こちら深夜のぐだ邪ンになります

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26時のエンカウント

声にならない声が、聞こえた気がした。

沈黙が支配するこの時間帯に出歩く存在はそう多くない。もっとも私の様に、この時間帯を好むサーヴァントも居るので、時々出くわす事もあった。だから、私以外の存在と会う事に驚いている訳じゃない。

そこに居たのがサーヴァントでもなんでもない、普通の人間だったからだ。

こんな時間まで起きてるなんで彼にしては珍しい。……ちょうど1人で暇してたところだし、ちょっと付き合って貰おうじゃない。

そう思って近付いたところで。

 

彼の頬が、濡れていることに気づいてしまった。

 

戸惑い立ち止まってしまった私に気づいた彼は、誰かに会うとは思っていなかった様だった。

 

「あ。……ジャンヌか。……こんばんは」

 

「……酷い顔してるわね。悪い夢でも見たの?」

 

「そういう訳じゃないんだけどね…まぁそんなようなものかな…」

 

彼はバツが悪そうに、小さく笑いながらそう言った。いつものムカつくヘラヘラした笑顔とは違う、自虐的な笑顔で腹が立つ。……

こういうのはあのデミ・サーヴァントの役割であって私の役割じゃない。私の役割じゃないが、このまま放って置いては私のマスターとしての役割を果たせないかもしれないので、仕方ない。彼の座る廊下に置かれた長椅子の反対側の端に座る。

 

「……こんな時に限って会うなんてね。……それで?」

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ……私が話を聞いてあげるって言ってるの」

 

「……ジャンヌ……」

 

「か、勘違いしないで貰えますか? 私はただ仮にも私のマスターを名乗る以上しっかりしてもらわないと困るだけなので!」

 

「それでも助かるよ。……ありがとう」

 

つい言い訳がましくなってしまった私に、彼はさっきよりはマシな……それでもいつもよりは全然力の無い笑顔を向けた。

 

「別に礼なんていいわよ。……それで?なんでマスター様ともあろう者がこんな時間までほっつき歩いてるワケ?」

 

「うーんと……笑わない?」

 

「今の貴方の酷い顔より面白ければ笑うかもしれないわね」

 

「そっか。それなら大丈夫だね」

 

そう言って彼は話し始めた。

 

「時々さ、考えちゃう時があるんだよね」

 

「もし生き残ったのが、マスターになったのが俺みたいな未熟者じゃなく、もっとちゃんとした魔術の素養がある人だったら」

 

「ジャンヌやマシュや、みんなにかける負担はもっと少なかったんじゃないか」

 

「もっと被害を少なくできたんじゃないか」

 

「もっとみんなにとって良い方向に進んだんじゃないか」

 

「そういう様な事を」

 

私は、それを聞いて何も言えなかった。こいつはいつだって、どんな逆境の中でだってムカつく笑いを崩さなかった。どんどん他人に踏み込んで来て、こっちがどんな対応をしたって踏み込んで来るのを止めなかった。

そんなこいつが、1人で抱え込んでいるなんて、思ってもみなかった。

 

「笑っちゃうよね。世界を救おうとするたった1人のマスターがこんなのなんて」

 

「ふざけないで!」

 

私は思わず彼の方に向き直り怒鳴ってしまった。こいつは何にも分かってない。

 

「散々他人に踏み込んでおいて、自分の事は自分だけで抱え込むワケ? ……そんなことさせないわ!」

 

「そもそもアンタ、何も分かってないみたいね?」

 

「え……?」

 

「たった1人の替えの聞かないマスターなんて存在になって、世界を救おうとなんてしたら、どんな魔術師だって相応に苦心するに決まってるじゃない」

 

「それに結果としてここまで生き抜いて来たのは事実でしょ? なら誇りなさい、ifなんて考えたところで無駄よ。そんなこと考えてる暇があったら、今自分が出来ることでも考えてた方が有意義よ」

 

 

「……それは、そうだけど……」

 

「あぁもう! 分かったわよ一回しか言わないからよく聞きなさい?!」

 

 

「アンタみたいな普通の人間がいつだって笑ってるから私達は助かってるの!」

 

「それから!」

 

「私はアンタが召喚したから応じたの! 他でもないアンタが!」

 

 

「分かった?!」

 

私が捲したてると、彼は少し驚いた顔をした後、小さく笑いながら言った。

 

「うん。……ありがとう、ジャンヌ」

 

またこのムカつく笑顔だ。……最近、この笑顔をされると、何故か顔が熱くなる。ダメだ、さっさとこの場を切り上げよう。

 

「ほら、もう話は終わったでしょ! さっさと部屋で休んで次のレイシフトに備えなさい!」

 

「俺もそうしたいんだけど、あんまり眠れそうにないし……もう少しだけジャンヌと話をしていたいんだけど、ダメかな?」

 

「ッ……! ま、まぁ、少しだけならしてあげないこともないわよ……」

 

こうして、夜は更けていった。

『もう少しだけジャンヌと話をしていたい』と言われた時に、ほんの少し、本当に何かの間違いだと思いたいけど、嬉しいと思ってしまったのは、絶対に秘密だ。

 

 

「今回もおつかれさま、ジャンヌ。助かったよ」

 

「全く、この程度の相手に私の手を煩わせないで欲しいですね……」

 

「先輩、ジャンヌさん、お疲れ様です!」

 

「マシュもおつかれさま、サポートありがとう」

 

「いえ!……ところで最近、何かありましたか?なんだか以前より少しだけ元気になったような……」

 

「そうかな?」

 

「はい、そんな気がします。……ところで、あの、なんでジャンヌさんが得意げな顔をしているんですか?」

 

「べっつに〜?」


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