━━━私は大丈夫だから狐君の傍に行ってあげなさい━━━
主にそう言われた半人前の庭師はいつも自分が管理している庭へと急いだ。梗には主を守れと言われた。でも、主には梗の傍にいてやれと言われた。そして妖夢は梗の傍にたち彼の力に少しでもなれるならと決心した。そして、妖夢が屋敷の角を曲がり出た庭の光景は壮絶なものだった。
塀や、置き物は全て切り刻まれ妖夢が丁寧に手入れした庭も無茶苦茶になっていた。そしてそこには大量の切り傷を負った梗と、同じく体中に痣を追いながらも不気味に笑みを浮かべる妖鬼の姿があった。
「梗さん」
「……ん、ああ、妖夢か、……フッ、そうか幽々子様らしいな」
まぶたから血を流した梗が一度妖夢のほうを見ると軽く微笑した。幽々子が何をしたかを察したらしい。妖夢の方を見ている梗に凶靭なる刃が振り下ろされる。
「危ない!」
「!?」
それを紙一重で梗は回避する。刃を振り下ろした妖鬼はさらに一歩踏み込み短剣で斬り付ける。そしてその刃が梗の脇腹を裂く。致命傷にはならなかったが梗の肉体が血を吹いた。だが、梗も負けない。その状況から左足で回し蹴りを妖鬼の脇腹に打ち込む。
妖鬼の顔が苦痛で歪むがすぐに長剣を振り切ると梗はその斬りつけを回避するために後ろに距離をとる。そして、梗の足が地につくを二人が同時に飛びかかる。妖鬼は両方の刀を使った燕返し、梗は両方の足の回し蹴りをほぼ同時に叩き込んだ。
「<人智剣:天女返し>!!」
「<幻武:双頭大蛇(ソウズオロチ)>!!」
強烈な金属音と衝撃波に妖夢はしゃがみこみ耳をふさいだ。衝撃波が駆け抜け、妖夢が目を開くと妖鬼の刀を梗が足で受け止めていた。
お互いが相手を押し返そうとする力で妖鬼の刀と梗の足は震えていた。
「両足ノ蹴りを同時ニ放つダケでハなく、我ノ刃ヲ止めるトワ」
「刃以外の平地でも斬れるっていう能力だったら今頃俺の足は吹っ飛んでるけどな」
妖鬼がさらに踏み込み梗の足を押し始める。片足で踏ん張っている梗は妖鬼の押しを止められない。
「くっ」
梗がもう片方の足で妖鬼の頭に蹴りを放つ。それを回避するために妖鬼が刀を引き距離を取った。
再び、一気にぶつかり合うと思ったがお互いに荒く息をしながら呼吸を整え始めた。
(っち……面倒な相手に目を付けられたもんだぜ、なんでも切れるとか頭おかしいだろ、くそっ、汗が傷口に染みて痛え……これ以上の長期戦は避けたい)
梗は一度深く深呼吸をする。一気に桔梗色の妖気の流れが活発になり密度も増す。
「一気にケリを付ける」
「やってミな……」
大きく裂けた口の中に二本の牙を生やし妖鬼が笑う、両手を広げ挑発する妖鬼に梗が突っ込む。妖鬼を間合いに入れ右の突き、それを妖鬼はかわし左手の長剣で梗の首元を斬りばらう。
梗の顔が視界から消え、首をかっ切ったと思う妖鬼の腹部に衝撃が伝う。斬りばらわれる瞬間、梗は腰をおろし妖鬼の視界から外れそこから立ちあがる勢いも加えみぞおちから上に突きあげるように突きを放った。
その衝撃に間髪いれずに梗の左の拳が妖鬼の顔面を捉える。吹き飛んだ妖鬼が塀に打ち付けられる。さらに、追撃を加えようとした梗だったが、右の足に違和感を感じた。そこを見るとふくらはぎが斬られていた。右足に上手く体重を加えられない。妖鬼の方を見るとにんまりとした笑みを浮かべているのが分かった。
「アキレス腱を斬りやがったな」
塀を蹴り、一直線に妖鬼が飛んでくる。目の前に長剣をかざし、自身を槍に見立てて飛んでくる。回避しようとするが、踏み込んだ瞬間、梗のふくらはぎが血を吹いた。
「ぐっ……」
踏み治せなかった梗は札を取り出し、スペルを唱えた。
<夢符:二重結界>
しかし、あらゆる物を斬り裂く妖鬼の刃は結界をしゃぼん玉のように突き破り、梗の顔面へ牙をむいた。それを梗は左の掌で受け止めるが、当然刃は梗の左手をいともたやすく斬り裂いた。梗の左手に大きな穴があいた。
着地し、梗の背後に回った妖鬼は自分に背中を見せている梗に飛びかかった。
「終わりだ! <異双刃術(イソウジンジュツ):翔雷斬(ショウライザン)>!!」
妖鬼の刃に灰色の稲妻が流れ、梗に襲いかかる。その動きを梗は顔を反りかろうじてかわす、刃の刃先がまさに目の前をかすめていった。大技をつかい、体勢の崩れた妖鬼に梗が使い物にならなくなったはずの左手で妖鬼の腹を突く。
「<幻武:三掌連(サンショウレン)!」
一撃目は入ったが、妖鬼に後二つの衝撃は届かなかった。妖鬼が後ろに飛び、またもや二人が距離を取る。
「こいつ、やっぱり強ぇ……三掌連を喰らう時に体を少しひきやがった、完璧に入らなかったから、二段目、三段目の衝撃が伝わらなかったか……だが………」
梗の瞳にまだ、輝きは残っていた。
「こいつの刀のスピードにも段々体がついていけるようになった。今なら出来るかもしれない……」
「……っは!?」
その光景をただ茫然と眺めていた妖夢も梗が何を狙っているのか分かった。しかし、妖夢は同時にそれがどれだけ難しいかも分かっていた。
(<幻武:刃折牙(ジンセツガ)>……梗さんがやろうとしているのは間違いなくあの技だ……自分の手刀で相手の刃を挟みたたき折る技……でも無茶だ。できるわけがない! いくらあの速さに慣れてきたとしても避けるの挟むのじゃ、次元が違う……。それに。)
(俺の今の手であいつの刃を叩き折れるかだ。仮に折れたとしても奴は二刀流。次の斬り付けに対応しなくてはならない……そしてこの技を使うためにあいつに刃を叩き割りやすい攻撃を誘発しなくちゃならねえ……)
「梗さん。それは無理です!」
遠くから妖夢が大きな声で叫んだ、しかし、梗の耳に届いたようには見えない。ただ口元でブツブツ言いながら妖鬼の出方を伺っていた。
(無理なことは無い。できねえ技や使えねえ技は持ってない。それに俺はこいつをぜってぇにたおさなくちゃなんねぇ!)
今日一番の大きな深呼吸をとると、梗が出た。それに後だしする形で妖鬼も突っ込んだ。
先に仕掛けたのは梗だった、右足に負担をかけない形で左の渾身の突きを放つ。しかし、それを読んでいたかの如く、妖鬼がそれをかわす。そして、右足をかばったせいで体勢の立て直しの利かない梗めがけて長剣で突きを放つ。
それを梗は左半身を体へ入れ込む形でよけようとするが、上腕を長剣が肉をえぐり取りながら貫く。梗の妖気が一瞬揺らめいたところに至近距離から妖鬼が短剣を一気に梗の腰めがけて振り切る。
「避けて!!!」
妖夢の叫びとは裏腹に梗の体は後ろへ下がれない。妖夢が思わず目をつぶった時。耳を貫く強烈な高音の金属音が白玉楼を駆け抜けていった。
[ガキィィィィィン……………]
そして、妖夢の近くに何かが突き刺さる音が聞こえた。妖夢が目を開くとそこには折られた刀身が地面に突き刺さっていた。そして、顔を上げると梗の胴体は繋がっていた。
梗は右肘と右膝をぶつけあっていた。梗の前には衝撃を隠せない妖鬼がいた。
「………<幻武:刃折牙>……」
「馬鹿ナ……」
梗は妖鬼の短剣を右の肘と膝で挟みこんで叩き割っていた。白刃取りの要領で行う従来の刃折牙に比べどちらが難しいかは火を見るよりも明らか。だた、この極限状態にして梗はこの幻武の業を成し遂げて見せた。
梗が膨大な妖力を宿した右拳を妖鬼の心臓辺りに置いて構える。
「オォォォォォォ!!!」
妖気が残った長剣を振りかざし梗の左肩に振り落とす。
鈍い斬撃音を上げ、梗の左腕が宙に舞った。
「きゃあ!」
妖夢が悲鳴を上げ、目をつぶる。どうだと言わんばかりの妖鬼をよそに梗は眉ひとつ動かさない。
あわててまた刀を振りかざそうとする妖鬼の長剣を梗が左足で踏みつけ、押さえる。あらゆる物を斬る妖鬼でも峰(みね)で物を斬る事は出来ない。
妖鬼の胸に置いた拳を梗が思いっきり突き込む。物凄い衝撃と音が辺りを駆け抜ける。
「ガハァッ……」
大量の血を吐くが妖気は倒れない。右手の長剣を今一度強く握りしめ持ち上げようとしたその時だった。
「!??」
初弾とは比べ物にならない破壊力の衝撃が妖鬼の体を襲った。あまりの衝撃に妖鬼が血を吐き白目をむく。
「初弾の突きはあくまでも主弾を通りやすくする道をつくるためのものにすぎない。初弾の突き込みとその後に拳のった妖力を放ち相手を落とす。その拳と妖力の二弾攻撃の威力は他の技を圧倒する………<幻武“奥義”:虎波(コハ)>! 終わりだ」
梗が一歩さがると、意識を失った妖鬼が前に倒れ伏した。
「今は眠れ……人智の域を越えし剣豪よ………」
【第参章:凶靭なる刃 (完)】
ここは、この世のどこかにあるのであろう空間。大きさの異なる藍色の立方体のブロックがちりばめられている。足元に白い煙の立ち込める中、部屋の中心にある。直径2m程の水晶の弱い灯りだけが光の差し込まない部屋の道しるべだ。
その部屋の中にいた金髪をなびかせる修道服を着た女性はブロックに腰掛けながら何も映らない水晶を目を細めて覗いていた。
……ふと、扉をノックする音が聞こえる。おかしい、この部屋には扉どころか壁さえ存在しないはずなのに。
水晶の光が届かない、遠くは暗い闇となっていて、その先にも行き止まりがあるようには思えない。考えてみると気味の悪い空間だった。そんな中で彼女がノックに答える。
「いいわ」
彼女がそういうと、ドアノブをひねる音が聞こえた。すると突然。なにもないはずの空間が長方形の枠を取ったと思うと。それが扉のように開き外から銀髪の青年が入ってきた。服の隙間から見える肉体は見とれるほどに鍛え上げられており、こわもてだが整った顔立ちは美青年と呼ぶには十分なものだった。
彼がこの空間の中に入ってきても彼女は後ろを振り向いたりはしなかった。彼が彼女の方に歩み寄り、ある程度の距離までくると進むのをやめ、口を開いた。
「準備は整いつつあります」
「いつごろ動き出せるのかしら」
お互いに感情を一切現さずに会話を続ける。
「ご命令とあらば今すぐにでも、主人に仕える事が我々の性であり、存在意義なのですから」
随分と堅苦しい言葉を並べるが青年も彼女も口以外の顔のパーツはどこも動いていなかった。
「別にタイミングはあなたに任せるわ、いつどんな時にだれからどんな順番でどう動こうとも結果は変わらない物」
「それでは、近いうちに動きだそうと思います」
「よろしくね、全ての私の悲願に向けて」
「そうですね、我が主の栄光と………」
「八雲をこの世から消すという目的へ向けて………」 (続)
最近、また、小説を書くのを楽しく思ってきました。気のせいでも、文のクオリティが上がって見えたり。読んで下さる方が増えると嬉しいものですねやっぱり。という訳で第参章:凶靭なる刃が終わったので次回はキャラクターの紹介回に行きたいと思います! では「アリーデヴェルチ」!