ゴクウブラックが第四次聖杯戦争に喚ばれてみた (タイトル命名 ゴワス様)   作:dayz

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飲み会で自説力説したらドン引きされてみた

 アインツベルンの城の中庭で行われていた聖杯問答。

 それはあくまで互いの願望、戦う理由を語り合い、お互いの格を決める宴に過ぎなかった。

 しかし今やこの酒席の場はセイバーの人間ゼロ計画宣言によって凍りついたように静まり返っている。

 

 ―――人間をこの世から一人残らず皆殺しにする。

 

 それが人間ゼロ計画の全てである。

 常軌を逸したその答えにまず最初に再起動を果たしたのは、ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットだった。

 

「ちょっと待てよ! 人間を全て皆殺しにするなんてそんなこと出来るわけがない!」

 

 セイバーは無礼なこの少年に対して、彼にしては優しく問い返した。

 

「なぜそう思うね。ライダーのマスター」

 

 ウェイバーは一瞬言葉に詰まりながらも、すぐに反論を組み立てていく。

 

「まず、お前が受肉して大暴れしても魔術協会と聖堂教会が黙っちゃいない。あいつらの最高戦力はサーヴァントにだって勝るとも劣らない。世界を何度も滅ぼせるって戦力を持ってるアトラス院だってあるんだ」

 

 ナルシストであるセイバーは自分の計画を話すことが楽しいのか、スラスラと彼の質問に答えていく。

 

「その点なら心配ない。聖杯を飲み干し、受肉することにより私はマスターからの魔力供給を必要とせず、自前で魔力を生成することが可能になる。それでも全盛期には程遠いが、サーヴァントレベルの相手など何十、何百集まろうと私の敵ではなくなる」

 

「う、嘘を言うなよ。いくらなんでも受肉しただけでそこまでパワーアップなんてするもんか!」

 

「パワーアップではない。本来の力を取り戻すのだ。サーヴァントは魔力を燃料に動く存在。

通常のサーヴァントが魔力をいくら貯めこんだ所で、よりしぶとくタフになっても基本ステータスまでは変わらない。

 だが私は違う。私は元々魔力不足故にこの程度のステータスに貶められていたのだ。召喚時に聖杯から付与された魔力も私からすれば微々たるものだった―――故に、魔力を補充すれば私のステータスは無限に上がっていく。受肉すれば自前で魔力、いや気を生成できるようになるため、ガス欠の心配もなく、存分に力を振るうことができるようになるわけだ」

 

 ウェイバーはその話を聞いて頭の中が真っ白になる所だった。唯でさえこのセイバーは、全てのステータスが幸運以外A以上というふざけたステータスだ。

 それがまだまだ上がるというのか?

 

 次にセイバーに問いただしたのは、セイバーの名目上のマスターであるアイリスフィールだ。

 

「セイバー。貴方が喚び出された時、貴方は聖杯を使って理想郷を造ると言ったわよね?あれは……嘘だったの?」

 

「嘘ではない。私にとっての理想郷は、人間が全て息絶えた美しき世界ということだ。そしてそれはマスターよ、お前にとっての理想郷にもなりうる。私は知っているぞ。この聖杯戦争のからくりを。神である私は読心術を使える。アインツベルンの連中の頭を覗いた所、私は知ったのだ。

 この聖杯戦争は人が神の領域に踏み込むという許されざることの為に、作り上げたものだということをな。そしてこの聖杯戦争が成功するということは、お前は死ぬことを決定づけられているということも知っている。

 ……私はこれでも自分を喚び出したマスター達に対して、それなりの恩義を感じているのだよ。もしお前達が私の邪魔をしないというのであれば、全ての人間を滅ぼした後、お前達だけは私の世界で生かしてやってもいい。そしてその寿命が尽きるその時まで家族仲良く暮らすがいい。それはお前達の望みでもあったはずだろう?」

 

「そ、それは……確かにそうだけど……でも私は……」

 

 淡々と語られる悪魔の誘いにアイリスフィールの思考は完全に硬直しつつあった。

 いや、心のどこかでそれを望んでいたのは確かなのだ。

 聖杯戦争もアインツベルンの努めも、何もかも投げ出してイリヤスフィールと愛するべき夫とどこか僻地で静かに暮らしたいという願望は確かにあった。

 そしてその言葉はアイリスフィールが所持している盗聴器を通して、セイバーの言葉を聞いていた衛宮切嗣にも突き刺さっていた。

 

 元より衛宮切嗣の目的は恒久的な世界平和―――。その為なら自分の妻すら犠牲にする覚悟があった。あったはずなのだ。

 しかし戦いが激化するに連れて、同時に何もかも投げ出して妻と子供と一緒に逃げ出したいという気持ちが強く出てきたのもまた事実。

 

 あのセイバーはそれに感づいて例え世界を滅ぼしても、自分達だけは助けてくれるという。

 人間が絶滅したが故に醜い争い事もない、煩わしい事もない平和で穏やかな世界で自分の寿命が朽ちるまで、家族全員で穏やかに暮らす。それは余りにも悪魔的で甘美な誘いだった。

 

 だがそれと引き換えに、人類の命全てを捨てるには釣り合いが取れない。

 今まで大を助けるために小を切り捨て続けたこの男が、自分達という小の為に世界を見捨てては衛宮切嗣の人生そのものが無意味と化す。

 

 そんな切嗣の苦悩など知らぬとばかりにセイバーは得意げに演説を続けた。

 

「見ての通り私のマスターも賛同してくれそうだ。彼女は人間の邪悪なエゴによって作られたホムンクルスでね。人間の存在に思う所があったんだろう」

 

 いきなり勝手に自身の在り方を決めつけられ、挙句共犯者にされかけて慌てたアイリスフィールは他のサーヴァントとマスター達にブンブンと首を横に振った。どこまで信じてくれるか不明だが。

 

 次に疑問をぶつけたのはライダーだった。

 

「だがそれでお前さんが人間ゼロ計画の実行をするとしてもだ、この世界の抵抗勢力を全て蹴散らしてもまだ計画が遂行できるとは限らんぞ?」

 

「ほう、それはまたなぜだ?」

 

「この星の抑止力がまだある。我々サーヴァントは、あくまで抑止の英霊の一側面を切り取ったコピーに過ぎぬ。星の危機に反応して顕現する抑止の守護者達は、我々サーヴァント達とは比較にならん戦闘力を持っている。貴様が聖杯を取り込んで大量の魔力を手に入れても太刀打ちは―――」

 

「できるとも。確かに聖杯全てを飲み干しても得られる力は本来の私の力からすれば、たかがしれている。しかし受肉しても私はサーヴァントであることには変わらない。その気になれば別の方法で魔力を補充することも可能だ。―――確かこの星の人口は60億人を超えていたな?」

 

 その言葉に隠された意味にライダーは珍しく冷や汗を垂らした。

 

「セイバー、お前まさか―――」

 

「何を驚く征服王。戦いに於いて現地での略奪と物資の補充は戦場の常識だろうに。ともあれ世界中の人間共の魂を食らいつくせば、一惑星の抑止力など私の敵ではない。それだけの魂を喰らっていれば、地球を宇宙の塵にできる程度の力を取り戻しているはずだしな。そしてこの星で力を蓄えて、宇宙に飛び出しまた別の星を襲って力を蓄える。

 これを繰り返していけば多少は時間がかかるが、私は完全なる力を取り戻し、宇宙中の人間―――知性をもつ生命体を皆殺しにできるだろう。サーヴァントになったことで、寿命の問題も解決したことだし、何より宇宙中の人間を滅ぼしたのは生前一度やっている。前よりはうまくできるだろう」

 

「……そもそも、貴様はなんで人間を滅ぼそうと考えとるのだ? なんか理由があるのだろう?」

 

 その疑問に対してセイバーはアインツベルンの城の前に広がる森を指さした。

 

「あの森を見るがいい。……世界とは美しい。だが人間の醜さがその美しさを汚す。ライダー、貴様があの静かな森を焼き払ったようにな。よって私は全ての人間、全ての知的生命体を消し去り、本来の美しい世界を取り戻す。それが私の神としての使命なのだ」

 

 余りの返答に呆れたのか、ついていけなくなったのかライダーがとうとう押し黙った。

 次に嘲りの声を上げたのは今まで黙っていたアーチャーだった。

 

「誇大妄想狂もここまでくれば、かける言葉も見当たらん。如何に我の宝物庫にも馬鹿を直す薬は入ってないぞ」

 

「フフフ……アーチャーよ。これが戯言とするならば、なぜお前は『笑っていない』?」

 

 はっとしたようにアーチャーが顔を上げる。確かにアーチャーは先のセイバーの演説を馬鹿にするでもなく、呆れるでもなく脅威として捉えて聞いていたのだ。

 

「理由なら私が説明してやろうか。貴様も混じり物とは言え、神の血を引き千里眼を持つ男。私の言葉が真実であると本能が理解しているのだ」

 

 反論せずに睨みつけてくるアーチャーを尻目に、セイバーは席を立つとゆっくりと舞空術で空に浮かび始め、語り始めた。

 

「一つ昔話をしてやろう……私はかつて界王と呼ばれる神だった。この星にいたような神とは根本的に格が違う、それぞれの星にいる神々を更に束ねる銀河の管理者。それが界王だ。

 数万年、数百万年、いや、それ以上の時間をかけて私は銀河の星々に発生した文明と人間どもを観察してきた。だが人間どもは最終的には必ず己の欲にまみれた野蛮な殺し合いをし、我々界王が管理する大事な星を汚し、破壊してしまう。

 私は忌々しい人間どもの手にかかって、美しい星々が汚されていくのが我慢ならなかった。

 だが私の師―――界王達を更に統括する界王神は無能でな。人間が愚かな争いをしていても奴は決まってこういうのだ。

 

 見守れと。

 そして彼ら自身の手で成長することを祈るのだと。

 

 ……だが私の知る限り、人間が成長し争いを止めた所など見たことがない。

 それどころか、人間どもは未熟な精神をそのままに、我々神々にも届きかねない力を手に入れようとしていた。

 故に私は決心し、我が師でありながら、無能なる界王神ゴワスに見切りをつけ始末した。

 そして私は人間の身でありながら、神の領域に不遜にも踏み込んできた力を持つ孫悟空と呼ばれる無礼者の身体を取り上げ、その力で全宇宙の界王神とそれと対をなす破壊神を皆殺しにし、宇宙中の文明と人間を滅ぼしたのだ。

 皮肉なものだ。あの時、この体の持ち主―――サイヤ人、孫悟空がこの私に神をも越える力を見せつけなければ。或いはあの宇宙の人間が時間を飛び越えるような技術を作り、神の法を乱すような真似をしなければ、私は人間ゼロ計画を実行に移さなかったかもしれん。

 だが現実として奴らはその罪深さと無礼さが故に私の怒りを買い、全宇宙を危機に晒した。愚かな人間の戦士の肉体によって宇宙中の人間が滅びる。これぞまさに罪深き人間に相応しい末路とは思わんかね?」

 

 突如始まった宇宙規模の神話に咄嗟についていけたのは、この中で一番若く順応力があるウェイバーだった。

 

「ちょっと待てよ! お前は今、宇宙中の神々や人間を滅ぼしたといったな!? でも僕達の地球はこうして人間が繁栄してるし、宇宙から神様が攻めてきたなんて聞いたことないぞ!」

 

 その言葉にアーチャーがぴくりと反応したが、結局何も言わずに話を聞き続ける。

 

「私の知る限り宇宙は全部で12個ある。この地球がある宇宙がどの宇宙かは私にもわからん。そして平行世界も含めれば更にその数は増えるだろう。私が神々と人間を滅ぼしたのはその中の一つの平行世界の12の宇宙であって、この世界ではない。

 そして私は最後は人間どもの手で邪魔されたが……。皮肉なことに本来そこで消滅し、宇宙諸共消えるはずだったこの私の情報を、欲深き人間共が作り上げた聖杯がくみ取り、こうして復活させてくれたわけだ。心の底から礼を言うぞ、人間達よ。お前達の醜い欲が再びこの私をこの世に蘇らせた。フフフ……全く愚かなものだ、人間というものは……。孫悟空といい、この聖杯戦争といい、自分達で滅びの道を舗装していくのだからな」

 

 空に浮かびながら、自己陶酔の混じった演説のような言葉を吐き続けるセイバーにしばらく誰も言葉をかけるものはいなかった。余りにもスケールの大きさに事態を咀嚼するのに時間がかかっているのかもしれない。

 この中で最初に自分のペースを取り戻したのはアーチャーだった。

 

「……くっくっくっ。随分と大層なことをほざいていたようだが、結局は貴様の身体はその孫悟空という人間の借り物か。確かにその肉体のスペックは我をして目を見張るものがあったが、盗品では褒めてやる気にすらならん。師殺しの簒奪者の上に、借り物の身体で暴れている分際で随分と大口を叩くものだな?」

 

 軽蔑の混じった眼差しでセイバーを挑発するアーチャーだが、セイバーは何処吹く風といったところだ。

 

「わかっていないな、アーチャー。この体は確かに戦闘民族サイヤ人、孫悟空と呼ばれた男の肉体だ。だが、元より孫悟空にはこの肉体は過ぎたものだったのだよ。事実私はオリジナルの孫悟空よりも余程この肉体を使いこなしている。

 ……戦えば戦うほど、痛みを受ければ受けるほど、より強くなるサイヤ人の肉体はまさに神の恵みだ。

 神の失敗は数あれど、このような肉体をサイヤ人のような野蛮な種族に授けてしまったことが最大の失敗だ。

 故に私はその神の原罪を背負い、浄化すべくあえて孫悟空から肉体を取り上げ、我が物にしたのだ。戒めとして、神々の罪を忘れぬように」

 

 そう言い終えるとまるで何かを掻き抱くようにセイバーは両手を広げた。彼の目には神々とやらの罪というものが写っているのだろうか。

 流石にこれにはライダーもアーチャーも呆れ果てたように上空のセイバーを見やる。

 

「なんというか……ああ言えば、こういう奴だの」

 

「ここまで話が通じん奴は久方ぶりだ。癇癪を起こしたイシュタルを相手にしてる時を思い出すな。神という奴はどうしてどいつもこいつも……」

 

 ウェイバーもうんざりしたようにライダー達に追従した。

 

「下手に文句つけるとその3倍ぐらいの反論が返ってくるな……。ディスカッションとかで一番相手したくないタイプだ……」

 

 それらの皮肉も、精神的にも物理的にも高みにあるセイバーには全く通用しない。

 

「所詮は地を這うしか能がない下等な連中。私の口から奏でられる言葉の気高さと高貴さを理解できるはずもないか……。我が志も美しさも……、この宇宙において、ただひたすらに孤高……」

 

 そう言ってセイバーはニヒルな笑みを浮かべて前髪をかきあげた。

 

「あやつ、もしかして同じ神々にすら相手にされなかったんじゃなかろうか」

 

「少なくとも我はあれの相手はごめんだぞ。ライダーよ、なんでこの様な奴と酒を飲もうなどと考えたのだ」

 

「いや、余もまさかここまでかっ飛んでるやつだったとは思いもせんかったのでな……」

 

 下界でピーチクパーチクと囀っている人間の言葉には耳を貸さず、セイバーは酒ではなく、己に酔い続けた。

 だが突如城の外を見やる。

 

「ところで―――私の美しさを見たいならもっと近づいたらどうだ?」

 

 そう言って彼は城の外に広がる森の中に声をかけた。

 

 

 ◆   ◆

 

 

 城の外に控えるアサシン達は包囲網が完了する前に自分達の存在が見破られたことに、動揺を隠せなかった。もしや上空に移動されたことによって隠れていた場所が見つかったのか。それとも近寄りすぎた故に、相手の魔力感知がこちらの気配遮断を上回ったのか。或いは単なる勘か。

 元はといえば彼らは自分のマスターである言峰の―――もっと言うならその師である遠坂時臣の命令で、彼らの酒宴の隙を付き、アサシンの分裂能力を使った人海戦術でマスターを圧殺する指示を出された。

 正直な所この命令に対して余り納得はしていない。

 

 明らかに捨て駒として使おうとしているのが丸わかりだ。いくら数を増やそうが、相手はあのセイバーとライダー。首尾よく作戦が成功しても8割の同胞が消されるだろう。

 特にあのセイバーの戦闘力は今思い出してもゾッとする。

 だが命令は命令だ。マスターの師はアーチャーと互角以上にやりあったセイバーに脅威を感じているようで、手段を選ばすマスターを殺害せよと命令を受けている。

 念の入った事に令呪まで使われてはいざという時の為に、保険として数人だけ残すと言った手立ても使えない。

 

 だがセイバーは先んじて仕掛けてくることもなく、腕を組んで悠然と中空に漂っている。

 虫けら相手に焦ることなど馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに。

 

 ……我らを侮ったこと、貴様のマスターの命で贖わせてやる!

 

 暗い執念を燃やしてアサシン達は気配遮断をやめて包囲網を縮めていった。

 

 

 ◆    ◆

 

 

 突如として現れたアサシンの集団に対してライダーとアーチャーの反応は冷淡なものだった。

 

「アーチャーよ、これはお前の仕込みか?」

 

 どこか白けた雰囲気で面倒臭そうに問いかけたライダーに対して、アーチャーは杯を煽りながら、これまた面倒臭そうに、ただ一言、

 

「知らん」

 

 とだけ答えた。

 実際に知らないのだが凡その目安は付く。セイバーをこの聖杯戦争一番の脅威とみなしていた時臣が、この機会にセイバーのマスターを始末することで脱落させようと考えたのだろう。もしかしたら時臣はアーチャーが、アサシンの援護の為、セイバーの足止めをしてくれるかもしれないという都合のいい期待をしているのかもしれない。勿論そんなことありえるわけがないのだが。

 

 ちなみにライダーもアサシンの狙いを察しているのか、突然のアサシンの襲来に騒いでいるマスターをデコピンで黙らせると、喚び出した戦車に放り込んで、いつでも離脱出来る準備をしている。この戦車ならあっという間にマスターと共に安全圏へと移動することができるだろう。

 

 もしこの宴でアーチャーやライダーのテンションが上がっていたら、もしかしたらこの両者の内どちらかが、自らこのアサシンの群れを葬っていたかもしれない。

 しかし先程の酒宴でセイバーの正体とその目的を聞いてしまったからにはとてもではないが、そんなことをする気にはなれなかった。

 

 このままお開きにしてもいいが、ライダーはせっかくだから見届けたいという野次馬根性で、アーチャーは余興としてその戦いを見守ることにした。

 だが、アサシン達の殺気を一身に受けているアイリスフィールはそんな呑気ではいられない。

 

「セイバー!?」

 

 反射的に上空のセイバーに助けを求める。ここには夫もいるが、分裂し弱体化したとはいえサーヴァント相手では無力なのだ。

 セイバーの反応は冷淡なものだった。

 

「そこにいろ。マスター、一歩も動くな」

 

 そう答えるとセイバーは一気に急降下してアイリスフィールの前に立つ。

 それと同時にアサシン達が一気に飛びかかってきた。

 

「おっと、いかん。捕まっとけ坊主!」

 

 そう言うとライダーは戦車を急発進させてあっという間に高度数百メートル上空へと退避する。ちなみにアーチャーはテーブルで酒を片手に膝を組んで観戦モードだ。

 もっともアーチャーは後でこの判断を後悔する羽目になった。あのセイバーが周りに気を使うような戦い方をするわけがないのだ。

 

 セイバーはマスター狙いのアサシン達の無数の飛び道具を、毒を警戒してか腕に形成したエネルギー剣で弾き落としながら、彼らがぎりぎりまで距離を詰めるのを待ち構えていた。

 そしてアサシン達の大半が中庭に突入したその瞬間、後ろにいたアイリスフィールを片手でかっさらうと舞空術で一気に遥か上空へと飛び上がる。

 後に残されたのは、中庭という四方を城に囲まれたキルゾーンに置き去りにされたアサシン達と、未だテーブルに着いて酒を飲んでいるアーチャーのみ。

 

「ではごきげんよう。寂しくないように全員まとめてあの世に送ってやる!」

 

 次の瞬間、セイバーのもう片方の手から光弾の雨が降り注いだ。凄まじい爆発が連続して巻き起こり、中庭という牢獄を爆風で埋め尽くす。

 その破壊力と連射速度はランサー戦のそれを遥かに上回る。余りの破壊力に余波で近くの森の木々が高さ数十メートルまで吹き飛び、頑丈な石造りの城の外壁が崩壊していく。

 城の高台にいた切嗣は反射的に脱出を考えたほどだ。

 光弾がこれほどの威力になったのには訳がある。ハイアットホテルで死亡した大量の人間の魂を魔力として取り込んだ結果、セイバーの魔力と戦闘力は更に増大していたのだ。

 それはランサーの宝具で傷ついたダメージを差し引いても、尚釣りが来るほどのものだった。

 そんなことも知る由もないアサシン達は、先日のランサーとの戦いを基準にして挑んでしまった。

 そしてそれが彼らの命運を決めた。

 

 アサシン達の中には嵌められたと気がついた瞬間、逃亡に移ったものもいたが、無駄だった。一旦攻撃態勢に入ったことにより彼らの気配遮断は解除されており、セイバーの魔力感知により全員の存在を完全に知覚されていたのだ。

 そして一度彼らを認識したのなら、分裂し能力が下がったアサシン達をセイバーの光弾が外すことなどあり得なかった。

 

 光弾の斉射が済んだ時、中庭には残っていたのは焼け焦げた大地と、テーブルに着いたまま防御宝具を何重にも展開して、光弾を凌いだアーチャーだけだった。

 もっとも無事なのはアーチャーと彼が座っている椅子だけで、テーブルは焼き焦げた脚しか残っていなかったが。

 アサシンの死体は何一つとしてない。全て消し飛んだのだろう。

 

 爆煙で汚れた杯を見てアーチャーが溜息をつく。

 

「全く、つまらぬ幕切れよ。時臣め……ここまで不躾な奴だったとはな」

 

 そう言うとアーチャーは杯を放り捨てて、クレーターまみれになった中庭を歩き始める。

 最早宴は終わった。後は帰るだけだ。

 そんなアーチャーの前に急降下してきたライダーのチャリオットが回りこむ。

 

「何の真似だ? 雑種」

 

 ライダーはちゃっかりチャリオットに持ち込んだ例の酒瓶を掲げると、アーチャーに向かってニヤリと笑ってみせた。

 

「何、なにやら予想とは違う流れになったからな。どうだ、アーチャー、河岸を変えて飲みなおさんか?」

 

「はあ!? ライダーお前何言って……ひでぶっ!?」

 

 予想通り抗議してきた小柄なマスターを再びデコピンで御者台に送り返すと、ライダーは改めて、アーチャーに向き直った。

 

「勿論、本当に唯、酒を飲もうってわけじゃない。アイツの事だ」

 

 そう言って目線で未だマスターを抱えたまま宙に浮かぶセイバーを指し、声を潜める。

 

「余の目的は世界征服。だってのに征服するべき世界を滅ぼされてはたまったもんではない。それは貴様にしてもそうじゃないか? 自分の支配下にある世界を滅ぼすと言っているのに、お前さんは黙って見ているタマではあるまい」

 

 その言葉に、アーチャーは無表情のままだ。それを続きを促していると見て取ったライダーは続ける。

 

「余はサーヴァントである前に人類の守護者たる英霊でもある。最悪の場合は聖杯を手に入れるよりも、奴を潰すことを優先するつもりだ。そしてそれはお主とて同じなはず。ついでに言えば聖杯は取り逃しても次の機会があるかもしれんが、奴の手に聖杯が渡れば人類史は終わり。下手すれば我ら英霊の座にすら影響がでるかもしれん。」

 

「……それで、なぜ我がお前の思惑通り動くと言い切れる?」

 

 目を細めてアーチャーが問う。自分のことを勝手に図られるのが気に入らないのだろう。

 その問に対してライダーはアーチャーの目を見てきっぱりと答えた。

 

「それが貴様が王の中の王を名乗っているからだ。人を導き、試練を与え、搾取することはあっても滅ぼしはしない。それが貴様だ。違うか」

 

「……ふん。まあいずれにせよ、我の庭を荒らす輩をそのままに放置するつもりはない。いいだろう、雑種。お前の酒にもう少しだけ付きやってやる」

 

「ええええ~~~~~!?」

 

 ようやく終わったと思った所に二次会が始まるとわかって、ウェイバーが悲鳴を上げる。

 2人のサーヴァントはそんな哀れなマスターのことを捨て置いて、次の店の打ち合わせに入った。

 

「よしよし。じゃあ折角だからアーチャーよ。余の戦車に乗っていけ。そのほうが早い。美味いツマミを出す店をこないだ見つけたんだ。そこで飲もう」

 

「下らん料理しか出さんような店だったら、わかっているだろうなライダー?」

 

 そう言いながらアーチャーもチャリオットへと無遠慮に乗り込む。哀れなウェイバー少年はもはや御者台の隅っこで身を縮めるしかなくなった。

 アーチャーが乗り込んだことを確認したライダーは一気に上昇すると、空中のセイバーに向かって大きく手を振る。

 

「じゃあな、セイバー! 今宵はここらでお開きだ。次に出会うときは戦場で雌雄を決しようぞ!」

 

「ライダーよ。今回のような余興は一度限りだ。次に会う時まで心残りを終わらせておくがいい」

 

 言外に次は逃さないという意思を込めた言葉を返すセイバー。

 その言葉が届くか届かないかといったタイミングで、ライダーのチャリオットは踵を返し、雷をまき散らしながらその場を去っていった。

 それをセイバーはしばらくの間見つめていた。

 

「ね、ねえセイバー……。そろそろ降ろしてくれるとありがたいんだけど……」

 

 未だに片手でバックのように抱えられていたアイリスフィールが恐る恐る言う。

 セイバーは無言で彼女を虚空へと手放した。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 当然のように悲鳴が下へと落ちていくが、地面への激突音は聞こえなかった。

 彼女も一流の魔術師、落下制御ぐらいお手の物だろう。

 セイバーは両手を改めて組むと、ライダーとアーチャーを乗せて消えたチャリオットの行き先を目で追っていた。

 

「ライダーにアーチャー……。せいぜい私を高める餌になるように頑張ることだ」

 

 ジクリとランサーに付けられた右手の傷が痛む。

 

「……ふむ。だがその前にあの生意気な若造を始末するほうが先かな?」

 

 




二次会に誘われないタイプの人いるよね
まあ自分のことなんですが(´・ω・`)
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