産まれた時以来あった事が無い母にあいにいくお話。
「…久しい、とでも言えばいいのか麗しきアタランテ――――――いや母よ。」
「パルテノパイオス…。何故そなたが…。」
愚かなる我が母は子供でも分かる問いを俺に問いかける。
本当にわからないのか?
それともわからないのか?
そもそもわかろうとしていないのか?
まあ、どうでもいい。
「互いにサーヴァントとして遇ったのだ。
是は戦争だ。此処は戦場だ。最早殺し合い以外あるまい。」
「…それは出来ない。
戦わないという選択肢もあるのではないかっ!?」
そうか、俺が殺せないのか? 今更だ。
だが俺にはできるぞ。
母の肩口を抉る様に射当てた。麗しの名に恥じぬ鮮やかな鮮血が舞い上がる。
「私はそなたの事を忘れた事は無かった。 そなたは私を恨んでいるのか?」
恨んでいるのか、だと?
ふざけるのも大概にしてほしいものだ。
「俺はこの世に生まれ出でて一度たりとも汝の事を忘れた事は無かった。
最初は汝に飢え、そして汝に願い、最後には汝を恨んでいた。
故に、これよりその首を落とそうと思う。」
「だろうな、――構わない。そなたにはその権利がある。
だが、私にも果たすべき目的があるのだ。戦いの申し出を受け入れよう。」
……今、何と言ったのか、この女は。
俺を見つける事以外に願いがあったというのか、求めるべきものがあるというのかっ!?
「狩人アタランテ、汝の望みを言え。」
「…子供たちが幸せに笑える世界を作る事だ。」
………はっ。
思わず怒りで意識が飛びそうだった。
俺を棄て笑顔を奪った張本人が、よりによって子供たちに笑顔を齎すために殺し合いに参加するだと?
俺がどれだけ母を待っていたと思っているっ!?
俺がどれだけ母に会いたかったと思っているっ!?
あの時の俺はそれが叶うだけで幸せな子供になれたはずだったのに。
何故、何故今更その願いを語る。
「俺一人幸せにできなかった貴様が何を騙るっ!!」
俺の矢は、再び母の肩口を貫いた。
先程とは反対の側だ。弓を持てぬ体にして嬲り殺してやる。
「汝の矢は独学か?」
今矢を受けた方の肩口を抑えた母が問う。
「俺に矢を教えてくれた者はいなかった。
俺を導いてくれたのは俺以外にいなかった。」
「そうか、成程筋は良い。
だが、その腕を磨く場には恵まれなかったようだな、少々粗さが見える。」
俺は無言で母の足に矢を射放った。
それは、母が肩の痛みに耐えて放った矢に相殺されて地に落ちた。
その事から察するに、先程までの俺の矢は敢えて受けていたのか。
つくづくコケにしてくれる。
俺と母は互いに矢を放ち合い続ける。
そこに言葉は無く、ただ殺し合いの応酬があるだけだった。
俺の矢は母には届かず、母の矢は時折俺を刺し貫いていく。
ああ、何とも楽しい。
これ程までに楽しかったことは生きている内に一度も無かった。
こんなにも幸せな事は初めてだ。
死を孕む嵐の中にいて尚何も怖い事は無い。
俺はその幸福に浮かれていた。
故に、―――――――――致命傷となる一矢を受けてしまった。
身体が薄く消えていくのが理解できる。
身体を構成する霊子の結合力が最早無くなって来たのだ。
「パルテノパイオス。」
皮肉にもほどがある光景が目の前にある。
俺は母に膝枕をされていた。
子供の時に飢えた温もりが、死んだ後になって殺し合いの末に手に入るとは、よほど俺は神に嫌われているらしい。
俺は掠れてしまい、出ているのが不思議な程度でしかない声で母に伝える。
「母よ、何故俺を棄てたかは最早問わぬ。
その謝罪を聞く気にもなれぬ。だがな――」
「…何だ、パルテノパイオス。」
今、まさにこの光景を以って、母に逢えて抱きしめられた瞬間を以って
「俺の願いは――――――――」
此処に叶った。