「もののがたり」の付喪神をぶちこんでみた。

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ぶちこんでみた、と書いてますがそのままではありません。色々と改変していたり、付喪神を強化してたり、設定も変えていたり、とにかく思ってたのと違うかもしれません。

出来る限り原作を知らない人でも分かるようしているつもりです。後書きに用語の解説も。




 

『幻想郷』

 

 それは、妖怪と人間が共存する世界。しかし、この世界は外部から存在を確認することはない。同様に内部からも外部の様子を確認することはできず、幻想郷から外に出ることもできない。言ってしまえば隔離された世界だ。

 

 だが、幻想郷には外の世界で忘れ去られた、いわば『幻想になった』ものが流れ着くことがある。それは外の世界で絶滅危惧種や認知されなくなったものが、ここ幻想郷で生息していたりする。

 

 しかし、それは生き物だけに留まらない。『道具や物』も流れ着く。それは、人が使わなくなって廃棄された物から、時代の流れについていけなかった道具、もしくは、旧型の物まで。それは、幅広くある。無論、それ全てが流れ着く訳では無い。もし、そうであれば今ごろ幻想郷は物で溢れ返っているだろう。

 

 だが、その中でも流れ着いた物は人が使い古した、古くから使われていた物が多いとされる。

 

 ところで。

 

 古くから使われた物などに、魂が宿る(・・・・)......と、聞いたことは無いだろうか? その魂が宿った状態を『付喪神(つくもがみ)』と呼ぶ。

 

 そもそも『付喪神』とは、長い年月を経た道具などに神や精霊、または霊魂などが宿ったものである。これには様々な伝承や書記が残されており、一般的には道具などに宿ることが多いが、ある説には百年生きた狐狸などが変化したものを『付喪神』と称することもあるが、やはり昔から多いのは道具ほうだろう。

 

 ──つまり。幻想郷には多くの『付喪神』に成り得る物がある、ということだ。

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 その日、霊夢は人里を目指して飛んでいた。何でも、行動が明らかに怪しい妖怪が人里周辺でウロウロしている、と言う目撃証言があったからだ。

 

「はぁ......ちょっした妖怪程度で騒ぐ必要もないでしょうに」

 

「いやぁ、それが中々面白そうなことでしてね」

 

 飛びながら額に手を当て煩わしそうに首を横に振る霊夢と、その横で黒い翼を羽ばたかせ、ニコニコと楽しそうに飛ぶ文の姿があった。

 

「霊夢さん、何でも妖怪じゃなさそうなんですよ」

 

 その文の言葉に「はぁ?」と答える霊夢。その反応を待っていたのか、台本を読むように説明する文。その姿はどこか得意げだ。

 

「人と同じ姿をしてはいるんですが、片腕が大きな(はさみ)のような形をしているそうなんですよ。そんな姿をしていてのに妖怪じゃなかった、とあの慧音さんは言うもんだから、これは何かあるな、と」

 

「......て、事は一番最初に見たのは慧音なの?」

 

 色々と無視されたが、そんな霊夢の質問も待ってました、と言わんばかりのニヤけ面をする文に思わず霊夢はお祓い棒を持つ手に力が入る。

 

「いえいえ、近くで野菜を収穫しようとした村民が茂みから、じっとこちらを見ているのが最初の発見らしいです」

 

 と、いつもの手帳を見ながら説明する文に霊夢は心の中で「まぎわらしい言い方を」と口では舌打ちをしながら思った。しかし、どうやら顔に出ていたらしく文がそこを指摘してきた。

 

「あれあれ? 何だがやる気を感じられませんねぇ? これも立派な仕事では?」

 

「アンタみたいなのが一緒だとやる気なんて起きないわよ」

 

「あちゃー、これは手厳しい」

 

 わざとらしく自分の額を叩き、大げさなリアクションをする文の反応にますますイラつきを見せる霊夢。その霊夢の反応すらも予想していたのか一向に態度を正さない文だった。

 

「じゃあ、一体なんなのよソイツ? どうせ人間でもないんでしょう?」

 

「何を言っているんですか、だから、そ・れ・を、調べるですよ」

 

 朝からウザイ上にやけにキラキラとした表情で言う文に霊夢は、ここで一つやり返しすことにした。

 

「......使えないわね、きめぇ丸(・・・・)

 

 ここで笑顔と少し楽し気に言うのがポイントだ。

 

「......んんっ? はてさて、この鴉天狗の耳には何も聞こえませんでしたが、霊夢さん、聞こえましたか?」

 

 なるほど、一度は聞き流すと言ってるのか。ならば、ハッキリと聞こえるように言おう。

 

「あら? 耳も悪いのね、きめぇ丸(・・・・)って」

 

「ごめんなさい! 久しぶりのスクープで調子乗ってましたぁ!」

 

「分かればいいのよ」

 

 何を隠そう、射命丸文はいつ誰が言ったか分からないが、このあだ名が嫌で仕方なかった。確かに先ほどの会話は少々ウザイな、と自覚があったものの気が付けば自分の口から出るわ出るわ。

 

 従来、お喋りな方ではあったが、こうして新聞記者なるものをしだしてから工夫を凝らしていく内に、人を舐めたような話し方をするようになってしまった。

 本人としては怪しまれないように、親しみを持ってもらえるように、といった試みがあるが全くの逆効果である。

 

「うぅ.....あ、着きましたね」

 

 意気消沈した文と共に人里の真ん中に降り立つ。その二人に気が付いた村人の一人が寺子屋へと走って行った。慧音を呼びに行ったのだろう。

 

「......何だか、やけに怯えてるわね」

 

 ふと、今の人里の様子を見て思う。よく顔を出すわけでは無いが、こう朝から賑わいを見せるはずの大通りがどうも静かだ。確かに客引きをするため声を出しているが、心なしか声が小さい。それに品物の数もいつもより少なく見える。

 

「それもそうですね。まあ、前からたまにある事でしたが、ただ、じっと見ていることなんてありませんでしたからね。初めてのことで怯えてるんでしょう」

 

「ふ~ん......」

 

 と、そんな時、慧音が深刻そうな表情で近づいてくる。

 

「すまないな、霊夢。わざわざ来てもらって......何故お前がいる」

 

 霊夢の隣にいる文を見て人の良い慧音でも、言わずにはいられない存在。ある意味で、幻想郷の嫌われた存在かもしれない。

 

「あはは......まあ、取材ですよ取材」

 

 愛想笑いをしながらペンを握る。今は記者としてここにいる。真実とは少し膨張させたことは書くことがあっても嘘や妄言は書かないと決めていた。

 

「全く、こんな時まで......少し節操というものをだな──」

 

「──ああ、はい。分かってます。ですが、ストップです」 

 

 これは、長くなると確信した文が言葉を遮る。それに、慧音はムッ、としたが今がそんな時では無いと思うと、説教をぐっと抑える。

 

 だが、文は慧音がいつものような活気が感じられないと思い、もしやと考える。

 

「......もしかして何かありました?」

 

 それが、まさに図星だったらしく慧音は少し顔を顰めた。自分が誤魔化したり、人を欺いたりするのが、下手だと自覚している慧音は観念したかのように息を吐いた。

 

「はあ......取り敢えず立ち話もなんだ、家で話そう。隠する必要ないしな」

 

 慧音は自分の家へと招くよう歩き出したが、文が先ほどの言葉をスルーするつもりもなく。

 

「ほうほう......あっ、別に今のはフクロウのモノマネをしたわけじゃありませんよ? それは、宴会のときだけです。それで、隠す必要がない(・・・・・・・)とは?」

 

 百も承知の事を言っては、場の空気を壊す。そして、好奇心まる出しで聞く文に流石の慧音も釘を刺す。

 

「お前、今回のことを面白おかしくしたら焼き鳥にしてやるからな」

 

 ギロリッ、と本当にやりかねないほどの圧力だったので今回の事は余り大きく取り上げないようにしようと誓った。それと同時に確信する。やはりビックニュースに違いないと。

 

「とにかく、さっさと詳しい話を聞いて対処しましょう......何だか嫌な予感(・・・・)がするわ」

 

 その霊夢の一言で動き出した。

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 それは、ほんのちょっとしたことだった。いつものように結界に綻びが無いか、何か幻想郷を脅かすものが無いか、まるで家の庭を眺めるように幻想郷を見ていた。そんな時だ。

 

 ──ふと、視界の端に見えた。

 

 なんの変わりの無い見慣れた場所。なのに違和感を感じる。その違和感の正体を確かめるためにいつもより少し念入りに調べてみた。

 

 

 ──そして、絶句した。

 

 

 何故、何故、奴等がいる? 何故、この地で、この愛しい幻想郷で奴等が闊歩(かっぽ)している?

 

 刻み込まれたトラウマが、頭の奥底に仕舞いこんだ記憶が、身体の芯が凍りづくことによって次々と異変となって自分に降りかかる。手を胸の前で交差させ肩を抱く。そうして、身体の震えを無理やり抑えつけた。

 

 違う、何を怯えている。昔ならいざ知らず、今の私なら片手を振るうだけで消し去ることができるはずだ。

 

 そして、あの日(・・・)、約束したはずだ。もう畏れない、と。

 

 では、何故、震えが止まらない?

 

 幻想郷を管理する紫は人知れず自分の世界の中で震える。そして、その震える手で首から下げた、所々解れたお世辞でもキレイとは言えないボロボロのお守りを胸の前で抱き締める。気休め程度にしかならないと分かっている。だが、これだけはちゃんと口にしなければならない。

 

 歯を砕かんばかりに噛みしめ、そして、口にした。

 

 

「──先生、どうかお許しください」

 

 

 その声は、とてもよく自分の世界に響いた。まるで心に言い聞かせるかのように響き、反響する。

 

 そうだ、いつまで震えていてはダメだ。

 

 怖さはある。

 

 約束を、契りとも言えるあの日の事を破る後ろめたさはある。

 

 だが、今の自分ではこの幻想郷を守ることは出来ない。どうにかする力はあるのに、それを扱う者が意味を成していない。さながら、今の自分は身の丈に合わない刀を持った子供と同等だ。持っている武器は強力だが、それを振るうことができない。

 

 改めて自分の弱さが憎たらしい。だから、あの人が最後の時、これを、この御守りを置いていったんだ。

 

 故に。

 

 先ほど、噛み締め過ぎたのか、口元から血が垂れる。だが、こんな姿を従者を見せるわけにはいかない。口元を拭って立ち上がる。そして、目の前に境界の入り口を開き、小さいな一軒家の茶の間に入る。

 

「紫様......?」

 

 両手で湯呑を持ち今まさに一仕事を終えて、一息ついたであろう式神の藍に、少し申し訳なく感じつつも主として命令を下す。

 

「藍、今すぐ守矢の二神と紅魔館の吸血鬼、それと、妖怪の山の......そうね、伝令に適した者を博麗神社に集めてちょうだい」

 

 紫の雰囲気から、何かしら感じ取ったのだろう。真剣な面影で了承した。

 

「御意」

 

 深く一礼したのち、すぐさま飛び出していく。あの様子なら三十分もしない内に集まるだろう。後は霊夢に何があっても動こないように言えばいい。目の前に境界を開き、博麗神社を訪れた。

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

「──これ以上、みんなを不安にさせないように周知させてないがな」

 

 と、慧音は不安混じりのため息を付く。

 

 どうやら、今まで手を出してなかった例の妖怪とも人間とも言えないヤツ(・・)が、自分たちが来ている間に人を襲ったようだ。急いで駆け付けた慧音が助け、目的を聞くと何も言わずそそくさと茂みの奥へと消えていったらしい。

 

「何だか妙ですねぇ......ふむふむ、これはなかなか」

 

 文の頭の中では一体どのような新聞構図が浮かんでいるのか分からないが、慧音は文から軽率な気配を感じ、ガンを飛ばす。

 それに、気がついた文は苦笑いをしつつ、手帳を懐にしまった。

 

 しかし、それよりも霊夢は気になることがあった。

 

「慧音、その、妖怪(・・)じゃないってのは、どういうことなの?」

 

 慧音自身、半分妖怪の血を引いている。俗に言う半妖と呼ばれる存在だ。だからなのか、妖怪などの気配に鋭い。その慧音が違うと断言しているのだ。

 

「......一度、文献で見たことがあった。今まで存在するなんて半信半疑だったが、あれを見て確信したよ」

 

 慧音のここで待っているように言うと、襖の奥へと消えて少ししてから、一つの巻物を手に戻ってきた。

 

 シュルルッ、と紙が擦れる音を立てて開かれた巻物には、人のようで人ではない。そんな矛盾を表した人を模した絵とその昔の文字で説明らしきものが書かれていた。

 

「これは、平安時代に書かれたものなんだ」

 

「ほぇー、これまた古き良き時代を」

 

 平安時代が古き良き時代だったかどうかは、さておき、慧音はこの書物のことを説明した。

 

「この文字の意味は、“人でも、ましてや(あやかし)でもない。『常世(とこよ)』から迷い混んだ『霊魂』が道具に宿ったモノ。それ、すなわち『マレビト』という”......つまり──」

 

 

「──『付喪神』ってことよね」

 

 

 霊夢の言葉にみんな頷く。だが、しかし、と。

 

「ですが、付喪神ってこんな凶悪そうでしたっけ? 正邪さんが起こした異変でも、こんなんじゃなかったですよね?」

 

 そう、あの異変があったときに自分達は付喪神を見ている。だが、こんな恐ろしい物では無かったはずだ。

 

「また、正邪が何かしたのかしら? でも、何かしっくり来ないのよねぇ」

 

 もし、仮にこれがまた『打出の小槌』の能力によるものなら。また良からぬ事を考えている正邪の仕業なら。

 色々とコレと関連のありそうな事を考えて当て嵌めてみても。

 

「うーん、何か違うのよねぇ......」

 

 腕を組んで唸る霊夢。その横で文か手帳と万年筆を持ちだし始めた文。

 

「根拠は?」

 

「......勘かな」

 

「よっ! 出ました! 『伝家の宝刀、博麗の──痛いッ!?」

 

 文の頭に霊夢の一撃が入ったことで一度、お茶を飲み場の空気を変える。

 

「ふぅ、やはり見てみないことには分からないわね」

 

 ここで考察していても、これでは埒が明かない。

 

「しかし、大丈夫なのか? 如何に霊夢とはいえ、今回ばかりは危険すぎるぞ」

 

 慧音はどうも情報が少なくどうみて危険すぎるこの案件に、慎重にならざる終えないと思っている。

 そこに霊夢は「よっこらしょっと」、と場にそぐわない声と共に立ち上った。

 

「大丈夫、大丈夫、問題ないわよ。いざとなったらコイツを囮にすればいいし」

 

 指差したのは横で呑気にお茶を啜っていた文だった。

 

「......え? 私も行くんですか?」

 

「はぁ? アンタさっき確認するって言ったじゃない」

 

「あややっ! そうはい言ましたが危険だとあの慧音さんがいってますし......私は吉報をお待ちするってことで──あの!? 霊夢さぁぁん!? 聞いてますぅ!?」

 

 が、そんなこと知ったことではない、と言うように文の首根っこを掴む霊夢。しかし、その道を塞ぐように現れた人物によってある意味、文は助かった。

 

「──ダメよ、霊夢。アレには勝てない」

 

 扇子閉じて、いつものように表情を隠したりしていない。それが、どういう意味をしているのか分からないほど、付き合いは短くない。

 

「......どういうこと、紫?」

 

「ちゃんと話すわ、とにかく一度神社に戻りなさいな。貴方たち全員ね」

 

 紫が動くと言うことはただ事ではない。もしかしたら、幻想郷を脅かすナニ(・・)か、と言うことだ。

 

「ま、待ってくれ! 里は大丈夫なのか!?」

 

 つまり、それほどの危険性を含んだものをここままにしておける訳がない。下手をすれば自分たちがいない間に襲われたりしたら、こんな里人たまりもないだろう。

 

「安心しなさい、ヤツなら遠くに行ったわよ。まだ生まれて間もないから、良く分かってないみたいね」

 

 それに、安心していいのか、分からないが一先ず当面の危機は去ったようだ。

 

「いいかしら、アレはそんなそこらの有象無象なんかと一緒にしてたら、命がいくつあっても足りないわよ」

 

 悔しそうに顔を歪める紫を初めて見る三人。いや、何時ものように自分を隠すことができないほど、状況が切迫詰まっているのだ。

 

「こんな所で油を売っている暇はないわ。急ぎましょう」

 

 思っていたより事態は深刻だと、ここでハッキリと分かったのだった。

 

 

 

 

 

 卍

 

 

 

 

 

 博麗神社は重たい空気に包まれていた。いつもなら境内で元気に騒いでいる妖精たちも近寄らないほどだ。

 ......そこにチルノなるものが突貫するべく、立ちはだかった大妖精とのアツい戦いが繰り広げられていたのは、妖精たちしか知らない。

 

 そんな事が起きていたのも知らず、博麗神社の中には異様な面子が揃っていた。

 

 守矢神社から二柱の八坂神奈子(やさかかなこ)洩矢諏訪子(もりやすわこ)。そして、守矢神社の風祝(かぜはふり)東風谷早苗(こちやさなえ)

 

 紅魔館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜(いざよいさくや)

 

 妖怪の山からは、白狼天狗の犬走椛(いぬばしりもみじ)

 

 この面子が揃うことは、宴会のときにしかない。寧ろ、この面子だけ(・・)で揃うことはもう無いだろう。それほど、異質な面子だけで揃えられた今回の会合。

 

「──に、しては呼び出した本人がいないってどういうことかしらね?」

 

 トントン、とちゃぶ台に頬杖を付きながら指先で面を叩くレミリア。これでも見た目に反して何百年も生きているが、やはり吸血鬼の中では幼いとの事だろう。

 まだ、数十分しか経っていないのにまだか、とイラつきを見せていた。

 

「まぁまぁ、レミリア様。紅茶が入りましから、一旦落ち着きましょう」

 

 従者の咲夜が微笑ましい笑みを浮かべながらレミリアを(たしな)めるように言う。その表情はまるで母親のようだ。

 

「そうね、ありがとう咲夜」

 

 姿勢を正し、咲夜の淹れた紅茶を優雅に飲むレミリア。その姿はとても様になっていた。

 

「皆さんも良かったらどうぞ」

 

「わぁ! ありがとうございます、咲夜さん!」

 

 早苗が待ってました、と言わんばかりに喜んでティーカップを受けとる。

 

「ほぉ......西洋のお茶は余り飲んだことが無いからな、どれ一杯貰おう」

 

 早苗に触発されたのか、神奈子が興味本意で受けとる。持ち方が湯飲みと同じなのは、仕方ないとも言える。

 

「神奈子が飲むんだったら、私も飲もうっと」

 

 それに続いて諏訪子も受けとった。

 

 そんな和気藹々(わきあいあい)となったお茶の間で一人、椛は、自分は場違いなのでは無いかとうすうす思い始めていた。

 

「椛さんもどうぞ」

 

「えっ!? あっ、いえ、その、お気遣いなく......」

 

 ビクッ、と肩を跳ね上がらせながらも、苦笑いを浮かべて両手を前に出す。

 

「そうですか......やはり、紅茶はお口に合わないのですね」

 

 チラッ。

 

「え、えっーと......」

 

「私がもっとお茶を上手く淹れられることができたら......はぁ」

 

 チラチラッ

 

「......分かりました、頂きます」

 

「はい、どうぞ」

 

 椛の断った時から終始、悲しそうにしていた咲夜が、さっきの顔は嘘だったかのように笑みを浮かべる。

 何となく悪気というか、悪意などは感じないため、変なものなどは入っていないと思うが......何故、そこまでして飲んで欲しいのだろうか。

 

 それは、咲夜の笑顔の裏に隠された真実。

 

(ちょうど良かったわ。賞味期限切れそうだったし......勿体無いしね)

 

 実のところ、森林の中に鎮座する紅魔館は湿気が多い。湿気が多いと紅茶の劣化が早まってしまう。いくら頻繁に飲むとはいえ、予備は多くストックしとくもの。つまり、在庫は余るほどある。

 

 なので、こういった所で古い物を使い消費しなければ、泣く泣く廃棄しなければいけない。料理にこだわりを持つようになってからは、それと同時に勿体無い精神もついてしまったようで、無理に捨てたくはない。

 

 無論、口の肥えているレミリアには古い物とバレているだろうが、そこはやはり咲夜。あえて(・・・)出したのだと、こんな所で上等な物を出す訳がない、と。

 心が狭いお嬢様ならきっと分かっているはず。そんな確信めいた考えがあってのことだ。

 

 そして、予想通り。みんなが美味しい、と言っているのを見てレミリアは鼻高々となる。

 紅茶の本当の味を知っているから優越感に満たされているのだろう。

 

 そんなレミリアを微笑ましく見る咲夜。抜け目ない。全員が和んだ所でピンッ、と張りつめた空気が戻ってくる。

 

 

「──皆様、お待たせいたしましたわ」

 

 

 こうして、集めた本人がついにやって来たのだ。

 

「アンタら人の家で何くつろいでんのよ......咲夜、私も紅茶を寄越しなさい」

 

「あっ、私もお願いします」

 

「お前、図々しい奴だな」

 

 霊夢は分かるが文はおかしい。慧音は半目で見る。しかし、文はこれが正しいかのように平然としていた。

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 だが、頼まれた咲夜の足取りは軽かった。咲夜が台所へ行ったのを見送って、文は自分の家であるかのよう茶の間に入る。そこで、見知った顔が縮こまっていたのが見えた。

 

「あやや? 何で椛がここに?」

 

 部屋の隅の方で場違いの雰囲気を醸し出していた紅葉に気がついた文。

 

「それはこっちのセリフですよ......」

 

 いつもなら立っているフサフサの尻尾が垂れ下がっている。そこで状況を理解した文は一先ず同僚に礼をした。

 

「ああ......なるほど、ごめんね椛」

 

 その言葉に笑顔を戻す。文が来たのなら自分がいる必要はない。こんな所から早く出たい、と腰を上げたときだ。文が「でも」と付け足す。

 

「もう来ちゃったわけだし、このまま付き合いって頂きますよ」

 

「文さん......」

 

 椛が文に裏切られた所で紫がピシャリ、と場を静める。傍らには藍がいる。

 

「皆様、お集まり頂いて誠に光栄ですわ......いえ、こんな事いってる場合ではないわ」

 

 全員の視線を集めるなか紫は何の躊躇いなく言い放った。

 

 

「──このままだと幻想郷は消滅(・・)する」

 

 

 まるで時が止まったかのように、音も動きも、息をすることすら忘れたかのように唖然呆然となった。

 

 パンッ!

 

 紫が扇子を強く閉じる音で全員我に返るや否や、どういうことなのか! 一斉に声を上げる一同を落ち着かせ理由を話す。

 

「落ち着きなさい、何も今すぐっていうわけじゃないわ。状況にもよるけど、そう遠くない未来で確定されているだけよ」

 

「いやいや!? そう遠くない未来って、すぐじゃないですかっ!?」

 

 文の言葉は正しい。長く生きる妖怪や神などにとっては、明日や明後日と同じぐらいの感覚なのだ。

 

「......何が起きてるんだ?」

 

 腕を組み、密かに物事の本質を見ようとしていた神奈子が威厳のある声でしかと紫に問い掛けた。紫はそれを真摯に受け止め、状況を語る。

 今、この場に置いて二柱の神ほど心強いものはいない。

 

「──『付喪神』。それも飛鳥時代からのモノがここ現れましたの」

 

 その紫の言葉に思わず神奈子は立ち上がった。

 

「バカなっ!? 奴らは平安の時を境に完全に返したはずだっ!!」

 

「いえ、事実よ。この目でしかと確認したわ」

 

 神奈子は思ってもいなかった単語に激しく動揺した。諏訪子に限っては、いつものおちゃらけた雰囲気がなりを潜め、神としてその事実を受け止めている。

 

 そんな二柱の様子に場は唖然とする。神、それも古来から存在している神をも動揺させる程の事態が今、この幻想郷に起きているのだと、改めてここに実感させた。

 

「......そうか。『塞神(さえのかみ)』の申し子(・・・・)であるお前が言うのだから、確かなのだろう」

 

 何故、ここまで二柱が反応したのは理由があった。しかし、それを説明している場合ではない。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! さっきから何の事を言ってるのよ!?」

 

 ちゃぶ台を叩き意識をこちらに向けさせるレミリア。事情も何も知らない者にとっては、意味のわからないことだらけだ。

 言うなれば、いきなり余命宣告を言われ、さらに理由も分からず放り出された気分だ。

 

 そこで、紫は扇子を開き口元を隠す。

 

「説明はするわ、たけど──」

 

 紫が外にへと繋がる障子を見据えたとき、今まで経験したことの無い感覚を感じた。殺気とは違う。品定めをされているような、まるで八百屋に置かれている野菜の新鮮具合を確かめるような。

 ねっとり、と絡み付く気持ち悪さで虫酸が走る。

 

 この視線が我慢ならなかったのだろう、レミリアが勢い良く飛び出した。

 

「誰だッ!!」

 

 それに、続いて他の者出てくる。曇天の空の下、茂みの暗闇から姿を現したのは、この世界では異質の存在。

 

 怪しげに揺らめく大きな鋏。服装は、その細身に釣り合わないだぼだぼで、無地の袖口が短いもの。みてくれで言うなら平安時代の百姓に近い。

 その鋏さえなければ、里にいそうな男だ。

 

 だが、その目が語っていた。明らかに人のする目をしていなかった。鳥居の真ん中辺りに立つと、口元を三日月に歪ませる。

 

「キャハッ! キャハハハハハッ!! コンナ、トコロガアッタトハ!! イイ!! イイゾ!!」

 

 不協和音のような声で笑う。その笑い声から分かるように節々から喜びを感じられた。

 

「ミロ! オレヲミロ!! イマココニタッテイル!! オレタチノカチダアァァァ!!!」

 

 大きく両手を広げ叫ぶ。耳障りな声で叫ぶ。だが、誰も止めようとはしない。黙らせようともしない。否、その異質な者の不気味さに呑まれ動く事が出来なかったのだ。

 

「キコエるか! コのこエが!! わレらのこえが!!」

 

 徐々にその声が鮮明になっていく。その見た目にあった声へと変わっていく。

 

「どうほうたちの産声が聞こえる! いたるところで聞こえる!!」

 

 確実に、正確に、目の前の男は、目の前のバケモノ(・・・・)進化している。この世界に適応している。

 

「貴様らは、何も出来やしない。奴等は消えた。我らを邪魔立てする『塞眼(さえのめ)』はいない!!」

 

 鋏が人の腕に変わる。人に見える、気弱な村人にしか見えない。それが、言葉を思い出させる。

 

 “人でも妖でもない”

 

「──楽しみに待っていろ」

 

 その日を境に幻想郷の平和が反転する。

 




まあ、壮大に何かが始まろうとしてますが、月に一話程度の更新スペースですので、期待する必要はないかと.....。



『常世と霊魂』

常世(とこよ)とは、現世ともあの世とも言えない世界。その常世にはびこるのが霊魂と呼ばれるもの。



『マレビト』

常世から霊魂が迷い出た者のこと。



『付喪神』

マレビトが古びた器物などに受肉した状態を馴染みある言葉で表したもの。



『塞眼』(さえのめ)

???



『塞神』(さえのかみ)

???



今のところ説明できるのはこのぐらいですかね。


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