【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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第五刻:幻想の刻

「どこからでもかかってきなよ」

 

 生意気に人差し指を立て、挑発するように敵に不敵な笑みを浮かべながらパラノクスは橙色の髪をなびかせていた。相対する梗は呼吸と精神を整えながら次の攻撃に備えていた。

 

(時を巻き戻す能力……一体、どこまで適用することができる? 戻せる限界は、戻そうと思ってから戻るまでのラグは連発の限度はあるのか?)

 

 思考をフル回転させながら梗は考える。それをパラノクスはただ待つ、結論を支配できる自分の能力に対する絶対的自信がそうさせていた。

 

「どうした、どうした? さっきまでの威勢は!? まさか、もうお手上げか? 降参か!?」

 

 そのセリフに反応するように梗が前にでる。今までより相手の間合いに深く右足を踏み込むと、左足がパラノクスの顔に跳ね上がる。

 パラノクスはそれをしゃがんで回避する。大振りな蹴りをかわされた梗は体勢を崩す。そして、その体勢を支える右足のすねにパラノクスが蹴りを入れる。

 

「ぐっ……」

 

 梗がさらにぐらつくが右足だけで踏みとどまる。だが、まだ左足を地につけられていないところをパラノクスが狙う。

 飛び上がるように拳を梗の喉元めがけて放つ。しかし、その攻撃は届かない。

 

 

 ゴッ……

 

   

 鈍い音と共にパラノクスは吹き飛ばされた。かわされた左足が戻ってきて踵(かかと)がパラノクスの胸にヒットしたのだ。

 吹き飛ばされたパラノクスは壁に打ち付けられると苦しそうに咳き込んだ。

 

「どうやら、戻そうと思ってから実際に時が止まり、戻るまでには時間がいるみてえだな」

 

 そして、梗がさらに追撃をかけようとする。………が。

 

 

「調子に乗るなよ! 狐がぁぁ! 逆行時計(リバース・クロック)!!」

 

 二人の動きが止まる。パラノクスは、まだ荒い呼吸と整えると話しだした。

 

「頭にきたぞ……! 生意気に僕の能力を探りやがって、奴隷が支配者に逆らってんじゃねぇよ! ああ、本気で頭きた。徹底的に叩き潰す!」

 

 そうパラノクスが叫ぶと彼の手が光を発し始めた。そして、もう一度強く光ったと思うと、梗の後ろにバスケットボールより一回り大きい無数の弾幕が配置された。

 

「お前が、さっき飛んできたルートに弾幕を設置した。回避は不可能だ、この弾幕は時を戻しても消えねぇ、さあ、醜く踊りやがれぇ!! 時は巻き戻る!」

 

 逆らいようの無い力に体の中心が引っ張られる。そして、梗の背中に弾幕が連続でヒットする。しかし、痛みは感じない。そして、逆再生が終わった時、パラノクスは不気味な笑みを浮かべた。

 

「あれだけの数を喰らったんだ、もしかしたら死ぬかもな……」

 

 そう言ってパラノクスが指をはじいた瞬間、梗の背中を焼けるような激痛が襲った。

 

「ぐぁぁぁぁぁっっはっ……!!」

 

 苦痛に顔を歪ませ、その場にうずくまる。弾幕を受けた背中は酷く焼け焦げ、煙を上げていた。激痛による汗と押さえられないよだれが口から垂れる。その様をパラノクスは満足気に見ていた。

 

「いいね! 素晴らしい! その顔だよ、顔! 激痛に歪んだ形容のし難い醜い顔、それでこそ運命の奴隷のする表情だよ……」

 

 荒い息を吐く梗にその言葉に返す気力はない。ただうずくまる梗にパラノクスが歩み寄る。

 

「もっと、足掻くと思ったが所詮、こんなものか。八雲といっても式にすぎん、とっとと片付けるか」

 

 パラノクスが梗の脇腹を蹴る。その衝撃で梗は転がり、仰向けの体勢になる。そしてその腹をパラノクスが踏みつける。

 

「どうだ! 醜きマリオネット! 所詮、運命なんて言葉は僕の手のひらの上で起こる茶番劇にすぎないんだよ! ……最後にひとつ、言い残したい事は無いか? あぁ? 泣いて許しでも乞うのか? もしかしたら命ぐらいは助かるかもな! ハハハハハ!」

 

 

「……めい…だ……とか……」

 

 

「あ? 聞こえねえな? もっと腹から声出せやゴラぁ!」

 

 そう言ってパラノクスがもう一度強く、梗の腹を踏みつける。口から血を吐いた梗はパラノクスの足を払いのけ、力なさげに立ちあがりながら言った。

 

「運命は手のひらの上で起こる茶番劇だ? てめえが運命の支配者だと………ほざいてんじゃねえよ!」

 

 その咆哮で一瞬、空気が振動したように感じた。パラノクスはその気迫に押させ、反応出来ない。

 

「どうせ、その能力で自分の失敗を無かった事にして、失敗知らずの人生とやらを歩んできたんだろ? 反吐(へど)が出る野郎だ……」

 

 少しずつ、梗の呼吸を落ちついてきた。梗はまっすぐにパラノクスの瞳を覗き込み怒鳴り付ける。

 

「てめえの目の前に転がってる。てめえの言う正しい正解を創り上げるのに何人の奴らが間違った失敗を積み重ねてきたと思ってんだ! それをやれ、自分の都合だの、損だの得だの言って結果を捻じ曲げやがって……お前は運命を操ってなんかいねえ、運命から逃げてるだけだ! 失敗を知らねえ奴に成功を語れるもんか!」

「んだと! お前、今、自分が置かされてる状況を理解してんのか? キレイ事ほざいてんじゃねえぞ狐がぁ! 何偉そうに俺に説教垂れてんだ!? そんなに言うなら逆らってみろよ! 足掻いてみろよ! 覆してみろよ!!!」

 

 口調が僕から俺に豹変したパラノクスには目もくれず梗が拳を胸の前にかざすと鮮やかな桔梗色の怒りが梗の拳を包んでいた。

 

「今から、闘うのは、お前自身だ……運命からは逃れられない、なら、自分で掴みとるしかねえよな!? 精神の幻想へ、案内しよう……」

 

 梗が握っていた拳を天にかかげながら開くと、その光は辺り一帯を包み込み視界を覆っていった。

 

 

 

 

 

 限りなく続く真っ白い景色、足元には白い煙が漂う、気をつけなければ気が狂いそうな無の空間に二人はいつの間にか立っていた。

 

「なんだ、ここは……」

精神の幻想(マインドイリュージョン)。形容するなら精神の具現化する世界。さあ、存分にやろうか、時間はたっぷりあるんだからな……」

「そうだな……確かに時間はたっぷりあるな……フフ」

 

 今度、先手を打ったのはパラノクスのほうだった。精神の幻想でもいつも通り動けている。梗は両手を構え、それを迎え撃つ。

 妖力を宿した両手を同時に放つ。それを梗は体を横に動かし回避する。そこから死角から突き上げるように右手の突き。

 しかし、パラノクスはそれを両腕を交差させガードする。梗は、右足でパラノクスの左膝にローを入れる。その痛みに顔を歪ませたパラノクスだが、交差させていた右手の裏拳で梗の顔を狙う。

 それを、梗は右手で受け止める。そして、梗はガードの甘くなったパラノクスのみぞおちに右の膝を叩き込んだ。

 

「ぐはぁぁ……っ」

 

 パラノクスが息を吐き出す。後方によろめいたパラノクスに追撃をかけるように梗が跳ね上げた右足をもう一度強く踏み込み突きを放つ。

 

「ぐ……逆行時計(リバース・クロック)!!」

 

 

 バキィィィ

 

 

 梗の左の拳は止まることなくパラノクスの頬を思いっきり打ち抜いた。パラノクスは勢いよく吹っ飛び十数メートル後方に叩きつけられた。

 

「がっ……がはっ……何故だ……? 何故、時が戻らない…ごふっ」

 

 咳き込みながらパラノクスが己の置かれている状況の困惑する。その前に梗が立ちはだかりパラノクスを見下す。

 

「あ~動く、動く、ばっちり左で殴れたわ、超スッキリ」

 

 左の肩をグルグル回しながら梗が詰め寄る。パラノクスは梗を睨む。

 

「何をした? 何故、時が戻らない!」

「時が止まってるのが、そんなに不思議か?」

「なに………?」

「止まってるんだよ、時が。お前も気づいてただろ? 時が戻る時、まず始めに時間の流れがストップしてから時が巻き戻る。つまり、一瞬だが時は止まっているんだ。でも、逆行の干渉者達はその静止時間を体験できる。何故か? 答えは単純明快、精神が零の時の中で動いているからだよ。精神は動かない、零の中でも動く事が出来る。今、精神の幻想は止まった零の時の中にある。0は1にもならなければ-1にもならない。時をマイナスにするお前の能力は使えないって訳だ」

 

「止まった……時の………中?」

「そう、これが精神が見せる幻想。幻想の(とき)だ。万策尽きたな、ラリー・パラノクス」

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そう叫んだパラノクスは地面を思い切り叩きつけた。肩で息をする彼の顔には悔しさと憎悪の表情が濃く現れていた。

 

「もう、お前に勝ち目は無い。明らかな敵とはいえ、限りある生命。降伏をすれは命まではとらない。引け」

 

 

「………誰に口を聞いている?」

「!?」

 

 パラノクスは立ち上がり、今までで一番の眼光で梗をにらんだ。

 

「俺は、絶対的主の為に貴様を狙っているのだ。主以外の命で俺は引かぬ! それに、俺にいつ策がつきたのだ」

「お前に勝ち目があると……」

 

 梗が問うとパラノクスの両手が光り出した。

 

「弾幕ごっこ……という気安いものではない。本気の弾幕戦。認めよう、拳の闘いでは貴様に分がある。だが、弾幕戦ならどうかな?」

「闘いにおいて、俺に得意不得意なんてものは存在しない」

 

 梗も札を取り出しパラノクスに応える。その札自体が妖力を宿している。

 

「<時壊弾(じかいだん):ミステリーダイヤル>」

 

 楔型の弾幕が一斉に梗めがけて飛んでいく。それを梗はスペルカードで対応する。

 

「<夢符(むふ):桔梗色の旋風>」

 

 巨大な桔梗色の竜巻が次々と襲いかかる弾幕を弾き飛ばす。竜巻が消えるとパラノクスが次の弾幕を放つ。

 

「<時壊術:滅針包囲弾(めっしほういだん)>」

 

 そう唱えると、一瞬で梗の周りに針の弾幕が現れ、梗の一点めがけて放たれる。

 それを梗は舞を舞うように美しく空中で回避する。しかし、全力で避けているのは確かで、僅かに一発、梗の頬をかすめていった。

 着地した梗は被弾した頬を指でなぞる。その部分は弾幕により焦げ、黒い線を引いていた。

 

「やるな……<夢符:赤炎狐火(せきえんきつねび)>。かわせるかな!?」

 

 今度は梗がスペルで攻める。鮮やかな赤色をした炎が濃い密度でパラノクスを襲う。

 初めは回避していたパラノクスであったが、避けるのが厳しいとみると、弾幕で対応してきた。

 

「<時壊弾:トラベリーショット>」

 

 先ほどまでの鋭い形の弾幕とは打って変わりごく普通の丸いオレンジ色の弾幕が狐火と相殺していく。

 後に放たれた分、数の追いパラノクスの弾幕が梗を襲う。

 

「<夢符:弐重結界>!」

 

 結界を張り防御する。一進一退の攻防、気の抜けない状況だ。

 

 

「……強いな、弾幕戦なら互格か、これは出し惜しみをしている暇はなさそうだ。おそらく使う事になるだろう………あの(スペル)を……!」

 

 

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