「…………」
パラノクスは里の商店街を歩いていた。橙色をした柔らかい髪が夏の心地よい風に撫でられる中、彼の表情は相変わらず冷たかった。
梗と戦闘以来、里の住民に聞き込みをしていたのだが中々有力な情報には辿り着けずにいた。やはり妖というだけあり人間からその情報を得るのは難しい。
仕事に期限は決められていないが終わらせるまでは戻ることはできない。龍(ろん)に八雲梗の情報をほとんど聞かなかった事を悔やんでいた。
この日のパラノクスは住人に聞き込むという事はしなかった。ただ漠然と里を歩いているとひとりの少女が向こうから歩いてきた。
見た目的には小学校高学年ぐらいなのだろうか、足取りからは落ちつきが感じられたが着物を着こみ笠で顔を隠しているので誰なのか分からなかった。
距離が縮まると少女がパラノクスの存在に気付いた。黄色い目でパラノクスをみた少女はすぐそこにいった路地裏に続く通路に入り込んだ。
「あいつ……」
パラノクスも少女の後ろを追い通路に入って行った。大通りから聞こえる活気のある声がどんどん小さくなる。狭い通路をでると何も無い広場にでた。
周りからあまり声が聞こえないせいか広場の雰囲気は軽く重かった。
広場に出た少女が後ろを振り向く、そしてパラノクスが追ってきたのに気付くと、また走り出そうとした。
「おい」
一歩、踏み出そうとした少女の肩をパラノクスが掴む。肩を掴まれた少女は驚き、笠をさらに深くかぶり顔を隠す。
「何で、僕から逃げるんだよ。誰だお前は?」
そう言って、パラノクスは持っていた肩を引き少女に自分のほうを向かせる。少女は俯いていてパラノクスからは彼女の被っている笠しか見えない。
「わ、私が何かしたでしょうか……?」
少女が声を震わせながら喋る。パラノクスはそれにお構いなしに話を続ける。
「お前が勝手に逃げたんだろ、さては八雲梗について何か知ってるだろ。情報を漏らさないために梗から俺を避けるように言われたんだろ」
「そ、そんな、言いがかりです。私はそんな人知りません」
後ずさりしながら話す少女の差をパラノクスはすぐ詰める。パラノクスを見上げる少女の黄色い目が潤んでいるのがわかった。
「てめぇ、こう堂々と妖力を見せつけときながら知らないが通ると思うなよ。丁度、今度は妖怪から情報を聞こうと思ってたんだ、おい、お前、八雲梗について何か知ってるか!?」
「し、知りませんってさっきから言ってるじゃないですか」
強気で迫るパラノクスに少女は知らないを通そうとするが情報不足で痺れを切らしているパラノクスは引かない。
「知らねえじゃねぇんだよ!」
パラノクスが少女を打った。笠が吹き飛び少女の顔が露わになる。瞳と同じ色をした髪の毛に色白の肌をしていた。そして、妖力も彼女が放っていた。
「何をするんですか!」
「おめぇが知らねぇって嘘つくからだよ!」
「本当に知らないっていってるでしょ!」
「嘘つくんじゃねぇ!!」
「知らねえっつってんだろ!」
少女の口調がガラリと変わる。その変化にパラノクスは自分の耳を疑い、少女のほうを見ると少女の表情は険しくなり、目つきは鋭くんっていた。
「演出用意御苦労だったな……ラリーパラノクス!」
そう言って少女が自分の喉元に手を駆けると少女の顔が覆面の様にはがれ出した。顔だけではない、全身の皮がはがされていた。
驚いてパラノクスが後ろに距離をとると、少女は自分の皮をマントのように投げ捨てた。
パラノクスの視界が皮膚で覆われる。そしてその先に見えてきた光景は。
「貴様は、あの時の狐」
パラノクスの眼前に立っていたのは梗だった。体も少女の姿からいつもの梗の姿に戻っていた。梗は窮屈だった首と肩の骨を鳴らしていた。
梗の眼前のパラノクスは状況を理解するのに苦しんでいるようだ。
「何故、また僕の前に現れた? なんか得でもできるのか?」
「お前、八雲梗って奴を探してるんだろ」
「……!?」
パラノクスが八雲梗を探しているのは梗自身知っていたのだがパラノクスは梗にその事を聞かれるのに納得いかない。
「何か情報でも知っているのか?」
「俺が、八雲梗だよ」
………場が沈黙した。梗は平然を装っているがパラノクスの顔は完全に何を言っているのか分からないという感じだった。
「お前は何を言っているんだ?」
「お前、俺の名を聞いてなかったろ」
「貴様が俺の探している八雲梗だと言うのか?」
「そうだよ」
「証拠はあるのか?」
「何だ、とりあえず屍にしようとするのかと思ったが案外冷静じゃねぇか、証拠ならあるが」
そう言うと、梗は服の襟の部分を引っ張り自分の鎖骨が見えるようにした。
すると、梗の首元から『八雲』と昔の中国漢字のような字で書かれた刻印が浮かび上がった。
「それは……!?」
「俺が、紫様の式神である証拠だよ、文句あるか?」
パラノクスは少し腕を組んで考えると顔を上げ、梗に問いかけた。
「ますます何故、僕の前に出てきた?」
「あぁ? 八雲の仇となる者の前に八雲が立っちゃいけないのか? 俺にはお前と闘う理由があんだよ」
「なるほど、合点があうな」
手のひらをポンと叩きパラノクスが納得する。しかし、梗はその言動に意外という表情をした。
「最初から俺を消すつもりじゃなかったのか?」
「八雲梗にその気がなければ闘いたくはなかったんだよ」
「式が引くわけねえだろ」
「仕方ないな……」
そう言うとパラノクスが構えをとり妖力を解放する。オレンジ色の妖気がパラノクスを包み込む。それに対応するように梗も桔梗色の妖気を発する。
「確か幻武を使うんだったな」
「今はそう思ってろ」
先手を取ったのは梗のほうだった。パラノクスの懐に入り込むが左腕の利かない梗は必然的に右腕でしか戦闘が出来ない。それを知った上でパラノクスは回避する。普通なら左で追撃をかけるところだが梗の攻撃はここで止まる。
それに反応しパラノクスが攻めに転じる。武術を使うわけではないがそれを補うように妖力をまとわせた拳で攻撃を仕掛けてくる。
妖力の酷使により通常よりも速いスピードの拳が飛んでくる。梗はそれを必要最低限の動きで回避する。
それにより、パラノクスは隙をつくるが梗は攻撃できずに距離をとる。
「今の流れも左腕が使えれば返せていた。いや、まず流れ自体渡さずに攻め続けられた」
「たらればは言いっこなしだよ、それを知った上でここに来てるんだろ?」
パラノクスが挑発的な目で梗を見てくる。梗はチっっと舌を打った。
「そうだよ、それを考慮した上でお前に勝てるって言ってるんだよ!」
梗が出る。パラノクスは梗の攻めを伺おうとして動かない。梗は先と同じように踏み込むと同じように右手で突きを放った。
それをパラノクスが全く同じようにかわした時、それに対応するように梗の左足が跳ね上がる。
左の蹴りがヒットすると同時に右足の蹴りもパラノクスの頭を捉えた。
「<幻武:双頭大蛇(ソウズオロチ)>」
それをくらったパラノクスは一瞬、意識が薄れ動けなかった。
そこに梗の渾身の突きが突き込まれる。妖力を込められていた訳ではないがパラノクスのみぞおちにねじ込むように腹を突いた。
そして、パラノクスは吹き飛ばされる。建物の壁に打ちつけられ、そのまま倒れ込む。
「双頭大蛇……? 僕の知らない幻武だ」
「ったりめ~だ!」
追撃をかけるために梗がまた出る。パラノクスも立ちあがり、それを迎え撃つ。
梗の左足が跳ね上がり、パラノクスの頭を襲う。
それをパラノクスはガードしようとするがその蹴りの軌道は空中で変わり、膝へのローキックと変化した。
空中で蹴りの軌道を変える技、<幻武:雷電(ライデン)>。パラノクスに初めて使う技だったのだが。
「止めた……!?」
パラノクスのガードも下段に変化していた。軌道の変わった左の蹴りはパラノクスの腕に止められた。
「初見で反応しやがったが……まだ、流れは俺だ」
その状態で梗はパラノクスの顔面に突きを放つ、左腕をガードしていた腕でその突きをガードするために顔の前に構える。
その突きをガードしたと同時にパラノクスの膝を梗の右足の蹴りが捉える。
パラノクスの体勢が崩れたところに梗のさらなる波状攻撃がかかる。
右手と両足を駆使した鮮やかな連鎖攻撃が的確にパラノクスを襲う。
パラノクスはいくつかガードするが、それでも半分以上の攻撃をもらっていた。
「<幻武:三掌連(サンショウレン)>!」
パラノクスのガードの上から三掌連を叩き込む、三撃目の衝撃でパラノクスのガードが弾き飛ぶ、そして、パラノクスの体は宙に舞う。
梗は一度打ち切った右腕を引きなおし再び構え、妖力を集中させる。
「<幻武“奥義”:虎波(コハ)>!!!」
妖力を集中させた拳を思いっきり振りかぶり突きだす。
命中と思いきやパラノクスが大きな声で叫んだ。
「『リバース・クロック(逆行時計)』、運命はここまでだ!」
その瞬間、二人の動きが完全に停止する。
パラノクスが能力を発動させたのだ。
「危ないところだった。……どうだい? 誰かに支配されている気分は?」
「てめぇ……!」
「さてと、僕は何度でも時を戻すことができる。僕にとって最良の結論にたどり着くまで、何度でも、何度でも、時は巻き戻るよ……」
パラノクスがまた笑みを浮かべると高らかに宣言した。
「時は巻き戻るっ!」
二人の体が逆再生を始めた。今回の逆行も逆らう事が出来ない。
そして、お互いに臨戦態勢に入るところまで時は巻き戻った。
すると梗はこの時間再生はふつうの物ではない事に気がついた。使用した妖力は減っていて動いた分の疲労は戻っていなかった。
「僕の時間逆行に干渉したものは時間を遡るだけで体に受けたダメージや使用した妖力はもどらないんだ。当然、僕も同じ条件だけど、時間逆行を考慮した戦闘経験はこっちが圧倒的に上だ。さて、何回目まで結論に逆らえるかな?」
「上等……!」
そう言い張り、梗が踏み込む、今度は最初から攻める気で踏み込む、パラノクスはその攻撃をかわすが、連続攻撃の全てを避ける事は出来ず、次第に体勢を崩していく。そして、あきらからに体がぶれたとこに梗が虎波を叩き込む。しかし……。
「『リバース・クロック』」
「……ッチ」
その攻撃はパラノクスによって止められてしまった。
「わかったかい? お前は既に僕の運命という手の平の上で踊るマリオネットなんだよ、お前がどうあがこうと僕達が辿り着く結論は僕の勝利、確定事項だね、さあ、次はどう踊ってくれるんだい? 時は巻き戻る」
再び、時間は巻き戻り、さっきと同じ様に戻った。パラノクスは人差し指で梗を招くように挑発しながら言った。
「さあ、どっからでもかかってきなよ」
pixivに作品を投稿した後、モチベーションがさがる事故が起こりましたがなんとか書ききれました。よければまだ読んでない人はそちらにも目を通して頂けると幸いです。