「………あり? 思ったより人がいないね」
紅魔館の大広間に集められたレミリア・咲夜・藍・梗の4人は一斉にその声のするほうへ振り向いた。静まり返っていた大広間にはその呟き程の声量でも十分に響いた。
そこには、小さな人影があった。身の丈は150cm弱、小柄な体に見合った大人とは言い切れない幼さを残す。茶色がかった髪は邪魔にならない様に短めに切りそろえられており少し濁った赤褐色の瞳がハッキリ見えていた。
英国風な顔立ちに似合わない上下に分かれた着物を着用していた彼女が現れたのは大広間と廊下をつなぐ扉だった。
しかし、その扉とはもともとあったものではない。大広間にも扉は沢山あるが、左右の廊下に隣接する扉の数は左右に等しく、後は玄関の役割を果たしている巨大な扉だけだった。彼女が押し開いた扉は元々そこにはなかった物、それなのにあたかも始めからそこにあったかのようなたたずまいをしていた。
「誰?」
真っ先に口を開いたのはレミリアだった。彼女はその少女の傍によると腰に手をあて見下した目つきで彼女をしたから覗き込んだ。
一方の少女は少々困った表情を浮かべたが一歩後ろに下がり表情を緩めて言った。
「あなたに手紙を送り付けた張本人ですよ、初めまして会えて光栄ですよ、レミリア・スカーレットさん」
少女に言われたレミリアは、はっとした表情をうかべさらに一歩さがり正面から彼女に目線を合わせなおした。
「ていうことはシェイクス・ピアさん? これは失礼をしたわね、あなたの作品は全て読ませてもらっていますわ」
レミリアはにこやかな笑みを浮かべピアに対して右手を差し出した。それに答えるようにピアはレミリアの手を握り返した。握手を交わした2人はその後軽くハグをしたが、その間、ピアの視線は一点に集中し続けていた。
「なんか、彼女に私達見られてますよね?」
「確かに」
ピアの強い眼力を一点に受けていた梗は少し不安そうな表情で藍に問う。藍に返答され、再び視線を彼女に向けるとピアは梗を見て不敵な笑みを浮かべた。
レミリアが、ピアに対して好奇心旺盛な瞳を向けている中、その視線を完全に無視してピアは藍と梗を凝視していた。その様子に疑問というか不満を覚えたレミリアは彼女に質問した。
「ひょっとして彼らと知り合い? ていうか、何で彼らがここに残されたのか、私はあなたの指示に従ったけど正直、納得はしてないわ訳を話して頂戴」
ファーストコンタクト時程ではないにしろ、厳しい姿勢でレミリアが聞くとピアが足を前に踏み出した。すれ違いざまにレミリアの肩をさわりながら彼女は確かに小さな声で囁いた。
「よく、私の思い通りに動いてくれたわね」
レミリアが困惑の表情を浮かべているうちにもピアは足を進めやがて足を止めると2人と向き合った。その2人とは無論、藍と梗だった。
「思い通りっていうのはどういう事だ? 構図」
耳を反応させ、鋭い目つきで梗が聞く。
「やっぱり、聞こえてたんだ。そこの吸血鬼が混乱するからシェイクス・ピアと名乗らせてもらうね。久しぶりね八雲梗」
梗の殺気混じりの視線をピアは不敵な笑みで受け止めた。しかし、梗の殺気に気押されたピアは梗からいったん視線を離し辺りを見渡した。そして、何かがいない事に気付くと頭を抱えた。
「八雲紫は帰っちゃったか……。仕方ない、我が主の命により、八雲藍、そして梗、あんた達を滅殺させてもらうよ」
「お前も、その手の輩だったか、上等だっ」
タキシードの袖をめくり首の骨をならしながら体をほぐし構えを取る。その様子を藍は後ろに下がり、感情を押し殺した表情で見つめていた。
2人の間を形容しがたい緊張感が包みだした時だった。
「待ちなっ!」
その声掛けで、2人の緊張が軽く緩まる。ほぼ同時に2人が声のほうへ振り向くとご立腹気味な表情のレミリアがいた。そして、その傍ではメイドである咲夜が数10cmはあるナイフの刀身を磨いていた。
「何、そっちで勝手に話しを進めてくれてるのよ、ここは私のお邸、勝手な真似はしないで頂戴。特にシェイクス・ピア。あんた私を騙したのね、あんたの作品は尊敬してるけどあんたには失望したわ、今すぐここから出て行ってくれる。もし、出ていかないって言うなら……」
レミリアが全てを言いきる前に咲夜がナイフ同士をこすり合わせた金属音でピアを威嚇する。その態度に対してピアは興味の無さそうな様子で舌で上の歯を舐めまわしていた。
「咲夜」
「はい」
「殺して構わない」
レミリアが咲夜に耳打ちをし終わると同時に咲夜の体はピアの目の前に現れた。驚いたピアの顔を真っ二つにするように手に持ったナイフを振りきる。
ナイフの刃を紙一重でかわしたピアの体はそのまま後方に下がった。追撃を加えようとした咲夜よりも速くピアは地面を蹴り後方に宙返りをした。しかし、宙返りの最高点に達した瞬間、ピアの周りに無数のナイフが現れた。
「!!?」
咲夜が指を鳴らすと同時にそのナイフ達は一斉にピアに向けて動き出した。ピアは体の自由が完全にきかない空中でなんとかナイフの隙間を掻い潜った。
ピアが再び地面に着地するころには数十はあったナイフは全てなくなっていた。
「いやいや、いきなり冷や汗をかいたな一体どうなってるんだよ~」
「お譲さまからの命令があったので手加減は致しません、覚悟なさってください」
咲夜はいつの間にか手に持っていた懐中時計に再び手をかける。すると、一気に辺りは完全な静寂に包まれる。時の止まった世界、咲夜だけの時間だ。指の間にナイフを構えるとピアに向かって容赦なく投げつける。放物線ではなく直線で飛んでいくナイフはピアの手前で静止した。そして、再び時間は動きだす。
目の前に無数のナイフが一瞬で現れる。ピアは再びその状況に驚きながらも脊髄反射で回避行動を開始する。先ほどより密度を増したナイフ達の隙間は断然狭くなっていた。辛うじて致命傷は受けずに地面に着陸する事は出来たがその頬には数本の切り口が開いていた。
「エグイな……時を止めてるでしょあんた」
「…………」
傷口を指先でぬぐいながらもどこか余裕を残すピアに対して咲夜は無関心を徹していた。時を操る程度の能力……。その能力をピアは察したがだからといってすぐに明確な対策をとることは困難だろう。だが、ピアの瞳は死んでいなかった。
「今度は私の見せ場がもらえると嬉しいな………っ!」
ピアが腰に手を当てると瞬時に両手にデスクペンの様なものが握られていた。親指でキャップを飛ばし指三本でペンを握り異形の構えを取った。
「行くよ!」
空中で両手のペンを荒ぶらせると空中にインクが線を作りだしていく。その様には咲夜以外の三人も注目していた。
そして、筆を止めるとそこには大量の妖弾が描かれえていた。黒線だけで描かれた丸は徐々に膨らみ球になり、そして、黄色い光を放ち始めた。
ピアの周りを漂うように動き出した弾幕にピアが咲夜を指差し指示を出すと弾幕達は一斉に咲夜へ向けて飛び出した。
その弾幕を非常に慣れた身のこなしで回避する咲夜は余裕を見つけると懐中時計に手をかけピアの前から姿を消した。咲夜の姿が消えた事をピアが認識することには彼女の周りをまたナイフが囲んでいた。
「また!?」
今度は回避せず両手に握ったペンでナイフを払う。刃を避けているとはいえ金属を弾くとは驚きの強度を誇るペンだ。一通りナイフを払うとペンを握り直しインクを走らせた。
「!?」
ピアが描いたのは咲夜のナイフだった。自分に向けられた以上のナイフを書き殴るピアはナイフを実体化次第次々に放っていった。
ナイフをほとんど放った咲夜は自力でピアのナイフを回避する。軽い身のこなしで隙を伺う咲夜に対しそうはさせまいとピアはナイフを描き続ける。そして、咲夜は多少の被弾を覚悟で時を止める事にした。
時を止めようと懐中時計を握ろうとした咲夜の動きに気付いたピアはナイフを描くのをやめ自分を取り囲むように縦と横に円を2本描いた。
そして、時が止まると咲夜は自分のナイフを素早く回収しもう一度ピアに放つ。呼吸と軽く整えるとひとつ大きな深呼吸をした。
「時は動きだす」
その声と同時に動き出したナイフだったが、今回のピアは回避行動をとらなかった。しかし、ナイフはピアの体に届く前に弾かれた。
「!?」
ピアの周りをシャボン色の球体が包んでいた。時が止まる直前にピアが描いた2本線は結界となって彼女の身を守っていた。しかし、それ以上に咲夜が厳しい表情を浮かべていた理由はピアが自分が時を止めるタイミングを把握したことだった。
「はぁ……はぁ………ちょいきつかったけど大体分かったよ。私が考えた今回の話にはあなた達はただのエキストラとして出演してたんだけどな……。急展開なハプニングはストーリ上大切なんだけど自分の予定を邪魔されるのは大嫌いなんでね! イタイ目にあってもらうよ!」
ピアが初めて嫌悪感を咲夜に対して放つと同時に彼女の体から青紫色の妖気が発生しだした。相手の様子の変化に咲夜は一瞬戸惑ったが、瞬時に冷静さを取り戻しナイフを構えた。
先に仕掛けたのは咲夜だった。ナイフ投げではなく、体術による近接格闘。それに対してピアはかろうじて攻撃を回避する。そして、一瞬の隙を見つけると片手のペンでナイフを瞬時に完成させ咲夜の放った。
悪いタイミングでナイフを放たれた咲夜はピアと距離を取る。後方にさがり距離を取ろうとしたところにピアが追撃をかける。
両手の高速筆さばきで完成させたのはナイフより一回り大きな槍だった。2mを越える巨大な槍が咲夜に襲いかかる。後方にさがっていた咲夜は軌道を変えられずに懐中時計に手をのばした。
そして、そのタイミングをピアは見逃さなかった。残像ができるほどの速さで描き上げたのは1m四方の額縁だった。懐中時計に誘導させただけあり今回は時が止まる前に実体化する。そして、その額縁の中にピアが飛び込み額の闇のなかに姿を隠したのと同時に時が止まった。
「一体何のつもりで額縁の中へ? わざわざ、的を絞らせるなんて、まあ、これでおわりね」
10本ほどのナイフを掴んだ咲夜は額縁の中にそれを放り込んだ。闇の中に消えていったナイフが物に当たる音は聞こえなかった。
代わりに聞こえてきたのは、ガラスに爪を立てたような不快な音だった。
咲夜はその音の元を見るのに見上げる必要があった。その音は空中から聞こえていた。黒い線が空中に描かれていた。正方形を描いたそれは光を放ち額縁として実体化した。
そして…………。
なんかここ最近で一番集中して書いた気がする。やっぱ、原作キャラを動かす以上、失礼があってはいけませんからね。