ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

2 / 16
聖剣の鞘の偽物掴まされて召喚してみた

 それは、ゼロへと至る物語。

 

「―――告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄る辺に従い、この意この理に従うならば応えよ」

 

 切嗣は英霊召喚の為の呪文の詠唱と共に、全身の魔術刻印がフル稼働していくのを感じた。

 魔力と血液を循環させる心臓がこれ以上ないぐらいに脈打っているのがわかる。

 切嗣は魔法陣の中に置かれた触媒として置かれた聖剣の鞘を見やった。

 これこそはアインツベルンが用意した切り札の一つ。伝説に名前を響かせる円卓の騎士達―――彼らを束ねる騎士王の聖剣の鞘だ。

 これ程までの厚遇を受けて騎士王の召喚に失敗すれば、下手すれば聖杯戦争に参加する前にアインツベルンに粛清されかねない。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者」

 

 更に呪文を唱え続けた時、それは起こった。

 

 ビシリ。

 

 不吉なその音と共に、魔法陣の中に置かれた聖剣の鞘に罅が入った。そしてその罅割れはみるみる内に鞘全体に広がっていく。

 余りにも異常な出来事に呪文を唱え続ける切嗣の顔に亀裂が入る。

 究極の守りの筈の聖剣の鞘に罅が入るなど、絶対にありえないことだ。

 まさか、偽物だったのか?と言う思いが脳裏によぎるも、それ以上の不吉な何かが魔法陣から放たれる。

 

 不味い。何かが致命的にずれている。

 

 切嗣は本能で何か―――予期せぬイレギュラーが起こりかけているのを察した。無敵の聖剣の鞘が壊れるほどの致命的な何かが。

 だが、止められない。もはやここまで来たら呪文を止めるのは不可能だ。下手に止めれば魔力が暴走して儀式が失敗するどころか術者が死んでもおかしくはない。

 故に切嗣は呪文を唱え続ける。例え現れるのが悪魔でもいい。いかなる怪物が喚び出されようが、自分は全てを投げうってそいつを操り己の理想を貫き通すのだ。

 もっとも後で切嗣は、この召喚を強行した判断を文字通り死ぬほど後悔するのだが。

 

「汝三大の言霊をまとう七天。抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ―――!」

 

 その言葉と共に魔法陣から放たれる光が炸裂した。清浄な美しさに満ちていた青白く輝く光が一瞬にして反転して、極光を思わせるような黒い光に染まる。

 その黒い光に耐え切れなかったのか、とうとう聖剣の鞘が完全に砕けて塵になった。

 そして大きく広がった黒い光の中から光と同じく黒い人影が現れた。

 

「これはこれは……。キミが私のマスターか?」

 

 黒い極光の中から誰何の声が放たれる。

 低く重い男の声だが、男にしては妙な色気のある―――そして凄まじい圧を纏った声だった。

 だが、その重々しい声に反して調子はどこか軽い。声の持ち主としては道を聞くような気軽さで放った言葉なのだろう。

 仮にも自分のマスターに対する言葉ではない。故に、だからこそ、この声の持ち主は自分のマスターなどどうでもいいのだと思わせる何かがあった。

 

「―――そうだ。僕が君のマスターだ」

 

 だからこそ切嗣はあえて胸を張り、その言葉に応じた。もし生温い反応を返せば自分はこの相手を使役するのではなく、使役される側になると理解したからだ。

 返答に込められたその切嗣の意思に気がついたのか、彼はクスクスと笑った。

 そして未だ黒い光が荒れ狂う魔法陣の中から、彼はゆっくりと一歩を踏み出す。その足がかつて聖剣の鞘と呼ばれていたものを踏みつぶしたが、彼は気にしなかった。

 

「ごきげんよう、マスター。セイバーのサーヴァント、ここに参上した」

 

 芝居のかかった調子でサーヴァントが返してくる。

 彼が一歩踏み出す度に闇の光が収束し、彼の体内に取り込まれていく。全ての光が消え去った時、切嗣の前には1人の男が立っていた。

 黒髪黒目。刃物のように鋭い目と、四方八方に髪が伸びたざんばら頭。口にはこの世の全てを嘲るような笑みを浮かべている。色気すら感じる整った精悍な顔立ちだが、大抵の女性は彼を見ても見惚れるより先に、彼の放つ鬼気に恐怖を感じるだろう。

 黒一色の道着を思わせるシンプルな服を着込んでおり、髪と眼の色もあって全身が真っ黒だった。その肉体は服の上からでもわかる程に徹底的に鍛えあげられている。

 そして何よりその威圧感。その禍々しさ。正当な英霊が放つとは思えない鬼気がその黒い男から放たれていた。

 

 ―――間違いなくこの男は反英霊だ。そして同時に超一級のサーヴァントだ。

 

 切嗣は黒い男をひと目見た瞬間、彼の内面を理解した。予定とは全く違うが強大なサーヴァントを喚び出すことに成功した。

 だがそれを喜ぶことができない。切嗣の本能が大音量で警戒音を鳴らしているからだ。それを理性で押しつぶし、まず彼は聞くべきことを聞いた。

 

「―――それで?君は何処の英霊なんだい?」

 

「私の名前など言った所でお前には理解できまい。クラス名―――セイバーと呼べばいい。……かつては孫悟空と呼ばれたこともあると言っておこうか」

 

 それが聖杯戦争はおろか人類史を脅かすことになった事件の始まりだった。

 

 




ゴクウブラックのSS増えろ(他力本願)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。