High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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――――人間が最善を尽くせば、他に何が必要だろう?――――ジョージ・パットン将軍

皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。

前回の投稿から間がかなーーーーり、空いてしまいましたね(涙)
まぁ、仕事の都合で地元に戻るための支度で、執筆が進みませんでした。
しかも今回は地の文がかなり多めなので、かなり読みづらいかも('・ω・')

それともう1つ。
今回の話で、ストーリーは一時的に停止します。
前にも似たような事がありましたが、次回からは別のアニメの視点の物語も書くため、よろしくお願いします。



第16話 Second Stage

[Second Stage]

2012年、7月22日、15;21;32

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 副艦長

宗谷 ましろ

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 ??????

 

納紗 幸子

「そ、そんなっ、艦長が、岬さんが………一人で、あそこにっ!?」

杵崎 ほまれ

「うそ、そんな事って………」

黒木 洋美

「………ごめんなさい。後ろから追っ手が迫ってきていたの。こっちの出航準備が終わった途端に、敵が撃ってきて逃げざるおえなかったのっ」

知床 鈴

「ぐすっ、そしたら岬さんが現れて、ロボットを引き付けてくれたのっ!だから、岬さん、は、晴風を取り戻すために、囮になって………ごめんなさい………」

内田 まゆみ

「鈴ちゃんのせいじゃないよっ!敵に撃たれてたんじゃ、鈴ちゃん達が危なかったよ」

宗谷 ましろ

「………」

 

私、宗谷ましろが目を覚ましたのは思いの外、晴風の奪取が成功したすぐだった。

………私達がいるこの場所は、計画の最終段階にてある人との会合場所だった。

そこでクラス全員と合流する………筈だった。

実際は、一人だけ欠けてしまった光景しかなかった。

その光景をなぜか停泊した晴風の艦橋から見下ろしていた。

 

皆が困惑する中、私は一人思い出していた。

こんな状況になってから、あの日々のことを――――

 

そもそもの発端は、全て3日前の裁判が終わった後である。

裁判を経て、大事な友を無実の罪から救った直後からそれは既に始まっていた。

晴風を襲った集団は、乗組員を全員気絶させてから、晴風の奪取を行った。

催涙弾を使用しての襲撃だった。

死傷者が1人も出なかったのは幸いだった。

もしかして手加減されたのかも知れないが、もしも手加減されなかった時のことを考えたら、震えが止まらなくなってしまうので、これ以上考えるのは止めにした。

 

気絶した私達が目を覚ましたのは、この町にある巨大な病院である。

総合病院と位置づけられたこの施設は、あの時、晴風に乗艦していた生徒ら全員を収容するには、あまりにも簡単だったようだ。

その証拠に、申し訳なく感じているのだが、1フロアの約半分の病室を使わせて貰っていたのだ。

私が目を覚ました時は、彼女が最後に目覚めたらしく、皆一様に私を心配していた。

特に岬さんからは両目に涙を流して、皆の前で抱き締められる始末だ。

もう子供ではないのだから、あまり恥ずかしいことをしないで欲しいと感じたのは、今に始まったことではないため、口にしなかった。

しかしここで疑問が残った。

誰が私達を病院へ運んだのだろう?

 

その答えは、裁判の時にお世話になった蘭さんだった。

裁判の後、心配になった彼女は、1人で後を付けてきたらしい。

そして一部始終を目撃した後、アトラスの社員が私達を船から降ろして、彼らが立ち去った後で病院へ通報したらしい。

ちなみに警察には連絡できなかったと言っていた。

私達を病院へ連れて行くことばかり気を取られていたら、通報し損ねたとのこと。

彼女は自身を責めていたが、皆がフォローしてくれたからか、彼女はそこまで落ち込むことはなかった。

学生が運用している船が目の前で盗まれて、なんて話が簡単に信じて貰えるとは思えなかった。

もっとも、元より警察に通報できるほどの判断力は微塵も無かったわけだが。

 

ここで気になったのだが、蘭さんは私達がなぜ晴風に乗船していたのかを聞かなかったことだ。

一部始終、見ていたのなら、疑問に感じるはずだ。

学生が武装した船に乗っていたら、誰だって疑うはずだ。

だが彼女はとうとう、そのことを問いただすことはなかった。

 

さて、話を元に戻そう。

 

晴風を盗まれていて、黙って手をこまねいているほど、私達は諦めは悪くない。

この飛ばされた世界の中で、たった一つの帰る場所なのだ、相手の理由がどんなものであっても取り返さなくてはならない。

だが実際問題として、晴風がどこへ運ばれたのかが不明である壁が立ちはだかった。

誰かに相談しようにも、この世界に相談できるような相手がいない。

その事実に直面するとクラスの皆は意気消沈してしまった。

はぁ、ついてないにも程があるだろ。

もう一生分の不幸を使い切ったんじゃないか?

………うん、使い方を間違っているな。

だがそんなことはどうでも良い。

こんな絶望的な状況の中、私達に救いの手が差し伸べてくれる人が居たのは、私の数少ない幸運であった。

 

――――この町で町長をしている車いすの女性、野村志保(のむらしほ)町長である。

私達が病室で話しているのをたまたま聞いて、いたたまれなくなったと言っていた。

野村さんはこの町の事なら、知らないことなどないと豪語する人物だ。

本来なら部外者である彼女に協力を頼めない。

その問題を考慮してか、艦長が少し時間が欲しいと言って、とりあえずはその日は一度帰って貰った。

連絡先は当然、予め交換しているのは言うまでもない。

 

岬 明乃

「シロちゃんを助けられたのに、今度は晴風が盗まれちゃうなんて………」

 

落胆するのも無理はない。

私が殺人事件に巻き込まれて、無事に裁判に勝ったのも束の間。

今度は基地となっていた晴風が奪取されてしまったのだ。

普段明るい彼女も、今回ばかりはかなり参っている。

とりあえず、他のクラスのメンバーにはそれぞれ病室で待機して貰って、艦橋組だけで今後の対策を練っていた。

 

西崎 芽依

「ねぇ、やっぱりあの町長さんに協力して貰おうよ!あたしらだけじゃ、手に負えないって!」

納紗 幸子

「私も賛成です。裁判の時は、世間のルールが味方してくれましたけど、今回は表に出てないような人達が相手ですから、味方を得られるのはすごく限りがあります。何より………うちの組の者が舐められてちゃ、うちの組の名折れじゃ!」

 

野村さんの助力賛成派は西崎さんと納紗さんだ。

 

知床 鈴

「でもあの人、私達に危害を加えないかな?本当は味方のフリをして、後でまとめて捕まえたりするんじゃっ」

立石 志摩

「うぃ。私も、反対。いきなり現れて、協力するのは、どこか怪しさを感じる………」

 

対して反対するのは、知床さんと立石さんだ。

ここで、西崎さんは頭をグシャグシャに掻き出すと、艦長のベッドにズイッと乗り掛かってきた。

 

西崎 芽依

「ねぇ、艦長はどっちの意見なのさ?賛成なの?反対なの?」

岬 明乃

「………私は、志保さんの協力は必要だと思う。晴風がどこへ行ったのかも分からない上に、盗んだ相手の情報は一切なし。こんな状況じゃ、進展は望めないと思う。警察にも通報できないなら尚更、ね」

 

静かに、岬さんは自身の意見を語った。

かなり疲れた表情をしているが、目は決して死んではいなかった。

その目を、メンバー1人1人見つめていって、最後に私に両目を見つめられる。

 

岬 明乃

「シロちゃんはどうかな?これ以上、部外者に協力を仰ぐのは反対かな?」

宗谷 ましろ

「いいえ、私も艦長の意見に賛成です。味方は多い方が心強いです。それに、彼女自身も色々と知っていることはあるでしょうしね」

 

でなかったら、相手の正体も分からない状況下で協力する、だなんて言わないはずだ。

相手の情報を一切知らない状態で戦いに入ったら、自分が危険に晒されるからだ。

町長をやっている人なら、そんなリスクは負わないはずだ。

それに、個人的に疑問も感じたから、聞くチャンスかも知れないし、な。

 

岬 明乃

「分かったよシロちゃん。ただ、蘭ちゃんには悪いけど、今回の件は蘭ちゃんとは一切関わらないで行こうと思うんだ」

宗谷 ましろ

「そうですね。彼女は私達の事情を知ってますけど、今回は裏の人達との戦いになる。だから、表の世界に居る彼女も巻き込むのは、危険がありますしね」

 

私達は元々は異世界からやって来た存在なのだ。

いわば、この世界にとっては私達は身分のない荒くれ者と同じなのだ。

なら裏社会にいる、と捉えられてしまっても文句は言えないのかもしれない。

………納得はしないけどな。

 

納紗 幸子

「そ、そんな。シロちゃんの口から裏の人達って言葉が出てくるなんて………組長の補佐としての自覚が出てきたんかのう?」

宗谷 ましろ

「それはどう言う意味だ!?と言うか、私は別に組に属した覚えはない!」

西崎 芽依

「えっ?晴風クラス(組)に所属してないの?」

宗谷 ましろ

「そっちの組か!!」

知床 鈴

「なるほど~。クラスを組と合わせたんだね」

立石 志摩

「うぃ」

岬 明乃

「あははは………でもとりあえず方向性は決まったね。今日はもう寝て、明日から野村さんに協力して貰うようにお願いしに行くよ!」

艦橋組

「「「「「おおーー!!」」」」」

看護師

「ちょっと!病院内ではお静かに!」

全員

「「「「「「あ、すみません………」」」」」」

 

決まったところで安心しきったのか、全員で大声で叫んでしまったから、看護師から注意されてしまった。

そしてその日は、それで解散となった。

他のメンバーには既に艦橋組から伝えて貰った。

聞いたメンバーは皆、いつにも増してやる気に満ちていた。

………やっぱり、何もない状況で落胆するよりも、やることが決まった方が気が紛れるから良いかもしれない。

 

そして翌日。

朝起きたら、艦長が既に野村さんに連絡を済ませて、アポ取りを済ませた後だった。

町長の仕事場まで来て欲しいとのことで、向かうメンバーとしては私と岬さんのみ。

他のメンバーは病院内で待機するようにと、既に伝えた。

メールと共に送られた地図を頼りに、私と岬さんは向かった。

因みに留守番してる子達には蘭さんが来ても、今回の件は黙っているようにと伝えてある。

 

そして町長の職場へ辿り着き、秘書の方が出迎えてくれた。

道中で思ったのだが、秘書はどこか雰囲気が岬さんに似ている気がした。

そんな呑気な考えをしていると、町長室に着き、中へ入った。

ちょうど野村さんは、どこかへ電話していたのか、受話器を置いたところだった。

こちらが来たのを見たためか、彼女は微笑んでいた。

 

野村 志保

「いらっしゃい。良く来てくれたわね、ささ、こっちへ座って」

 

開口一番に歓迎の言葉を聞くと、どこか安心する。

ソファに座ると、野村さんの車いすを押していた屈強な男が一言。

 

??????

「外に出てようか?」

野村 志保

「お願い」

 

野村さんがそう言うと、男はさっさと部屋から出て行った。

最後に秘書の方がペコリと頭を下げると、扉が閉まる。

ここで野村さんが話を切り出した。

 

野村 志保

「改めて言うけど、今日は良く来てくれたわ。道に迷わなかった?」

岬 明乃

「大丈夫でした。それにしても、立派なお部屋ですね」

野村 志保

「ふふ、ありがとう。常に誰か来客がやって来るから、部屋は小まめに掃除してるのよ。それに、いつもだったら書類の山が沢山積まれてるから、部屋が乱雑してない今日はラッキーね」

 

ふふふと、また微笑むと、空気が先程よりも軽くなる感じがした。

さすが現役なだけあって、場や人を和ませたりするのが得意のようだ。

それとも、大人の女性としての余裕からだろうか?

いずれにせよ、私には持ち合わせていない素質だった。

岬さんも同じように微笑み返した。

 

岬 明乃

「書類仕事って、大変ですよね。私はクラス委員長を務めてるんですけど、書面と向き合うのは苦手で」

宗谷 ましろ

「あなたはもう少しガマンを覚えて下さい………」

野村 志保

「分かる、分かるわ岬さん!自分はまだ現場に立って色々と指示を出したいのに、この有様じゃとても厳しいの!だからいつも書類と睨めっこなのよっ」

 

プンプン怒ってる野村さんは、どこか子供っぽさを感じる。

やばい、可愛らしいと思った自分がいる。

だけど、この有様と聞いた途端、車いすに目が行ってしまった。

事故か何かに巻き込まれてしまったのだろうか?

私の視線に気付いたのか、野村さんは車いすをポンッと叩いた。

 

野村 志保

「これは昔、事故で怪我しちゃったのよ。それで両足が麻痺しちゃって、もう歩けないって診断されちゃったの。だからこれは気にしないでね?」

岬 明乃

「そうだったんですか………」

宗谷 ましろ

「あ、すみませんっ。嫌なことを思い出させてしまってっ!」

野村 志保

「いいのよ。もう随分と前の話だし、逆に良い思い出にもなったから、ね」

 

そう言って、彼女は背後にある壁に掛けられていた絵を見つめていた。

上空からの視点で書いたモノだろうか、どこかの島を絵のようだった。

その絵を見る彼女の雰囲気は、どこか遠くに居る。

 

野村 志保

「………ふぅ、早速だけど、本題に入りましょうか。いつまでも世間話って訳にもいかないから」

 

表情を引き締めて、こちらを見つめている目は、先程とはまた異なっていた。

だから自然と、こちらも気を引き締められた。

 

野村 志保

「あなた達が襲った連中は、こいつらよ――――」

 

テーブルに置かれた資料には、PMC・ATLASと明記されていた。

あの時、ガスマスクを装備して現れた敵は、この世界で幅を利かせている民間軍事会社の所有する部隊の一つが、実行したとのこと。

PMCとは、private military company、和訳すると民間軍事会社の略で、戦闘や要人警護、兵站などの軍事的なサービスを扱う傭兵組織である。

アトラスは、民間軍事会社としてはかなりの規模を誇っているようで、晴風を奪ったのも彼らである。

 

野村さんの話を要約すると、こんな感じだった。

それにしても、傭兵稼業と言うべきなのか?

職業として聞いたことがなかったために、ため息が吐きそうだった。

だって、こんな………。

 

岬 明乃

「晴風を奪ったのは、この会社の人達なんですね?」

野村 志保

「間違いないわ。最近になってうちの町に進出するのを、私が許可してしまったの。あれだけの水上艦を互いに無傷で奪取できるのは、この会社だけだもの」

宗谷 ましろ

「しかし、なぜ彼らは晴風を………そもそも、あなたは何者なんです?」

野村 志保

「えっ?」

 

と、疑問を口にしたからか、岬さんと野村さんの視線がこちらへ向いた。

岬さんから晴風と口にしても、野村さんは特に疑問を感じなかった。

町長だからと言って、何でも知ってるはずがなかろう。

どうしても聞かずにはいられなかった。

 

野村 志保

「何者って………私はこの町で町長をしていて、他の人よりも多くの情報を持っているだけよ」

岬 明乃

「シロちゃん?」

宗谷 ましろ

「おかしいと思ってたんです。学生が運用している武装した船を盗まれた見ず知らずの私達を、なぜあなたは助けようとしたのか?」

岬 明乃

「あっ」

野村 志保

「………」

宗谷 ましろ

「本当は知ってるんじゃないですか?私達の正体を」

 

野村さんは両目を閉じて黙ってしまった。

少し時間が経ってからか、両肩をガックリと落して、口を開いた。

 

野村 志保

「はぁ………その通りよ。私はあなた達がどんな立場の人間なのか、知ってるわ」

岬 明乃

「それじゃあ、私達が他の世界から来たというのも?」

野村 志保

「ええ」

 

やっぱりな。

でなければ、色々とおかしな事態になる。

 

宗谷 ましろ

「そうでしたか。ん?立場?正体ではなく?」

野村 志保

「………これから話すことは、誰にも口外しないって約束できる?」

 

顔を近付けてきて、真っ直ぐな瞳が私達を捉える。

真剣な目つきに、私達は首を縦にしか振れなくなった。

 

野村 志保

「そう。なら、あなた達のこと信用するわね?………実はね、稀にあるのよ。異世界からやって来る人達が。あなた達のように、ね」

岬 明乃

「私達のように………」

宗谷 ましろ

「それで!?その人達は無事に元の世界へ戻れたんですか!?」

岬 明乃

「シロちゃん落ち着いて!!」

 

これは思ってもない情報に、私は思わず平静さを欠いてしまった。

もしかしたら元の世界へ帰れるかも知れないと感じたら、いてもたっても居られなかった。

だけど彼女からの返答は、私を絶望させるには充分だった。

 

野村 志保

「いいえ、ほとんどは戻れずに、この町のどこかで暮らしているわ。戻れたのはごく少数な人達だけよ」

宗谷 ましろ

「そ、そんな………それじゃあ、私達はっ」

野村 志保

「落ち着いて。まだ帰れないと決まったわけじゃないから。それと、彼らがやって来る理由は定かではないけど、ある条件が関係しているわ」

岬 明乃

「ど、どんな条件なんですか?」

野村 志保

「2つあるわ。この町の海域付近に、すごく濃い霧が発生するの。2メートル先も見えない濃い霧がね。もう1つはここへやって来る前の人達全員の記憶が欠けてしまったこと」

宗谷 ましろ

「!!」

 

彼女の言葉に、私は息を呑んだ。

2つの条件とも、当てはまっていたからだ。

岬さんは知らないだろうけど、彼女が目を覚ます前は晴風の目の前は確かに、濃い霧が発生していた。

そして………この世界へやって来る前の記憶もないことも。

 

野村 志保

「戻れるのだとしたら、濃い霧が発生している時ね。戻れた人達の中に記憶を取り戻した人も居るみたいだし」

宗谷 ましろ

「なるほど………」

岬 明乃

「あれ?ちょっと待って下さい。志保さんは、どうしてそこまで詳しい話を知ってるんですか?そもそも、この町は何なんですか?さっきは元に戻れなかった人達がこの町に暮らしてるって言ってましたけど」

野村 志保

「戻れなかった人達に関しては、この町で保護していることにしたの。いくらなんでも他の町に居られると、色々と混乱しちゃうから、この町で暮らすようにしたのが、この町なの。だから色んな人達が暮らしてるわ。だけど、たまにこの町を飛び出して、世界を旅する人もいるけどね」

宗谷 ましろ

「大丈夫なんですか?勝手にさせてしまっても」

野村 志保

「んー、犯罪だけは起こさないでねって念を押してあるから大丈夫でしょ。今のところ犯罪やって逮捕されましたなんて情報は入ってないしね。それと、なぜそこまで知ってるかでしょ?うーん、よく思い出せないのよね。気付いたら知ってましたー、って感じなのよね」

 

あはははー、と笑っているが、それはそれで問題があるのでは?

 

野村 志保

「おっと、話が大分逸れちゃったわね。まぁ結論を言うと、あなた達に似た境遇の人間を知ってるから、あなた達を助けようとしたのよ。だからあなた達を保護します。それでオーケー?宗谷さん」

宗谷 ましろ

「はい、ごめんなさい。そんな深い事情があったのに、疑ってしまって」

岬 明乃

「その話が聞けて安心しました!私達にはまだ、帰れるって事が分かったので!!」

 

岬さんの言葉で、私の中で希望が生まれつつあった。

対して野村さんはポカーンとした表情で私達を見つめていた。

どうしたんだ?

 

野村 志保

「あの、私が言えたことじゃないけど、信じるの?こんな話を。他の人達はなかなか信じない人がいるのに」

岬 明乃

「私達がこの世界にやって来たのは事実ですし、元の世界にはない飛行機なんてモノがあったんですから、信じます」

宗谷 ましろ

「それにこの世界にもう何日もいるのに、今更嘘でした、なんて言われた方が信じられませんよ」

 

苦笑しながら答えた。

ハッキリ言って、大の大人とこんな荒唐無稽な話をしている時点で、外から見れば滑稽だ。

最近の子供でも、こんな二次元な話はしないだろう。

青木さん風に言うなら、所謂、中二病と言うヤツだろうな。

 

野村 志保

「………もう、こんなにあっさり信じちゃうなんて。まるであの子達のようじゃない」

岬 明乃

「?あの子達?」

野村 志保

「大分昔に出会った子達よ。いえ、仲間、と言うべきかしらね。無茶ばっかりして………あらごめんなさい、また話が脱線しちゃったわね。話を元に戻しましょうか」

 

コホンと咳払いをすると、部屋の外からノックの音が聞こえてきた。

野村さんがどうぞ、と言うと秘書の人が紅茶が入ったトレーを持って入ってきた。

 

??????

「志保さーん、紅茶を持ってきましたよー」

野村 志保

「ありがとう汐子。この子達にも上げて………この匂いはダージリン?」

宮下 汐子

「はい、先日こちらへいらした時に頂いたモノです。あなた達にもどうぞ?」

岬 明乃

「頂きます!」

宗谷 ましろ

「い、頂きます」

 

テーブルに人数分のダージリンを手に取り、口に運ぶ。

………紅茶を飲むと、気分が落ち着くな。

 

宮下 汐子

「ではごゆっくり~」

岬・宗谷

「「ありがとうございました!」」

野村 志保

「ありがとう汐子ー。あの堅物にも持って行ってあげてー?」

 

秘書の汐子さんが紅茶を置いて出て行くと、志保さんがカップを置く。

私達も続くようにカップを置いた。

 

野村 志保

「ふぅ。それで、えと、どこまで話したっけ?」

岬 明乃

「えと、晴風を奪ったのが人を傷付けるために存在するアトラスって会社の人までですよ。そして、なぜ奪ったのかが分からないんですよ」

 

人を傷付けた所に関しては、私も同意だ。

経緯はどうであれ、下手をすれば死人が出ていたかも知れない。

 

野村 志保

「随分と辛辣ね。まぁ、事実だけど。結論から言うと、なぜあなた達の船を盗んだまでかは分からないわ。でもどこに運ばれたのかは分かるわ」

岬 明乃

「ほ、本当ですか!?」

野村 志保

「本当よ。場所はここ」

 

地図を取り出して、指した場所に視線を降ろした。

見てみると、この町全体の見取り図なのか、見覚えのある施設名が所々で見れた。

改めて見てみると、かなりの規模の町であるのが分かる。

もうちょっとした都市なんじゃないかと感じられるくらいだ。

指された場所は、海岸沿いにある施設のようだ。

 

野村 志保

「ここは中央研究所と呼ばれる、研究施設の一つよ。主に水上艦や海上に建てる大型建造物に関する研究を行ってるわ。だから海岸沿いに研究所を設けているの」

 

なるほど。

この世界では私達の世界ほど海上都市の技術は発達してないのか。

………航空機関連での技術では雲泥の差があるが。

 

野村 志保

「警備はかなり厳重よ。警備ロボットが24時間体制でガードしてるし、研究所の四方は全て高圧電流が流れてるフェンスが設けられてるわ。侵入者が入ったら、警報が鳴ってアトラスの部隊がすっ飛んでくる」

 

今度はタブレットを持ち出して、操作を始めた。

見せたい画面を出せたのか、テーブルにタブレットを置いて見せた。

警備ロボットと書かれた文の下に、そのロボットの機体の画像が映し出された。

スペックなども事細かく書かれていることに、驚いた。

 

宗谷 ましろ

「あれ?警備ロボットがいるのに、部隊も居るんですか?」

野村 志保

「あくまで警備するための専用部隊として警備ロボットと、侵入者に対処するために人間の部隊、アトラスの両方が存在しているのよ。ま、あそこの研究グループは、一枚岩じゃないしね」

岬 明乃

「どう言う事ですか?」

野村 志保

「全ての各研究機関の幹部達は、研究グループと呼ばれる組織を運営しているの。でね、一枚岩じゃないって言ったのは、”人とロボットが共存するための社会を実現する”を目指す穏健派と、”人間を排除して、全てを人工知能で管理させよう”とする強硬派の2つの勢力が存在するの」

宗谷 ましろ

「………」

野村 志保

「今回、あなた達の船を盗んだ中央研究所のトップは、その強硬派として有名な人物が運営しているの。だから研究所にほとんど人は居ないわ」

岬 明乃

「その代わりに、警備ロボットが多数いるんですね」

 

コクリと頷くと、いよいよ頭を抱えたくなる事態に発展してきた。

黙って手をこまねいているほど、私達は諦めは悪くない。

この飛ばされた世界の中で、たった一つの帰る場所なのだ、相手の理由がどんなものであっても取り返さなくてはならない。

しかし、相手は戦闘においてはプロフェッショナル集団だ。

対してこちらは百人にも満たない一学生に過ぎない。

戦う相手にするには、あまりにも強大すぎる。

これだけの悪条件が重なれば、誰だって匙を投げたくなるだろう。

 

野村 志保

「警備ロボが多数。おまけに戦闘のプロフェッショナル集団が相手でもあるわ………気合いを入れないと、こっちが痛い目を見るわ」

宗谷 ましろ

「ですがこちらは学生しかいません。大人とロボットが相手じゃ、とても取り返すなんて………」

野村 志保

「………本当は私達だけじゃ役不足だから、海上自衛隊にも協力して貰いたかったんだけど、”明確な敵対行動をすれば、国際問題に発展する。協力はしてやりたいが、目立った行動は出来ない!”ってさ」

 

海上自衛隊。

私は遭遇したことはないが、宇宙エレベーターに居た時に岬さんはその人達と出会ったと。

もしかしてその人達に協力を依頼したのか?

 

岬 明乃

「色々と大変なんですね。あの人達も」

野村 志保

「それが彼らの仕事よ。でね、彼らは動けないから、私達だけで動くしかないわ。だからそのための方法と準備を済ませたい………行動に移る前に、聞きたいの」

岬 明乃

「聞きたいこと?」

野村 志保

「と言っても、確認なんだけどね………相手は世界で有数の大企業よ。一度相手にすると決めたら、もう後戻りは出来ないわ。それでも、あなた達の大事なモノを取り戻すための新しい戦いを、望む?」

 

脅しで言っているのではないのだろう。

本当に、ただ単に確認をしたいだけの要領で問いかける。

だけどその両目は真っ直ぐとこちらを向いている。

岬さんは、迷わず彼女の目を見つめ返す。

 

岬 明乃

「私達はこれ以上、誰かを、何かを失いたくない。それでも、どうしても戦わなくちゃいけないのなら、私は戦います!他の子達も、同じ気持ちです!!」

宗谷 ましろ

「私も同感です。私達は誰も欠けずに、元の世界へ戻って見せます!それに、どのみちこの世界ではもう頼れる人はもう居ません。今は志保さんだけが頼りになります。だから、よろしくお願いします!」

 

私達は立ち上がって、頭を深く下げる。

すると彼女はニコッと笑う。

 

野村 志保

「そこまで固くならなくて良いわ………こちらこそよろしくね?」

 

微笑む彼女は、どこまでも頼もしかった――――

そこからの日々は、あっという間に過ぎていった。

後は晴風奪還のための計画を詳細の決定と、実行のための準備を進めた。

詳細については割愛するが、なかなかに苦労した。

その一つが、役割分担だ。

奪還のためにはコンピューターのハッキングが必要だと言い出すのだ。

これは得意分野以前の問題だから、誰が行うかが決まらなかった。

だけどここで納紗さんが立候補した。

常日頃からタブレットやパソコンを使用しているから、やり方を教えて貰えればいいと言って、引き受けてくれたのだ。

意外だと思ったが、同時にありがたかった。

誰に教わるのかと聞いたのだが、野村さんは秘密だと言って、結局教えてくれなかった。

 

それからは奪還に向けての訓練が始まった。

驚いたことに、実際の研究所の建物が用意されていたことだ。

曰く、研究所の見取り図を見て建設の許可を取ったのは彼女であるから、覚えていたそうだ。

それを元に、建てたとのこと。

おかげで実際は奪還訓練は思った以上に捗っていった。

手順通りにやっていくだけなのと、実際の現場で訓練するのとでは全く違うのだから。

 

そして――――数日後に、計画は始動した。

今までの流れとしては、こんな感じだった気がする。

私は、艦橋から降りて皆の所へ近寄った。

そこへ、秘書とボディーガードと共に車いすに乗った野村さんが現れた。

 

野村 志保

「あなた達、大丈夫だった!?怪我はない!?」

西崎 芽依

「あ、町長さん………」

知床 鈴

「ぐすっ、志保、さぁぁぁん!!」

野村 志保

「っ、大変だったわね。もう、大丈夫よ………明乃の事は、聞いたわ」

柳原 麻侖

「すまねぇ、すまねぇ、艦長っ」

黒木 洋美

「ごめんなさい、私達は」

野村 志保

「見捨てたなんて言わないで。あなた達は最善を尽くして、無事に自分達の船を取り戻せたじゃない。明乃のことは、この後考えましょう」

 

この言葉を聞いて、私は素直に受け取れなかった。

それどこか、徐々に腹が立つ自分に驚いていた。

 

宗谷 ましろ

「なんですか、最善を尽くしたって?晴風を取り戻せたって?そこに、そこに岬さんがいないと意味がないじゃないか!!」

納紗 幸子

「し、シロちゃん?」

宗谷 ましろ

「失敗した私が言えることじゃないっ、協力して貰った恩を無碍にするつもりもない!!だが、だが!!」

野村 志保

「時には、見捨てなくちゃいけない時がある。例えそれが、あなたから見て、間違っているように見える選択肢であっても………ごめんなさい、あなたもショックを受けているのに………」

宗谷 ましろ

「いえ………」

 

ここで言われて、ようやく頭が少しずつ冷えてきた。

まだ、言葉を口に上手く出せないが。

だけど、彼女の言った言葉がなぜか妙に気になった。

まるで、自分も同じ経験をしたことがあるような言い方だな………。

 

野村 志保

「とにかく、明乃のことはすぐにでも対処するわ。大丈夫、強力な助っ人を呼んだから!」

 

彼女が力強い笑みを浮かべて、出口を見つめた。

私達も釣られて、出口を見つめた。

でも、私達で出来なかったのに、どんな助っ人を?

――――そんなことを考えていると、出入り口に誰かが立っていた。

逆光で素顔までは見えないが、背丈から見ると、女性だろうか?

人数は5人組。

 

??????

「話は聞きました!あとは私達に任せて下さい!」

 

案の定、声からして女性の声だった。

――――妙な5人組ではあったが、野村さんの手前、そんな事は言えない。

本当に彼女達が強力な助っ人なのだろうか?

本当に岬さんを助けるほどの力量を持っているのだろうか、と疑問を感じてしまう。

私は彼女達に不審な感情を抱きつつも、何も言えないでいた。

だから私は、彼女達から視線を逸らしてしまった――――

 

 

――――Keep out――――

 




うーん、もっと語彙力と表現力が欲しい(血涙)
さて、皆さんお待ちかね。

次の視点の物語は………”けいおん”となりました!
おめでとうございます!(何が?)

けいおん!編も書いていきますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

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