【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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構図が放った異形の刺客に対し梗は静かに瞳を閉じた。その瞳の奥に写っている物とは……。



第二刻:不思考

 刹那、怪物は確かに自分の目でそれを目撃し、自分の思考でそれを理解した。

 まず始めに違和感を感じたのは自分の手足の先端だった。違和感の元を確認するためにそこへ目をやると両手足合わせて合計20本の爪が一斉に反りかえり自分の指先からはじけ飛んだのだ。

 想像を絶する痛みに身を悶えようとしたが自分の体は思うように動かず四肢がそれぞれ外側へ逆らいようのない強大な力で引っ張られる。肩、肘、手首、指の関節が全て外れ終わると自分の足と腕を胴体をつなぐ関節部分に亀裂が少しずつ入り、自分の四肢を根っこから引き抜いたのだ。

 四肢を失い胴体だけとなった怪物は形容しがたい悲鳴を上げながらのたうちまわる。引き抜かれた四肢が生えていた部分からは勢いよく鮮血が吹き出し辺りに紅い水たまりを作っていく。

 しばらくのたうちまわっていると遠くから誰かの足音が近づいてきた。怪物は辺りを見渡すがそこはいつの間にか一面の闇となっていて足音がどの方向から来ているのかすらも分からなかった。しばらくすると、足音がぴたりととまり何かが怪物の肩を掴み持ち上げた。

 その何かの息がかかるほどの高さに持ち上げられた怪物だったがその何者かが誰なのかは闇に包まれていて分からなかった。逆に怪物の目に留まったのは刀身数10cmのナイフだった。何物かはそのナイフを握りしめると怪物の顔にゆっくりと近づけてきた。

 必死にあがこうとするが四肢をもがれた怪物はただ自分の体をゆらすことしかできなかった。

 ナイフから漂う金属の匂いが鼻をつく距離までくると何者かはナイフの矛先を怪物の(まぶた)に合わせた。そこからゆっくり、ゆっくりと瞳の中に押し込みそして…………。

 

 

 

 

「ふぅ………」

 

 梗は少し眺めを吐いた。自身の目の前には白目をむきながら口から泡を吹いて倒れている異形の怪物がいた。

 外傷がないどころの問題ではない。まず、梗は怪物に触れてもいなかった。ただ、一度瞳を閉じ、その後、開いた瞳で強く怪物の瞳を除いただけだった。

 

「……な、なにがあったんだ」

 

 目の前の状況についていけない佐助が梗を問いただす。梗は佐助の方を見ると何事もなかったように口を開いた。

 

「ちょっと、悪い夢を見てもらっただけだよ」

「は?」

 

 焔と佐助がそう言ったのはほぼ同時だった。確かに今、梗は夢と言ったが梗自身はともかく、怪物は目を閉じていなかった。

 

「共有したんだよ、思考を、俺が頭の中でイメージした光景をあいつに見せたんだ。四肢が引きちぎられ、目をえぐられる夢をな」

 

 梗がそう言ってふたりの方を見ると、二人は口をあけて考えるのを停止させていた。

 

「よ、ようするに、お前がイメージしたビジョンがあいつの頭の中で再生されて、そのイメージであいつは発狂したってことか?」

「ほとんどオウム返しじゃねえか、そう言う事だよ」

「じゃあ、お前も四肢を引き抜かれて目をえぐられたのか?」

「ああ」

 

「うわぁぁぁ~~~」

 

 突然、焔が奇声を上げたので、二人はビックリして焔の方をみた。

 

「どうした?」

「想像しちゃった……」

「………」

「………」

 

「……まあ、俺も見たっていっても俺はイメージだってわかってるからな、ただ、かけられた相手はイメージだってわかんねえからな、痛覚には届かないにも精神はかなりへばるだろうな」

「それも、夢を魅せる程度の能力か……」

不思考の共有(シェア・ネガティブ)ってところか」

 

 うなだれている焔をよそに二人は倒れている怪物に歩み寄り、首をひねった。

「さて、今回はどんな刺客に狙われたんだろうな?」

「さあな、こんな妖怪はいねえからな、何者かによって生み出された可能性があるな……」

「てことは、こういう怪物を飼ってる相手ってことか? かなりいかつそうだな」

「まあ、何にせよ、こいつがきた道を辿れば何か得られるだろ」

「辿るって分かるのか?」

「おま、狐の(ここ)をなめんなよ」

 

 

 

 

 

 構図は椅子の背もたれに体重を預けだらしのない格好で休憩していた。

 すると、阿求がやってきて、自分の前が見えなくなるほど大量の書籍を構図の机の上に置いた。

「お客さんから予約が入ったから順番を入れ替えて、これを複製してちょうだい……」

「………」

「ちょっと……仕事よ、仕事」

 阿求の声掛けにも構図はどこか遠くを見据えながら口を半開きにしてボーっとするだけだった。

「……もう、明日の朝までにはお願いね」

 諦めた阿求が自分の持ち場に戻っていった後もしばらくボーっとしていた構図だったが、突如、何を思ったのか飛び起きると、屋敷の奥から特大キャンパスを引っ張り出し、自分の前にセットすると、両手に筆を握り荒ぶる勢いで描き殴りはじめた。しばらくもしない間にそれは形になっていった。

「………よし、最初からこうすればよかったんだ。ほら、さっさと行ってきて!」

 主にそう呼びかけられた者達はどこかへと消えていった。

「……もしもの為にあれもやっておくか、ファンを利用するのはあれだけどね、仕事のためだから仕方ないね。え~と、いつも私の作品を読んでいただき……………」

 

 

 

 

 

 

「なあ、本当にこっちなのか?」

「うるせえな、俺を信じろって」

「いや、だって、どんどん里に向かって言ってるぜ?」

 

 梗の後ろを歩く佐助から思わず不満の声が漏れた。怪物の来た匂いを辿り、敵の本拠地に乗り込もうと考えたのだが、人通りの多い人間の里へ梗が向かっているので佐助は心配になってきていた。

 

「おい…梗さ~」

「……待て」

「ん?」

「間違いなかったみたいだな」

 

 梗が見据えている先に佐助が目をやると再び、怪物が2体、自分のほうへ向かってきていた。

 先ほどの怪物は普通の人型に見えるのだがやはり、体が所々つぎはぎで違う肌の色をしていた。

 梗と佐助を見つけるなり、その2体はそれぞれ梗と佐助に飛びかかってきた。

 2人はそれを受け止め跳ね返すと、構えをとった。

 

「1人1体でいいか?」

「別に~こんなやつら俺1人で十分だけど」

「ああ、そうかい」

 

 そういいながらも先にでたのは梗だった。左腕の復活により攻撃の流れに隙のなくなった梗はあっとうまに怪物を追い詰める。

 フィニッシュの為に梗が少し為を利かせて突きを放ったが、溜めによる時間のロスによりその突きに対して怪物はカウンターを合わせてきた。

 たがいの腕が交差し、怪物のカウンターが梗の顔を捉えると思った時、梗は体を倒し、カウンターを回避した。宙に浮いた梗のからだが並行になりかけたとき、梗が両足を開き、反時計回りに回転させると、右足の蹴りが怪物の顔面を蹴り上げ吹き飛ばした。

 その回転の勢いのまま、空中で体勢を立て直した梗が何事もなかったように着地すると同時に吹き飛ばされた怪物が地面に叩きつけられた。

 

「<幻武:螺旋(らせん)>」

 

 そう言って梗は怪物にとどめをさす為に大地を蹴った。

 

 

 一方の佐助はしばらく梗の闘いぶりをただ傍観していた。

「へ~<幻武:螺旋>。ね~」

 

 あまりにも長い間傍観していたため、いつのまにか近づいていた怪物が思いっきり拳を振り被って佐助の顔面めがけて振り抜いた。

 しかし、怪物に手ごたえは無く。辺りを見渡すといつの間にか佐助は自分の背後に回っていて相変わらず向こうの闘いを眺めていた。

「さすが梗だわ~。闘い慣れてるね~」

 

 お互いに背を向けている所から怪物が佐助の後頭部めがけて裏拳放つ。

 しかし、怪物の攻撃は再び空をきり、怪物は佐助の姿を見失った。

 

「あ~でも、俺ならそこからあ~するな~」

 

 声のする方を見上げると、佐助は怪物の頭の上に乗っていた。

 その態度に腹を立てた。怪物が自分の頭の上、佐助のすねあたりを振り抜いたが、また、その攻撃は空を切った。

 そして、今度、佐助が自分の目の前に現れたと思うと、怪物の頭に何かが落ちてきた。

 たらいだった。見事にたらいを喰らった怪物を見て佐助は腹を抱えて爆笑した。

 

 完全に頭にきた怪物が佐助を睨みつけると佐助もようやく真面目に構えを取った。

 怪物が両腕のラッシュを容赦なく放つが佐助はそれをすべてギリギリのところで華麗に回避する。

 怪物がこれでもかと思いっきり振り被り渾身の突きを放つが、佐助はそれに対し華麗にカウンターを合わる。顔面に拳を思いっきりもらった怪物の鼻は折れ鼻水がだらしなく垂れる。それを見て佐助が再び爆笑する。

 

「っっっはははっ。はぁ~面白い。お腹痛い……まあ、そろそろ、真面目になりますか」

 

 しまりのない表情をなんとかまとめると、細い瞳を見開き漆黒の瞳で相手を見据え佐助が前に出た。

 梗のそれと何ら遜色ないスピードで攻撃を繰り出す。佐助に怪物は防戦一方である。

 なんとか隙を見つけ反撃を繰り出すが、佐助はそれにカウンターを合わせる。そして、カウンターにひるんだ怪物に佐助は拳を振り被り怪物の顔面めがけて打ち抜く。

 すると、怪物が佐助の目の前に手の平を見せてきた。

 

「へ?」

 

 すると、怪物の手のひらから刀の刃が飛び出してきたのだ。

 佐助の顔まで数cmの所で飛び出してきた刃が佐助の顔を串刺しをしたと思った瞬間だった。

 

「な~んちゃって♪」

 

 佐助は体を後ろに倒し。全身を宙に浮かせるような体勢でそのカウンターを回避した。

 そして、怪物は佐助が体を倒す寸前、彼の瞳が碧色に輝いたのを確かに見た。

 

「確かこんな感じだったかな?」

 

 体が地面に対し並行になる前に両足を開いた佐助は自分の体ごと、両足を反時計回りに回転させ、そのまま怪物の顔面を蹴り飛ばした。

 回転をしながら空中で体勢を立て直して地面に着地した。

 

「<幻武:螺旋>。……なんちゃって。以上、風魔佐助の【真似る程度の能力】でした~」

 

 碧色の瞳を輝かせながら佐助は憎たらしい笑みを浮かべた。

 




色々あって投稿の時間が遅れました。今後、受験がいそがしくなると週一の投稿も難しいかもしれませんが、その時は首を長くして待ってくださるとありがたいです。

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