「まあ、ざっとこんなもんか」
手の粉を払いながら佐助は言う、碧色に輝いていた瞳は徐々にその光を失いいつもの黒い瞳に戻っていた。佐助と梗共に苦戦を強いられることは無く、無傷で怪物達を退けた。既に動かなくなった怪物達を人目のつかない所に片付けると二人はまた、怪物達の親玉の所へ向かいだした。
それから二人の足が人間の里以外の方を向く事は無く、大した時間も有さないまま、二人は人間の里へと足を踏み入れた。里へ入るなり、梗の変化に佐助は首をかしげた。
「なんだ~その格好は?」
「うるせえ、こうでもしねえと駄目なんだよ」
ぶかぶかの黒を主軸とした着物を着こんだ青年の瞳には濃いくまがあり、ただでさえ狐目の影響で良いとは言えない目つきの悪さにはしゃくをかけていた。
日々の修練で磨き上げられた肉体も着物によって隠され、絶世の美男子と謳われるマスクも目の下のくまと着物の影によってその姿は影も形が無かった。
「顔が隠れる影も全ての角度から見られた場合を計算している。………な~んでこうもブサイクに見せる努力をするかね~」
「背の高さまで変えるとなるとリアルな話、骨が折れるんだよ、物理で。この背となると十中八九疑われるんだ。足りない事はあってもやりすぎってことはねえよ」
「そうですかい」
そう言って足を進めていると、それらしき匂いは途絶え、終着点らしきところに行きついた。
足を止めた二人は顔を上げ、辺りを見渡したが、すぐに難しそうな顔をして首をかしげた。
「おい、梗。ここって……」
「確かに、どこからどう見ても稗田家だな」
立派な稗田と書かれた看板とは裏腹に質素なたたずまいで里の一角にひっそりと居を構える。稗田家、二人は今、その玄関前に立っていた。
お互いに顔を見合わせたが、この状況に流石の梗も自身のなさそうな顔をしていた。
「本当にここかよ」
「ま、一応中に入って確認してみるか」
そう言って稗田家ののれんをくぐる。それと同時に梗の姿はいつもと同じそれに戻っていた。
「阿求さん、突然すいませんね」
「あれ? 梗くん? というか、突然じゃなかった試しは無いんだけど?」
「あれ? そうでしたっけ?」
頭の後ろに手をまわして苦笑いをする梗。当然、佐助はこういう所に足を踏み入れないのだが、何故か亜急とは面識がある。
「で、今回は何の用なの?」
「ええ、少し変な輩に絡まれ………」
「あ? どうした梗?」
後ろから佐助が梗の顔を覗き込む、梗に振り回され若干不機嫌な様子の佐助だったが、梗の顔を覗き込んだ瞬間、佐助の表情も締まった。
「………悪いな佐助、ここまでひっぱておいてなんだが、急用ができた」
「あぁ~~ん? まじかよ、てか何の用だよ」
「藍様から呼び出しがかかった」
「………………はぁ、しゃ~ねえな。行ってこいよ、幻影の九尾さんよ」
片手で額を抑え込み片目で覗き込む感じで佐助がはにかむと、梗は稗田家を後にしていった。
それから、梗が藍の待つ八雲家に到着するまで、そう時間は必要無かった。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○
「紅魔館でパーティ?」
「ああ、なんでも館の主が愛読している作品の著者を招くそうで今日突然決定したそうだ」
「今日? よくそんな早く話が回ってきましたね」
「さあ? 天狗でも使ったんじゃないか? 時間はまだあるが支度しておくんだぞ」
「はあ」
その後、支度を整え、焔に話を通し自宅に待機させてから紅魔館に足を運ぶ頃にはすっかり夜になっていた。
「ちょ、本当にこんな格好で行くんですか?」
「当たり前だ、パーティなんだからそれ相応の格好をしないと」
「動きにくいったらあらしない……」
渋りながらも梗は紅魔館の重い扉を開いた。
入って早々、眩い照明と賑やかな人々のざわめきが耳をつき早くも梗の口から溜め息が漏れた。
紅魔館の大広間は幻想郷の中でも力のある要人達がそろってテーブルを囲んでいた。紫や藍がその輪に加わっていく中、梗だけはなかなかその輪の中に入って行けずにいたのだが。
「あっ、梗さん」
そう言われて梗が呼ばれた方を振りかえると、そこにはその場にあまりにも似合わない不釣り合いな大きさの刀を二本背負った少女の姿があった。
「あれ? 妖夢、幽々子様と一緒だとてっきり思ってたんだが」
「幽々子様が珍しく行きたくないとおっしゃって本来は私も来ないはずだったんですが、せっかくの機会ということでお邪魔させてもらいました」
「珍しいな、幽々子様が来ないなんて、何か訳でも?」
「いえ、特には……」
「妖夢ちゃん………ってあら? 策士の九尾の式神じゃない?」
「八雲梗だ。次は名前で呼んでもらえると嬉しいな」
咲夜との会話をしている梗の顔には軽い苦笑いが混じっていた。
「そうね、呼ぶ機会が次あれば。……ところで常にそんな格好だったかしら?」
「うっ……」
「そういえば、梗さん。いつもはそんな格好してませんよね」
従者二人に口をそろえてそう言われて梗は本格的に苦笑いをしていた。
しかし、梗の格好は普段のイメージとは少しかけ離れていた。黒と白を中心として体のラインが強調される執事使用のタキシード。それに合わせるために梗は髪の色まで黒に強制されていた。
「あら、式の式じゃない。なかなか決まった格好をしているじゃないの? ウチで飼ってあげてもいいわよ」
「願い下げだ。てか、年長者に対してその口の使い方がなってるんじゃねえか、500歳ちょいの餓鬼んちょが」
永遠に幼き紅い月に対し、梗は初めから嫌悪感をあらわにしていた。理由があるのかは分からないが梗は紅魔館の主を苦手としている。梗が今回のパーティを嫌がっていたのもこのせいである。
そうこうしているうちにもパーティは終盤を迎えそして、幕を閉じた。妖夢も含む他の参加者が紅魔館を後にして行く中、梗はあることを咲夜に尋ねた。
「おい、お宅のご主人が愛読している作品の著者が来るって名目で今回の宴は開かれたんじゃないのか?」
「………そうでしたね」
「あ?」
横目に興味な無さそうな表情で返す咲夜に梗が詰め寄る。苦手意識を持つ相手への対応の為がお互い、言葉に冷たさがこもっている。
「今回のパーティでそのような事を伝えられているのはあなた達だけよ」
「俺達……ってことは八雲一家」
「ええ、今回このようなパーティを開いたのは著者自らの手紙が届いたからよ。そこに紅魔館と八雲のみなさまにだけお会いしたいと書いてあったの。そこで、あなた達に怪しまれずにここに集まってもらうためにパーティという名目で集まってもらったのよ」
「へえ……」
そうこうしているうちに他の人間、妖怪たちは館を後にし大広間はさっきより広く見えていた。
八雲家の3人は確かに大広間に揃っていたが、紅魔館側はパチュリーや小悪魔など、大図書館の面子は姿を現していなかった。無論、フランドールの姿もそこには見られなかった。
「さて、後は向こうが来るのを待つだけだけど」
「……つまらないわ、私は帰らせてもらうわ」
そう言って、紫はスキマの中に消えていった。
「止めなくてよかったんですか? お譲さま」
「別に、止めようとしたら、可愛いな式達が黙っていないでしょうし……ね」
レミリアがそちらを見ると、すぐに梗が睨み返した。そして、その後紅魔館を静寂が包みこんだ。
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「ねえ、今度は何をしているの?」
阿求がそう尋ねるが、構図は相変わらず阿求のことを無視していた。
今度、構図が筆を走らせていたのはキャンパスや画用紙でもなく、壁だった。その筆を持つ手にはいつも以上に力が入っていて目も凛として締まっていた。
「ねえ」
「ありがとうね」
「え?」
構図の背中から飛んできた言葉に阿求は思わずキョトンとしてしまった。
「いや、その……なんだ照れくさいな」
「どうしたのよ、いきなり。あなたらしくもないわね」
「いや……聞いてたでしょ? 私と龍の会話」
「ええ、あなたには八雲を倒すって役目が課せられてるんでしょ」
「倒すんじゃなくて滅殺するの、完全に息の根を断ち輪廻転生の輪からはずさないと駄目らしいの」
「それはまた、物騒な」
「信じてないでしょ」
「………信じたくないだけよ。あの男の人の様子を一度見たら嘘だなんては思えないわ」
「本人がやればいいのにね……ていうことで今から八雲を消しに行かなきゃいけないんだけど、どの道多分、ここには帰ってこないと思うんだ」
その言葉で阿求との会話が途切れる。阿求が少し下を向きうつむいている様子を見ると構図が言葉を続けた。
「八雲を倒しきれなかったら私が消されて、仮に任務を成功させてもそれはそれであとは
「………うん」
「あっ、そうそう、複製の仕事全部やっといたから、これで全部貸し出しができるようになったよ」
「…………うん」
「ごめんねなんか、ある日突然おしかけていきなり出てくっていうんだから、勝手なもんだよね」
「……………うん」
「あとは……それから………」
「……いいよ、もうなにも言わなくて」
「阿求……」
そう言う構図の瞳にも涙が溜まっていた。阿求とそれほど会話をしたはずもない彼女の目にも涙の輝きがあった。
「もっと、あなたと一緒にいたかったな。まともに話してくれなかったけど、一人でいるときより楽しかったよ」
「……私も、こんな
「………………」
「………じゃあ、そろそろ行くね」
そう言って構図が最後のひと筆を入れると壁が輝き絵が実体化した。それはそれは立派な扉だった。ドアノブに手をかけかけた構図を阿求が呼びとめる。
「なんか、嘘みたいな話だな」
「もしかしたら、もう一度会えるかもね。普通のお話ならフラグだけど頑張って折ってみようかな」
「ふふっ、そう言えば行き先を聞いてなかったわね、それくらい伝えて欲しいな」
「………紅魔館……だよ」
そう言って、構図は一気に扉を押し開いた。その目には既に迷いなんてものは無かった。
梗くん確かにレミリアとかは苦手そうだな。ちなみに自分は東方キャラの中で嫌いなキャラなんていません。こんな素晴らしい世界に嫌いな人が出来る方がおかしい。