【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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ピアが描き出した額縁を利用し厄介な懐中時計を破壊する事に成功した梗。しかし、ピアは梗の必殺技:クレイジー四面楚歌のコピーに成功する………。



第六刻:量産とオリジナル

<幻符:クレイジー四面楚歌>

 

 夢を魅せる程度の能力を利用し、梗の内部に宿る精神をスペルとして使用することで成せる業。切り離された精神には自我があり、梗から独立している。それを閉じ込めたスペルがクレイジー四面楚歌だ。八雲の姓を授かるほぼ同期に梗が体得し現在まで、梗最強のスペルカードだ。幾多もの危機を乗り越えてきた必殺のスペルが今、自分自身に牙をむいていた。

 ピアが生み出した札から出現したのは間違いなくクレイジー四面楚歌だった。人型を形どる自身の体を自ら分裂させた無数の弾幕が、梗から逃げ場を奪うように周りを囲んだ。

 

「来るっ!」

 

 梗が地を蹴ったのと、一瞬、静止していた弾幕が動き出したのは同時だった。元いた場所に落ちた弾幕は地面から煙を巻き上げ強烈な地響きをあげた。後から動き出した弾幕達は地面にぶつかる寸前でルートを変え、地面スレスレを通り横に回避した梗を追いかける。

 移動に急ブレーキをかけ梗は一気に上昇する。ある程度、飛び上がったところで体を止めると、いかせまいと再び弾幕が梗の周りを囲む。一度、地面に激突した弾幕も再生していた。

 梗は、歯を食いしばりながら辺りを見渡した。

 

(俺のクレイジー四面楚歌は耐久型のスペルカードだ。精神を直接利用しているから、火力の割に持続時間も長い。だが、人型からのラッシュは精神(それ)の労費が多くなるから早く止められる。俺の体力が先に尽きちまうかもしれねえがやるしかない。その為にはギリギリまで引きつけて……)

 

 梗は瞳を閉じ一つ息を吐いた。そして、再び瞳を開けると梗の一点をめがけて全ての弾幕が動き出す。

 その光景をピアを言葉を発さずに見ていたが、ペンを一度ポケットのしまうと親指と人差し指で長方形を作り、その中から梗の姿を見ていた。様々な角度から見た後、大きく頷くと、ペンを両手に握りインクを走らせ始めた。

 梗めがけて放たれた弾幕が直撃する本当に寸前、梗は僅かに身を逸らしそれを回避した。

 互いにぶつかりあった弾幕は爆発するかと思ったが、一つの球体にまとまり、瞬時に人型を形成した。両腕を後ろに振り被ったクレイジー四面楚歌が雄たけびを上げるのと同時に梗は目の前で両腕を組みガードの姿勢にはいった。

 

「ヴォオオオオオッッ!!」

 

「<幻武:剛身弾刀(ごうしんだんとう)>!」

 

 飲み込むように梗がひと呼吸すると梗の筋肉が収縮し、梗の体がひとまわり小さくなったように見えた。

 その両腕の上に水色に輝く拳のラッシュが叩きおとされる。

 

「ヴォララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ…………ヴォォォォラァァッ!!!」

 

 最後の拳が振り下ろされ終わると、梗の腕からは、ジュー。と音を立てながら煙が上がっていた。クレイジー四面楚歌が姿を消した後も煙は上がり続け、両腕は真っ赤になり、変形した骨が戻るきしみのような音が聞こえてきた。

 

「はあ………っ……………はぁ……」

「ご苦労さん」

 

 膝に手をあて、呼吸を整えようとする梗の頭上からその労をねぎらう声が聞こえてきた。ピアだ。両手の指で器用にペンを回しながら梗を見下す。ようやく話せるほどに息の整った梗が声を発した。

 

「まさか、自分のスペルを喰らう事になるとはな……しかし、何で、攻撃してこなかったんだ? 俺をし止めるチャンスだったん………じゃ。お前………」

 

 梗の表情が曇るとピアが勝気な目で言い返してきた。

 

「確実な道で勝ちたいんだ……自分のスペルぐらいならなんとかできるかもしれないけど………自分自身が相手(・・・・・・・)ならどうしようもないんじゃない?」

 

 ピアがペン先で絵を突くと、黒い線だけで描かれていた絵に色がつき、実体化していく。

 黄色い髪の毛、胸元を着崩したタキシード、そして、狐の耳が見られ、後ろには九本の尾がうかがえた。

 八雲梗だった。俯いて眼をつむっていたそれが(まぶた)を上げると桔梗色の美しい妖気がそれ自身を包んだ。

 

「私の能力は描いたものを実体化させられる。生み出せるのは形のあるものに限定されるけど、完璧に描けば、本物となんら遜色ないポテンシャルを発揮できる。さて、どうする? 幻影の九尾!?」

 

 ピアが声を上げ手を掲げると、作られた梗はオリジナルの梗に向かって飛び出した。偽物の攻撃を梗は上腕でガードする。見れば見るほどに自分に似ている。あえて相違点を上げるとすれば眼に正気がなかった。色は梗と同じ黄色だったが、渇ききった死んだ生物のような目をしていた。

 そんなことを考えていると偽物が梗の腕を払い、下段蹴りを繰り出す。すかさず、その攻撃に膝をあわせようとしたが、蹴りがヒットしたのは梗の頭だった。

 

<幻武:雷電(らいでん)

 

 一瞬、グラついた梗だったが、足をさしだし踏ん張る。そのまま、動きにフェイクを混ぜ、一瞬、偽物の視線を振りきった梗は顔面に妖力を込めた突きを繰り出す。偽物はそれに気づくが、既に拳は目の前、捉えたと思った梗だったが、手ごたえはなった。

 

「なっ……」

 

 体を反り返し宙に浮かせた偽物はそのまま開いた両足を反時計回りに回転させ、梗の頭に蹴りを入れた。

 

<幻武:螺旋(らせん)

 

「こいつ、身体能力だけじゃなく、技もコピーしてやがる。しかも、今の螺旋な流れは完全に読んでいたもの、わざと俺のフェイクに引っかかりやがった。攻め方の思考回路まで完全に俺そのものかよ、正直、スペックだけだと舐めてたが本気で何もかも俺らしいな。……だが」

 

 梗が踏み込み間合いに入る。それに合わせるように偽物はひざ蹴りを顔面に合わせる。しかし、梗の動きは止まらない。にも、関わらず、偽物は身を引き、受けの体勢に入った。偽物の胸倉を掴み、ぐっと自分自身と近づける。そのまま、偽物の足を払い、体勢を崩させた後、その体が綺麗な放物線を描くように一本背負い。

 投げられた体が地面に叩きつけられると同時に鈍い音がした。見ると偽物の肘は不気味な方向に曲がっていた。投げると同時に肘関節を極め、叩きつけと同時に折ったのだ。苦痛に顔を歪ませた偽物だったが、すぐに折れてない方の腕で地面を叩き、右足で逆立ち蹴りを繰り出した。

 

<幻武:龍起(りゅうき)

 

 しかし、梗はそれを読んでいたかのように一足さきに横に回避し、既に拳を振り被っていた。

 

「あの膝蹴りは相手を怯ませる為の布石、その後に行動を変えた相手に対し、一手速くくみあえるためのものだ。だから、ダメージ無視の特攻に対応できない。そして、関節を折られ叩きつけられた場合は相手に上を取られないためにすぐに蹴り上げの技を出す。それが、俺が長い経験で磨き上げた攻めと受けであり、無意識のうちに最も取りやすい反射的行動だ。だが、意志を持たぬ脳なしはそこから進化しない。故に読み合いにおいて常にオリジナルに引けを取る。俺の勝ちだ」

 

 振り被った拳が偽物の顔に叩きつけられると偽物はスイッチの切れたように動くのをやめた。

 呼吸を整え、蹴られた顔を撫でながら梗はピアを振りかえる。ピアは相変わらず自身満々な表情だった。

 

「なかなかやるね、でも………」

「でも?」

「時間がかかりすぎね、一度書いたものは一度目より速く描けるよ。さあ、いよいよ、詰みじゃないかな」

 

 ピアが言い切ると、彼女の後ろからは3人の梗が現れた。全く同じ姿をした3人に梗が驚き、ピアがほほ笑むと、3人は一斉に梗に飛びかかった。

 

「ちっ………」

 

 舌打ちをし、まず一人目の攻撃を受け止める。膝蹴りを繰り出した梗に対し、偽物は反応を見せない。梗の足が軌道上で僅かに動いたと同時に偽物は上段にガードをとるが、蹴りはそのまま膝に入った。

 

「ミラーマッチに対応するために軌道の僅かな変化に対応できるようにパラノクス戦後に修行した。だが、その裏をかかれる経験がまだないか未知に対応でいない。まだ、俺の方が一枚上だ」

 

 そう言って、拳を握った時だった。梗の脇腹に強烈な蹴りが入った。見ると、別の偽物が梗の脇腹を思いっきり蹴り抜いていた。

 

「お前……おれがサシ張ってるときに……」

 

 2人目に眼を飛ばすと、後ろから首を絞められた。3人目だ。そいつが梗の動きを止めると、1、2人目の偽物が容赦なく梗の腹部を集中攻撃する。

 

「がはぁ………」

 

 梗の口から紅い血液が噴き出した。口元を紅く染めながらも、梗は歯を食いしばり偽物達に怒鳴った。

 

「おい、テメェら! お前らは俺だろ!? そんなことして恥ずかしくねえのかよ! 正面から正々堂々かかってこいよ!」

 

「無駄だよ」

 

 梗のどなり声をピアが冷たい声で切り裂く。

 

「スペックはあんたと同じだけど、中身はすっからかん。精神なんてあったもんじゃない。私の命令しか効かないよ」

 

「そんな……」

 

「それにしても哀れね……自分自身にやられるなんて……まあ、所詮その程度だったってことよ、あんたは」

 

 そう言っている間も、偽物達のリンチは続き、新たに描きあげられた4人目をそれに参加する。激しく吐血した梗は俯きながらも声も絞り出した。

 

「………哀れ? そいつはもしかして自分に言ってるのか?」

「何?」

 

「……そりゃあ……そうか………自分のしもべに頼りっぱなしだもんな……自分自身じゃ戦えない……自分が……哀れで仕方ないん………だろ?」

「なんだと……」

 

 あからさまにピアが怒りをあらわにする。それに反応するかのように偽物の攻撃が激しくなるが、梗は続けた。

 

「無理すんなって……こいつらが………とどめをさすからよ………無力な四流画家は黙ってな」

 

 そして、顔を上げた梗はピアに向かってベロを出しあからさまに挑発してみせた。

 それを見たピアはペンを握りつぶさんばかりに強く握り、地面を蹴った。

 

「後悔しな、最も残酷な死を見せてあげるから」

 

 ピアは一瞬で2mほどもある巨大な槍を描き上げ、それを握ると額縁に飛び込んだ。その額縁は梗の近くにある額縁に繋がっており、中から出てきたピアは思い切り槍を振り被った。

 

「終わり!」

 

 

「……射程圏内に………入ったな……」

 

 

「え?」

 

 ピアが不思議な表情を浮かべた瞬間だった。4人の偽物は一斉に煙を巻いて消えた。ピアが驚いた次の瞬間には梗の顔が目の前にあった。

 

「『幻想の刻(げんそうのとき)×精神崩壊(マインドクラッシュ)』の組み合わせは抜群だったな。自我を持たない者は無条件で精神崩壊を起こし消滅する。ゼロタイムでもオールクリアだ。終わるのはお前だ!」

 

「くっ……!」

 

 ピアは槍を手放し、防御姿勢を取ろうとしたが、既に梗の拳がピアの腹部を捉えていた。拳の打撃と妖気が突き抜ける衝撃が間髪入れずにピアの体を貫いた。

 

<幻武“奥義”:虎波(こは)

 

 ピアは小さな血の塊を吐くと、力なくその場に倒れた。

 

 

 

 

 

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「懐中時計……ヒビ割れの不良品だけど、価値はありそうね」

 

 ガラス面にヒビの入った懐中時計を手の平の上で転がしながら彼女は満足そうにほほ笑んだ。

 紅く染まった満月を見上げる彼女が腰をかけていたのは紅魔館の屋根の上だった。タキシードに身を包んだ彼女が立ち上がり、その場を去ろうとした時、彼女の背後に人気がした。

 

「それは、紅魔館のメイドが持ってたオリジナルのほうの懐中時計じゃねえか、同じ世界の者とはいえ、盗みは関心しないな、アルセーヌ・R・バベット」

「あら、来てたのね。いいのよ、どうせ、不良品だから、それとも欲しいの? ねえ、風魔佐助」

 

 バベットが問いを投げかけた相手は佐助だった。佐助は納得のいかない不満混じりの顔で彼女を見ていた。

 

「本物は特にまずいぞ、妥協して、メルフの模造品にしとけ」

「あら、ピアはあなたに対してはそう名乗ってるのね。いいの、いいの、私は、自分が欲しいと思ったからこれを(もら)ったんだから、それとも、あくまでそれは許さないつもり?」

 

 不敵な笑みでバベットが佐助の顔を覗き込む。

 

「おい、ここでやる気かよ」

「まさか、私はそんなリスクだらけの危ない橋はわたらないわ、それにしても……」

「あん?」

「よく見たら、全然格好良くないわ、ヒビが入ってるからかしら? もう、いらないわ、こんな物」

 

 そう言って、バベットが放り投げた懐中時計は大きな弧を描き、美鈴が居眠りしている門の所に落ちた。

 

「それじゃあ、ここには用無しだから、おさらばするわね。もう、ピアとは会えないでしょうけど、仕方ないわね。それじゃ、またね~」

「おい、ちょっと待て!」

 

 体を浮かせ、どこかに行こうとしたバベットを佐助が呼びとめる。何? と言いたげな顔でバベットは佐助を振りかえった。

 

「お前、一度も、紅魔館(なか)には入ってないよな。それなのにどうやって、そいつを盗んだって言うんだ?」

 

 2人の間を沈黙が包む……。

 

「っふ、じゃあ、またね~」

 

 バベットはわざとらしく笑うと、今度は、佐助の静止も聞かずにどこかえと消えていった……。

 

 

 

 

 

 【第伍章:ペンは拳より強し】【完】

 

  (続)

 




突然なんですが、今後、最新話の投稿が超不定期になります。理由はというと、受験が迫っているっていうのがかなり大きいですね。2月4日に前期選抜(多分これは落ちる)があり3月7日(?)に普通の試験があります。おそらく、合格するまで不定期になると思いますがどうか目をつむって下さい。流石に受験真っ只中で暢気に小説は書けませんから。今後、合格しました宣言がないのに投稿したら合格もしてない癖になにやってるんだよ。と、渇を入れてやって下さい。それでは、しばしのお別れです………。
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