【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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ラリー・パラノクスを倒し八雲の忍びよる驚異を退けた梗。しかし、これは災厄の予兆にすぎなかった………。



第七刻:過去

「お~い、佐助~」

 

 疲れの抜けきらない声で佐助に呼びかける。佐助は足を止め声の主である梗のほうへを振り向いた。

 先の戦闘の代償を未だに少なからず負っている梗に対して佐助はまったくの無傷だった。

 

「討伐御苦労さま」

 

 佐助が梗の労をねぎらう。

 

「そっちはどうだったんだ」

 

 梗は話の腰を折らない程度に興味の無い話題を振る。

 

「ああ、余裕だよ、余裕。話にならなかった」

「そうか、じゃあ一件落着だな」

「お前、大分疲れてるんじゃないか?」

 

 佐助が梗の顔を覗き込むようにして聞く。確かに梗の顔には本人らしからぬ疲労感が見え隠れしていた。

 

「まあ、敵が敵だったわけだし、苦戦したからな。家に戻ってゆっくり休みたいんだがそうもいかないんだ」

「何かあったか?」

「おおかたその解釈で構わないだろう。紫様に聞きたい事が出来たんだ」

「そうか、あまり無理はするなよ」

 

 短い会話をきりあげるとふたりは正反対の方向へ歩き出した。

 

 

 

 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●

 

 

 

「久しぶりじゃないか? こうやって3人で食卓を囲むのは」

「そうかもしれませんね」

 

 家族サイズのテーブルの上には純和食の夕食が3人分、分けられていた。紫、藍、梗の3人は食べ物の前に手を合わせるとほぼ同時に箸を取り食事を始めた。

 梗が八雲家の夕食からしばらく席をはずしていたのもあり。積もる話が語りあわれた。

 食事が終わり、藍が3人分の食器をもって席を立つと紫はスキマを開いてどこかに行こうとした。

 

「紫様」

 

 梗の呼び掛けに紫の動きが止まる。

 

「どうしたの梗? 藍の手伝いはしなくていいの?」

「お聞きしたい事があります」

 

 その声を聞いて紫の表情がしまる。スキマに入りかけていた状態を戻して再び座る。

 

「何かしら」

「紫様を狙う輩と交戦しました」

「そんなのざらにある話じゃない。危ない名前でも聞いた?」

「主と呼ばれる者の名前は分かりませんでしたが、龍(ろん)という者がいるのは把握しています」

「龍!?」

 

 その名前に紫が驚く。何か知っているのだろうか。梗が紫の反応を伺っていると紫はひとつ息を吐いた。

 

「藍の片付けが終わったらあなた達に話すわ、梗、手伝ってきなさい」

 

 紫の声掛けに梗が無言で立ち上がる。藍がいった方向に向かっていった。しばらくすると食器を洗う音がふたつ聞こえてきた。

 片付けを終え、再び3人でテーブルを囲んだ。藍はイマイチ状況を飲み込めていない様子だ。

 

「紫様、何が始まるんですか?」

「藍、そして梗。これは大事な話だからよく聞いてほしいの」

 

 その一言で2人の目から緩みが消え、真剣な表情で紫の顔を見つめた。

 2人の視線が自分に向けられているのを確認すると、紫はゆっくりと話しだした。

 

「これは今から数千年前。そうね、あなた達は生まれていなかったでしょうし、幻想郷もその頃は無かったわ………梗」

 

「は、はい」

 

「あなたの言う龍はおそらく彼女の式よ」

 

「彼女?」

 

「ええ、数千年前、私が封印した大妖怪、出海菫(いずみ すみれ)の式。おそらく私が知る限り、現在の幻想郷で最強の妖獣でしょう」

 

「え!?」

 

 梗と藍が一斉に声を上げた。幻想郷最強の妖獣といえばそれこそ紫の式である藍で通っている。その幻想郷最強の称号をあたえたのが紫なのだから驚くだろう。

 

「な、なんでそんな奴が今まで表に……」

「出で来なかった訳じゃないわ」

 

 梗が言いきる前に紫が口をはさむ。おそらく梗達が思っている事はお見通しなのだろう。

 

「出海龍(いずみ ろん)。それが彼の名よ。種族は白狼、私が菫を封印した時には既に彼女の式だったわ」

 

「え、ということは……」

 

「おそらく、彼は最近、ここに来たんでしょう。そして、その彼が私を狙うという事はつまり、主人が目覚めたのでしょうね」

 

 場は静寂につつまれ、なんとも言えない重い緊張感が場を支配している。それを破ったのは梗だった。

 

「やつらの狙いは……」

 

「さあね、私を消す事だけでしょうね、彼女にそれ以外事を考えろってほうが無理な話だわ……それにしても、この状況で目覚めたのね」

 

 そう言って紫は梗と藍の顔を交互に見渡した。そして、再び少し下を向くとまた、話しだした。

 

「数千年前、私と菫は仲が良かったわ、でもお互いにある日突然。能力に目覚めたの」

 

「それは、【境界を操る程度の能力】のことですか」

 

「ええ、彼女もまた別の能力を……でも、その時から少しずつ菫はおかしくなっていってしまったの……」

 

「おかしく……?」

 

「野心を抱くようになったのよ。そりゃ、私だって自分の能力に多少なり自信過剰になっていたけれどもあの頃のこの力はとてもちっぽけな物だったの。そして、段々、二人の仲もぎくしゃくしだしたの」

 

 紫は少し悲しそうな口調で過去の自身の話を続ける。

 

「私が自分の能力を少しずつまともに仕えるようになった頃。最初の式に出会ったの。彼はとても強かったわ、そして同じころ菫も式を持ったの、それが龍。今から二千年以上も前の話よ」

 

「二千年……」

 

 梗は自分が式になる以前の記憶がないが紫から年齢的には千歳前後と言われていた。そう思うと話の大きさに少し頭が痛くなった。

 

「そして、式の為に妖怪と人間が共存できる幻想郷を作ろうとしたわ。でも、その上で菫は大きすぎる障害だった。だから消したの」

 

「封印……ですか」

 

「菫も私の事を邪魔に思っていたみたいだったから両者納得の上での闘いだったわ。あの頃の龍もかなり強かったけど私の式はそれ以上。話にならなかった。でも、菫を封印する際、私は龍を封印しなかった」

 

「何故ですか?」

 

「式に頼まれたのよ、彼にあそこまで頼まれたら私は断れないわ。彼は言っていた「あと100年もいらない。それだけであいつは最強になる。それまで待ってやってほしい」ってね。変な情を持っちゃったのよ私も」

 

「百年……」

 

「そして、二千年以上の眠りから目覚めた菫と龍。正直、どれほどのものか恐ろしく考えたくもないわ。……正直、あなた達二人でも私の初代式にはまだ及んでいないの……別にあなた達を彼より劣ってるとは言わないけど、今のあなた達じゃ龍にも勝てないわ」

 

「………」

 

 藍と梗が俯いて黙る。自分の主にここまではっきり言われると流石にこたえるものがある。

 

「過去に紫様が封印した妖怪、出海菫が復活と同時に幻想入りし、その式である龍もここにきたと……」

 

「そう言う事よ」

 

 梗の確認に紫が首を縦に振る。

 

「そいつらが紫様の命に本腰を入れるのはいつ頃ですか」

 

 今日一番の鋭い眼光で紫を睨みつけるように見つめる。紫は少し考えた後、梗の顔を見直して答えた。

 

「彼女は目的の為なら手段は選ばないけど、時間は気にしない子なのよ、自分と龍のふたりだけというのは無いと思うわ、以前、闘った時も龍自身が4人の式神を使役していたから。今回連れてきている戦力を全て潰されたら彼らも腰を上げるでしょう」

 

「それにはどれくらいかかりますか」

 

「敵の弾の数がわからないから何とも言えないけど少なくとも……今年の夏には龍が出てくるわ」

 

「そうですか……」

 

「……ファァァ~~あ、最近、真面目なシリアルをやってなかったから疲れちゃったわ、梗も今日は早く休む事相当疲れてるでしょ」

 

 欠伸をしながら紫が梗に言う。そう言われ一瞬キョトンとすると梗もおおきな欠伸をした。

 

「そうですね、じゃあ、帰ります」

 

「あら、ここは八雲家よ、八雲であるあなたがここで寝ても誰も文句は言わないわよ」

 

「いえ、しかし、最近、整理してなくてとても寝れる部屋では……」

 

「なら、私の部屋で寝ればいい」

 

 藍がふらっと、横の梗を見ながら言った。

 

「だっ、大丈夫です! 自分の部屋で寝るので! では失礼します!」

 

 軽く頬を赤くしながら立ち上がると、梗は縁側に出ていった。

 

「こういうからかい甲斐があるところが可愛いのよね……」

「そうですね……」

 

「ふふっ」

 

 藍と紫は服の袖と扇子で口元を隠しながらしとやかに笑った。

 

 

 

 

 

【第肆章:運命を躍らせる者】(完)

 

 

 

 

 

「パラノクスは死んだ」

 

「何だよ! じゃあ、俺の負けじゃねえかよ!」

 

 龍がそう言うと青髪の青年は悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

「ざまあみろ!」

 

 その光景を赤髪の青年は腹を抱えて笑いながら見ていた。その態度がかにさわった青髪の青年が赤髪の青年に額をぶつけて突っかかってきた。

 

「あんだてめぇ、やんのかごらぁ!」

「上等だ、やってみろよ、ほら、ほら」

 

 額を付けられている状況から赤髪の青年はベロを出して更に青髪の青年を挑発する。

 

「てめぇ!!!」

 

 怒りが低い沸点に到達した青髪の青年が左の拳を思いっきり振り被り赤髪の顔面に打ち抜こうとした時だった。

 

 

「やめろ」

 

 龍が振り被った左腕をつかんで静止させた。

 

「離せ! 俺はこいつを一発ぶっ殺さねえと気が済まねえんだよ!」

 

 今度は龍のほうに振り向いて青髪の青年が龍へ声を上げる。

 

「やめろと言ったのが聞こえなかったのか!!?」

 

 しかし、龍がドスを聞かせた声で怒鳴ると、青髪の青年は縮こまり、苛立ちを隠せない顔をしたまま元の位置に戻っていった。

 

「お前もだ、むやみやたらに相手を煽るんじゃねえ」

 

「へ~い」

 

 赤髪の青年にも注意を促すが、彼は龍に目を合わせず適当に受け流した。

 

「でだ、話を戻そう。パラノクスが殺されたのは八雲梗にだ、本人に確認を取ったところ奴はこちらと真正面からぶつかり合うらしい」

 

 自分が始末したという事実を隠し龍はパラノクスの死を全員に伝えた。

 

「本人に確認ということは、龍、お主その梗と接触したのか?」

 

 白髪の男が落ちついた口調で龍に聞く。

 

「そうだな」

「じゃあ、なんでそこで殺らなかったんだ? お前なら瞬殺だろうに。何故、後に回すなんてクソ面倒臭いことを……」

 

 黒髪の男が間髪いれずに聞くが、龍は自分がやたことは正しいと思っているので特に何も起こらなかった。

 

「俺がやったら、お前ら絶対文句言うだろ?」

 

「確かに」

「こいつが」

「言うな」

 

 赤、黒、白髪の男達が一斉に一人のほうを向いた。

 

「俺? まあ、そうだけど」

 

 青髪の青年はキョトンとした顔でそう言った。

 

「順番はどうでもいいんだ、結果さえ手に入れられれば……で、次の任務を任せる奴だが」

 

「誰にするんだ?」

 

「構図(コート)にやらせる」




キャラの名前を考えるのって本気で難しいです。名前にちゃんと意味を持たせたいけどそうするとあんまり格好良くならない……。名前がすぐ思いつく人は凄いと思います。
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