【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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咲夜の時を操る能力に苦戦を強いられる菫の刺客ピア。次第に敵の能力を把握し攻略していくピアを咲夜は振りきれるのか………。



第五刻:クレイジー四面楚歌

 

 

 実体化した額縁に中には絵がなく奥に続くように空洞になっていた。しばらく変化の無かった額縁だが、中から縁を掴む手が現れた。その後、暗闇の中から薄い茶髪が現れた。

 

「そんな……」

 

 咲夜は驚きを隠せなかった。額縁の中から彼女が現れたからではなく、現状、この空間の時が止まっていたからだった。

 止まった時の中で動けるのは自分だけの筈、それなのに今、自分の目の前にいる少女は止まった時の中で動いていた。

 

「驚いた……?」

 

 額縁に足をかけて咲夜を見下ろすピアの表情はしてやったりといった感じだった。我に返った咲夜の視線を受け止めると、手を広げ誇らしげに説明を始めた。

 

「私が飛び込んだこの2つの額縁は別次元で繋がっているの。額縁と額縁のなかには少しスペースがあってその空間はこの次元の干渉を受けない。だから、時が止まるのと同時に額縁の中に飛び込めば、時が止まった世界に出てこれるってわけ、それにしても、ナイフが入り込んできた時は焦ったよ」

 

 ピアが説明を止めると同時に咲夜は既に構えていたナイフをピアに向けて放った。それを避ける為にピアは額縁の奥で落ちていった。それに間をおかずに咲夜は残りのナイフを全て構えた。

 

(上と下……どっちから来る……!? 両方に放ってもこの数では確実にしとめられない。……どっちだ………)

 

 交互に額縁を見渡す咲夜。すると、上の額縁から小さな光が見えた。咲夜は完璧なタイミングで一気に全てのナイフを放った。

 しかし、額縁から現れたのは先程、自分が放ったナイフだった。咲夜が放ったナイフは額縁に飛び込む前にそのナイフ達と相殺し、金属音を立てながら地面に落ちた。

 それと同時に下の額縁からピアが顔を出した。彼女の手にはナイフが握られていた。

 

(……っ! もう私の手元には投げられるナイフが無い……!)

 

 そう考えていると咲夜の腰辺りをナイフが突き抜けていった。ピアが打ち抜いたのは咲夜が腰にかけていた懐中時計だった。壁に突き刺さった懐中時計のガラス面はヒビ割れ、針は動くのをやめていた。

 ピアのほうを振りかえると彼女の手には今まさに割られた懐中時計が握られていた。

 

「これで、時と止める能力は使えないわね……」

 

 不敵な笑みを浮かべたピアは懐中時計に手をかけた。

 気がつくと咲夜の周りには無数のペンが自分の方を向けて配置されていた。

 一斉に自分に向けて飛び出したペンに対し、咲夜は両腕を自分の前で交差させ防御態勢を取ることしかできなかった……。

 

 

「!!?」

 

 その場にいたレミリア、藍、梗の3人は全員驚きの表情を見せた。眼の前で起こった事が一瞬の出来事だった以上、咲夜が時を止めたのだろう。しかし、それなら咲夜が全身にペンを被弾し弾き飛ばされるのはおかしい。

 地面に打ち付けられた咲夜は起き上がろうと力を込めるが、起き上がれずぐったりとした。

 その光景を見て、主であるレミリアは驚きを隠ずも、自分の思い通りにならなかったことに苛立ちを露わにしていた。

 

「ふぅ~~~」

 

 額縁から姿を現したピアは一つ大きな息を吹いた。少し、額に汗が見えていて頬にはナイフによる切り傷があるが、青紫色の妖気の勢いは衰えていなかった。

 

「さて……これでいいかな? レミリア・スカーレット? 構わないなら八雲の二人と戦わせてもらうけど……」

 

 不敵な笑みでレミリアの顔を覗き込むピアに対して、レミリアは、ふん。と(きびす)をかえし、倒れている咲夜をよそに奥の部屋に消えていった。

 

「主の許可も得たし、さっそくやらせてもらいたいんだけど、やっぱり最初は幻影の九尾かな?」

「ああ、待ちくたびれたがな……」

 

 首を、ゴキ。と鈍く鳴らし、梗がかきあげた髪は普段の黄色に戻っていて、桔梗色の妖気がごうごうと満ちていた。

 

 

「お手並み拝見っ!」

 

 ピアがそう宣言しながら両方の手に持ったペンで別々の絵を描きあげていく。一秒もしないうちに空中にかきげられたモンスター達が雄たけびを上げ梗に向かい走り出した。

 しかし、そのモンスター達は梗に飛びかかった瞬間、内部から木端微塵に弾け飛んだ。

 

「…………」

不思考の共有(シェア・ネガティブ)。イメージさせる力が強ければ、それを信じる体はイメージを実体化させる」

「私自身が戦いに行くしかないようね……!」

 

 地を蹴り、ピアが梗の間合いに入る。ペン先で梗の顔面を突き刺すように放つ。

 

(速っ……!)

 

 梗は顔を反り直撃を回避するが、想像以上のスピードで放たれたペンは梗の頬をかすめ紅い線を頬に穿っていた。

 しかし、それに返すように梗が右足でピアの膝に蹴りを喰らわせる。鈍い音とともに、ピアが、がくんと膝をついた。

 

「痛っ~~~」

 

 涙目になりながら蹴られた膝を抱える。パラノクスとは違い、完全に能力に頼った戦闘スタイルのピアにとって梗の近接攻撃は相当のダメージになるのだろう。

 それでも、あまりにも予想外の反応だったのか、梗も一瞬、追撃をためらった。そのため、その後に放った蹴りはピアにかわされてしまった。

 

「いきなりやってくれたね………でも、負けないよっ! ペンが拳より強いってことを教えてあげるよ!」

 

 涙線に溜まった涙を拭いながらやっきになっているピアを見ていると、梗は、始めてあった時の焔を思い出すようだった。

 ピアは手の平でペンを高速回転させながら握ると、地面を蹴り、梗との間合いを詰めた。

 タイミングを合わせ、ピアの顔に拳を合わせようとした梗の突きを体を逸らし回避すると、ペンで適当に空を切った。

 

「!?」

 

 そうやって生まれた、黒い線が斬撃のような波となって梗の襲いかかる。

 両腕を使いガードをするが、その斬撃は身にまとっているタキシードの繊維を容易に切り裂いた。

 

「上等……」

 

 胸元のボタンを外すと中にきていたYシャツの白が見えた。タキシードの胸元を開くと梗はもう一度首を折りながら、ゴキ、ゴキ。と鈍い音を鳴らした。

 ひとつ、短い息を吐いたのと梗が地面を蹴ったのはほぼ同時だった。一瞬で間合いをつめ攻撃に転じる。

 華奢な体つきのピアは梗の攻撃をガードする事が出来ないため、全ての攻撃をかわす必要があった。

 ひとつひとつの突きをかわしていくが、スピードの差もあり、徐々に梗の攻撃がピアを捉え始める。そして………。

 

「ぐはぁっ……」

 

 梗の下から突き上げる突きがピアの腹部に決まった。

 梗はもう一度、拳に力を込め、その状況からピアの体を宙に打ち上げた。

 ピアは、なんとか体勢を立て直すが、下では、梗が既にスペルカードを構えていた。

 

「スペルカード……」

「させないよ!」

「!?」

 

 ピアが掲げたのは咲夜が持っているはずの懐中時計だった。それは、ピアが咲夜のそれを見よう見真似で作りだしたものだが、本物同様に時を止める事が出来た。

 あまりに突然のことに梗はスペルカードを放つことを止められない。

 

「時よ、止まれっ!」

 

 高らかに宣言し。懐中時計のボタンを押す。空間は静寂に包まれ、時は完全に停止した。

 

「本当に強いなぁ……時を止めるっていうのは……さ・て・と、いかに八雲でも、止まった時の中では無力………。メイド同様このペンの束でチェックメイト……。………? 何?」

 

 何も音がしないはずの空間に聞き覚えの無い音が聞こえてきた。音か聞こえてきたのは、ピアが作りだした額縁からだった。

 ゴゴゴゴ。という音は徐々に大きくなりピアに近づいていた。そして、音の正体が額縁の闇の中から姿を現した。

 

「!?」

 

 それは、弾幕だった。鳥の形をした5つの弾幕はピアへめがけて飛んできた。

 突然の出来事にピアは体勢が悪く回避行動を取る事が出来なかったが、元々、照準がズレていたため、ピアが被弾することは無かった。しかし……。

 

「痛っ!」

 

 一匹の弾幕がピアの右手を撃ち抜いた。その手に握られていた懐中時計は弾幕によって粉々になってしまった。

 懐中時計が壊れたことにより、時は再び動き出し、辺りも再び動き出した。

 梗は辺りを見渡し、自分が攻撃されていない事を確認すると、ピアを見ながら言った。

 

「<夢符(むふ)八部衆迦楼羅(はちぶしゅうかるら)>。ヒットはしなかったが、懐中時計をはたきおとす事は出来たか」

「どうして、あの2つの額縁がつながっている事を知ったの?」

「音だよ、俺が首を鳴らしたのはわざとだ。骨の音が、片方の額縁に入った後、別の額縁から音が聞こえてきた。それで、その2つがつながっているのが分かった」

「……仮にそうだとしても、あの一瞬でスペルカードを額縁の中に放ろうとする判断力……あなどれないのね」

 

 懐中時計を失ったピアだが、冷静さは失っていなかった。梗へ急降下すると、ペン先を梗へめがけて突き出した。

 梗はそれを首をまげ、回避するが、ピアは続けてもう片方のペンを突き出した。

 ピアの腕が握られ、攻撃が止められた。しかし、それは、梗の腕ではなかった。その手は生き物の物ではなく、水色に光っていた。

 

「何!?」

「頭から本気で行かせてもらおう……」

 

 ピアが自分を握っている手を振り払うと、手の持ち主が、梗の後ろから姿を現した。全身、水色に輝く人型の妖力弾だった。

 

「<幻符(げんふ):クレイジー四面楚歌>!!!」

 

 梗が叫ぶと弾幕は自分の体を無数の弾幕に分裂させ、ピアに飛んでいった。

 

「むっ!!」

 

 ピアは自分の前に丸を描くと、それはシールドになった。それを突き破ろうと、弾幕がシールドに次々とぶつかる。

 被弾したシールドは徐々に壊れていき、ついに崩壊した。

 そのタイミングでクレイジー四面楚歌は人型を取り戻し、ラッシュを繰り出した。

 

「!?」

 

 梗はその光景に衝撃を受けた。ピアがクレイジー四面楚歌のラッシュを正面から受け止めていた。

 ラッシュと同じ速さでピアはペンの突きを放っていた。

 パワーなら確実にクレイジー四面楚歌のほうが上だが、スピードでピアは渡り合っていた。これが、一瞬で絵を描き上げるスピードなのだろうか。

 ついに、クレイジー四面楚歌はピアを仕留められずに消滅した。

 

「はぁ………はぁ……。……きっつ………」

 

 喉のかれた声で荒い息をしながらピアは言った。

 

「すごいな……クレイジー四面楚歌を真正面から受け止めるとは……」

「……ふっ。じゃあ、あんたにもこの辛さを味わってもらおうかな………!?」

「何!?」

 

 ピアは両手で再び何かを描き始めた。手の平より大きな長方形。その中にピアは速いながらも繊細に模様を描きこんでいく。その柄に梗は見覚えがあった。

 

「そ、それは………」

「私にできないことはないのよ! お返しの! <幻符:クレイジー四面楚歌>!!」

 

 そう言って、ピアは描きあげたスペルカードを構えた……。

 

 




急げ! 急げ! 速くしないと、塾の宿題が間に合わない~~~(汗)。
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