【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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八雲紫の梗は人間の里を襲う謎の不審火事件の調査にあたっていた。何一つ手掛かりをつかめない梗は、紫の指示により気晴らしに稗田家を訪れた。そこで出会ったのは面識のないひとりの少女だった。彼女の雰囲気に違和感を感じていた梗だったが……。

11月24日(日)リメイク


第壱章:避け難き火種
第一刻:第一最終警告


切り立った岩山は雲を貫き細く、鋭く、無愛想に幻想郷にそびえたっていた……。雲の厚い日や、朝方などは見えるのは見渡す限りの雲なのだが天気の良い日の昼方は360度幻想郷の眺めを一望する事が出来る。

 

「……う~ん…………」

 

 梗がここ最近、見つめているのは常に人間の里の方角だった……。

 この岩山に来ることがあるのは梗を除くと仙人になりたい物好きか、本物の仙人、あとは暇をつぶしに降りてくる天界の者ぐらいだった。その他の生き物でここを訪れるのは梗ぐらいなもので彼の考え事を邪魔する者はいない。

 聞こえてくるのも風の吹く音、天界に近く生き物の五感を高めてくれるようなこの場を梗は気に入っていた。過去の事件の解決策もここでいくつか閃いたぐらいだ。中国の書に描かれるような景色、本当にここに梗の邪魔するものはいない。あの紫も梗がここにいる時はちょっかいを出さないくらいだった。

 

 

「……わからん」

 

 それでも、今回の異変の糸口は掴めずにいた……。

 紫の指示による気分転換の後も特にこれといって現状に変化なしといった感じだった。

 

「何か……足りないのだろうか…………?」

 

 大概、こういう時は何をやっても無駄なのは梗自身も、これまでの人生でわかっている。次の気分転換は何しようかという梗にしては珍しい思考が頭の片隅に姿を現していた。

 

「……………」

 

 梗は太陽を見ていた。梗だって、暇な訳ではない。八雲に使える式神として、藍同様に雑用をこなさなければないらない。今日の仕事はいつから始めようかと、陽の高さをみながら考える。

 視界を徐々に里のほうに落としていた途中、普段は見えないはずの物が目に飛び込んできた。

 

「黒い……煙……?」

 

 それは、里のほうからあがっていた。とても細い煙だったが、ここからでも見えるほどのしっかりとした煙。

 

「…………ふう」

 

 梗は身軽に浮き上がると里の方へ飛んでいった。

 

 

 

 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●

 

 

 

 その煙のもととなる炎はやはり、里の民家からあがっていた。

 人間たちが群がり、たらいにくんだ水で消火を試みていたが、おさまる様子はなかった。

 

「火の手の回った後の捜索か……何か情報を得られる訳はなさそうだが……仕方ねえか。とりあえず、周りに火の手が燃え移らない様に………」

 

<夢符:弐重結界>

 

 そう唱えると、民家を包むように大きな結界が現れた。シャボン液のような色をした結界は、しっかりと民家を包み、火の手が燃え移るのを防いでいた。

 

「ちょっと、いいかい?」

 

 梗は近くにいた男性を捕まえた。

 

「今から、俺が中に入って様子を見てくるから、他の奴が入らない様に見張っていてくれ」

 

 男性は梗の台詞を理解するのに少し時間を有したが、コクリと頷いた。

 

「さて…………」

 

 梗は結界をすり抜け、民家の中に入っていく。結界で包んだため、中の酸素が不足し、火の手は少しずつ、弱くなっていた。

 しかし、そのため呼吸に必要な酸素も少なく、梗にとっても万全の環境ではなかった。

 

「そろそろ、消化したほうがいいな………ん?」

 

 ふと、梗は自分の足元に転がっていた物に目をやった。それはクルミのような大きさと見た目をした、木の実だった。

 

「……なんだこれは…………」

 

 梗が不思議に思い、その木の実を拾い上げると、その木の実は突然発火した。

 

「熱ッ………ん? 熱くねえな……? なんだこれ?」

 

 その、謎の熱くない炎が発火したと思うと、その炎は梗の目の高さで浮遊し、左右に分裂すると、それを繰り返し2つ、4つ………。と数を増やし、梗を取り囲むような形をとった。

 

「おいおい、何だ~? これは…………」

 

 

 

 

 

「オマエ……ヤクモ、キョウ。ダナ…………」

 

 

「あ?」

 

その声は、誰の声………というものではなかった。機械を通したような、声というよりは音で、声の主を突き止めさせない時に用いられるような声。といった感じだった。謎の声は梗の頭に直接語りかけている様子でおそらく、梗以外の者には聞こえていないのだろう。

 

「誰だお前? 何で、俺の名前を知ってるんだ? てか、仮に俺の名前と存在を知ってたところで、今日は尻尾と耳を隠してるんだ。どうやって気付いた?」

 

多少、けんか腰の口調で梗が聞く、直感的に少なくとも、味方ではない。と悟ったのだろう。その様子はくるならどこからでも来いよ。と、いう感じだ。

 

「シッテルシ……ソンナヘンソウシタッテ…………キヅケルサ………ズット……ズゥ~~~ット…………オマエノコトハミハッテタンダカラナ……………」

 

「あ~? 見張ってただと?」

 

首を曲げ、目を細めて梗は聞く。見張っていたとなれば、これはもう間違いなく敵でいいだろう。あとは正体を突き止めるだけなのだろう。そんな様子だ。

 

「オマエガワタシノホノヲ………ケシタ……トキ………アノトキカラ……ズゥゥ~~~~~ット………ミハッテタ…………ミハッテタンダ」

 

ということは、それは1ヶ月ほど前からという事になる。一日中ということはないだろうが、少なくとも、毎日………。何が目的なのだろうか。

 

「俺に、何の用だ? 監視していただけの奴が俺の前に出てきたんだ。言いたい事のひとつぐらいあるんだろ?」

 

「……ケイコクダ…………」

 

「警告?」

 

「コレイジョウ………ワタシノ……ジャマ…………スルナ……………モシツギジャマシタラ………チェントカイウ…………クロネコ………………オソウ!」

 

「橙を……襲う。何が目的だ!?」

 

平然を装っていた梗が感情を表に出す。このままでは、こいつに言いたいだけいわれて終わってしまう。

 

「シルヒツヨウハナイ…………オマエ……ニハ……カンケイ…………ナイコトダ……ワタシダケノ…………モンダ……イ………」

 

「…………返答になってないに一票」

 

「ソレジャア…………ケイコクハ………シタカラナ」

 

「おい、ちょっと待て!? 目的を話せ! てか、お前自身何者だ!? 名前ぐらい名乗れってんだ!」

 

「………………」

 

名前を名乗れという質問に、何故かほのおが黙る。そして再び話しだした。

 

「サアナ………オマエニナノル……ナワ………………ナイナ…………アア………ソコニオチテイルキノミ…………ソレハ「火種」…………トイウ………シロモノダ……ソレヲツカウノハワタシグライ…………ダカラナ………ヒダネヨウカイ……デ…………ケッコウ」

 

 何か、寂しそうな口調でそう話すと、炎を消え、同時に民家の炎も消えていった………。

 

「警告………か…………」

 

梗はそう呟き、さっき手放した、発火して黒焦げになった火種を拾い上げ、通りに出た。発火して、黒焦げといっても、その炎は全く熱くなかった。それでも木の実は黒焦げ……不思議な現象だった。

 ポケットに火種を入れ、仕事をそろそろしないといけないことを思い出して、八雲家に向かおうとした時だった。

 

「おっと。」

 

 歩き出そうとした梗と一人の女性がぶつかった。

 

「すいません。よそ見をしてました。怪我はありませんか?」

 

 ぶつかった衝撃で尻もちをついた女性に梗が手を伸ばす。

 

「いえ、私は大丈夫で…………す」

 

 手を掴み、梗を顔を見た瞬間、明らかに女性の様子が変わった。

 

「きょう…………さま………? 梗様ですよね!?」

 

「ぐっ…………」

 

突如、女性が興奮した様子で梗に迫ってくる。その声を聞き付け、梗の周りに多くの女性達が集まってきていた。

 

「きゃあ~! 梗サマ~~~!」「是非、お近づきに~!」

 

口ぐちに声を発しながら、女性達は梗のいるところに押し寄せてきた。

 

「まった、まった。おい!」

 

その数は50~100人といった感じで梗はその中心でもみくちゃにされていた。

実は梗は絶世の美男子である。すらっと細身で長身。顔も勿論、整っていて鼻は高く、黄色に輝くその瞳は人里に買い物に来る人間の主婦達を虜にしていた。

 

「この数はマズイ…………」

 

 さすがに、人里に下りる時に尻尾を隠している梗が、この中で素人目にも分かる明らかな妖術を使うのはまずい。このままでは、仕事をこなす時間に支障をきたしてしまう。……が。

 

「ああ、もうしるかっ! <変化(ヘンゲ)>」

 

すると、梗の体は一瞬で、十にも満たない幼い少女の姿になった。勿論、女性達は梗が突如、消えたことで混乱状態になっている。その隙に、少女の姿となった梗は人だかりの中から抜け出していた。少し離れ、路地裏に入り込んだところで変化の術を解く。

 

「ふぅ~。酷い目にあった………」

 

そうして、梗が再び、八雲家に向かおうとした時だった。

 

「やっべ、今晩の夕食の買い出しを頼まれてたんだった」

 

そういって、軽快に振り返り、一歩、大通りに出た時だった。

 

「あ………………(汗)」

 

「キャァーーーキョウサマーーーー!」

 

「……………………はぁ」

 

 

 

 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●

 

 

 

「と、いう事がありましてですね…………」

 

「だ・か・ら! いつも言ってるだろ!? お前は<絶世の美男子>なんだから、里におりる時はちゃんと変装をしろ。っていつも言ってるだろ!」

 

梗は藍から説教を受けていた。藍の前に梗が正座をする形で約一刻(二時間)。その説教は続いていた。

 

「いや、その、変装って面倒じゃないですか。だからいつも里におりる時は、ああいう人達に遭遇しない時間帯を選んでるんですよ。てか、その前に俺ってそんなに目立ちます?」

 

「目立つ」

 

 即答だった。

 

「顔以前に、お前は長身なんだ。里に来る奴にそんなに背が高いのなんてお前ぐらいなものだろ! もの凄~~く。目立つ!」

 

「………………」

 

「だいたい、お前はいつもだな…………」

 

「も~うるさいし、長いわね~。もう夕食の時間なんだけど~? 夕飯の材料は買ってきたんだから、説教はその辺にして、早く夕飯にしましょ? ね?」

 

藍の発言に割り込む形で、紫がスキマから上半身だけを出して言ってきた。

 

「うるさい! 今、それどころじゃないんです! 夕飯なんて、すぐに作りますから、タダ飯食って寝てるだけの人は黙ってて下さい!」

 

「タ…………タダ……飯………? 寝てるだけ……?」

 

その後、一瞬の静寂……。

 

「………………プッ」

 

それを破ったのは梗の小さな笑い声だった。

 

「ちょっと梗! 何? 今笑った!? ひょっとて、あなたもそう思ってるってこと!!?」

 

「え?、そんな、主に仕える身としてそんなことあるわけないじゃないですか~」

 

そう言いながらも、梗に声と表情は笑っていて、視線もわざとらしく泳がせていた。

 

「何~その言い方。絶対、そう思ってるじゃい~! も~~~!」

 

紫は、式にそう思われていたのが悔しいのか、スキマから体を出し、体をジタバタさせていた。

 

「主人ともあろう方が何やってるんですか! 暴れないでください」

 

藍が、紫を止めようとするも、当の本人は。

 

「何が主人よ~、知らないわ! そんなもの。」

 

 といって、聞かなかった。

 こうして、なんとか紫の暴走を止め、3人で夕食にありついたのは日付が変わってからの事だった。梗は、事件に発展を見いだせない、自分のために紫が気分転換させてくれたのだろうかと思ったが、案外、八雲家のなかで、このような茶番が起こるのは意外と日常的なので、深くは言及しないことにした。

 

 

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