから引きずりだす。そのままヘルメットを被って通学しようとしていた時、

 

「あ……哀刀くんっ……!」

 

背後から自分の名を呼ぶ声、ゆっくりと振り返るとそこにいたのは幼なじみ2人と梨子さん。僕が引きこもったのを悟って、ここ1週間近くは僕の家に訪ねもしなかった彼女らだ。

 

「その…が、学校もう行けるようになったの?」

 

「そ……だね…ふひっ……うん、行けるよ」

 

心配味を含んだ梨子さんの声に笑いながら返す僕。「笑ってるー!」と言った喜ばしい声は上がらない。

 

特に僕たちはそれから会話を交わすこともなく、無駄な時間が過ぎていく。流石にマズイと思って原チャリに跨る。

 

「あの…じゃァ…あはっ……失礼する…な」

 

別れの言葉を吐いてから僕は学校を目指し、今日も走った。当然、笑みは消えてくれずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌っち」

 

「鞠莉さん」

 

「隠れて見てて正解ね」

 

「で、どうなの?」

 

鞠莉は無線装置をポケットから出した。それはかなりの高性能のもので、周りの雑音を帳消しにして、対象の音を届けてくれるという優れ物だった。

 

「これに録音機能があってね?……これを聞いて欲しいんだけど…」

 

『すっ…ごい…ヤベェぜ、これっ!』

 

『おい…現実を思い出させんなよ』

 

『木…?……っ!?か、紙粘土!?』

 

『そ……だね…ふひっ……うん、行けるよ』

 

「っ……!」

 

「そうよ、千歌っち」

 

「つまり…」

 

「1つ目、木の偽装がバレた。2つ目自律神経の乱れが生じ始めた……その証拠に笑いを抑えきれず………」

 

 

 

 

「口調が変わり始めている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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