嗚呼、僕に寄り添う彼女らはヤンデレ   作:Re:クロバ

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最終話:Alive Immoral Tacit Offspring

幼なじみたちは再び僕を朝に呼びに来るようになった。依然として、薄笑いを浮かべる僕はそんな彼女らといつも通り…と自分では思えない会話を交わす。

 

僕は肩掛けたカバンを背負い直し、バス停へ向かう。今日はバイク通学はできないのだ。なぜなら……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いっけーいけいけいけいけ!!」」」

 

「そっち行ったぞーっ!!」「カバー、カバー!」「シュート気を付けろぉぉ!!」「マンツーマンだっての!」

 

声が荒ぶる中で、僕はチームメイトからパスをもらう。ドリブルで切り抜けようとフェイントし、更にパス。細かいパスで回していき、24秒ルールギリギリになってようやく仲間がシュート。

 

「「「あーっ……!!!」」」

 

「悪ィ!ミスった!」「いいからディフェンス戻れぇぇっ!!」「ハーフコートで守るぞ!オールじゃなくってな!!」

 

──今日は僕が所属するバスケ部の試合だった。と、言っても練習試合。親交のある他校との合同練習のために、僕らは静岡を飛び出して、はるばる東京まで赴いていた。

 

白熱する試合は現在第4クォーター。後、3分すれば試合も終わる。スコアは70ー58とこちらが劣勢。だが、超速攻攻撃性を秘めるバスケではこれぐらいの点差ならまだまだ充分にチャンスはある。

 

汗を滴らせながら、僕はボール保持者のディフェンスに付く。腰を低くして、詰め寄り、出方を伺う相手に全神経集中させる。……笑いながら。

 

「な、なぁ…?あの13番気持ち悪くね?」「ずっと笑ってるんだけど…」

 

相手チームのベンチ側からの声は当然、絶賛試合中の僕には届かない。小刻みにドリブルする相手に僕は声を荒らげる。

 

「ほら、早く来いッて!勝負しよォぜ!?な!?」

 

「え……?じゃあ………っ…!」

 

瞬間、突破される。相手のエースに喧嘩を売るべきでは無かったと後悔するはずなのだが、胸中は狂ったような歓喜のみ。

 

「おォ!スゲェ!やっぱ強ぇえ!!」

 

「「「やっぱあの13番おかしい……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから僕のエラーが続いたせいで大差で敗北。合同練習が終わり、仏頂面をしたチームメイトを前にニコニコとする僕。

 

「おい…晴宮…お前、これ練習試合だから良かったけど…」「そうだぞ!?何を喧嘩ふっかけに行ってんだ!?」「それで的確に負けて帰ってくるしさ!」

 

「いやいや!練習試合だからだぜ!?自分がどこまで通用するか試したいじゃん!?」

 

「いや…それも一理あるけどさ…」「てか、お前どしたん?なんか…おかしいぜ?」

 

 

『ん?お前なんかおかしくね』

 

 

脳内に電撃が走った。瞬間、激昂した僕はそう言葉を発したチームメイトの胸ぐらを掴んで、壁際へと押し付ける。

 

「だから……おかしくねぇぇんだよ!!!僕は…僕は……──」

 

「──普通だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

東京の街並みを1人歩く。一方的にキレた僕は顧問の教師に許可なく、チームを抜け出していた。

そんな中、スターバックスによって、カプチーノを買ってから、路地裏で座り込む。

 

「はは……なんなんだよ」

 

「あの電柱はなんなんだよ」

 

「我が家はなんなんだよ、晴宮ってなんなんだよ」

 

「結局のところ……僕ってなんなんだよっ……!」

 

「戸籍が無いってどういうことだよ!割り切ろうとしても、やっぱ無理だっての!ふざけんなよ!ていうか、市役所の役員らもそうだよ!僕の存在をいい加減認めろっての!目の前にいんだろ!?人間が!1人の人間がぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

声を枯らし、涙を果てさせ帰路に着く。電車を乗り継ぎ、自宅に帰る頃には空は透き通るような群青色だった。

 

「…………何もかもクソ喰らえだ」

 

けれども、その美しい夜景を黒よりもさらに暗い黒で塗りつぶすような少年の呟きが響いた。

 

 

 

 

 

 

僕は珍しく上機嫌で次の日を迎えた。なぜなら、鏡で顔を確認しても、笑っていなかったからだ。無表情であることがこんなにも嬉しいとは思いもよらなかった。

 

そして、現在昼休み。僕を心配するようなLINEを送ってくる千歌さんたちに「大丈夫」の3言だけ送り、図書室に独りで籠る。

特に用は無かったのだが、友達が風邪で休んでいる以上は暇を潰す手段がこれくらいしか無かったのだ。

 

年季を感じさせる本の匂いが充満する閑静なこの空間に存在する音は紙をめくる音とシャーペンでカリカリと勉学に励む音だけだった。

 

定期テストが近づいているのにも関わらず、勉強している生徒を「大変だな…」と他人事のように嫌な目でこっそりと見つめてから漫画を探す自分がいる。

 

「火の鳥だらけじゃん……手塚治虫はもう飽きたッつーンだよ…」

 

愚痴を零す僕は火の鳥の背表紙を叩いて、別のコーナーに移る。ライトノベルのコーナーも殆どがアニメで見た事のあるものばかり。期待外れだろうということは事前から予知していたが、まさかここまでとは。

 

独り、ガクッと肩を落とす僕はそのまま図書館を後にしようとする。鉛のように重い足は絶対に先日の練習試合のせいだ。……そういえば。

 

僕は昨日、チームメイトに一方的に憤怒したのだった。当然、謝罪せねば。義務を想起させた所で僕はある本を視界に捉える。

 

「ん…?」

 

それは何かの参考書…?エッセイ…?ジャンルが不明の本を手に取り眺める。

タイトルは『ドリー』

 

何かに導かれるように、出口に向けていたつま先を座席に方向転換させ、着席する。カビ臭い表紙をめくる。すると、カラーの挿絵が挿入されていた。

 

それはクリーム色の毛をした羊だった。

 

最初は何のことやらと思い、重ねてページをめくるが、驚愕。どうやらこの羊は世界で初めて制作に成功した、クローン羊であったのだ。

 

クローン……と、いうことは、媒体とした元の生物と全く同じ遺伝子を持って生み出される…もう1人の自分のことだ。

 

この書物には、そんなクローン羊の作り方や、それに対する筆者の意見が忠実に記載されていた。文系選択志望の僕にとっては、1つも理解できない内容の連続。

 

唯一記憶に残ったのは、ドリーの名前の由来が、アメリカの歌手、ドリー・パートンの巨乳から来ていることだけだ。

そこだけしっかりと憶える自分もやはり男かと嘆息。

 

しかしだ。

 

何故かは分からないが、この挿絵の写真を見ていると不思議と親近感が湧いてきた。まるで今、このクローン羊が僕に同情しているかのよう……

 

「そんなわけあるかよ」

 

そう、声を出さずに口だけを動かした僕は本を受付まで持っていき、レンタルすることにした。

 

 

 

 

 

 

夕日を背に浴び、帰宅途中で考える。どうも、先程から兄の写真が脳裏をチラつく。母親と父親の慌てっぷりなんぞ、蚊帳の外。敬愛すべき我が兄の笑顔だけが脳に張り付いて、ペンキのように剥がれない。

 

そう思った瞬間僕は、バイクを急旋回させ元来た道を戻る。行き先は友達の家。なぜなら──

 

 

 

 

 

 

「ったく…ほら、これでいいのかよ」

 

「あんがと」

 

「つーか、なんで急に入れ歯なんて欲しがるんだ!?」

 

「企業秘密」

 

「は?なんだそれ」

 

現在僕は、歯科衛生士を父に持つ友達の家に訪問していた。卓上に差し出されたのは、僕が求めた通りのすこぶる歯並びが良い上下両方の入れ歯であった。

 

新品の真っ白な歯を持つこの入れ歯たちは、どうやら親に内緒で持ってきてくれたらしく、こっそりと持ち帰る必要があった。

 

高校生男子が入れ歯を欲しがるだなんて絶対に不思議に思っただろうが、笑顔で感謝のみを突き通す。

 

小声で「きっしょ…」と聞こえた気がしたが、気にしない。友情崩壊の危険性を孕んでいるので気にしない。

 

 

 

 

 

 

友達の家から我が家へ舞い戻り、半刻が過ぎた。

 

手鏡を持ち、小綺麗に刈り揃えた眉毛と、すこぶる歯並びの良い入れ歯を口の前にかざす。

剥き出しの入れ歯には違和感満載だが、それでも目の前に鎮座している写真立ての中身とは絶妙に面影が重なっていた。

 

「──やっぱりそっくりじゃあないか…」

 

兄と瓜二つということが今は極限に嬉しくなかった。苦渋の色を顔中ににじみ出させる僕は、音を立てながら上階へ行く。

押し入れを探っていると、ホコリを被りながらも異彩を放つアルバムを発見。それを開くこともなく廊下に放り投げる。

 

そのまま、アルバムを拾って階段を勢いよく降りて、今度は印鑑などが入ってる貴重品入れを探り、『カナト』と書かれた箱と、自分の保険証を手に取った。

 

それらをバッグに詰め込んだところで、机の上に置いていた本を持ち上げた。

相も変わらず不思議な表情で見つめる羊に視線を向ける。

 

「確かめてくるよ」

 

そう言う僕は決意の構え。星空輝く下で外に出た僕は、バイクのエンジンを蒸かせる。そして、夜闇を疾駆したのだった。

 

 

 

 

 

 

──数日後。

 

魂が抜けたように僕は沼津の商店街を徘徊していた。一つ一つの足取りは重く、今にも地球の重量に敗北を喫しそうだ。

 

「あ、あれ?哀刀くん…?」

 

お陰で前方から降りかかる可憐な声を危うく無視するところだった。

 

「る……ビィ…?」

 

「花丸ちゃんと遊びに来てたんだけど………って、ど、どしたの!?」

 

紅緋色の髪を揺らす彼女を見つめてから地面にとうとうへたり込む。目尻に涙が蓄積され、声音は震えた。

 

「哀刀くん!?」

 

「──………聞いてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

花丸を招集し、近くの空き地に腰掛ける僕は全てを話すことにした。

 

口を開き、我が家は実在しないこと。両親は単身赴任している訳ではなく、心中していたこと。身に覚えのない電柱のことを紡ぎ出した。そして……──

 

「ハレミヤ アイトは存在しない」

 

「「えっ……?」」

 

「つい最近判明したことだよ。最初は冗談かと思った。でも、違った」

 

「信じたくはないよ。大阪に行った時に言われたことも全部妄言だと受け取っていた」

 

「市役所巡りで否定され続けられていた僕の戸籍も本当はあるもんだと信じ込んでいる自分がいたんだ」

 

「でもそれさえも嘘」

 

「ハレミヤ アイトは……そんな人間(ヤツ)はいねェンだよ。この世に」

 

怒気と悲痛を微量に孕んだ僕の声に被せるように花丸が口を開く。

 

「で、でも!今、実際に哀刀くんは目の前にいるんだしっ!」

 

「ンな訳…ねェンだよ」

 

拒絶する僕はポケットを探る。そして、数日後から肌身離さず持ち合わせている自分(・・)の所有物を取り出した。

 

「こ、これは…?」

 

「兄さんのへその緒」

 

数日前。僕が貴重品入れから取り出したのは『カナト』と表記された兄さんの誕生以来、親が大切に保管していたへその緒の入れ物だった。

 

「僕はこのへその緒と保険証を持ち合わせ…ある場所に行った…」

 

「……?」

 

「病院だよ」

 

僕の暗夜色の黒瞳の双眸(そうぼう)は細まる。

 

「以前から不思議に思ってたんだ……兄さんと僕の酷似性についてね」

 

彼女らが目を見張ったところで、口を開く隙も与えないように言葉を繋ぐ。

 

「兄弟なのだから、ある程度似るのは容認できる。だが…流石に似すぎだ。歯並びや眉毛を除けば、他はほぼ全て同一。気持ち悪いほど似てるんだよ」

 

「そして、更に更に……こんなものまで見つけた」

 

地面にはらはらと写真を数枚落とす。それらは全て写真立てに入っていた写真、それと共に押し入れから探り当てたアルバム内に保管されていた写真も散らす。

 

「ほら、見てよ?この写真らを」

 

地に触れる写真を拾う彼女らを仁王立ちで見守る、僕。恐る恐るそれらを手に取り、確認する紅緋色と茶色。

 

 

 

目が限界まで見開かれた。

 

 

 

手元を狂わせて写真を地面に舞い戻らせる。

 

「どういうこと?……俺は少なくとも2人とは幼なじみであるはずがないんだけど」

 

「いっ、いやっ!これはアイトくんじゃなくって…その…お、お兄さんとの写真で……」

 

 

 

「悪ィが……俺はそこに写ってんのが兄さンだなンて一言も言ッてねェぞ?」

 

 

 

「っ……!?」

 

「あ~あァ……やッぱそンな似てる?マジでヘコむわァ……」

 

「い、いやっ…それは……!」

 

「まァ、確かにそこに写ッてンのは兄さンだ。……なんで見分けれんだ?」

 

「……」

 

「無言か……まァ、いいや。それでな?普通の人に見分けをつけて貰えないほど俺と兄さンが似てる理由だけど………」

 

「……」

 

「それはな?俺が……僕が………!」

 

 

 

「俺が兄さンだからだ!!俺が!俺こそが!ハレミヤ カナトだからだよッ!!!」

 

 

 

「「……アイト…くん」」

 

「…その名で呼ぶのはナンセンスだ。カナトver.2とでも呼んで貰おうか?」

 

「え?」

 

「全ての証拠に……ほら、これ」

 

衝撃の告白に絶句する眼前の2人に資料を投げる。紙をくしゃりと歪な形に変えながら、花丸がキャッチ。

 

「そこに書いてあンだろ…?」

 

「これ……って…」

 

「そォだ」

 

 

 

「『A:ハレミヤ カナトのへその緒』『B:ハレミヤ アイトの皮膚細胞』結果……『DNA照合率…100%』つまり……『ハレミヤ アイトは…ハレミヤ カナトである』」

 

 

 

事実を口にした。全てを洗いざらい話した。つまりもう…自分は自分ではないのだ。けれども、自分は数年前まで敬愛していた自分。その自分は自分であり、自分もまたその自分。

 

自分は……自分。

 

「花丸…ルビィ。信じてくれなくッたッていい。俺も信じてもらう気はないさ。けど…言いたかッたンだ。俺は……アイトなンかじャあないンだって……!俺は…俺は!!カナトのクロ────

 

 

 

「それ以上はダメよ」

 

 

 

衝撃が背後から電撃のように脳内を走る。視界が真紅に染まり、体全体が脱力する。途端に狭まる世界。地面に倒れるところで、目線を後ろに逸らす。

 

「そん………な……」

 

「……アイト」

 

「なんでだよ…………」

 

 

 

「り…………こさ……───」

 

 

 

 

 

 

 

 

開眼する。一つの椅子に縛り付けられ、身動きが取れない。周りを見渡すと、視認できるのは左側にある車輪付きの可動式の棚。

 

各欄に手術に使うような器具が乱雑に放置されている。

 

それを確認した上で、ドクドクと熱く脈打つ(はらわた)を確認。先程から妙に熱いのだ。一体、なぜなの……………そういうことか。

 

腹部に見えるは大量の血液。それらの放出者は全て、自分。切り開かれた腹部からはどうやらまだ血が出ているらしい。腹から地面に滴り落ちる真紅を見てそう判断した。そして生成された水たまりならぬ血溜まりをすすっている……──

 

「っ……!?テメェら何してンだよ!!!」

 

──Aqoursの面々がいた。

 

「起きた?アイト」

 

暗い赤で顔を染めた梨子さんが、闇をたたえた眼をして問いかける。

 

「な……ンで……なンで!!!?どォして!!??」

 

「それは真相に近づいちゃったからよ?アイト」

 

奥の暗がりから返り血に濡らした学ランを着用している鞠莉さんが医療用のハサミを持って登場。

 

「クロー…ンのことか…?俺の……こと…か…?」

 

「『俺』だって。ふふ…頑張って調整したのに…DNAに含まれる深層意識までは改変できなかったのかしら」

 

「な…ンだ…と…」

 

「じゃあ、はっきり言うわねアイト」

 

「っ……」

 

「これは研究という名目の私たちの欲望を満たすための創造よ」

 

「けん…きゅ………?」

 

「そうよ。……クローン技術。それは世界で認められつつある新世代技術の1つ。iPS細胞などといったものを上手く活用すれば、医療が何世代分も進化するの」

 

「けれども、それはまだ人間に対して実用化されていない。ネズミとかの実験動物で日々、安全性を確立しようと研究者たちは必死なの」

 

「丁度、カナトが事故死した時……全てに絶望していた私たちはそれを知った」

 

「そして……試せばいいのだと、思ってしまった。…人間にクローン技術を当てはめればいいのだと…ね」

 

「それからは早かったわ。小原財閥の財力を用いて、特別研究所を創設。国家から極秘に認定されたクローン人間制作研究所としてね」

 

「カナトがどこで死んだのかは私たちもついぞ分からなかった。更に、悲しいことにご両親も心中された。……ならば、どこからカナトのDNAを摂取したかというと…アナタが持ってた『へその緒』…からよ」

 

「それからは培養だのそんな作業の連続。独自の論理を研究者たちが編み出し……ついに、クローン人間の受精卵の制作に成功した」

 

「次に、そんな私たちが取り組んだのは、それを最初から成体で活動できるようにすること」

 

「これには大分と時間を費やしたわ。けれど…その努力は無駄じゃあなかった。時間と財力の浪費を重ねた末にとうとう私たちの悲願は達成されたの」

 

「そこで生まれたのが……アナタよ。実験No.84」

 

「ハレミヤ カナトを媒体としたアナタは体格や性格、趣向さえも彼と同一。これほどまでに素晴らしい個体は無かったわ。まるでカナト本人が帰ってきてくれたのかと思った」

 

「けれど…そんな完璧な個体はすぐに壊れることを私たちは知っている。だから、ちょっと細工したの」

 

改竄(かいざん)した記憶を植え付け、性格をカナトと対照的にした。だからアナタの一人称は『僕』だったのよ」

 

 

「全て……おま…えら…の…計画の末に……誕生した……のか?…俺は…」

 

 

「無論よ。そして私たちはアナタを試した。アナタは私たちが求めるカナトなのか。都合の良いように創れたのか。だからあの家を建てた。千歌の家の真隣にね」

 

「ヒントも与えた。わざと台風接近の誤情報を与え、カナトの本当の家から持参した貴重品、衣服、写真を置いたのよ」

 

「それらに違和感を感じることもなく…アイトとして生きるのなら……

実験は大成功。だったのに……それなのに!!」

 

「なんで感付いちゃうかなぁ!?全部、台無しじゃん!!これじゃあ、無駄じゃん!!」

 

なるほど。果南さんがあの夜に『無駄』と言っていた理由が分かった。つまりは、こういうことだったのか。

 

「だから……また、やり直す。最高の……カナトが戻ってくるまで…私たちは何度でも……」

 

朧気(おぼろげ)にそれを聞いてから、僕は視線をずらす。

 

「な…ぁ…善子…」

 

「何よ?」

 

彼女もまた朱塗に顔を染め上げている。

 

「あの…俺…へ…の…気持ちは…嘘…だ…ったのか……?」

 

「いいえ、本物よ。だって──」

 

「──全部カナトだもの」

 

これからも彼女は一滴も残さず、我が血液を貪り尽くすのだろう。冷たくなる肢体と共にぼんやりと思う。もう、痛覚は完全にシャットダウンされていた。

 

「なぁ……鞠莉…」

 

「何?」

 

「一つ…だけ……いいか?」

 

「?」

 

「なんで……俺の名前は……アイトな…んだ?」

 

「簡単よ」

 

Alive(生きている)

Immoral(道徳に反する)

Tacit(暗黙の)

Offspring(子ども)……頭文字を取って?」

 

「A I T O……くっだらねぇ……」

 

その言葉を最期に……僕の命は全て、血液と共に流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら~!早く行こーよ!」

 

可愛らしい声が聞こえる。ドタドタと音を大きく鳴らしながら、外へ出た。

 

朝日を一身に浴び、目が焼かれるかと思ったが、生気が宿りランランとしている黒瞳は一切曇ることなく、幼なじみ2人と梨子さんに挨拶を告げる。

 

 

 

「おはようございます!千歌さん、曜さん、梨子さん!」

 

 

 

「おはよう!哀刀(あいと)くん!」

 

 

 

満面の笑みと共に。そしてその服に隠れる背後の腰には、誰にも気付かれないように、85と記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて哀刀くんの物語は一段落着きました。
その次もその次もまた別の哀刀くんが物語を担ってくれることを信じて彼は旅立った……わけではありません。

最後まで立ち位置の分からなかった彼ですが、アイトはカナトでカナトはアイト。唯一無二の存在同士です。と言ったら矛盾が生じますが。



と、まぁこんなクソまとまりの無い感じで、アイトくんの活躍に幕を降ろしまする。

次回からは数年前のお話。……晴宮 カナトの物語になります。乞うご期待!!

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