High School Fleet ~封鎖された学園都市で~ 作:Dr.JD
ドワイト・D・アイゼンハワー
どうも皆様、おはこんばんにちは。
作者のDr.JDです。
新年、明けましておめでとうございます!
そしてお久しぶりでございます。
前話を上げてから、半年以上が経過してしまいました。
話の構成をどうするかで悩んでいました。
が、今回の話も戦闘念写が数多く出るため、上げるのに時間が掛かりました。
それよりも、ハイフリの劇場版、かなり楽しみですね!
もうじき上映となるので、かなり楽しみです!
皆様は、前売り券を何枚購入されましたか?
そんな状態で、どうぞ!!
2012年、7月23日、14;00;00
高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長
岬 明乃(みさき あけの)
日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 近海 プラットフォーム 司令塔エリア
ひたすら、走り続ける。
見てきた黒煙と嗅ぎなれた嫌な臭いと………廃墟になりつつあるプラットフォームを、ただひたすら。
美波の話だと、もう全ての兵士と研究員は避難が完了したと言っていた。
ならば、後はクウェンサーを見つけて脱出するだけだ。
美波から聞いた話を頭の中で整理した。
………美波曰く、彼の相棒のヘイヴィアの話だと、彼はプラットフォームの資材搬入路付近ではぐれてしまったとのこと。
ヘイヴィアは重傷を負い、医務室で手当を受けていること。
私はいったん立ち止まると、プラットフォームの副司令官であるミラー氏から受け取った端末から、施設の詳細な見取り図を呼び出した。
司令塔と呼ばれるエリアで構成されているのは、4つのプラットフォーム。
クウェンサーとはぐれたプラットフォームは、この位置にある場所だ。
そこは、私の目と鼻の先にあるプラットフォームだ。
こちらは他とは違い、火の手がなぜか回っていなかった。
先程の喧噪などは一切なく、逆に不気味さえ感じてきた。
私は美波から預かった通信機を取り出す。
ある人物にオペレーターを依頼したのだ。
岬 明乃
「こちら岬、現場へ到着した。応答願う」
ミラー
『こちらはミラーだ。うむ、こちらは感度良好だ。ちゃんと聞こえている』
岬 明乃
「了解。これより、第4司令塔プラットフォームへ急行し、クウェンサー・バーボタージュの救助を行う」
ミラー
『了解した。これより君の救助活動の補佐を実施する』
岬 明乃
「よろしく頼む」
ミラー
『今端末上に君の現在位置を示した。現在位置はここ。そして目指すべきプラットフォームはここだ』
岬 明乃
「最短経路は?」
ミラー
『第3プラットフォームを経由して、第4へ向かうのが良いだろう。他のプラットフォームから出ている橋は全て火災により崩落してしまった。だから救助へ向かうなら、急いだ方が良い』
岬 明乃
「了解」
無線を切ると、私は端末をしまいその場を駆け出した。
この広いプラットフォームから、彼一人を探し出すとなると、かなり骨が折れる。
と、思っていたのだが。
救助対象がすぐに見つかってしまった。
彼は周囲を警戒しながらどこかへ向かっているようだった。
その彼に、私は背後から声を掛ける。
??????
「クウェンサー」
クウェンサー=バーボタージュ
「っ!!」
手に持っているハンドアックスを構えたまま背後を振り返る。
衣服の所々には擦り傷や汚れが目立つが、大した怪我は負っているようには見えない。
だが彼は、酷く動揺したように私に近寄ってくる。
クウェンサー=バーボタージュ
「あ、明乃!どうしたんだ、その怪我!?」
心配してくれる声。
だけどそれ以上は近寄ろうとしない。
それはそうだろう。
頭から血を流し、今でも片目が開かないままの私に近寄ろうとするなんて、そうはないだろう。
でも。
それでも、私の身を案じてくれたのが、嬉しかった。
だから、私は自然と笑みをこぼした。
岬 明乃
「………少し転んで擦りむいただけだよ。心配するほどじゃない」
だけど実際に出た言葉と笑みは、意味が違っていた。
証拠に、彼はまだ言いたそうな表情をしているが、結局は口を閉ざしてしまった。
もうじきこのプラットフォームは崩落を始めるだろうから、聞く余裕がないのか。
それとも私自身の雰囲気が変わったことに戸惑っているのか。
どちらにせよ、私は彼の疑いの目を晴らそうと思った。
もう話す機会は、ないかもしれないから。
岬 明乃
「………私について疑問に思っているんじゃない?」
クウェンサー=バーボタージュ
「………」
岬 明乃
「そう思うのも無理はない、な。だけど、今は訳を説明している暇はない。ここから早く脱出するんだ」
クウェンサー=バーボタージュ
「だけど、美千留って子を探さないと!まだ見つからないんだ!」
彼の口から美千留の名前が出る、と言うことは。
一緒に行動していたが、途中ではぐれてしまったところだろう。
だけどその心配は杞憂だと、私は告げる。
岬 明乃
「美千留を探してくれていたのか。でも大丈夫だよ、ありがとう。彼女は私が助け出した。今は晴風で治療を受けてる」
クウェンサー=バーボタージュ
「先に脱出していたか………」
後半の部分はうまく聞き取れない声量で呟いたから、何を言っているのか理解できなかった。
疑問に感じるが、早くここから脱出する方が得策だと思い、声を上げる。
岬 明乃
「だから急いでここから脱出しよう。付いてきて………こちら明乃、クウェンサーを発見した。これより帰投する。ミラー副司令、誘導を」
耳元のインカムにミラー副司令に繋げる。
するとそこで、クウェンサーは私の肩に触れて、無線機に告げる。
クウェンサー=バーボタージュ
「あと、月光の居場所をリアルタイムで教えてくれ。あいつの足がある限り、俺達はあいつにストーキングされたままだ」
岬 明乃
「月光?………ああ、先程から彷徨いているカエルか」
クウェンサー=バーボタージュ
「間違っちゃいないけど、なんだか複雑だ………」
ミラー副司令
『まぁ否定は出来んが、了解した。今君が持っている端末に、データを送る。こちらが口で先導するより、目で追った方が早そうだからな。少し待て』
するとすぐに端末に地図が展開される。
………プラットフォームの頭上を覗く形で表示され、現在位置であると思われる光点が点滅している。
クウェンサーと私はその光点を観察していく。
クウェンサー=バーボタージュ
「この赤いのが暴走している”月光”なのか?数は、3体ほどか………」
岬 明乃
「一体一体の動きは不規則。ルートも然り。これじゃ、相手の動きを予測できない」
クウェンサー=バーボタージュ
「いや、これでいい。これでいいんだ明乃」
岬 明乃
「………?」
彼の言った言葉の意味が分からず、眉をひそめる。
クウェンサーは端末を手に持ったまま左右に振る。
クウェンサー=バーボタージュ
「ところで明乃、相談があるんだ」
岬 明乃
「断る」
クウェンサー=バーボタージュ
「まだ何も言ってないよ!?」
岬 明乃
「いや、な。なんだか嫌な予感がしたから先手を打った」
クウェンサー=バーボタージュ
「………これは危険な賭けになる。あの月光を倒さない限り、俺達は五体満足に晴風に戻れない」
岬 明乃
「危険な芽は摘んでおく、と言うこと?」
クウェンサー=バーボタージュ
「俺達の足の速さじゃ、あのカエルに追いつかれる。このプラットフォームだって、いつまでも崩落しない、なんて保証もない。ならいっその事、あいつらを倒しちまおう」
岬 明乃
「船で待っている皆に危害が及ぶのは、私としても見過ごせない。分かった、それで行こう。それで、相談というのは?」
クウェンサー=バーボタージュ
「――――」
そこでクウェンサーは私に近寄り、耳打ちをしてくる。
別に耳打ちの必要なんてないだろうが、それでも彼の話に引き込まれていく。
そして一通りの相談、と言うより作戦なのだが、それを聞いて一言。
岬 明乃
「私に死ねと?そう言うことか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「いやいや、そこまでは言ってない!危険ではあるが、それしかないんだ!」
岬 明乃
「………」
私は改めて、クウェンサーの身体の様子を観察する。
全身には所々に傷があって、出血箇所もそれなりにある。
決して軽傷ではないだろう。
これでは走り回るどころか、歩き回るのさえ厳しいはずだ。
さらに厳しい言い方をすれば、彼がこの作戦成功の基準にクリアするには足手まといだ。
岬 明乃
「確かに私の方が動き回れそうだ。分かった、その案でいこう」
クウェンサー=バーボタージュ
「………明乃、これは君を挽肉にするような作戦だが」
岬 明乃
「皆まで言わなくても分かっている、さ。これは危険な賭けだ、ここで奴らを倒さない限り、晴風に被害が及ぶ。晴風の皆を守るのは、私の勤めだから」
利き手に握りこぶしを作り、力を込める。
まるで決意を固めるかのように。
だけど私の決意とは裏腹に、クウェンサーは首を真横へ振った。
クウェンサー=バーボタージュ
「いいや、明乃。そいつは間違ってるよ」
岬 明乃
「なに?」
クウェンサー=バーボタージュ
「晴風には、俺の相棒の他に大勢の救助者がいるだろ?だから、皆を守るのは、明乃と俺ってことさ」
岬 明乃
「………!」
クウェンサー=バーボタージュ
「それに、さ。明乃だけには負担させないよ。この救出事態、俺が君に頼んだことでもあるんだ、なら一緒に乗り越えようじゃないか。だからよろしく」
岬 明乃
「………ああ、よろしく」
クウェンサーから差し出された手を、私も差し出す。
久しぶりに、誰かと握手したような気がした。
そう言えば、前にもこんな事があった気がする。
遠い昔、学校の入学式の時に、久しぶりに――――
そして互いに握手したところで、彼の言った内容の作戦を実行に移す――――
最初に先手を打ったのは、こちらの方だった。
プラットフォームの中枢であるこの司令塔が納められているエリア。
そのエリア内を、今でも彷徨い続けている”月光”がターゲットだ。
3体ともバラバラの場所を彷徨い、施設の破壊に勤しんでいる。
その影響か、違う場所から爆発音や何かが落下する音が頻繁に発生していた。
その中で、そのうちの1体を、足音や物音で月光に気付かれないように追跡する。
そして月光が立ち止まり、自前の火器で周囲の構造物の破壊に取りかかった。
奴はこちらに対して、完全に背を向けていて、私が何をしようとも気付かないだろう。
だからすかさず私は、火器の照準が別の方向を向いたところへ、月光の両足目がけて突き抜けていった。
岬 明乃
「………!!」
助走も兼ねて、円を描くように反時計回りで徐々に速度を上げていって、そして。
月光の右足に、鉄パイプを思いっきり突き刺した。
刺さった箇所から赤い液体が溢れ出る。
その一部が私に掛かるが、気にしているヒマはない。
が、その鉄パイプは深く刺さなかったのか、途中から抜けてしまった。
次に私がしたのは、クウェンサーから受け取った爆薬、ハンドアックスを奴の足につける事だ。
この時には既に月光は態勢を立て直したところだった。
だがもう遅い。
ハンドアックスを取り付けたら、懐から出した拳銃で奴の足を撃つ。
これはどちらかと言うと、撃破よりも牽制に近い。
低威力しか発揮できない拳銃では、分厚い皮膚に阻まれてしまう。
だがこれでいい。
さらにクウェンサーから受け取った無線機の周波数を、ハンドアックスの起爆信管用の周波数にセットする。
そして電源ボタンを押すと。
バズンッ
くぐもった爆発音が奴の足下で炸裂する。
起爆したハンドアックスの爆風により、奴の両足が一部、肉が抉れていた。
――――人ではないにしても、生物の足を爆弾などで傷付けてしまった事に対して罪悪感を抱く。
が、いつまでもここでじっとしては居られない。
目の前の月光が立ち往生している間に、次の月光へと向かう。
岬 明乃
「………あれか」
コンテナの裏に隠れながら、周囲を索敵している月光を発見する。
先程の爆発を聞きつけたからか、今度は警戒しながら歩行していると来た。
さて、どうやってあの月光の足を傷付けようか………。
だがここで、私は大きなミスを犯してしまった。
意識を月光に集中しすぎていて、足下の鉄パイプに気付かなかった。
ガツンッ
だから足でつまずいて音を出してしまったのは、誤算であり、チャンスであった。
私は蹴飛ばした鉄パイプを手に持ち、駆け出して、一気に月光との距離を詰める。
今度もまた、鉄パイプを奴の足に突き刺すために。
だが今度の月光は、違った動きを見せた。
自前の銃器に頼らず、自身の足を使った攻撃をする。
足を真横へ振り回し、私の方へとやって来た。
だけど私は床にスライディングするようにすれすれに避ける。
そのまま勢いを殺さず立ち上がると、もう一本の足に鉄パイプを突き刺した。
今度は深く突き刺さったので、簡単に抜けることはないだろう。
岬 明乃
「………このまま離脱する。クウェンサーと合流しろとのことだが」
走りながらこの後の作戦内容について、もう一度確認する。
追ってこないところを見るに、奴は自身の足を治すために、メンテナンス施設へと向かうはずだ。
そこでクウェンサーが細工をすると言っていたが………。
クウェンサーとの合流ポイント間近までやって来た。
その時、近くで爆発音が炸裂した。
そして後から続く、連続した物が崩れ去る音。
岬 明乃
「!!クウェンサー!」
月光の攻撃によって、クウェンサーが負傷したのかと思い、急いで現場へと向かう。
が、現場へ到着した時、彼の心配は霧散していた。
クウェンサー=バーボタージュ
「あ、ああ、明乃か」
岬 明乃
「………何があった?」
クウェンサー=バーボタージュ
「いやぁ、そのー。起爆周波数が合ってなかったのか、勝手にハンドアックスが起爆しちゃって………」
苦笑するクウェンサーから視線を外し、惨状をもう一度だけ観察する。
最初に目に入ったのは、崩れたコンテナの山。
コンテナに黒字で”DD”と表記されたコンテナだが、どれも中身がばらけている上、変形してしまっている。
そしてその山の中に、下敷きになっていて身動きが取れない月光の姿があった。
動こうにも、崩れた山は簡単には動かず、僅かにしかずらせない。
自前の銃器も、コンテナが邪魔で取り出せずにいる。
岬 明乃
「何があった?」
クウェンサー=バーボタージュ
「………さぁ、この隙に月光の緊急停止ボタンを押そう!でないと、自分が推してるアイドルのケツを追っかけるオタクどもの様に血相変えて追っかけてくるぞー!」
岬 明乃
「答えろ。そして全国のアイドルファンに謝れ」
クウェンサー=バーボタージュ
「………ハンドアックスを小刻みに起爆させて、混乱する隙に脚にハンドアックス取り付けようとしたら、起爆ボタンを押す前に勝手に爆発したんだよ」
実際に彼の手に持っている起爆用のコントローラーを見つめる。
………軍の支給品が、そんな簡単に誤作動など起こすだろうか?
クウェンサー=バーボタージュ
「気になる疑問ではあるんだろうが、今は月光の無力化の方が先だ。ミラー副司令が送ってくれた情報の中に、緊急停止ボタンがあるはずだ。そいつを押そう」
岬 明乃
「タンクに細工を施したのか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「そっちは終わった………見てろよ明乃、これから楽しい化学の実験の時間だ!」
――――埋もれた月光の緊急停止ボタンを押して、無力化に成功すると、クウェンサーと一緒にある場所へと向かった。
それは、細長いタンクが密集した場所だった。
濃いグリーン色に統一されたタンクの傍に、私の不意打ちを食らって脚にダメージを負った2体の月光が接近してきた。
岬 明乃
「こんな近くに隠れて大丈夫か?月光は対人センサーを装備してると聞いたぞ」
クウェンサー=バーボタージュ
「今はダメージ修復を優先させてるから、警戒なんて怠ってるよ」
岬 明乃
「………そっちは煙たくないか?さっきからそちらに煙が行ってるんだが」
クウェンサー=バーボタージュ
「全く問題ない。まぁ、火事と言ってもすぐに消し止められるくらいのボヤだしなぁ」
今は私達がいるのは、それなりの高さがある建物の屋上。
そこから、私達は月光を見守るような形で居座っていた。
岬 明乃
「何が始まるんだ?」
クウェンサー=バーボタージュ
「まぁ、見る人によってはグロテスクに見えちゃうかも知れないね。エチケット袋いる?」
岬 明乃
「………いや、必要ない。まぁ、この目で奴らの最後を見守るよ」
クウェンサー=バーボタージュ
「君がさんざん傷付けられたから?」
岬 明乃
「私だけでなく、仲間を傷付けたんだ、簡単に許しはしないさ」
クウェンサー=バーボタージュ
「わーお、普段から大人しい明乃らしからぬ発言を聞けると来た。ま、色んな意味で今夜は絶対に安眠は出来そうにないな」
岬 明乃
「………それは月光に追い回される夢か?それとも私が豹変した夢か?」
クウェンサー=バーボタージュ
「さーてね、それは君の想像にお任せするよ。どっちみち、今日はまともに寝れそうにないんだからな。だったらせめて自分に及ぶ被害が軽微の方を見たいね」
岬 明乃
「それはどう言う意味だ?」
今度はクウェンサーが黙る番だった。
双眼鏡から目を離し、私の顔を見つめながら言う。
そこには、先程までにふざけた表情は一切なくなっていた。
代わりにあったのは、フランクな表情でなく、少し失望したかのような表情。
クウェンサー=バーボタージュ
「………自分の顔を見てみろよ。俺以外の人間に見せられないような表情してるぞ。それ、他の奴の前でしない方が良い」
岬 明乃
「なに?」
クウェンサー=バーボタージュ
「ま、これ以上は止めておくよ、後が怖そうだ………おっと、奴らがエサに食い付いたみたいだぞ」
岬 明乃
「………」
無理矢理、話を切り替えられてしまったため、これ以上は言えなかった。
人に見せられないような表情を、今、私はしている?
顔に触れてみるが、手には血が付くくらいしか分からなかった。
手持ちには鏡などとシャレた物は持っていないため、確認も出来ない。
………なんだか、このやり取り、前にもしたような気がする。
岬 明乃
「ま、連中を無力化した後で確認すれば良い。それで私の表情次第ではクウェンサー、お前に一杯付き合ってもらうぞ」
クウェンサー=バーボタージュ
「おっと、ここで俺を巻き込むのは止めるんだ。美少女の頼みは可能な限り聞きたいが、こればかりは寛容な精神を持ってる俺でも聞けないな」
岬 明乃
「正統王国では騎士道精神を重んじている勢力だと聞いたが?」
クウェンサー=バーボタージュ
「ここで古巣の慣習を持ち出すなよ………て言うか明乃、お前はまだ二十歳を超えてないだろ?艦長である君が法律破ってちゃ、乗員は呆れるぞ」
岬 明乃
「安心しろ、ノンアルコールだ。フランスじゃ、シャンパンが一般的か?ま、ブドウが入ってなければ何でも良い」
クウェンサー=バーボタージュ
「はぁ、一晩につき2千円までだからな」
岬 明乃
「はは、言ってみるものだな。本当に律儀に付き合ってくれるとはな」
クウェンサー=バーボタージュ
「えっ、何それ怖い」
ガコンッ
月光が脚を修復させるために、タンクの前に出てくる。
タンクからアームが伸びて、傷口にスプレーを吹きかけていく。
まるで、プラモデルに塗料を塗っていくような感覚で。
あのやり方で、傷口を修復していくのか?
すると、クウェンサーが説明を始める。
クウェンサー=バーボタージュ
「………連中の脚は、有蹄類の持つ胚性幹細胞を組み換えて、驚異的な動作を繰り出す代物だ。だから俺達はさんざん奴らに追い回されてきた」
岬 明乃
「あれは、確かに驚異的な運動性能だな。二脚ロボットも目じゃないくらいに、な」
クウェンサー=バーボタージュ
「だけど元を正せば、動物の遺伝子を使っているに過ぎないんだ。だから当然、鉄パイプが刺されば傷を負うし、血だって出る。生物の根本的な生体反応は何も変わらないんだ」
岬 明乃
「傷を治すために、ここまでやって来るのも、な」
クウェンサー=バーボタージュ
「そんな生体部品を使って制御しているのは、所詮はAIなんだ。両脚に抱えたダメージと自身に与えられた任務と比較するんだ。”可動範囲が損なわれることなく、標的を沈黙させられるか”ってな」
岬 明乃
「標的を沈黙させるのが奴の任務なら、優先事項はそっちじゃないのか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「それじゃ減点だ。俺はこうも言ったはずだぞ。可動範囲が損なわれることなく、標的を沈黙させられるか」
岬 明乃
「………なるほど」
クウェンサー=バーボタージュ
「なら奴らが先に達成しなければならないのは、自身に抱えた問題である両脚のダメージをどうやって可動範囲が損なわれることがない、と言う基準値まで下げることなんだ」
岬 明乃
「だから私に両脚にダメージを与えろと言ったのか」
クウェンサー=バーボタージュ
「そして奴らは思惑通り、例のタンクに修復するためにやって来てくれた。なら後はこっちのものだ」
ちょうど、下のタンクのアームが収納され、修復を終えた月光が動き出そうとしていた。
隣にいるクウェンサーは、そんなのもお構いなしに、立ち上がる。
岬 明乃
「クウェンサー?」
クウェンサー=バーボタージュ
「立てよ明乃。胸張ろうぜ、今この瞬間から、俺達の勝利の宴が始まるってな」
岬 明乃
「はぁ、一緒に映画鑑賞しようと言えないのか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「ポップコーンとコーラの料金が発生しない分、許してくれよ。その代わり、最高のショーをお見せしますよ」
岬 明乃
「そこは俺が出してやる、くらい言えないわけ?」
月光がセンサーを用いて、周囲を索敵する。
クウェンサー=バーボタージュ
「いや、ごめん。それは無理だ」
岬 明乃
「素直か」
索敵が終わったのか、こちらの存在に気付いて2体とも、こちらの方に機体を向ける。
そして両脚を屈めて、姿勢を低くする。
まるで、ジャンプする前の体勢を整えるように。
クウェンサー=バーボタージュ
「修理が終わって、自身の問題はクリアした。なら、次にあいつらが何をするかは分かるよな?」
岬 明乃
「私達の排除。そして、引き続きプラットフォームの破壊活動の再開」
クウェンサー=バーボタージュ
「そして、あいつらが今やろうとしているのは?」
岬 明乃
「………多分だが、一気にこちらに跳躍して、押し潰そうとしているのか。手持ちの重火器に頼らないのは、恐らく周囲の火災に赤外線センサーが反応していて狙いが定められないから」
クウェンサー=バーボタージュ
「今は目視確認ってところか。やれやれ、奴らはいくつ目を持っているんだ?」
岬 明乃
「全て潰されて戦線離脱を余儀なくされるよりかは、幾分マシだと思うぞ。今回は、私達の敵として現れたけど」
クウェンサー=バーボタージュ
「味方ならその分、心強いんだが、敵として現れるのはこれっきりにしてほしいよ」
岬 明乃
「それは同感」
脚力による跳躍の準備が整えて、今にもこちらに飛び出てくる月光。
そして次の瞬間。
クウェンサー=バーボタージュ
「歯を食いしばれよ。かなり痛むと思うぞ。まぁ、奴らに神経なんて概念があるのは分からないが、見てるこっちが精神的ダメージを負いそうだな」
岬 明乃
「………今更なんだが、これって人生の中で最もトラウマになりそうな光景にならない?」
クウェンサー=バーボタージュ
「言ってやるなよ。あいつらだって機械だが、AIは人間に近いんだ。そんな身体を張った芸を見せてくれるんだ、せめて観客である俺達が見守らないと、芸が終わった後、体育座りする羽目になるだろうし」
岬 明乃
「その両脚も、もうそろそろボロボロになるんだけどな」
バギャッ、ズドン
2体の月光の両脚、正確には膝の部分が崩れ、その巨体が転倒したのだ。
両脚の内部を支えているフレームが飛び出て、解剖骨折に近い状態となったのだ。
自重を支えられ切れずに月光は、近くのタンクに寄り掛かるように、地面に着く。
クウェンサー=バーボタージュ
「うえぇ………やっぱりかなりグロかった。エチケット袋持ってない?」
岬 明乃
「さっき私に聞いたのに自分は持ってないのか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「戦場で基本、吐くなんて事態にならないからなぁ。ヘイヴィア………は今いないんだった」
岬 明乃
「手持ちにはない。ならその辺で吐いてきたら?下は海だし」
クウェンサー=バーボタージュ
「現役女子高生とは思えない発言に、クウェンサーさんは超ビックリ」
岬 明乃
「その女子高生にグロテスクシーンを見せておいて仕掛けた本人が仕掛ける本人に頼られる方がよっぽどビックリだよ」
クウェンサー=バーボタージュ
「あっ、なんか話してたら落ち着いてきた」
岬 明乃
「バカな事やってないで早くこの場から離れよう。月光を無力化したとは言え、まだ安心できない」
そうこう言いながら、私達は梯子や階段を使って下層へ降りていく。
行動不能となった月光から少しでも距離を置くためだ。
そして、晴風へと帰還するために、だ。
岬 明乃
「結局、どうして月光の両脚はあんな風になったんだ?」
クウェンサー=バーボタージュ
「それは修理した際に使うタンクの中身にある物質を混入して――――」
ザー、ザー
そんな中、クウェンサーの胸ポケットにある無線機からノイズが入る。
私自身が持ってる通信機からも鳴っている。
クウェンサーは疑うことなく、それに応じる。
クウェンサー=バーボタージュ
「こちらクウェンサー。暴走した月光の無力化に成功した。これより帰還する。明乃も無事だ」
岬 明乃
「ミラー副司令。晴風の現在位置を知りたい。そこで合流する」
??????
『――――こちら、ヒューイだ。合流する前に君達にある依頼をしたい』
ノイズが聞こえた後、ヒューイと名乗る男からそう告げられる。
依頼だって?
すると隣のクウェンサーの表情が次第に曇っていく。
クウェンサー=バーボタージュ
「ヒューイさん、その話は――――」
ヒューイ
『た、頼むよ!月光の近くには、君達しかいないんだ!原因を突き止めるためには、月光に収められているAIと履歴が必要なんだ。それに、そんなに難しい作業じゃないから、時間だって掛からない!」
クウェンサーが言い切る前に、彼の悲鳴に似た叫びが無線から響く。
相手が必死になって原因の調査を優先してきている。
こちらとはクウェンサーが言ったとおり、すぐにでも脱出したいのが本音だ。
だが今回の一件は、ただの暴走ではないのも分かっている。
原因を探りたいのも本音だ。
岬 明乃
「分かった、その依頼を引き受けよう。具体的にはどうすればいい?」
クウェンサー=バーボタージュ
「彼の話に乗るのか?」
岬 明乃
「今後ともこんな暴走がないとも限らない。それにクウェンサー自身も言ったはずだ。危険な芽は摘んでおくべきだと」
クウェンサー=バーボタージュ
「分かったよ、お嬢様の望むままに」
ヒューイ
『あ、ありがとう!感謝するよ!それで、方法なんだけど、まずは月光に――――』
それから彼から月光から情報を引き出す方法を聞き出した。
データの引き出しはクウェンサーが担当し、私は彼の警護を行うことになった。
もう危険分子はないだろうが、念のために警戒する。
撃破した月光に近付くと、クウェンサーは月光の側板を外す。
岬 明乃
「どれくらいで終わる?」
クウェンサー=バーボタージュ
「すぐに終わるさ。コネクタを接続して、IDとパスコードを入力して………」
ぶつぶつと話しながら作業し始めたため、彼の領分の入ったのと見なし、私は警護に集中する。
………崩れた建物の間から、地平線まで伸びる海が覗いていた。
私の視線は、そこに釘付けとなっている。
今は片目でしか見れない景色だけど、それでもどこか心は落ち着いていた。
波の立つ音が聞こえ、海風が吹いて。
その風に乗るように、潮の香りがして。
全てが、この前の前にあるモノ全てが世界なんだと実感できる。
それをどこか懐かしさを感じながら、風で飛ばされそうになる艦長帽を手で抑える。
だがずっと眺めているわけにもいかず、視線を戻そうとしたその時だった。
―――――――――
………?
今、何か聞こえたような気がした。
耳で聞いた、と言うよりも頭の中に直接、響いた、と表現した方が適正だろう。
岬 明乃
「誰か、誰か居るのか?」
もしかしたら逃げ遅れた人が居て、助けを求めている人の声なのかもしれない。
そう思い、周囲の捜索を行った。
だけどどれほど探しても、逃げ遅れた人なんていなかった。
………なら先程の声は、きっと空耳なのだろう。
と、結論付けた途端、それはまた聞こえた。
――ン―――ン
今度はハッキリと聞こえ、いや、頭の中に響いた!
ならこれは聞き間違いではなく、本当に聞こえたモノだった。
周囲を再び見渡してみる。
でも声は、外から聞こえてきた。
その方角へ視線を移すと――――
岬 明乃
「海、か。そこに、誰かが私を呼んでいる?」
私は海が見える場所まで移動する。
まるで、誰かに導かれるように。
一歩一歩踏み出す度に、得体の知れない何かに引き寄せられる感覚が渦巻き始める。
だけど、その何かを放っておけなくて。
助けを求められている風にも聞こえる。
相手の感情が、こちらにも流れてくるように、やがて私はその感情の波に呑まれる。
これは………悲しみ?
岬 明乃
「………!?」
すると、目の前の綺麗な海の景色から一変する。
そこは、どこかの町だった。
周囲は火の海とかしていて、視界が歪な形のまま、世界を埋め尽くしていた。
このプラットフォームにやって来てから何度も見ているはずなのに、桁違いの惨状を見せられている気分に駆られる。
どこからか、人の悲鳴が聞こえる。
そして鼻に劈くこの嫌な臭いは………人が焼け死んだ時の臭いにとても似ていた。
何度も嗅いだ、この悪臭は………!
岬 明乃
「うっ!?」
吐きそうになった私は、海に向かって吐き出そうとするが、更なる変化に襲われた。
今度は、どこかの甲板の上に立っていた。
周りは海と、多数の軍艦が陣形を組んでいる。
背後を振り返ると、巨大な三連装主砲がこちらに睨みを利かせている。
岬 明乃
「これって、戦艦大和?」
だけど戦艦大和も、次の瞬きした後は、火に包まれていた。
あの巨大な三連装主砲を持つ大和が、ブルーマーメイドの象徴である大和が巨大な炎に包まれながら、やがて傾斜角が大きくなり、次第には――――
岬 明乃
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!」
クウェンサー=バーボタージュ
「明乃!!」
ガシッ
私が海に落ちそうになった時、誰かによって手を掴まれた。
それがクウェンサーだと、すぐに気付けた。
同時に、今私はプラットフォームから海へと落ちそうになったのも。
岬 明乃
「く、クウェンサー」
クウェンサー=バーボタージュ
「待ってろ明乃、すぐに引き上げる」
彼は何とか力を振り絞って私を引き上げてくれた。
片手が甲板に掴まれると、自力で甲板へと上がる。
同時に、ここは先程の情景とは違い、元の景色へと戻っていた。
私は地面に倒れて、荒い呼吸を繰り返しているクウェンサーに近寄った。
岬 明乃
「ありがとうクウェンサー。助けられるのは、これで2度目か」
クウェンサー=バーボタージュ
「あのさ、君は自殺願望でもあるの!?図書館から逃げた時と言い、この甲板と言い、少しはこっちの身も考えてくれ!!」
岬 明乃
「す、すまない。だが、皆を置いて私だけ先に逝くなんて許されないさ………妙な情景が見えたんだ」
クウェンサー=バーボタージュ
「妙な情景?」
岬 明乃
「………どこか見覚えのある町だった。だけど次の瞬間には火の海になっててっ」
クウェンサー=バーボタージュ
「甲板から落ちそうになったのは?」
岬 明乃
「別の情景も見たんだ。その時は戦艦大和の主砲の前に立っていた」
クウェンサー=バーボタージュ
「今度は島国最大の戦艦か………でもその戦艦って」
岬 明乃
「ああ、この世界では轟沈している。空からの攻撃で、な」
クウェンサー=バーボタージュ
「………」
岬 明乃
「大和が火に飲み込まれて、傾斜角がどんどん上がっていって、それでさ」
クウェンサー=バーボタージュ
「そう、か」
クウェンサーが思考の波に入ってしまう前に、この場から離れるとしよう。
念のために確認しておく。
岬 明乃
「こんな話より、そちらの作業はどうだ?済んだのか?」
クウェンサー=バーボタージュ
「ああ、容量がそれなりに多いから時間が掛かったが、回収済みだ。こちらクウェンサー、応答せ――――」
クウェンサーが無線機で連絡しようとした時に、それはやってきた。
ザバンッ
海中から何かを取り出すように、いや、何かが飛び出したような音に気付いたのは、奇跡だった。
次の瞬間には私はクウェンサーを突き飛ばしていた。
岬 明乃
「っ!!危ないクウェンサー!!」
クウェンサー=バーボタージュ
「っ!?」
突き飛ばしたクウェンサーが居たところに、高速で何かが突き抜ける。
あのまま立っていたら、彼が危なかった。
そして派手な音を出しながら、その何かはコンテナへ突っ込んでいく。
今の内に、呆気に取られたクウェンサーの元に近寄った。
岬 明乃
「クウェンサー、無事か!?」
クウェンサー=バーボタージュ
「あ、ああ!今のは一体何だ!?」
岬 明乃
「分からない。海から飛び出してきたようだ」
クウェンサー=バーボタージュ
「おいおい、まさか月光が海から飛び出してきたってのか!?」
岬 明乃
「………いや、月光じゃないみたいだぞ」
崩れたコンテナの山が、不気味な音を出しながら蠢いていた。
私達は、その山から何が出てくるのかを出来るだけ考えないようにした。
それを考えてしまったら、発狂しかねないからだ。
同じ考えを持っていたのか、隣のクウェンサーも一言も喋らないまま、成り行きを見守っていた。
そして、コンテナの山が吹っ飛ばされ、バウンドしながら散っていく。
そこに居たのは、真っ黒な鯨のような巨体と、緑色の目をした怪物がこちらを睨み付けていた。